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16.5 悪あがきする妹(ミシェル視点)
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居心地が悪くなったわたしは、サンニ子爵のところへ向かった。
わたしの所に連絡があったのだから、当然、義父の所にも連絡はいっていて、執務室で頭を抱えていた。
「お義父様、デイクス様のお話は聞きましたわ。あまりにも酷いお話だと思います」
「わかっている。悪いが、今は息子のことで忙しいんだ。お前の愚痴を聞いている暇はない」
「愚痴は聞いていただかなくて結構ですわ。実家に帰らせていただきます。何も言わずに離婚に応じていただけるのであれば、デイクス様は普段はとても良い人であり、今回の件は何かの気の迷いだったと証言いたしましょう」
「そんなことを言うくせに離婚をすると言うのか!? 世間がそれを信じるとでも?」
「では、そういう人ですから、どうぞ裁いてくださいと言えばよろしいでしょうか」
義父母はデイクスのことをとても可愛がっている。
デイクスは大人しい性格でどちらかというといじめられっこタイプだから、余計に過保護になってしまっているところがある。
そんな人だから、息子のためなら条件を呑む。
そう確信していた。
そして、案の定、義父は条件を呑んだ。
上手くいって笑みがこぼれそうになるのを何とか我慢して自室に戻る。
すると、荷造りが終わったと報告があった。
もう二度と戻ることのないであろう邸に別れを告げて、わたしは実家に戻ることにしたのだった。
*****
実家に帰った次の日の朝のことだった。
起きたばかりのわたしの元へ、お兄様がやって来た。
お兄様は部屋に入ってくるなり、こう言った。
「家に帰れ」
「何を言っているのよ、お兄様。わたしはデイクスと離婚するつもりなの。だから、わたしの家はここよ」
「ふざけるな。お前は嫁に行った人間だし、まだ離婚していないだろう。昨日の話を詳しく聞いたが、シェリルは示談にすると言っているらしいぞ」
「なんですって!?」
「それから、夫はお前と別れる気はないと言っている」
「そんな! 悪いことをしたのはデイクスですよ! だから、わたしからの離婚の申し出は認められるはずです!」
訴えると、お兄様は厳しい目をわたしに向けてくる。
「それは一方だけが悪い場合だろ」
「どういうことですか」
「お前、シェリルの夫と浮気してるんだろう」
「う、う、浮気なんてしていません!」
平静を装いたかったけれど、声がうわずってしまった。
こんなことになると思って、お姉様が嘘の噂を流すかもしれないという話を社交界には流しておいたから、きっと大丈夫。
そう思っていたけれど、胸の前で腕を組んだお兄様は、わたしを見下ろして鼻で笑う。
「エイト公爵家の関係者がお前とリグマ伯爵の密会シーンを目撃したという話が社交界で噂になっているらしい。お前とエイト公爵家の関係者の話なら、社交界の人間はどちらを信じると思うんだ?」
「お兄様、わたしは浮気なんか!」
「うるさい。お前が浮気してようがしてまいが関係ない。ここは僕の家だ。マイナス要因にしかならないお前には出ていってもらう」
「酷すぎるわ! お兄様は知らないふりをするのね!」
部屋の扉の前で立っていたお兄様を押しのけて、わたしは寝間着のまま、寝室にいるであろう両親の元へ向かった。
寝室に入る許可が下りると、わたしはすぐに中に入って二人に訴える。
「お父様、お母様! お兄様が出て行けと言うんです! わたしは悪くないのに!」
「シェリルのことで責められたのね? ミシェル、あなたは何も悪くないわ。シェリルとリグマ伯爵が悪いのよ。あの二人のせいであなたはリグマ伯爵と関係を持たなくちゃいけなくなったんだから。あなたは巻き込まれただけよ」
「そうですよね! 全部、ロン様とお姉様が悪いのですわよね」
両親やお兄様たちにはパートナー交換の理由は、ロン様がお姉様を抱けないと言っているからと伝えている。
これはまったくの嘘ではない。
だって、本当に自信がないから、嫌われるのが怖いとかいう理由で抱けないのだから。
子どもの交換のことは両親にはさすがに言っていないけど、リグマ伯爵家のためにテイクスがお姉様を抱くという話もしている。
両親は、お姉様のせいで巻き込まれるわたしが可哀想だと言ってくれた。
本当は、お姉様を悲しませたかっただけで、わたしが言い出したことなんだけど、両親はわたしがロン様から頼まれたと思っている。
お姉様を悲しませて楽しもうと思っていた、あの時とは状況が違う。
わたしの目的はフェリックス様を手に入れること。
わたしが浮気していたなんてことは、絶対にバレてはいけない。
……って、ちょっと待って。
さっきお兄様は、わたしとロン様が浮気をしているという噂を流しているというのは、エイト公爵家の関係者と言っていたわよね。
じゃあ、フェリックス様もわたしとロン様のことを知っているということ?
