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13 離婚したくない夫の言い分
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現在、ロン様は示談を求めてきているけれど、私がそれを断れば裁判になる可能性が高い。
リグマ伯爵家に先に裁判を起こされた場合、裁判所に出廷しなければ、自動的に原告の勝訴になってしまう。
だから、私は交渉代理人の話を聞かなければならないと思った。
報酬をもらわなければ誰でも代理人にはなれる。
私が住んでいる国の場合、報酬をもらう場合は資格がいる。
資格を取るための試験はとても難しく、合格者は少ないらしい。
そして、その試験に合格した人だけが報酬をもらうことのできる交渉代理人と名乗れるようになる。
この話だけ聞くと、エリートしかなれないと思ってしまうかもしれない。
でも、悲しいことに、この国ではお金を払えば何とかなってしまう資格でもあったりする。
私の目の前に座る、ロン様の交渉代理人と名乗る男性は子爵家の次男だったと記憶している。
今は独立して資格を取り、個人事務所をたち上げているらしい。
名刺にはロース・ブランドンと書かれていて、私は彼のことをブランドン先生と呼ばなければならならなかった。
というのも、それが礼儀だからだ。
茶色のスーツに同じ色のネクタイを付けた、恰幅のいい中年の男性であるブランドン先生は、丸い眼鏡を押し上げて言う。
「あなたの旦那様であるロン様は自分のしたことを本当に後悔しています。そして、ロン様を見たご両親がこのままではロン様の心が壊れてしまうのではないかと心配されています」
「心が壊れてしまうようなダメージを与えられたのは私も同じです」
つい、口に出してしまったことをすぐに反省する。
ブランドン先生に言い返しても意味がないし、得るものもない。
何度か深呼吸して心を落ち着けてから尋ねる。
「どうしてもロン様は私と離婚したくないとおっしゃっているんでしょうか」
「そうです。ロン様はあなたの妹のミシェル様に騙されたと言っておられます。そして、離婚したくない理由はあなたを愛する気持ちは誰にも負けないからとのことです」
「ミシェルに騙されたかどうかは知りませんが、そのことが私に関係ありますか。私に何の相談もなく、ミシェルと体の関係を持ったのですよ。相談してくれていたら止めています」
「一つお聞きしますが、あなたはご自分の旦那様の行動がおかしいことには気付いておられましたか」
ブランドン先生に尋ねられて、なんと答えたら良いのか迷った。
知っていたと答えれば、あなたがもっと問い詰めるべきだったと言われる可能性がある。
かといって、何度かロン様に問いただそうとしたことがあるから、おかしいとは思わなかったなんて嘘はつけない。
相手はこういうような話の交渉のプロで、私は素人だ。
ここは私も交渉代理人を頼んで、プロ同士で戦ってもらうしかない。
「ロン様の言いたいことは理解できました。ですが、私は納得はいっていません。私も交渉代理人を探すようにいたしますので、これからは代理人同士でお話をお願いします」
すると、ブランドン先生は口元に笑みを浮かべる。
「エイト公爵家の力を借りるおつもりですか」
「エイト公爵家のご令嬢であるミオ様とはお友達です。相談にはのってもらおうと思っています」
「もしかして、元恋人であるフェリックス様とあなたはまだ繋がっているのではないですか。だから、わざわざ公爵邸にまで来て助けを求めたのでは?」
こんなことを言われるだろうということは、レファルド様から先に聞いていた。
それなのに腹が立ってしまう。
でも、ここで怒りの感情を見せてはいけないことはわかっている。
でも、私が馬鹿だと相手に思わせておいたほうがやりやすくなるかもしれない。
「どうしてそんなことを思われるのでしょうか。 そちらは私にも非があるようにしたいのかもしれませんが、事実無根であるその発言はフェリックス様の名誉を傷つける発言だと思いますが」
「……それは、まあ、そうですね。失礼しました。発言を取り消します」
「私がエイト公爵家にお世話になっていることがブランドン先生は気になるようだと、公爵閣下に伝えておきます」
座っていた椅子から立ち上がって部屋から出ようとすると、ブランドン先生が焦った様子で立ち上がる。
「お待ちください! そんなことは一言も言っておりません!」
「私には遠回しにそう言っているように聞こえました」
「それは誤解です」
「そうでしたか。それは失礼しました。では、本日はここで失礼させていただきます」
軽く一礼をしてから、一軒家の一階を改装している、こじんまりとした事務所を出た。
するとすぐに馬車が近づいて来て、私の目の前で停まった。
私をここまで乗せてきてくれた、エイト公爵家の馬車だった。
やはり、こんな風に、お世話になっていると、エイト公爵家にご迷惑がかかる。
