22 / 56
17 義母からの手紙
しおりを挟む
フェリックス様はミオ様と一緒に裁判所に向かう馬車の中で、今までの経緯を聞いてくれていた。
ミシェルのために、わたしとフェリックス様の仲を引き裂いたと知って、フェリックス様は私の両親にに恨みに近い感情を持ったようだった。
エイト公爵邸に戻ってすぐ、常駐しているお医者様に診てもらい、傷の手当てをしてもらった。
しばらく安静にするようにと言われたけれど、歩けないわけではない。
だから、私に付いてくれているメイド、ソミナと一緒に部屋に向かっていると、フェリックス様が前方から現れて声をかけてきた。
「怪我の具合はどうだ?」
「骨が折れたりしているわけではなさそうです。安静にするようには言われましたが、ご覧の通り歩けます」
「そうか」
フェリックス様は片足を引きずるようにして歩いている私を見て悲しそうな顔になった。
この怪我は彼のせいではないので笑いかける。
「そんなに悲しい顔をしないでください。わたしは本当にフェリックス様に感謝しています」
「今回のことだけじゃなくて、俺がもっとちゃんとしてたら、こんなことにならなかっただろ」
眉尻を下げたフェリックス様の顔を見て、胸がドキドキしてしまう自分に腹が立つ。
忘れたつもりだったのに、気持ちが再燃しそうになっている。
駄目よ。
私はまだ、ロン様の妻なんだから。
フェリックス様だってそれはわかってくれているはず。
「ソミナ、シェリルさんが歩きやすいように松葉杖を持ってきてちょうだい」
階段前の廊下で立ち話をしていたからか、セレナ様が階段を下りてくるところとかち合った。
セレナ様は私の怪我を心配してくれたあとに、一度、フェリックス様を見てからソミナに指示をした。
「承知いたしました。シェリル様、申し訳ございませんが、こちらでお待ちいただけますか。松葉杖を持ってまいります」
「自分で部屋に戻れるから戻って部屋で待っていても良いかしら」
「ですが、お一人では心配です」
「俺が送る」
フェリックス様が言うと、ソミナではなくセレナ様が笑顔で頷く。
「それが良いわ」
セレナ様はわたしとフェリックス様が二人で話す機会を作ってくれたようだった。
ソミナもその意図を瞬時に理解したみたいだ。
セレナ様とのソミナか一緒に歩いていってしまったので、廊下に残された私たちは少しの間だけ、その場を動かないだけでなく、何も話さなかった。
沈黙を破ったのは、私だった。
「……フェリックス様」
「フェリックスでいい」
「申し訳ございませんが、公爵令息のあなた様をそのように呼ぶことはできません」
「……そうか、そうだよな」
フェリックス様の声のトーンが一気に低くなった。
「……フェリックス様」
あからさまに落ち込んだ様子を見せて歩き始めた彼の背中に声を掛ける。
「どうした?」
「私は今は人妻です。しかも、離婚したいと願っています。それは夫に浮気をされたからです」
フェリックス様は足を止め、真剣な表情で私の言葉の続きを待っている。
「離婚するまでは、フェリックス様との未来は見えません。……でも、離婚してからはフェリックス様次第です」
「……シェリル」
フェリックス様は驚いた顔で、私のほうに手を伸ばそうとした。
でも、すぐにその手を下ろすと、はにかんだ笑みを浮かべる。
「その言葉を聞けただけで頑張れそうだ」
「……フェリックス様は趣味が悪いですね」
自然消滅だと思いこんで、親が決めたとはいえ婚約者と仲良くなって結婚までしてしまった私なんかを好きでいてくれたことは、本当に奇跡みたいな話だと思う。
昔みたいに憎まれ口を叩くと、フェリックス様は頷く。
「だから、誰かさんしか好きになれないんだ」
何か言い返したくなったけれどやめた。
気を緩めては駄目だ。
ロン様のこともそうだけれど、ミシェルたちとのこともままだ何も終わってないんだから。
ゆっくり、私の部屋に向かって足を進めていると、今度はミオ様がやって来た。
「シェリル! リグマ伯爵のお母様からお手紙が届いていますわよ。あなたが良いのであれば、危険物が入っていないか調べさせますわ」
「開けてくださってかまいません」
今更、義母は私に何の用事なのかしら。
そう思ったあと、使用人たちがどうなったか調べてもらうことにしていたことを思い出した。
「そういえば、使用人たちはどうなりましたか」
「誰かが解雇されたとか、そんなことはないみたいですから安心してくださいな。向こうもきっと、下手に解雇などして自分たちがしたことをバラされたくはないのでしょう」
「守秘義務が生じますものね」
使用人は本来は邸内で起こったことを口外してはならない。
でも、不当解雇をしようものなら、守秘義務を無視して、元雇い主を訴える可能性があるから、下手に解雇ができないのでしょう。
調べてもらったお礼を言って、フェリックス様と部屋に戻ると、ミオ様が手紙を持ってきてくれた。
