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30 追い詰められていく元妹 ②
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「あれはシェリルさんが贈ったものではないのですか」
ミシェルは平然とした顔で尋ねてきた。
自分の甥っ子の命を危険にさらしたというのに、そのことをまったく悪いと思っていないようで恐ろしい。
ミシェルを軽く睨みつけて答える。
「私ではありません。エルンベル男爵夫人のご両親に確認しましたが、誰かが手作りしたものを、とある洋菓子店の箱に詰め替えたようなんです」
「そうだったんですね」
「ええ。しかも、私が好きな洋菓子店の箱でした」
「ということは、好きだったからあげようと思って贈ったのではないんですか?」
「好きなら中身を詰め替えたりはしないでしょう」
ミシェル相手に腹の探り合いをするのも馬鹿馬鹿しくなってきたので、単刀直入に尋ねる。
「先程は協力してほしいと言いましたが、私はあなた方を疑っています」
「どうしてそんな酷いことを言うんですか!」
「ミシェルさん、あなたは私の好きな洋菓子店がどこだか知っていましたね」
「……知ってはいますけど、私はあそこのクッキーはあまり口に合わないんです。なんといいますか、平民の口に合うものがわたしの口に合うわけありませんわよね」
ミシェルがちらりとフェリックスに視線を向ける。
私の血が平民であることをアピールしたいらしい。
でも、フェリックスはソファの背もたれにもたれかかり、長い足を組んだ状態でミシェルに言う。
「店の名前を聞いたが、昔は俺もそこの店で作られたものを食べてたし、美味いと思ってた。そうか、知らなかった。俺も平民だったんだな」
「い、いえ、そんなつもりで言ったんじゃありません!」
ミシェルが焦った顔で否定すると、フェリックスは失笑しただけで口を開かない。
だから、私が笑顔でミシェルに話しかける。
「ミシェルさん、わかっていますわ。私には平民の血しか流れていないからと言いたかったんですわよね。でもね、私だって戸籍上は今も貴族なんですから、その言い方は誤解されてしまいますわ。それに、ミオ様も問題になっているお店のお菓子がお好きですのよ」
何の考えもなしに無関係の洋菓子店を巻き込んだ代償をミシェルに教えてあげる。
「今回の件で、お店は風評被害を受けているらしいですわ。そのこともあって犯人を訴えると言っていました」
「風評被害? どういうことです?」
「だって、お店で作ったものじゃないとはいえ、その箱が使われていたわけでしょう。万が一と思って、そこのお店で買うことを控える人だっていますわよね」
「そ、そんな! 実際に誰か被害にあったわけじゃないんですから、気にせずに買えば良いでしょう!」
ミシェルではなく、元伯爵夫人がテーブルに身を乗り出して叫んだ。
いつ自分たちが捕まるかわからないから、かなり憔悴しているところに、私からこんなことを言われて、かなりダメージが来ているようだった。
隣に座る元伯爵も青ざめた顔をしている。
「買う買わないは個人の自由です。そんな話を聞いた以上、犯人が見つかって真相が判明するまでは買い控える人がいても、おかしくはないと思いますわよ」
「たかが、ビーナッツですよ!」
今度はミシェルが噛みついてきた。
私は大きく息を吐いてからミシェルに尋ねる。
「アレルギー反応がどんなものか、あなたは少しでも知識を持っているのですか?」
「知ってます! 痒くなったりするんでしょう?」
「間違ってはいないけれど、それよりも大変なことになる可能性があることは知っていますか」
「……最近、聞きましたわ。酷い場合は死ぬかもしれないんでしょう」
ミシェルは誇らしげに答えたので頷く。
「そうです。ですから、あのお菓子を贈りつけたことは殺人未遂にもなると思います」
「そんな、大袈裟です!」
ミシェルは言い返してきたけれど、元伯爵夫妻は何も言わずに体を震わせ始めた。
ここまで言われないと気づかなかったのかしら。
まさか、ミシェルに言われたからやっただけで、自分は一つも悪くないと思っていたんじゃないわよね。
……そういえば、聞いておきたいことがあった。
「エルンベル元伯爵夫人にお聞きしたいのですが、私にあなたのご主人が自分の孫を狙っていると手紙をくれましたが、自分で止めることはできなかったのですか」
「手紙ですって?」
元伯爵夫人は訝しげな顔をしたあと、目を大きく見開いてミシェルのほうを見た。
この様子だと、手紙をくれたのは元伯爵夫人ではなく、ミシェルがやったことだったのね。
わざわざ、私に連絡させた理由はなんだったの?