ミオ様から勝手に迷惑だと判断しないように言われていたから、先程の交渉代理人からの話を伝えられることだけ伝え、独り立ちをする準備を進めることにした。
リグマ伯爵家に先に裁判を起こされた場合、裁判所に出廷しなければ、自動的に原告の勝訴になってしまう。
だから、私は交渉代理人の話を聞かなければならないと思った。
報酬をもらわなければ誰でも代理人にはなれる。
私が住んでいる国の場合、報酬をもらう場合は資格がいる。
資格を取るための試験はとても難しく、合格者は少ないらしい。
そして、その試験に合格した人だけが報酬をもらうことのできる交渉代理人と名乗れるようになる。
この話だけ聞くと、エリートしかなれないと思ってしまうかもしれない。
でも、悲しいことに、この国ではお金を払えば何とかなってしまう資格でもあったりする。
私の目の前に座る、ロン様の交渉代理人と名乗る男性は子爵家の次男だったと記憶している。
今は独立して資格を取り、個人事務所をたち上げているらしい。
名刺にはロース・ブランドンと書かれていて、私は彼のことをブランドン先生と呼ばなければならならなかった。
というのも、それが礼儀だからだ。
茶色のスーツに同じ色のネクタイを付けた、恰幅のいい中年の男性であるブランドン先生は、丸い眼鏡を押し上げて言う。
「あなたの旦那様であるロン様は自分のしたことを本当に後悔しています。そして、ロン様を見たご両親がこのままではロン様の心が壊れてしまうのではないかと心配されています」
「心が壊れてしまうようなダメージを与えられたのは私も同じです」
つい、口に出してしまったことをすぐに反省する。
ブランドン先生に言い返しても意味がないし、得るものもない。
何度か深呼吸して心を落ち着けてから尋ねる。
「どうしてもロン様は私と離婚したくないとおっしゃっているんでしょうか」
「そうです。ロン様はあなたの妹のミシェル様に騙されたと言っておられます。そして、離婚したくない理由はあなたを愛する気持ちは誰にも負けないからとのことです」
「ミシェルに騙されたかどうかは知りませんが、そのことが私に関係ありますか。私に何の相談もなく、ミシェルと体の関係を持ったのですよ。相談してくれていたら止めています」
「一つお聞きしますが、あなたはご自分の旦那様の行動がおかしいことには気付いておられましたか」
ブランドン先生に尋ねられて、なんと答えたら良いのか迷った。
知っていたと答えれば、あなたがもっと問い詰めるべきだったと言われる可能性がある。
かといって、何度かロン様に問いただそうとしたことがあるから、おかしいとは思わなかったなんて嘘はつけない。
相手はこういうような話の交渉のプロで、私は素人だ。
ここは私も交渉代理人を頼んで、プロ同士で戦ってもらうしかない。
「ロン様の言いたいことは理解できました。ですが、私は納得はいっていません。私も交渉代理人を探すようにいたしますので、これからは代理人同士でお話をお願いします」
すると、ブランドン先生は口元に笑みを浮かべる。
「エイト公爵家の力を借りるおつもりですか」
「エイト公爵家のご令嬢であるミオ様とはお友達です。相談にはのってもらおうと思っています」
「もしかして、元恋人であるフェリックス様とあなたはまだ繋がっているのではないですか。だから、わざわざ公爵邸にまで来て助けを求めたのでは?」
こんなことを言われるだろうということは、レファルド様から先に聞いていた。
それなのに腹が立ってしまう。
でも、ここで怒りの感情を見せてはいけないことはわかっている。
でも、私が馬鹿だと相手に思わせておいたほうがやりやすくなるかもしれない。
「どうしてそんなことを思われるのでしょうか。 そちらは私にも非があるようにしたいのかもしれませんが、事実無根であるその発言はフェリックス様の名誉を傷つける発言だと思いますが」
「……それは、まあ、そうですね。失礼しました。発言を取り消します」
「私がエイト公爵家にお世話になっていることがブランドン先生は気になるようだと、公爵閣下に伝えておきます」
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「私には遠回しにそう言っているように聞こえました」
「それは誤解です」
「そうでしたか。それは失礼しました。では、本日はここで失礼させていただきます」
軽く一礼をしてから、一軒家の一階を改装している、こじんまりとした事務所を出た。
するとすぐに馬車が近づいて来て、私の目の前で停まった。
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やはり、こんな風に、お世話になっていると、エイト公爵家にご迷惑がかかる。
ミオ様から勝手に迷惑だと判断しないように言われていたから、先程の交渉代理人からの話を伝えられることだけ伝え、独り立ちをする準備を進めることにした。
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