手紙にはどうしても私と直接会って話をしたいと書かれていた。
和解してくれるつもりなのかどうかは書かれていないのでわからない。
レファルド様とセレナ様に相談してみると、場所はエイト公爵邸内で交渉代理人も同席することを条件に、会うことを許可された。
会う必要はないかもしれない。
でも、会うことによって、こちらがより有利になることが起きると判断したからだった。
ミシェルのために、わたしとフェリックス様の仲を引き裂いたと知って、フェリックス様は私の両親にに恨みに近い感情を持ったようだった。
エイト公爵邸に戻ってすぐ、常駐しているお医者様に診てもらい、傷の手当てをしてもらった。
しばらく安静にするようにと言われたけれど、歩けないわけではない。
だから、私に付いてくれているメイド、ソミナと一緒に部屋に向かっていると、フェリックス様が前方から現れて声をかけてきた。
「怪我の具合はどうだ?」
「骨が折れたりしているわけではなさそうです。安静にするようには言われましたが、ご覧の通り歩けます」
「そうか」
フェリックス様は片足を引きずるようにして歩いている私を見て悲しそうな顔になった。
この怪我は彼のせいではないので笑いかける。
「そんなに悲しい顔をしないでください。わたしは本当にフェリックス様に感謝しています」
「今回のことだけじゃなくて、俺がもっとちゃんとしてたら、こんなことにならなかっただろ」
眉尻を下げたフェリックス様の顔を見て、胸がドキドキしてしまう自分に腹が立つ。
忘れたつもりだったのに、気持ちが再燃しそうになっている。
駄目よ。
私はまだ、ロン様の妻なんだから。
フェリックス様だってそれはわかってくれているはず。
「ソミナ、シェリルさんが歩きやすいように松葉杖を持ってきてちょうだい」
階段前の廊下で立ち話をしていたからか、セレナ様が階段を下りてくるところとかち合った。
セレナ様は私の怪我を心配してくれたあとに、一度、フェリックス様を見てからソミナに指示をした。
「承知いたしました。シェリル様、申し訳ございませんが、こちらでお待ちいただけますか。松葉杖を持ってまいります」
「自分で部屋に戻れるから戻って部屋で待っていても良いかしら」
「ですが、お一人では心配です」
「俺が送る」
フェリックス様が言うと、ソミナではなくセレナ様が笑顔で頷く。
「それが良いわ」
セレナ様はわたしとフェリックス様が二人で話す機会を作ってくれたようだった。
ソミナもその意図を瞬時に理解したみたいだ。
セレナ様とのソミナか一緒に歩いていってしまったので、廊下に残された私たちは少しの間だけ、その場を動かないだけでなく、何も話さなかった。
沈黙を破ったのは、私だった。
「……フェリックス様」
「フェリックスでいい」
「申し訳ございませんが、公爵令息のあなた様をそのように呼ぶことはできません」
「……そうか、そうだよな」
フェリックス様の声のトーンが一気に低くなった。
「……フェリックス様」
あからさまに落ち込んだ様子を見せて歩き始めた彼の背中に声を掛ける。
「どうした?」
「私は今は人妻です。しかも、離婚したいと願っています。それは夫に浮気をされたからです」
フェリックス様は足を止め、真剣な表情で私の言葉の続きを待っている。
「離婚するまでは、フェリックス様との未来は見えません。……でも、離婚してからはフェリックス様次第です」
「……シェリル」
フェリックス様は驚いた顔で、私のほうに手を伸ばそうとした。
でも、すぐにその手を下ろすと、はにかんだ笑みを浮かべる。
「その言葉を聞けただけで頑張れそうだ」
「……フェリックス様は趣味が悪いですね」
自然消滅だと思いこんで、親が決めたとはいえ婚約者と仲良くなって結婚までしてしまった私なんかを好きでいてくれたことは、本当に奇跡みたいな話だと思う。
昔みたいに憎まれ口を叩くと、フェリックス様は頷く。
「だから、誰かさんしか好きになれないんだ」
何か言い返したくなったけれどやめた。
気を緩めては駄目だ。
ロン様のこともそうだけれど、ミシェルたちとのこともままだ何も終わってないんだから。
ゆっくり、私の部屋に向かって足を進めていると、今度はミオ様がやって来た。
「シェリル! リグマ伯爵のお母様からお手紙が届いていますわよ。あなたが良いのであれば、危険物が入っていないか調べさせますわ」
「開けてくださってかまいません」
今更、義母は私に何の用事なのかしら。
そう思ったあと、使用人たちがどうなったか調べてもらうことにしていたことを思い出した。
「そういえば、使用人たちはどうなりましたか」
「誰かが解雇されたとか、そんなことはないみたいですから安心してくださいな。向こうもきっと、下手に解雇などして自分たちがしたことをバラされたくはないのでしょう」
「守秘義務が生じますものね」
使用人は本来は邸内で起こったことを口外してはならない。
でも、不当解雇をしようものなら、守秘義務を無視して、元雇い主を訴える可能性があるから、下手に解雇ができないのでしょう。
調べてもらったお礼を言って、フェリックス様と部屋に戻ると、ミオ様が手紙を持ってきてくれた。
手紙にはどうしても私と直接会って話をしたいと書かれていた。
和解してくれるつもりなのかどうかは書かれていないのでわからない。
レファルド様とセレナ様に相談してみると、場所はエイト公爵邸内で交渉代理人も同席することを条件に、会うことを許可された。
会う必要はないかもしれない。
でも、会うことによって、こちらがより有利になることが起きると判断したからだった。
1,800
お気に入りに追加
3,632
あなたにおすすめの小説
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり(苦手な方はご注意下さい)。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
釣り合わないと言われても、婚約者と別れる予定はありません
しろねこ。
恋愛
幼馴染と婚約を結んでいるラズリーは、学園に入学してから他の令嬢達によく絡まれていた。
曰く、婚約者と釣り合っていない、身分不相応だと。
ラズリーの婚約者であるファルク=トワレ伯爵令息は、第二王子の側近で、将来護衛騎士予定の有望株だ。背も高く、見目も良いと言う事で注目を浴びている。
対してラズリー=コランダム子爵令嬢は薬草学を専攻していて、外に出る事も少なく地味な見た目で華々しさもない。
そんな二人を周囲は好奇の目で見ており、時にはラズリーから婚約者を奪おうとするものも出てくる。
おっとり令嬢ラズリーはそんな周囲の圧力に屈することはない。
「釣り合わない? そうですか。でも彼は私が良いって言ってますし」
時に優しく、時に豪胆なラズリー、平穏な日々はいつ来るやら。
ハッピーエンド、両思い、ご都合主義なストーリーです。
ゆっくり更新予定です(*´ω`*)
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。
待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。
妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。
……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。
けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します!
自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。
【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す
おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」
鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。
え?悲しくないのかですって?
そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー
◇よくある婚約破棄
◇元サヤはないです
◇タグは増えたりします
◇薬物などの危険物が少し登場します
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
【完結】もう結構ですわ!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
恋愛
どこぞの物語のように、夜会で婚約破棄を告げられる。結構ですわ、お受けしますと返答し、私シャルリーヌ・リン・ル・フォールは微笑み返した。
愚かな王子を擁するヴァロワ王家は、あっという間に追い詰められていく。逆に、ル・フォール公国は独立し、豊かさを享受し始めた。シャルリーヌは、豊かな国と愛する人、両方を手に入れられるのか!
ハッピーエンド確定
【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/11/29……完結
2024/09/12……小説家になろう 異世界日間連載 7位 恋愛日間連載 11位
2024/09/12……エブリスタ、恋愛ファンタジー 1位
2024/09/12……カクヨム恋愛日間 4位、週間 65位
2024/09/12……アルファポリス、女性向けHOT 42位
2024/09/11……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる