愛しているなら何でもできる? どの口が言うのですか

風見ゆうみ

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12 夫の代理人

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  夕食の時間にはミオ様の体力も復活していて、元気な姿を見せてくれた。

「お兄様は今頃、シェリルの話をロータス様から聞いているのでしょうか」
「そうだな。聞くのはかまわないんだが、少し心配だ」
「あなたと違って私はかなり心配だわ」

 レファルド様とセレナ様が同時に大きな息を吐いた。

「どうして心配なんですの?」

 私の隣に座って食事をしていたミオ様が不思議そうに尋ねると、白のテーブルクロスが掛けられた長テーブルを挟んだ向かいに座るセレナ様は苦笑する。

「フェリックスはシェリルさんが結婚するまで婚約者は作らないと言い続けていたでしょう」
「シェリルが結婚してもなんだかんだと理由をつけて、婚約者ができていませんけれど」

 ミオ様も苦笑して頷いた。

 フェリックス様が私のことをそんな風に思ってくれていたなんて知らなかった。
 それなのに私は、親に決められた相手であるロン様を愛そうと努力して、結婚までしてしまった。

 やっぱり、私はフェリックス様に合わせる顔がないわ。

「あの、フェリックス様は、今はこのお邸には住んでいらっしゃらないのですよね?」
「この邸内には住んでいないけれど、敷地内には住んでいるわ」

 そう答えてくれたセレナ様が笑顔で尋ねてくる。

「シェリルさんはフェリックスと合わせる顔がないなんて思っていたりするのかしら」
「……はい」
「気にしなくていい。君に会いたくないと言われるほうが、あいつはショックだろうから」

 レファルド様の言葉をミオ様も肯定する。

「お兄様はシェリルのことを忘れるとか言いながら、そう思えないようなことばかりしていましたのよ。額の火傷だって仮面を作ったりしたのは、それくらいの火傷をしたと聞けば、シェリルが心配して連絡をくれるかもしれないと思ったんだと思いますわ」
「一応、連絡は入れましたし、予想は外れてはいないですね」
「でも、その連絡は届かなかったわけですから、お兄様にしてみれば当てが外れたわけですわ」
「ミシェルさん避けにはなったから、まったく収穫がなかったわけではないけどね。でも、気の毒なくらいに気落ちしていたわ」

 セレナ様は恨めしげな顔をして、レファルド様を見つめる。
 隣を見てみると、ミオ様もセレナ様と同じような目でレファルド様を見つめていた。

「悪かった、悪かったよ。ちゃんと調べなかった俺が悪いんだ」
「そうよ」
「そうですわ」

 この様子を見ていると、セレナ様もミオ様も強引とはいかなくても、レファルド様に私のことを調べるように働きかけてくれていたのね。

 気持ちは本当に有り難い。

 女性陣に責められてタジタジになっているレファルド様を見て和んでいると、ダイニングルームの扉がノックされた。

 レファルド様が助かったと言わんばかりに返事をすると、執事が入ってきた。
 許可を得て、執事はレファルド様に近付いていく。

「お話ししたいことがございます」
「どうした」
「ロータス様から急ぎのご連絡です」
「フェリックスのことか?」
「そうでございます」

 執事の顔がどこか曇っているような気がして、気になってしまう。

 フェリックス様に何かあったのかしら。

 執事はレファルド様の耳元で自分の口を手で覆い、小声で何か話をした。

 その瞬間、レファルド様の眉間に深いシワが刻まれた。

「どうかなさいましたか?」

 ミオ様が不安そうに尋ねると、レファルド様は左手でこめかみを押さえながら答える。

「あの馬鹿は別邸に向かったらしい」
「「「はい?」」」

 私とミオ様、セレナ様の声が重なった。

「とにかくシェリル嬢と話をすると言って、ロータスが止める間もなく出て行ってしまったらしい」
「フェリックスのことだから、そうなるんじゃないかと思ったのよ」

 セレナ様が呆れた顔で言うと、ミオ様も頷く。

「そうですわね。お兄様はシェリルのことには過剰に反応していらしたもの」
「本人はそう見えないようにしていると思っているから呆れるわよね」
「本当に困った奴だ」

 フェリックス様は家族に言われたい放題ね。

 シド公爵邸から別邸までは半日くらいで着ける。
 もし、宿に泊まることなく別邸に向かったなら、早朝までには辿り着く。
 そこでメイド長から話を聞いたとする。
 メイド長ならきっと、フェリックス様にその日は別邸に泊まるようにお願いするはずだわ。
 それからまた、こちらへ戻って来るのに時間がかかるでしょう。
 その間に、フェリックス様に会っても動揺しないように心構えをしておかなければならない。
 
 フェリックス様の話題で盛り上がっている、レファルド様たちに話しかける。

「フェリックス様にお手間をかけさせてしまい、誠に申し訳ないと思っています」 
「シェリルさんは悪くないわ。あの子が先走っただけなんだから」
「そうだ。大体、あいつはシェリル嬢と会ってどうするつもりなんだ」
「ミオと一緒に詳しい話を聞くつもりなんじゃないかしら。二人きりにはなれないものね」

 セレナ様に言われて、レファルド様は納得したように頷く。

「そうか。シェリル嬢は既婚者だから、他の男と二人きりで会うのは色んな意味で危険だものな」
「こちらは夫の浮気が原因で離婚しようとしているのですから、離婚する前に他の男性と噂を立てられると厄介です。フェリックス様が相手では余計に」

 私はそこで言葉を止めた。

 ロン様や義父母はここぞとばかりに、私も不貞をしたとして離婚なんてさせないと責め立ててくるでしょう。
 ……そういえば、大事なことを思い出した。
 リグマ伯爵家のことで思い出したことがあり、わたしはレファルド様に話しかける。

「厚かましいお願いをしても良いでしょうか」
「どうした」
「リグマ伯爵家の使用人が現在どうなっているか調べていただきたいんです」
「……物騒なことはしていないとは思うが、至急調べさせよう」

 私が何を気にしているのかわかってくれたようで、レファルド様はその場にいた執事に、自分の側近にその話を伝えるようにと言付けてくれた。
 その間に、セレナ様が話しかけてくる。

「明日、我が家のお抱えの交渉代理人に来てもらうようにお願いしているから、離婚の裁判の手続きを進めていきましょう。フェリックスのことは今は忘れていいからね」
「色々とありがとうございます。フェリックス様を忘れるというのはさすがに無理ですが努力はします」

 ミオ様の友人というだけで、ここまでしてもらえるなんて本当に申し訳ないわ。
 恩に報いれるように、少しでも早く離婚しなくちゃ。

 そう思っていた次の日の朝のことだった。

 リグマ伯爵家から依頼されたという交渉代理人から手紙が送られてきた。
 手紙にはロン様が離婚はしない方向で和解を求めていて、そのことで話をしたいから、王都にある交渉代理人の事務所まで来てほしいと書かれていたのだった。


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