24 / 56
18.5 焦る家族(ミシェル視点)
しおりを挟む
急遽、ロン様と会う約束を取り付けて彼の家に向かうと、すぐに応接室に案内された。
しばらくして、やって来たロン様は眠れていないのか、どこか目が虚ろだった。
お姉様が離婚に動いているからショックを受けているのかもしれないけれど、悩んでいるだけじゃ意味がないのよ。
行動しなくちゃ、何も始まらないわ。
「ロン様お願いです。わたしとあなたの間には何もなかったと周囲に伝えてもらえませんか」
「……そんなこと言ったって、僕たちのことはエイト公爵家の関係者の人に知られているんだろう!?」
「そうです。だからこそ、事実ではないと訴えるべきです!」
「事実じゃないか! 嘘をつけと言うのか? 大体、シェリルが出て行ったあとに、あんなことをしようだなんて考えたのは君じゃないか。君があんなことを言わなければ……!」
ロン様は責任をわたし一人に押し付けようとしてきた。
本当に頼りにならない男だわ。
「なんとでも言えばいいですよ。わたしもあなたも世間一般に言わせれば、クズと言われる部類です。それなら、最後までクズでいましょうよ」
「なんてことを……」
「自分だけ良い人ぶっても無駄ですわよ。それに、お姉様に嫌われていても、世間の同情があなたに集まれば裁判にだって勝てますわ」
今のところお姉様の切り札は、わたしとロン様の浮気である。
それが事実ではない、もしくは事実かどうかわからないとなれば、お姉様は証拠不十分で離婚するまでに時間がかかるでしょう。
フェリックス様をおとすまでは、彼に私が軽い女だと思われるわけにはいかない。
「……本当に勝てるかな」
「勝たないといけないんです! 離婚が認められてしまったら、もう2度とお姉様と会うこともできなくなるかもしれませんよ!」
ロン様がこの様子なら、接近禁止命令まで出されるかもしれない。
そう思って訴えると、ロン様は叫ぶ。
「そんなことは絶対に嫌だ!」
「では、負けないように手を組みましょう」
「手を組むといっても、こうやって二人で会っていることも良くないんじゃないのか?」
「外からはわたしたちが二人で話しているかどうかなんてわかりません。わたしの侍女、もしくはロン様の側近がいたと言えば良いじゃないですか」
「……そうか」
ロン様は目からこぼれ落ちた涙を袖で拭うと、わたしに話しかけてくる。
「浮気の証拠がなければ、シェリルの思い込みということで通せるかもしれないってことだよな」
「ええ。エイト公爵家の関係者が見たものも人違いということに持っていきましょう。お互いにアリバイに協力してくれる人を探すんです」
「……わかったよ。シェリルのためにも頑張る」
お姉様のためにも頑張るという意味がわからなかった。
でも、ロン様とお姉様が今すぐに離婚しなければそれで良いので気にしないことにした。
「とにかくロン様、浮気の件やお姉様を軟禁していたことなどは絶対に外には漏らさないようにしてくださいね」
「わかってるよ。君こそ、過信しすぎるのは良くない」
「ご忠告痛み入ります」
軽く頭を下げて、わたしは応接室を出た。
*****
それから数日後、フェリックス様がエルンベル邸にやって来た。
ロン様の邸に行った日に、わたしはそのままエルンベル邸から追い出されてしまっていた。
かといってサンニ家には戻りたくないから、今は宿屋で暮らしている。
でも、今日は邸の中に入れてもらえて、お父様とお母様、それからお兄様と一緒にフェリックス様を出迎えた。
今日のフェリックス様は黒の外套に身を包んだシックな出で立ちで、パーティーの時とはまた違って素敵だった。
「フェリックス様、エルンベル邸にようこそ」
「長居するつもりはないから、ここで話をさせてもらう」
お兄様が応接室に案内しようとすると、フェリックス様はその場で立ち止まって言った。
そして、お兄様から視線を移し、お父様たちを睨みつけて尋ねる。
「どうして手紙を渡さなかったんだ」
「て、手紙とは……、どういうことでしょうか」
お父様が聞き返すと、フェリックス様は答える。
「5年前、俺は現在のリグマ伯爵夫人との婚約を望んだ。断られたのはしょうがない。でも、リグマ伯爵夫人はそのことを知らなかった」
「そ、それは、その、すでにその時には、シェリルには婚約者がいたからです!」
「だからといって、俺からの婚約の申込みを彼女に教えないのはおかしいだろう」
「シェリルはあなたのことが好きでした。ですから、あなたの気持ちを知れば、ショックを受けると思ったんです!」
お父様は必死になって訴えた。
なんなの。
どうして、お姉様の話ばかりしているの?
