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11 後悔する公爵夫妻

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 ミシェルの悔しがる顔は、セレナ様が見ようと思えばいつでも見れるかもしれない。
 そんな風に思っていると、レファルド様が話し始める。

「ロータスにはフェリックスがシェリル嬢の話を知らないことは伝えているし、君たち夫妻の間にどんなことがあったのかの話もしている。彼は言いふらすような人間じゃないし、君の味方をしてくれるだろう」
「シド公爵なら、私も信用できます」

 レファルド様の話を聞いて、シド公爵のことを思い浮かべる。

 ミシェルたちが招待されたパーティーの主催者であるシド公爵と私は、フェリックス様の紹介で知り合った。
 若い頃の私は、フェリックス様のことをフェリックスと呼び捨てにしてしまうくらいに、怖いもの知らずだったし、当時、公爵令息だったシド公爵とも、まるで家族のような感覚で話をしていた。

 子供の頃とはいえ恐れ多いことをしていたと反省している。
 シド公爵のことを当時はロータス様と名前で呼んでいたし、彼はミオ様のことが好きだったから、照れる彼を見てはからかったりしていたし、応援もしていた。

 シド公爵とは別邸でしか話しをする機会がなかったから、ミシェルはわたしとシド公爵の仲を知らない。
 もし、パーティーでそのことを言われたりしたら、そのこともかなり驚くでしょうね。

 シド公爵も私が離婚しようとしている話を聞いて驚いているでしょうけど。
 
「本当にお恥ずかしい話です。貴族が離婚なんてそうないことですのに」
「相手のやったことを考えたら離婚したくなる気持ちはわかる」
「そうよ。あなたのようなケースだと離婚したくないと思う人のほうが少ないと思うわ」

 俯く私をレファルド様とはセレナ様が慰めてくれた。
 だから、すぐに顔を上げてお礼を言う。

「ありがとうございます。せめてフェリックス様に不快な思いをさせないように、少しでも早く、自立するようにいたします」
「焦らなくてもいいわよ。離婚するまでは、私たちが面倒を見るわ」
「お気持ちはとても有り難いのですが、離婚までにはかなり時間がかかると思いますので」
「だからよ。実は、あなたのご両親と義理の両親から連絡が来ているの」
「エイト公爵家にですか?」
「ええ。娘を連れ回すのはやめていただきたいんだそうよ」

 嫌味っぽく言ったセレナ様の話の続きをレファルド様が引き継ぐ。

「今回のことにエイト公爵家は関係ないと言いたいんだろう。それから、伯爵夫人としての仕事を放ったらかしにするなんて淑女のやることではないとも書かれていたな」
「そのことは私も申し訳ないとは思っています。でも、離婚するには家を出なければ無理だと思ったんです」
「遊び呆けているならまだしも、君は離婚するために邸を出たんだから気にしなくていいだろう」

 レファルド様はそう言うと、思いもよらなかった言葉を口にする。

「申し訳なかった」
「……どうしてレファルド様が謝られるのですか」
「何かおかしいと思っていたのに、フェリックスを諦めさせるために、君がどんな状況におかれているのか調べようともしなかった」
「それはしょうがないことだと思います。婚約の件も私の両親がお断りしているのですから」

 婚約者でもない女性がどうなっているかなんて、詳しく調べようとは思わないはずだわ。

 レファルド様は大きく息を吐いてから口を開く。

「そう言ってくれるのは有り難いが、フェリックスからシェリル嬢と突然、連絡がつかなくなるなんておかしいから調べてほしいと頼まれた。それなのに断られたのだから諦めろとの一言で済ませてしまった」
「私の血は貴族のものではありませんから、レファルド様が諦めろとおっしゃったことは、公爵家の当主としておかしいことではないと思います」
「その考え方は私は違うと思っているの」

 セレナ様は会話に割って入ってくると、首を横に振ってから話し始める。

「貴族の血を引いているから優秀だとか善人だとか、そんなものは決めつけられるものではないのよ」
「ですが、セレナ様のお考えは貴族の間では通らないでしょう」
「そうなんだけど、エイト家は筆頭公爵家なのよね」
「それは存じ上げています」
 
 何を言おうとしているのかわからなくて、言葉の続きを待ったけれど、セレナ様は話題を変えてくる。

「もう、夕食の時間が近づいてきたわね。シェリルさん、バスタブに湯を張らせるから体を洗っていらっしゃい。その後は夕食を一緒にとりましょう」
「……ありがとうございます」

 セレナ様が何を言おうとしていたのか気になったけれど、今は話してくださる気はないらしい。

 お世話になる身なので、あれは嫌だこれは嫌だなんてことは言えるはずもない。

 私はセレナ様に指示されたメイドに連れられて、バスタブのある部屋に向かった。





次の話はミシェル視点になります。
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