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22 夫婦関係の終わり 後
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ロン様は視線を彷徨わせたあと、首を何度も横に振る。
「違う! それは違う!」
「違いません。ロン様、離婚を認めてくださらないのですか。それなら、あなたの言い分が正しいのであれば、あなたの私への気持ちは愛では無いのです」
「そんなことはない! 僕が君をどれだけ愛してると思っているんだ!」
「偽りではないというのなら、私の幸せを願って離婚してくださいませ」
ロン様は自分の発言を悔やんでいるのか、それとも私に気持ちが通じないからか、顔を覆ってすすり泣き始めた。
「シェリルさん、それを言うならば、あなただってロンを愛しているというのなら離婚を諦めなさい!」
見かねたのか、パトロア様が証人席から叫んだ。
すると、裁判長が叱責する。
「証人には発言の許可を与えていません。発言したいのであれば」
「ですが、ロンは話をしていたじゃないですか!」
裁判長が話をしているのを遮って、パトロア様は訴えた。
裁判長はこれ見よがしに大きなため息を吐く。
「当事者同士での話し合いですから許したまでです。和解できるのであればそれで良いですから」
「裁判長! ここにいる証人に発言の許可をいただけませんか」
ブランドン先生は焦った様子で挙手した。
裁判長は私を見て聞いてくる。
「今の段階で言い忘れていることはありませんか」
「一つだけ」
応えてから、ロン様を見つめて口を開く。
「申し訳ございませんが、私の中のロン様への愛は消え去りました」
言いたいことを言い終えて、私が証言台から下りて自分の席に戻ると、トーマツ先生が小声で話しかけてくる。
「自爆してくれたのは助かりましたね」
「はい。本当に有り難いです」
視線を感じて目を向けると、ロン様が悲痛の表情を浮かべて私を見つめていた。
言い出したのはそっちでしょう。
そう思っていると、パトロア様が証言台に立って発言する。
「息子がシェリルを大事にしていたことは、私が一番よくわかっています! ロンが浮気をするだなんてありえません! シェリルは自分が浮気をしているから、そんな馬鹿なことを言うのです!」
「リグマ伯爵夫人、反論はありますか?」
裁判長に問われたので頷くと、発言する許可をくれた。
「大事にしてくれていた割には、私を部屋に閉じ込めるだけでなく食事も与えてくれませんでしたね」
「それはあなたが馬鹿なことを」
「裁判長! リグマ伯爵夫人の発言はパトロア様への反論になっていません!」
ブランドン先生はパトロア様がこれ以上、口を滑らせないようにしようとして必死だった。
まさか、不利な方向に持っていこうとするとは思っていなかったんでしょう。
「リグマ伯爵の交渉代理人の意見を受け入れましょう。リグマ伯爵夫人、あなたに許されているのは先程の発言に対してのみの反論です」
「失礼いたしました。では、私が浮気しているということですが、お相手は誰なのでしょうか」
「エイト公爵令息に決まっているでしょう! ロンと婚約する前にお付き合いしていたのでしょう!?」
「エイト公爵令息とは、昔、お付き合いさせていただいていましたが、ロン様との婚約が決まってからは最近までお会いしていません」
「影で会っていたんじゃないの!?」
パトロア様を止めることなく、ブランドン先生は目を伏せて考えている。
この状況をどう上手く切り抜けるかということを考えているのかしら。
「パトロア様、自分の言いたいことを言うことはあなたの中では良いのかもしれませんが、普通ではありえません。ましてや、公爵令息が人妻と浮気しているだなんて嘘をつくのですから、それがあなたの嘘だった場合、エイト公爵令息にはどのように謝罪されるおつもりですか」
私がフェリックス様と浮気しているというのであれば、フェリックス様は私を既婚者だとわかっていて付き合ったことになる。
その場合は、フェリックス様もロン様から慰謝料を請求されることになるから、エイト公爵家としては不名誉なことだ。
こんな嘘をエイト公爵家は許しはしないでしょう。
フェリックス様のほうを見てみると、パトロア様を馬鹿にするように冷たい笑みを浮かべて見つめているし、隣のシド公爵は逆に楽しそうにしていた。
「誠意を込めて謝るわ」
パトロア様の言葉を聞いて、失笑しそうになるのを堪えて話しかける。
「それで許してもらえるといいですね」
「それって、どういう」
困惑気味のパトロア様に、傍聴席に本人や彼のご家族がいることを教えてあげる。
「帰り際にお話ししてはいかがでしょうか」
「……け、結構よ」
パトロア様は焦った顔になって証言台から下りようとする。
「パトロア様、私が浮気しているという証拠があるなら出してください」
「わた、私が目撃したのよ!」
「目撃したという証言だけでは、エイト公爵家の関係者の方が見たという、ロン様とミシェルの不貞行為も認めてくださいますわよね」
「それは、その、私が見たわけではないわ!」
パトロア様が叫んだところで、ブランドン先生が休廷を申し出たけれど、裁判長は認めなかった。
そのまま裁判は続けられ、パトロア様は自分から自分を窮地に陥れるような発言をし続けた。
私はパトロア様が話し続けるのを冷めた目で見守り、否定するべきところは否定した。
言いたいことを言い終えたパトロア様に、トーマツ先生から彼女が家庭内暴力をしていたと可能性があると言われると、顔を真っ青にして俯いた。