「では、彼女からの手紙が俺に届かなかった理由を教えてくれ」
「それはその、フェリックス様にはシェリルよりも良い女性が……、その、ミシェルがいると思いまして、シェリルからの手紙は悪影響になるかと思ったのです」
「余計なお世話だ」
フェリックス様は冷たく言い放ったあと、お兄様に顔を向ける。
「エルンベル卿に聞く」
「何でしょうか」
「俺が送った手紙を宛先の人物に渡さない行為をどう思う?」
「公爵令息であるフェリックス様からの手紙を渡さない行為?」
お兄様は聞き返したあと、すぐにお父様たちを見て叫ぶ。
「まさか、フェリックス様からの手紙をシェリルには渡さずに処分していたんですか!?」
お父様たちは唇を噛んで俯いた。
おかしいわ。
フェリックス様はわたしとロン様のことについて聞きに来たんじゃなかったの?
何だか違う方向で雲行きが怪しいんだけど!?
しばらくして、やって来たロン様は眠れていないのか、どこか目が虚ろだった。
お姉様が離婚に動いているからショックを受けているのかもしれないけれど、悩んでいるだけじゃ意味がないのよ。
行動しなくちゃ、何も始まらないわ。
「ロン様お願いです。わたしとあなたの間には何もなかったと周囲に伝えてもらえませんか」
「……そんなこと言ったって、僕たちのことはエイト公爵家の関係者の人に知られているんだろう!?」
「そうです。だからこそ、事実ではないと訴えるべきです!」
「事実じゃないか! 嘘をつけと言うのか? 大体、シェリルが出て行ったあとに、あんなことをしようだなんて考えたのは君じゃないか。君があんなことを言わなければ……!」
ロン様は責任をわたし一人に押し付けようとしてきた。
本当に頼りにならない男だわ。
「なんとでも言えばいいですよ。わたしもあなたも世間一般に言わせれば、クズと言われる部類です。それなら、最後までクズでいましょうよ」
「なんてことを……」
「自分だけ良い人ぶっても無駄ですわよ。それに、お姉様に嫌われていても、世間の同情があなたに集まれば裁判にだって勝てますわ」
今のところお姉様の切り札は、わたしとロン様の浮気である。
それが事実ではない、もしくは事実かどうかわからないとなれば、お姉様は証拠不十分で離婚するまでに時間がかかるでしょう。
フェリックス様をおとすまでは、彼に私が軽い女だと思われるわけにはいかない。
「……本当に勝てるかな」
「勝たないといけないんです! 離婚が認められてしまったら、もう2度とお姉様と会うこともできなくなるかもしれませんよ!」
ロン様がこの様子なら、接近禁止命令まで出されるかもしれない。
そう思って訴えると、ロン様は叫ぶ。
「そんなことは絶対に嫌だ!」
「では、負けないように手を組みましょう」
「手を組むといっても、こうやって二人で会っていることも良くないんじゃないのか?」
「外からはわたしたちが二人で話しているかどうかなんてわかりません。わたしの侍女、もしくはロン様の側近がいたと言えば良いじゃないですか」
「……そうか」
ロン様は目からこぼれ落ちた涙を袖で拭うと、わたしに話しかけてくる。
「浮気の証拠がなければ、シェリルの思い込みということで通せるかもしれないってことだよな」
「ええ。エイト公爵家の関係者が見たものも人違いということに持っていきましょう。お互いにアリバイに協力してくれる人を探すんです」
「……わかったよ。シェリルのためにも頑張る」
お姉様のためにも頑張るという意味がわからなかった。
でも、ロン様とお姉様が今すぐに離婚しなければそれで良いので気にしないことにした。
「とにかくロン様、浮気の件やお姉様を軟禁していたことなどは絶対に外には漏らさないようにしてくださいね」
「わかってるよ。君こそ、過信しすぎるのは良くない」
「ご忠告痛み入ります」
軽く頭を下げて、わたしは応接室を出た。
*****
それから数日後、フェリックス様がエルンベル邸にやって来た。
ロン様の邸に行った日に、わたしはそのままエルンベル邸から追い出されてしまっていた。
かといってサンニ家には戻りたくないから、今は宿屋で暮らしている。
でも、今日は邸の中に入れてもらえて、お父様とお母様、それからお兄様と一緒にフェリックス様を出迎えた。
今日のフェリックス様は黒の外套に身を包んだシックな出で立ちで、パーティーの時とはまた違って素敵だった。
「フェリックス様、エルンベル邸にようこそ」
「長居するつもりはないから、ここで話をさせてもらう」
お兄様が応接室に案内しようとすると、フェリックス様はその場で立ち止まって言った。
そして、お兄様から視線を移し、お父様たちを睨みつけて尋ねる。
「どうして手紙を渡さなかったんだ」
「て、手紙とは……、どういうことでしょうか」
お父様が聞き返すと、フェリックス様は答える。
「5年前、俺は現在のリグマ伯爵夫人との婚約を望んだ。断られたのはしょうがない。でも、リグマ伯爵夫人はそのことを知らなかった」
「そ、それは、その、すでにその時には、シェリルには婚約者がいたからです!」
「だからといって、俺からの婚約の申込みを彼女に教えないのはおかしいだろう」
「シェリルはあなたのことが好きでした。ですから、あなたの気持ちを知れば、ショックを受けると思ったんです!」
お父様は必死になって訴えた。
なんなの。
どうして、お姉様の話ばかりしているの?
「では、彼女からの手紙が俺に届かなかった理由を教えてくれ」
「それはその、フェリックス様にはシェリルよりも良い女性が……、その、ミシェルがいると思いまして、シェリルからの手紙は悪影響になるかと思ったのです」
「余計なお世話だ」
フェリックス様は冷たく言い放ったあと、お兄様に顔を向ける。
「エルンベル卿に聞く」
「何でしょうか」
「俺が送った手紙を宛先の人物に渡さない行為をどう思う?」
「公爵令息であるフェリックス様からの手紙を渡さない行為?」
お兄様は聞き返したあと、すぐにお父様たちを見て叫ぶ。
「まさか、フェリックス様からの手紙をシェリルには渡さずに処分していたんですか!?」
