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26.5 兄の怒り(ミシェル視点)
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シェリルさんがまさか、どこかの貴族の家の養子になるだなんて夢にも思っていなかった。
だって、平民を養子にする貴族なんておかしいじゃない!
シェリルさんのお母様がわたしのお父様と結婚したから、シェリルさんは貴族になれただけ。
それなのに!
お兄様には先日、酷いことを言われたけど、わたしは自分のことを可愛いと思っているし、シェリルさんに負けているつもりはない。
だって、それは人の好みの問題なんだもの。
わたしの容姿がお兄様の周りの人の好みじゃないだけだわ。
それなのに、シェリルさんのほうが可愛いだなんて決めつけるお兄様に腹が立つ。
そのこともあって、あれ以来、お兄様とは話をしていない。
今日も一緒に話を聞くと言った割にはずっとだんまりを決め込んでいるし、何のためにここにいるのかしら。
それよりも腹が立つのはシェリルさんの余裕の態度だった。
元は平民の血しか継いでいないシェリルさんをたとえ、好みの顔だからって伯爵家よりも上の貴族が養子にするわけがない。
だから、シェリルさんが誰を連れてきても余裕だと思っていた。
今のわたしは子爵令息の夫人であるけれど、離婚すれば伯爵令嬢に戻るから、シェリルさんよりも爵位が上になる。
だから、わたしの立場が上であることに変わりはない。
そう思った時、部屋の扉がノックされたので、お父様が入室を許可した。
すると、中に入ってきたのはシド公爵だった。
「このまま呼ばれないのかと思っていたけど駄目だったみたいだね。で、どんな問題が起きたのかな」
「シ、シド公爵がどうしてこちらに!?」
お父様が驚愕の声を上げて立ち上がった。
すぐにわたしたちも慌てて立ち上がって、シド公爵に挨拶をした。
シド公爵はシェリルさんたちから話を聞くと、わたしたちに向かって話し始める。
「僕は一人っ子だから、可愛い妹か弟がほしいなと思っていたんだ。そうしたら、ちょうどシェリルが養子縁組を解消されるっては話を聞いたんだよ。両親に相談したら、隠居先にも顔を出してくれるのなら、ぜひシェリルをうちの子にしたいって言い出したから、今日からシェリルは僕の妹だよ」
「そんな! 妹がほしいのでしたら、もっと若い子供にすれば良いかと思います!」
予想もしていなかった出来事に本当に驚いてしまって、わたしはシド公爵に叫んでしまった。
「別に僕が誰を妹にしたって君には関係ないだろう」
「そ、それはそうかもしれませんが、わたしはシド公爵のことを思って発言しているのです!」
「君にそんなことを言われる必要はない。逆にそんなことをされても迷惑だ」
はっきりと言われて、何も言えなくなっていると、お父様やお兄様が慌てて謝り始める。
「妹が申し訳ございません。気が動転してしまって、自分が何を言っているのかわからないのだと思います」
「息子の言う通りです。娘はとても優しい子ですから、閣下のことを心配をするがあまりに失礼なことを口にしてしまったようです。どうぞお許しください」
お父様とお兄様が頭を下げると、お母様も慌てて頭を下げた。
中々、頭を上げない三人を見て、わたしは困惑してしまう。
シド公爵が偉いことはわかっているわ。
でも、シェリルさんを妹にしたいだなんて思うような人なのよ?
シェリルさんは平民の血しか引いていないのに、わたしよりも上の爵位の人の娘になるだなんてありえない。
シド公爵家の人たちは普通じゃないわ!
その時、わたしの頭の中に名案が思い浮かんだ。
「シド公爵閣下、よろしければわたしをあなたの妹にしていただけないでしょうか」
「……何を言ってるんだ?」
シド公爵は眉根を寄せて聞き返してきた。
シェリルさんとミオ様は呆気に取られたような間抜けな顔をしている。
わたしはこの場にいる誰もが考えつかなかったことを思いついたんだわ。
これはアピールしなくてはならない。
そう思って話を続けようとした時だった。
「ミシェル! いい加減にしろ!」
お兄様に怒鳴られて驚いたわたしは、お兄様のほうに顔を向けた。
それと同時に左頬に痛みが走る。
……ちょっと待って、どういうこと?
今、わたしはお兄様に殴られたの?
「これ以上、エルンベル家の名を汚すようなことはするな! お前のことをただのポジティブな人間だと思っていたが違う! 頭が空っぽなだけだ! 頼むから自覚してくれ!」
わたしの頬を平手打ちしたお兄様は、大きく肩で息をしながらそう言ったのだった。
だって、平民を養子にする貴族なんておかしいじゃない!