急に目の前が真っ暗になった気がして、わたしはその場に崩れ落ちる。
「どうしたの、ミシェル!」
お母様がわたしの隣に膝をついて抱きしめてくれた。
「お母様、お父様、わたし、やっぱりフェリックス様が好きなんです! だから、どうしても彼と一緒になりたい! だけど、浮気していると思われているのかと思うと……!」
「ミシェル、フェリックス様なんだが、我々に話があるそうで、5日後にこちらにやって来られるそうだ」
「話がある?」
尋ねると、お父様は笑顔で頷く。
「きっと、サンニ子爵令息のことやリアド伯爵との話だろう。その時にちゃんと誤解だということを話せばいい。シェリルが嘘を言っているのだとな」
そうだわ。
デイクスやロン様と口裏を合わせれば、フェリックス様もわたしが無実だと信じてくれるかもしれない。
わたしは急いで、ロン様と話をすることにした。
わたしの所に連絡があったのだから、当然、義父の所にも連絡はいっていて、執務室で頭を抱えていた。
「お義父様、デイクス様のお話は聞きましたわ。あまりにも酷いお話だと思います」
「わかっている。悪いが、今は息子のことで忙しいんだ。お前の愚痴を聞いている暇はない」
「愚痴は聞いていただかなくて結構ですわ。実家に帰らせていただきます。何も言わずに離婚に応じていただけるのであれば、デイクス様は普段はとても良い人であり、今回の件は何かの気の迷いだったと証言いたしましょう」
「そんなことを言うくせに離婚をすると言うのか!? 世間がそれを信じるとでも?」
「では、そういう人ですから、どうぞ裁いてくださいと言えばよろしいでしょうか」
義父母はデイクスのことをとても可愛がっている。
デイクスは大人しい性格でどちらかというといじめられっこタイプだから、余計に過保護になってしまっているところがある。
そんな人だから、息子のためなら条件を呑む。
そう確信していた。
そして、案の定、義父は条件を呑んだ。
上手くいって笑みがこぼれそうになるのを何とか我慢して自室に戻る。
すると、荷造りが終わったと報告があった。
もう二度と戻ることのないであろう邸に別れを告げて、わたしは実家に戻ることにしたのだった。
*****
実家に帰った次の日の朝のことだった。
起きたばかりのわたしの元へ、お兄様がやって来た。
お兄様は部屋に入ってくるなり、こう言った。
「家に帰れ」
「何を言っているのよ、お兄様。わたしはデイクスと離婚するつもりなの。だから、わたしの家はここよ」
「ふざけるな。お前は嫁に行った人間だし、まだ離婚していないだろう。昨日の話を詳しく聞いたが、シェリルは示談にすると言っているらしいぞ」
「なんですって!?」
「それから、夫はお前と別れる気はないと言っている」
「そんな! 悪いことをしたのはデイクスですよ! だから、わたしからの離婚の申し出は認められるはずです!」
訴えると、お兄様は厳しい目をわたしに向けてくる。
「それは一方だけが悪い場合だろ」
「どういうことですか」
「お前、シェリルの夫と浮気してるんだろう」
「う、う、浮気なんてしていません!」
平静を装いたかったけれど、声がうわずってしまった。
こんなことになると思って、お姉様が嘘の噂を流すかもしれないという話を社交界には流しておいたから、きっと大丈夫。
そう思っていたけれど、胸の前で腕を組んだお兄様は、わたしを見下ろして鼻で笑う。
「エイト公爵家の関係者がお前とリグマ伯爵の密会シーンを目撃したという話が社交界で噂になっているらしい。お前とエイト公爵家の関係者の話なら、社交界の人間はどちらを信じると思うんだ?」
「お兄様、わたしは浮気なんか!」
「うるさい。お前が浮気してようがしてまいが関係ない。ここは僕の家だ。マイナス要因にしかならないお前には出ていってもらう」
「酷すぎるわ! お兄様は知らないふりをするのね!」
部屋の扉の前で立っていたお兄様を押しのけて、わたしは寝間着のまま、寝室にいるであろう両親の元へ向かった。
寝室に入る許可が下りると、わたしはすぐに中に入って二人に訴える。
「お父様、お母様! お兄様が出て行けと言うんです! わたしは悪くないのに!」
「シェリルのことで責められたのね? ミシェル、あなたは何も悪くないわ。シェリルとリグマ伯爵が悪いのよ。あの二人のせいであなたはリグマ伯爵と関係を持たなくちゃいけなくなったんだから。あなたは巻き込まれただけよ」
「そうですよね! 全部、ロン様とお姉様が悪いのですわよね」
両親やお兄様たちにはパートナー交換の理由は、ロン様がお姉様を抱けないと言っているからと伝えている。
これはまったくの嘘ではない。
だって、本当に自信がないから、嫌われるのが怖いとかいう理由で抱けないのだから。
子どもの交換のことは両親にはさすがに言っていないけど、リグマ伯爵家のためにテイクスがお姉様を抱くという話もしている。
両親は、お姉様のせいで巻き込まれるわたしが可哀想だと言ってくれた。
本当は、お姉様を悲しませたかっただけで、わたしが言い出したことなんだけど、両親はわたしがロン様から頼まれたと思っている。
お姉様を悲しませて楽しもうと思っていた、あの時とは状況が違う。
わたしの目的はフェリックス様を手に入れること。
わたしが浮気していたなんてことは、絶対にバレてはいけない。
……って、ちょっと待って。
さっきお兄様は、わたしとロン様が浮気をしているという噂を流しているというのは、エイト公爵家の関係者と言っていたわよね。
じゃあ、フェリックス様もわたしとロン様のことを知っているということ?
急に目の前が真っ暗になった気がして、わたしはその場に崩れ落ちる。
「どうしたの、ミシェル!」
お母様がわたしの隣に膝をついて抱きしめてくれた。
「お母様、お父様、わたし、やっぱりフェリックス様が好きなんです! だから、どうしても彼と一緒になりたい! だけど、浮気していると思われているのかと思うと……!」
「ミシェル、フェリックス様なんだが、我々に話があるそうで、5日後にこちらにやって来られるそうだ」
「話がある?」
尋ねると、お父様は笑顔で頷く。
「きっと、サンニ子爵令息のことやリアド伯爵との話だろう。その時にちゃんと誤解だということを話せばいい。シェリルが嘘を言っているのだとな」
そうだわ。
デイクスやロン様と口裏を合わせれば、フェリックス様もわたしが無実だと信じてくれるかもしれない。
わたしは急いで、ロン様と話をすることにした。
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