お父様たちは唇を噛んで俯いた。
おかしいわ。
フェリックス様はわたしとロン様のことについて聞きに来たんじゃなかったの?
何だか違う方向で雲行きが怪しいんだけど!?
2,033
お気に入りに追加
3,637
あなたにおすすめの小説

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。
妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。
……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。
けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します!
自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。
あなたの姿をもう追う事はありません
彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。
王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。
なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?
わたしはカイルの姿を見て追っていく。
ずっと、ずっと・・・。
でも、もういいのかもしれない。

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない
ぜらいす黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。
ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。
ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。
ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに
hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。
二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。
やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。
落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。
毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。
様子がおかしい青年に気づく。
ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。
ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。
∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞
最終話まで予約投稿済です。
次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。
ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。
楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

(完結)だったら、そちらと結婚したらいいでしょう?
青空一夏
恋愛
エレノアは美しく気高い公爵令嬢。彼女が婚約者に選んだのは、誰もが驚く相手――冴えない平民のデラノだった。太っていて吹き出物だらけ、クラスメイトにバカにされるような彼だったが、エレノアはそんなデラノに同情し、彼を変えようと決意する。
エレノアの尽力により、デラノは見違えるほど格好良く変身し、学園の女子たちから憧れの存在となる。彼女の用意した特別な食事や、励ましの言葉に支えられ、自信をつけたデラノ。しかし、彼の心は次第に傲慢に変わっていく・・・・・・
エレノアの献身を忘れ、身分の差にあぐらをかきはじめるデラノ。そんな彼に待っていたのは・・・・・・
※異世界、ゆるふわ設定。
釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません
しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。
曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。
ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。
対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。
そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。
おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。
「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」
時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。
ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。
ゆっくり更新予定です(*´ω`*)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる