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9.5 悩む夫(ロン視点)
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シェリルが家を出ていってから、3日が経った。
今日は公爵家のパーティーに出席する予定を立てていたから、帰ってきてくれると思っていた。
だけど、昼になっても帰ってこないから、エイト家の別邸に迎えに行った。
すると、メイド長だと名乗る老婆が現れて、シェリルはミオ様と共に旅行に出かけたと言われてしまった。
僕がこんなに傷ついているのに呑気に旅行なんて信じられない。
そんなことをするような女性だとは思っていなかった。
……もしかしたら、僕と離婚したいというシェリルの意志は、僕が思っている以上に固いのかもしれない。
まさか、こんなことになるなんて思っていなかった。
ミシェルから夜だけパートナーを交換する話を持ち出された時は戸惑った。
だけど、シェリルはわかってくれると言うからミシェルを信じたんだ。
……このままでは、シェリルは子供を生んでくれないどころか離婚になってしまう。
母さんはシェリルの本当の母親のファンだった。
だから、シェリルを義理の娘にしたがったし、孫だってシェリルか僕に似ていてほしいと言う。
僕がシェリルを抱けたら良かった。
でも、シェリルから「下手くそ」だとか「小さい」だとか言われるのが怖かったんだ。
ミシェルと関係を持って気が付いた。
シェリルは初めてだし、他の人を知らないんだから、誰かと比べることなんてできなかったのに――
とにかく、あの時の僕はシェリルの初めての痛みを和らげたくて、失望されたくなくて、デイクスに頼もうとした。
でも、デイクスには下心があった。
僕とミシェルは体の関係なだけで、心は違う。
そんな奴にシェリルを任せて良いのか不安になってきた。
いや、そんなことを言っている場合でもない。
どうにかして、シェリルに戻ってきてもらいたい。
僕はシェリルを愛しているんだ。
「おい、どうした。暗い顔してるな」
幼い頃からの友人のボブが会場の隅に立っている僕の近くまでやって来て、笑顔で話しかけてきた。
「色々とあったんだよ」
「何だよそれ。そういや、嫁は来ていないのか?」
「……ああ。夫婦喧嘩したんだ」
「夫婦喧嘩だって? 詳しく聞かせてくれよ」
ボブに促され、僕は今までに起こった出来事を彼に正直に話した。
「まじかよ。どうして嫁に手を出さなかったんだ? 意味がわからないよ。慣れたら痛みなんてなくなるんだからさ。それに、初めてを奪うだけで良いなら俺に任せてくれれば良かったのに」
「君には婚約者がいるだろう」
「バレなきゃいいんだよ。でもまあ、嫁以外とできて、お前はそれはそれで良かったんだろ」
「そ、それは……」
ミシェルとは子作りのために何度か体を重ねていて、その度に満足はしている。
もしかして、僕は本当に浮気してしまったのか?
僕の焦った様子を見て、ホブは笑う。
「ロンは真面目すぎるんだよ。とにかく土下座して謝れ。何とか許してもらって、嫁が家に帰ってきたら、男が浮気するなんて当たり前なんだって開き直りゃいいんだよ」
「そんなことを言ったら、また出ていってしまうじゃないか」
「そうなりそうな時には今度こそ、軟禁じゃなくて監禁しろよ。誰にも知られないようにな」
ボブが楽観的な性格だということはわかっている。
だから、この言葉を鵜呑みにしてもいいわけじゃない。
「どうしたら、シェリルは戻ってきてくれるんだろう」
「僕のことを愛しているなら戻ってきてくれと言えばいいだろう」
「……シェリルはまだ、僕を愛してくれているだろうか」
「そんなことは本人に聞けよ。まあ、嫁は諦めて浮気相手と上手くいくのも良いかもしれないけどな。ほんと、お前が羨ましいよ」
ボブに羨ましいと言われたのは初めてだった。
でも、少しも嬉しくない。
シェリルは僕がミシェルを抱いたから怒っている。
それは嫉妬と同じなんだろうか。
嫉妬するということは愛があるということだ。
なら、やり直せるんじゃないか?
