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14 変わり身が早いムーニャ

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「驚きました。一瞬、リアンナ様のお顔が人ではないものになっていましたわ」

 腰を抜かしてしまった三人に呆れていると、エルン様が驚いた顔をして言った。

「どういうことでしょうか?」
「リアンナ様のお顔を横から見ていたのですが、一瞬、恐ろしい魔物のようなお顔になっておりましたの。あの、なんと言ったらいいのでしょう。リアンナ様のお顔とはまた別のものです。お話に出てくるような魔物みたいなものです」

 わたしの顔がそれくらい怖かったのかと一瞬思った。
 でも、腰を抜かすまでとなるとよっぽどだから、エルン様のおっしゃる通り、魔物のような何かに見えたんでしょうね。

 実家のことといい、神様は好き勝手している人たちに、さすがに怒っているのかもしれない。
 罰が当たらないといけない人は、世の中には他にもたくさんいるんでしょうけど、王家にこんな人たちがいたら、中々、手が回らないわよね。

「エルン様、教えていただきありがとうございます」
「いいえ。それにしても一体何だったのでしょうか」

 小首を傾げるエルン様に和んでから、やらなければならないことを思い出す。

 わたしは大きく息を吸ってから、廊下に座り込んでいる三人に話しかけた。

「あなた方は一体、ここで何をしているんですか」
「そ、それを言ったらリアンナ様もですわ! やっぱりアクス様とお付き合いされてるんですのね!?」

 ムーニャが食ってかかってきたので、これ見よがしに大きなため息を吐いてから尋ねる。

「わたしの隣におられる方が誰だかわからないの?」
「え? あ、エルン様がどうしてこちらに?」
「どうしてと言われましても、ここは私の家ですわ」

 ムーニャの質問に呆れた顔をして、エルン様が答えた。

「どうして、リアンナ様と一緒にいるんですか?」
「お友達だからですわ」

 わたしは二人が会話をしている間に、王子二人に話しかける。

「お二人がこちらに来られていることを陛下はご存知なのですか?」
「え、あ、いや」

 テナミ様は目を泳がせて曖昧な言葉を返してきた。
 ハリー様のほうは、目を逸らしているだけで何も言わない。

「陛下や殿下の側近たちには嘘をついて、ここへ来ているわけですわね?」
「嘘はついてない! ちゃんと行かなければならない場所には行っている!」
「ということは、寄り道をしているというわけですわね?」
「は、はい」

 テナミ様は強く言われると、すぐにしゅんとなってしまう。
 そんなに気が小さいのであれば、こんな馬鹿なことをしなければ良いのに。

 黙っていたハリー様が話しかけてくる。

「リアンナ、そんなことより今から僕と一緒にでかけないか? 君の好きなものを買ってあげるよ」
「いりません」
「へ?」

 誘いを断られたハリー様は、間抜けな声を上げて聞き返してきた。

「特に好きなものはありません」
「いや、ほら、流行りのドレスとか」
「買ってもらってすぐに売って、寄付金にしたら良いのですか?」
「いや、それもどうかと思うけど、とにかく出かけないか?」
「結構です。わたしはエルン様と約束していたから、ここに来たんです。ハリー様と出かけるためではありません。どうしてもドレスを買いたいのであれば、買っていただき、贈っていただけましたら、売りますので」

 笑顔でハリー様に言った時だった。
 アクス様の執務室の扉が開き、アクス様ではない、若い男性が顔を出した。

 たしか、ブリトニー伯爵家のトーマ様だったかしら。

 トーマ様は髪と同じグレーの瞳をわたしに向けると、部屋から出てきて深々と頭を下げる。

「リアンナ様にお会いできて光栄です。アクス様の側近をしております、トーマ・ブリトニーと申します」
「ごきげんよう、ブリトニー卿に会えて嬉しいですわ」
「あ、あの、ブリトニー卿! 私のこと、わかりますか?」

 顔の良い人が好きなムーニャがブリトニー卿に話しかけると、彼はあからさまに嫌そうな顔をして答える。

「わかりますよ。毎日、嫌がらせに来ている方ですよね」

 笑顔だったムーニャの顔が、一瞬にして真っ赤になり、悔しそうな顔になったのだった。
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