私がそんな質問を掛ける前に、元伯爵が立ち上がる。
「ちょっと待て、ミシェル。お前はシェリル様に何の話をしたんだ?」
元伯爵は青筋を立てて、ミシェルを睨みつけて尋ねたのだった。
ミシェルは平然とした顔で尋ねてきた。
自分の甥っ子の命を危険にさらしたというのに、そのことをまったく悪いと思っていないようで恐ろしい。
ミシェルを軽く睨みつけて答える。
「私ではありません。エルンベル男爵夫人のご両親に確認しましたが、誰かが手作りしたものを、とある洋菓子店の箱に詰め替えたようなんです」
「そうだったんですね」
「ええ。しかも、私が好きな洋菓子店の箱でした」
「ということは、好きだったからあげようと思って贈ったのではないんですか?」
「好きなら中身を詰め替えたりはしないでしょう」
ミシェル相手に腹の探り合いをするのも馬鹿馬鹿しくなってきたので、単刀直入に尋ねる。
「先程は協力してほしいと言いましたが、私はあなた方を疑っています」
「どうしてそんな酷いことを言うんですか!」
「ミシェルさん、あなたは私の好きな洋菓子店がどこだか知っていましたね」
「……知ってはいますけど、私はあそこのクッキーはあまり口に合わないんです。なんといいますか、平民の口に合うものがわたしの口に合うわけありませんわよね」
ミシェルがちらりとフェリックスに視線を向ける。
私の血が平民であることをアピールしたいらしい。
でも、フェリックスはソファの背もたれにもたれかかり、長い足を組んだ状態でミシェルに言う。
「店の名前を聞いたが、昔は俺もそこの店で作られたものを食べてたし、美味いと思ってた。そうか、知らなかった。俺も平民だったんだな」
「い、いえ、そんなつもりで言ったんじゃありません!」
ミシェルが焦った顔で否定すると、フェリックスは失笑しただけで口を開かない。
だから、私が笑顔でミシェルに話しかける。
「ミシェルさん、わかっていますわ。私には平民の血しか流れていないからと言いたかったんですわよね。でもね、私だって戸籍上は今も貴族なんですから、その言い方は誤解されてしまいますわ。それに、ミオ様も問題になっているお店のお菓子がお好きですのよ」
何の考えもなしに無関係の洋菓子店を巻き込んだ代償をミシェルに教えてあげる。
「今回の件で、お店は風評被害を受けているらしいですわ。そのこともあって犯人を訴えると言っていました」
「風評被害? どういうことです?」
「だって、お店で作ったものじゃないとはいえ、その箱が使われていたわけでしょう。万が一と思って、そこのお店で買うことを控える人だっていますわよね」
「そ、そんな! 実際に誰か被害にあったわけじゃないんですから、気にせずに買えば良いでしょう!」
ミシェルではなく、元伯爵夫人がテーブルに身を乗り出して叫んだ。
いつ自分たちが捕まるかわからないから、かなり憔悴しているところに、私からこんなことを言われて、かなりダメージが来ているようだった。
隣に座る元伯爵も青ざめた顔をしている。
「買う買わないは個人の自由です。そんな話を聞いた以上、犯人が見つかって真相が判明するまでは買い控える人がいても、おかしくはないと思いますわよ」
「たかが、ビーナッツですよ!」
今度はミシェルが噛みついてきた。
私は大きく息を吐いてからミシェルに尋ねる。
「アレルギー反応がどんなものか、あなたは少しでも知識を持っているのですか?」
「知ってます! 痒くなったりするんでしょう?」
「間違ってはいないけれど、それよりも大変なことになる可能性があることは知っていますか」
「……最近、聞きましたわ。酷い場合は死ぬかもしれないんでしょう」
ミシェルは誇らしげに答えたので頷く。
「そうです。ですから、あのお菓子を贈りつけたことは殺人未遂にもなると思います」
「そんな、大袈裟です!」
ミシェルは言い返してきたけれど、元伯爵夫妻は何も言わずに体を震わせ始めた。
ここまで言われないと気づかなかったのかしら。
まさか、ミシェルに言われたからやっただけで、自分は一つも悪くないと思っていたんじゃないわよね。
……そういえば、聞いておきたいことがあった。
「エルンベル元伯爵夫人にお聞きしたいのですが、私にあなたのご主人が自分の孫を狙っていると手紙をくれましたが、自分で止めることはできなかったのですか」
「手紙ですって?」
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わざわざ、私に連絡させた理由はなんだったの?
私がそんな質問を掛ける前に、元伯爵が立ち上がる。
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