シェリルさんのお母様がわたしのお父様と結婚したから、シェリルさんは貴族になれただけ。
それなのに!
お兄様には先日、酷いことを言われたけど、わたしは自分のことを可愛いと思っているし、シェリルさんに負けているつもりはない。
だって、それは人の好みの問題なんだもの。
わたしの容姿がお兄様の周りの人の好みじゃないだけだわ。
それなのに、シェリルさんのほうが可愛いだなんて決めつけるお兄様に腹が立つ。
そのこともあって、あれ以来、お兄様とは話をしていない。
今日も一緒に話を聞くと言った割にはずっとだんまりを決め込んでいるし、何のためにここにいるのかしら。
それよりも腹が立つのはシェリルさんの余裕の態度だった。
元は平民の血しか継いでいないシェリルさんをたとえ、好みの顔だからって伯爵家よりも上の貴族が養子にするわけがない。
だから、シェリルさんが誰を連れてきても余裕だと思っていた。
今のわたしは子爵令息の夫人であるけれど、離婚すれば伯爵令嬢に戻るから、シェリルさんよりも爵位が上になる。
だから、わたしの立場が上であることに変わりはない。
そう思った時、部屋の扉がノックされたので、お父様が入室を許可した。
すると、中に入ってきたのはシド公爵だった。
「このまま呼ばれないのかと思っていたけど駄目だったみたいだね。で、どんな問題が起きたのかな」
「シ、シド公爵がどうしてこちらに!?」
お父様が驚愕の声を上げて立ち上がった。
すぐにわたしたちも慌てて立ち上がって、シド公爵に挨拶をした。
シド公爵はシェリルさんたちから話を聞くと、わたしたちに向かって話し始める。
「僕は一人っ子だから、可愛い妹か弟がほしいなと思っていたんだ。そうしたら、ちょうどシェリルが養子縁組を解消されるっては話を聞いたんだよ。両親に相談したら、隠居先にも顔を出してくれるのなら、ぜひシェリルをうちの子にしたいって言い出したから、今日からシェリルは僕の妹だよ」
「そんな! 妹がほしいのでしたら、もっと若い子供にすれば良いかと思います!」
予想もしていなかった出来事に本当に驚いてしまって、わたしはシド公爵に叫んでしまった。
「別に僕が誰を妹にしたって君には関係ないだろう」
「そ、それはそうかもしれませんが、わたしはシド公爵のことを思って発言しているのです!」
「君にそんなことを言われる必要はない。逆にそんなことをされても迷惑だ」
はっきりと言われて、何も言えなくなっていると、お父様やお兄様が慌てて謝り始める。
「妹が申し訳ございません。気が動転してしまって、自分が何を言っているのかわからないのだと思います」
「息子の言う通りです。娘はとても優しい子ですから、閣下のことを心配をするがあまりに失礼なことを口にしてしまったようです。どうぞお許しください」
お父様とお兄様が頭を下げると、お母様も慌てて頭を下げた。
中々、頭を上げない三人を見て、わたしは困惑してしまう。
シド公爵が偉いことはわかっているわ。
でも、シェリルさんを妹にしたいだなんて思うような人なのよ?
シェリルさんは平民の血しか引いていないのに、わたしよりも上の爵位の人の娘になるだなんてありえない。
シド公爵家の人たちは普通じゃないわ!
その時、わたしの頭の中に名案が思い浮かんだ。
「シド公爵閣下、よろしければわたしをあなたの妹にしていただけないでしょうか」
「……何を言ってるんだ?」
シド公爵は眉根を寄せて聞き返してきた。
シェリルさんとミオ様は呆気に取られたような間抜けな顔をしている。
わたしはこの場にいる誰もが考えつかなかったことを思いついたんだわ。
これはアピールしなくてはならない。
そう思って話を続けようとした時だった。
「ミシェル! いい加減にしろ!」
お兄様に怒鳴られて驚いたわたしは、お兄様のほうに顔を向けた。
それと同時に左頬に痛みが走る。
……ちょっと待って、どういうこと?
今、わたしはお兄様に殴られたの?
「これ以上、エルンベル家の名を汚すようなことはするな! お前のことをただのポジティブな人間だと思っていたが違う! 頭が空っぽなだけだ! 頼むから自覚してくれ!」
わたしの頬を平手打ちしたお兄様は、大きく肩で息をしながらそう言ったのだった。
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