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18.5 焦る家族(ミシェル視点)
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急遽、ロン様と会う約束を取り付けて彼の家に向かうと、すぐに応接室に案内された。
しばらくして、やって来たロン様は眠れていないのか、どこか目が虚ろだった。
お姉様が離婚に動いているからショックを受けているのかもしれないけれど、悩んでいるだけじゃ意味がないのよ。
行動しなくちゃ、何も始まらないわ。
「ロン様お願いです。わたしとあなたの間には何もなかったと周囲に伝えてもらえませんか」
「……そんなこと言ったって、僕たちのことはエイト公爵家の関係者の人に知られているんだろう!?」
「そうです。だからこそ、事実ではないと訴えるべきです!」
「事実じゃないか! 嘘をつけと言うのか? 大体、シェリルが出て行ったあとに、あんなことをしようだなんて考えたのは君じゃないか。君があんなことを言わなければ……!」
ロン様は責任をわたし一人に押し付けようとしてきた。
本当に頼りにならない男だわ。
「なんとでも言えばいいですよ。わたしもあなたも世間一般に言わせれば、クズと言われる部類です。それなら、最後までクズでいましょうよ」
「なんてことを……」
「自分だけ良い人ぶっても無駄ですわよ。それに、お姉様に嫌われていても、世間の同情があなたに集まれば裁判にだって勝てますわ」
今のところお姉様の切り札は、わたしとロン様の浮気である。
それが事実ではない、もしくは事実かどうかわからないとなれば、お姉様は証拠不十分で離婚するまでに時間がかかるでしょう。
フェリックス様をおとすまでは、彼に私が軽い女だと思われるわけにはいかない。
「……本当に勝てるかな」
「勝たないといけないんです! 離婚が認められてしまったら、もう2度とお姉様と会うこともできなくなるかもしれませんよ!」
ロン様がこの様子なら、接近禁止命令まで出されるかもしれない。
そう思って訴えると、ロン様は叫ぶ。
「そんなことは絶対に嫌だ!」
「では、負けないように手を組みましょう」
「手を組むといっても、こうやって二人で会っていることも良くないんじゃないのか?」
「外からはわたしたちが二人で話しているかどうかなんてわかりません。わたしの侍女、もしくはロン様の側近がいたと言えば良いじゃないですか」
「……そうか」
ロン様は目からこぼれ落ちた涙を袖で拭うと、わたしに話しかけてくる。
「浮気の証拠がなければ、シェリルの思い込みということで通せるかもしれないってことだよな」
「ええ。エイト公爵家の関係者が見たものも人違いということに持っていきましょう。お互いにアリバイに協力してくれる人を探すんです」
「……わかったよ。シェリルのためにも頑張る」
お姉様のためにも頑張るという意味がわからなかった。
でも、ロン様とお姉様が今すぐに離婚しなければそれで良いので気にしないことにした。
「とにかくロン様、浮気の件やお姉様を軟禁していたことなどは絶対に外には漏らさないようにしてくださいね」
「わかってるよ。君こそ、過信しすぎるのは良くない」
「ご忠告痛み入ります」
軽く頭を下げて、わたしは応接室を出た。
*****
それから数日後、フェリックス様がエルンベル邸にやって来た。
ロン様の邸に行った日に、わたしはそのままエルンベル邸から追い出されてしまっていた。
かといってサンニ家には戻りたくないから、今は宿屋で暮らしている。
でも、今日は邸の中に入れてもらえて、お父様とお母様、それからお兄様と一緒にフェリックス様を出迎えた。
今日のフェリックス様は黒の外套に身を包んだシックな出で立ちで、パーティーの時とはまた違って素敵だった。
「フェリックス様、エルンベル邸にようこそ」
「長居するつもりはないから、ここで話をさせてもらう」
お兄様が応接室に案内しようとすると、フェリックス様はその場で立ち止まって言った。
そして、お兄様から視線を移し、お父様たちを睨みつけて尋ねる。
「どうして手紙を渡さなかったんだ」
「て、手紙とは……、どういうことでしょうか」
お父様が聞き返すと、フェリックス様は答える。
「5年前、俺は現在のリグマ伯爵夫人との婚約を望んだ。断られたのはしょうがない。でも、リグマ伯爵夫人はそのことを知らなかった」
「そ、それは、その、すでにその時には、シェリルには婚約者がいたからです!」
「だからといって、俺からの婚約の申込みを彼女に教えないのはおかしいだろう」
「シェリルはあなたのことが好きでした。ですから、あなたの気持ちを知れば、ショックを受けると思ったんです!」
お父様は必死になって訴えた。
なんなの。
どうして、お姉様の話ばかりしているの?
「では、彼女からの手紙が俺に届かなかった理由を教えてくれ」
「それはその、フェリックス様にはシェリルよりも良い女性が……、その、ミシェルがいると思いまして、シェリルからの手紙は悪影響になるかと思ったのです」
「余計なお世話だ」
フェリックス様は冷たく言い放ったあと、お兄様に顔を向ける。
「エルンベル卿に聞く」
「何でしょうか」
「俺が送った手紙を宛先の人物に渡さない行為をどう思う?」
「公爵令息であるフェリックス様からの手紙を渡さない行為?」
お兄様は聞き返したあと、すぐにお父様たちを見て叫ぶ。
「まさか、フェリックス様からの手紙をシェリルには渡さずに処分していたんですか!?」
お父様たちは唇を噛んで俯いた。
おかしいわ。
フェリックス様はわたしとロン様のことについて聞きに来たんじゃなかったの?