そして、十四日後、判決が下されて、わたしとロン様の離婚が無事に認められた。
※
次の話はミシェル視点です。
「違う! それは違う!」
「違いません。ロン様、離婚を認めてくださらないのですか。それなら、あなたの言い分が正しいのであれば、あなたの私への気持ちは愛では無いのです」
「そんなことはない! 僕が君をどれだけ愛してると思っているんだ!」
「偽りではないというのなら、私の幸せを願って離婚してくださいませ」
ロン様は自分の発言を悔やんでいるのか、それとも私に気持ちが通じないからか、顔を覆ってすすり泣き始めた。
「シェリルさん、それを言うならば、あなただってロンを愛しているというのなら離婚を諦めなさい!」
見かねたのか、パトロア様が証人席から叫んだ。
すると、裁判長が叱責する。
「証人には発言の許可を与えていません。発言したいのであれば」
「ですが、ロンは話をしていたじゃないですか!」
裁判長が話をしているのを遮って、パトロア様は訴えた。
裁判長はこれ見よがしに大きなため息を吐く。
「当事者同士での話し合いですから許したまでです。和解できるのであればそれで良いですから」
「裁判長! ここにいる証人に発言の許可をいただけませんか」
ブランドン先生は焦った様子で挙手した。
裁判長は私を見て聞いてくる。
「今の段階で言い忘れていることはありませんか」
「一つだけ」
応えてから、ロン様を見つめて口を開く。
「申し訳ございませんが、私の中のロン様への愛は消え去りました」
言いたいことを言い終えて、私が証言台から下りて自分の席に戻ると、トーマツ先生が小声で話しかけてくる。
「自爆してくれたのは助かりましたね」
「はい。本当に有り難いです」
視線を感じて目を向けると、ロン様が悲痛の表情を浮かべて私を見つめていた。
言い出したのはそっちでしょう。
そう思っていると、パトロア様が証言台に立って発言する。
「息子がシェリルを大事にしていたことは、私が一番よくわかっています! ロンが浮気をするだなんてありえません! シェリルは自分が浮気をしているから、そんな馬鹿なことを言うのです!」
「リグマ伯爵夫人、反論はありますか?」
裁判長に問われたので頷くと、発言する許可をくれた。
「大事にしてくれていた割には、私を部屋に閉じ込めるだけでなく食事も与えてくれませんでしたね」
「それはあなたが馬鹿なことを」
「裁判長! リグマ伯爵夫人の発言はパトロア様への反論になっていません!」
ブランドン先生はパトロア様がこれ以上、口を滑らせないようにしようとして必死だった。
まさか、不利な方向に持っていこうとするとは思っていなかったんでしょう。
「リグマ伯爵の交渉代理人の意見を受け入れましょう。リグマ伯爵夫人、あなたに許されているのは先程の発言に対してのみの反論です」
「失礼いたしました。では、私が浮気しているということですが、お相手は誰なのでしょうか」
「エイト公爵令息に決まっているでしょう! ロンと婚約する前にお付き合いしていたのでしょう!?」
「エイト公爵令息とは、昔、お付き合いさせていただいていましたが、ロン様との婚約が決まってからは最近までお会いしていません」
「影で会っていたんじゃないの!?」
パトロア様を止めることなく、ブランドン先生は目を伏せて考えている。
この状況をどう上手く切り抜けるかということを考えているのかしら。
「パトロア様、自分の言いたいことを言うことはあなたの中では良いのかもしれませんが、普通ではありえません。ましてや、公爵令息が人妻と浮気しているだなんて嘘をつくのですから、それがあなたの嘘だった場合、エイト公爵令息にはどのように謝罪されるおつもりですか」
私がフェリックス様と浮気しているというのであれば、フェリックス様は私を既婚者だとわかっていて付き合ったことになる。
その場合は、フェリックス様もロン様から慰謝料を請求されることになるから、エイト公爵家としては不名誉なことだ。
こんな嘘をエイト公爵家は許しはしないでしょう。
フェリックス様のほうを見てみると、パトロア様を馬鹿にするように冷たい笑みを浮かべて見つめているし、隣のシド公爵は逆に楽しそうにしていた。
「誠意を込めて謝るわ」
パトロア様の言葉を聞いて、失笑しそうになるのを堪えて話しかける。
「それで許してもらえるといいですね」
「それって、どういう」
困惑気味のパトロア様に、傍聴席に本人や彼のご家族がいることを教えてあげる。
「帰り際にお話ししてはいかがでしょうか」
「……け、結構よ」
パトロア様は焦った顔になって証言台から下りようとする。
「パトロア様、私が浮気しているという証拠があるなら出してください」
「わた、私が目撃したのよ!」
「目撃したという証言だけでは、エイト公爵家の関係者の方が見たという、ロン様とミシェルの不貞行為も認めてくださいますわよね」
「それは、その、私が見たわけではないわ!」
パトロア様が叫んだところで、ブランドン先生が休廷を申し出たけれど、裁判長は認めなかった。
そのまま裁判は続けられ、パトロア様は自分から自分を窮地に陥れるような発言をし続けた。
私はパトロア様が話し続けるのを冷めた目で見守り、否定するべきところは否定した。
言いたいことを言い終えたパトロア様に、トーマツ先生から彼女が家庭内暴力をしていたと可能性があると言われると、顔を真っ青にして俯いた。
そして、十四日後、判決が下されて、わたしとロン様の離婚が無事に認められた。
※
次の話はミシェル視点です。
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