何だか違う方向で雲行きが怪しいんだけど!?
しばらくして、やって来たロン様は眠れていないのか、どこか目が虚ろだった。
お姉様が離婚に動いているからショックを受けているのかもしれないけれど、悩んでいるだけじゃ意味がないのよ。
行動しなくちゃ、何も始まらないわ。
「ロン様お願いです。わたしとあなたの間には何もなかったと周囲に伝えてもらえませんか」
「……そんなこと言ったって、僕たちのことはエイト公爵家の関係者の人に知られているんだろう!?」
「そうです。だからこそ、事実ではないと訴えるべきです!」
「事実じゃないか! 嘘をつけと言うのか? 大体、シェリルが出て行ったあとに、あんなことをしようだなんて考えたのは君じゃないか。君があんなことを言わなければ……!」
ロン様は責任をわたし一人に押し付けようとしてきた。
本当に頼りにならない男だわ。
「なんとでも言えばいいですよ。わたしもあなたも世間一般に言わせれば、クズと言われる部類です。それなら、最後までクズでいましょうよ」
「なんてことを……」
「自分だけ良い人ぶっても無駄ですわよ。それに、お姉様に嫌われていても、世間の同情があなたに集まれば裁判にだって勝てますわ」
今のところお姉様の切り札は、わたしとロン様の浮気である。
それが事実ではない、もしくは事実かどうかわからないとなれば、お姉様は証拠不十分で離婚するまでに時間がかかるでしょう。
フェリックス様をおとすまでは、彼に私が軽い女だと思われるわけにはいかない。
「……本当に勝てるかな」
「勝たないといけないんです! 離婚が認められてしまったら、もう2度とお姉様と会うこともできなくなるかもしれませんよ!」
ロン様がこの様子なら、接近禁止命令まで出されるかもしれない。
そう思って訴えると、ロン様は叫ぶ。
「そんなことは絶対に嫌だ!」
「では、負けないように手を組みましょう」
「手を組むといっても、こうやって二人で会っていることも良くないんじゃないのか?」
「外からはわたしたちが二人で話しているかどうかなんてわかりません。わたしの侍女、もしくはロン様の側近がいたと言えば良いじゃないですか」
「……そうか」
ロン様は目からこぼれ落ちた涙を袖で拭うと、わたしに話しかけてくる。
「浮気の証拠がなければ、シェリルの思い込みということで通せるかもしれないってことだよな」
「ええ。エイト公爵家の関係者が見たものも人違いということに持っていきましょう。お互いにアリバイに協力してくれる人を探すんです」
「……わかったよ。シェリルのためにも頑張る」
お姉様のためにも頑張るという意味がわからなかった。
でも、ロン様とお姉様が今すぐに離婚しなければそれで良いので気にしないことにした。
「とにかくロン様、浮気の件やお姉様を軟禁していたことなどは絶対に外には漏らさないようにしてくださいね」
「わかってるよ。君こそ、過信しすぎるのは良くない」
「ご忠告痛み入ります」
軽く頭を下げて、わたしは応接室を出た。
*****
それから数日後、フェリックス様がエルンベル邸にやって来た。
ロン様の邸に行った日に、わたしはそのままエルンベル邸から追い出されてしまっていた。
かといってサンニ家には戻りたくないから、今は宿屋で暮らしている。
でも、今日は邸の中に入れてもらえて、お父様とお母様、それからお兄様と一緒にフェリックス様を出迎えた。
今日のフェリックス様は黒の外套に身を包んだシックな出で立ちで、パーティーの時とはまた違って素敵だった。
「フェリックス様、エルンベル邸にようこそ」
「長居するつもりはないから、ここで話をさせてもらう」
お兄様が応接室に案内しようとすると、フェリックス様はその場で立ち止まって言った。
そして、お兄様から視線を移し、お父様たちを睨みつけて尋ねる。
「どうして手紙を渡さなかったんだ」
「て、手紙とは……、どういうことでしょうか」
お父様が聞き返すと、フェリックス様は答える。
「5年前、俺は現在のリグマ伯爵夫人との婚約を望んだ。断られたのはしょうがない。でも、リグマ伯爵夫人はそのことを知らなかった」
「そ、それは、その、すでにその時には、シェリルには婚約者がいたからです!」
「だからといって、俺からの婚約の申込みを彼女に教えないのはおかしいだろう」
「シェリルはあなたのことが好きでした。ですから、あなたの気持ちを知れば、ショックを受けると思ったんです!」
お父様は必死になって訴えた。
なんなの。
どうして、お姉様の話ばかりしているの?
「では、彼女からの手紙が俺に届かなかった理由を教えてくれ」
「それはその、フェリックス様にはシェリルよりも良い女性が……、その、ミシェルがいると思いまして、シェリルからの手紙は悪影響になるかと思ったのです」
「余計なお世話だ」
フェリックス様は冷たく言い放ったあと、お兄様に顔を向ける。
「エルンベル卿に聞く」
「何でしょうか」
「俺が送った手紙を宛先の人物に渡さない行為をどう思う?」
「公爵令息であるフェリックス様からの手紙を渡さない行為?」
お兄様は聞き返したあと、すぐにお父様たちを見て叫ぶ。
「まさか、フェリックス様からの手紙をシェリルには渡さずに処分していたんですか!?」
お父様たちは唇を噛んで俯いた。
おかしいわ。
フェリックス様はわたしとロン様のことについて聞きに来たんじゃなかったの?
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