いや、そう思うのは僕の願望なのだろうか。
「ロン様、こんなところでどうされたんですか」
ボブと入れ替わるように、元凶であるミシェルが紺色のイブニングドレス姿で現れた。
その後ろには黒のタキシード姿のデイクスもいた。
シェリルがデイクスとの子作りを拒んでくれたのは、正直にいえば嬉しかった。
特にこの男はミシェル以外の女性と結ばれたくて必死らしい。
もしくは、昔からシェリルを狙っていたんだろうか。
「……ロン様、どうかされましたか」
「ああ、いや。もう帰ろうかと思っていたんだ」
「そうなんですか? あの、お姉様はどこにいるのかしら」
「来ていないよ」
「どうして!? 連れてきてくれって言ったでしょう? まだ、仲直りしていないんですか?」
ミシェルたちは今日の晩にパートナーを交換して、馬車の中でしようと考えていたらしい。
シェリルが来ていないと聞いたデイクスは肩を落として言う。
「どうしたら、シェリル様は僕に体を許してくれるんでしょうか」
「強引に押し倒してしまいなさいよ。やってしまえば勝ちよ」
ミシェルは自分の夫が他の女性を抱くことに抵抗はないみたいだった。
そんな彼女をたしなめる。
「ミシェル、淑女の言う言葉じゃない。それに、シェリルが嫌がるようなことはやめてくれ。優しく初めてを奪ってあげてほしいんだ」
「ロン様、それはわかっています」
ミシェルではなく、デイクスが大きく頷いた。
僕たちの会話を普通の人が聞いたら気持ち悪いと思うかもしれない。
でも、僕たちは真剣だった。
その時、パーティー会場の出入り口のほうが騒がしくなった。
人だかりのせいで姿は見えないから理由はわからない。
すると、ボブが近づいてきて教えてくれる。
「おい、フェリックス様が来たぞ。お前の嫁の元恋人だろ」
ボブはこの状況を面白がっているのか、満面の笑みを浮かべていた。
今日は公爵家のパーティーに出席する予定を立てていたから、帰ってきてくれると思っていた。
だけど、昼になっても帰ってこないから、エイト家の別邸に迎えに行った。
すると、メイド長だと名乗る老婆が現れて、シェリルはミオ様と共に旅行に出かけたと言われてしまった。
僕がこんなに傷ついているのに呑気に旅行なんて信じられない。
そんなことをするような女性だとは思っていなかった。
……もしかしたら、僕と離婚したいというシェリルの意志は、僕が思っている以上に固いのかもしれない。
まさか、こんなことになるなんて思っていなかった。
ミシェルから夜だけパートナーを交換する話を持ち出された時は戸惑った。
だけど、シェリルはわかってくれると言うからミシェルを信じたんだ。
……このままでは、シェリルは子供を生んでくれないどころか離婚になってしまう。
母さんはシェリルの本当の母親のファンだった。
だから、シェリルを義理の娘にしたがったし、孫だってシェリルか僕に似ていてほしいと言う。
僕がシェリルを抱けたら良かった。
でも、シェリルから「下手くそ」だとか「小さい」だとか言われるのが怖かったんだ。
ミシェルと関係を持って気が付いた。
シェリルは初めてだし、他の人を知らないんだから、誰かと比べることなんてできなかったのに――
とにかく、あの時の僕はシェリルの初めての痛みを和らげたくて、失望されたくなくて、デイクスに頼もうとした。
でも、デイクスには下心があった。
僕とミシェルは体の関係なだけで、心は違う。
そんな奴にシェリルを任せて良いのか不安になってきた。
いや、そんなことを言っている場合でもない。
どうにかして、シェリルに戻ってきてもらいたい。
僕はシェリルを愛しているんだ。
「おい、どうした。暗い顔してるな」
幼い頃からの友人のボブが会場の隅に立っている僕の近くまでやって来て、笑顔で話しかけてきた。
「色々とあったんだよ」
「何だよそれ。そういや、嫁は来ていないのか?」
「……ああ。夫婦喧嘩したんだ」
「夫婦喧嘩だって? 詳しく聞かせてくれよ」
ボブに促され、僕は今までに起こった出来事を彼に正直に話した。
「まじかよ。どうして嫁に手を出さなかったんだ? 意味がわからないよ。慣れたら痛みなんてなくなるんだからさ。それに、初めてを奪うだけで良いなら俺に任せてくれれば良かったのに」
「君には婚約者がいるだろう」
「バレなきゃいいんだよ。でもまあ、嫁以外とできて、お前はそれはそれで良かったんだろ」
「そ、それは……」
ミシェルとは子作りのために何度か体を重ねていて、その度に満足はしている。
もしかして、僕は本当に浮気してしまったのか?
僕の焦った様子を見て、ホブは笑う。
「ロンは真面目すぎるんだよ。とにかく土下座して謝れ。何とか許してもらって、嫁が家に帰ってきたら、男が浮気するなんて当たり前なんだって開き直りゃいいんだよ」
「そんなことを言ったら、また出ていってしまうじゃないか」
「そうなりそうな時には今度こそ、軟禁じゃなくて監禁しろよ。誰にも知られないようにな」
ボブが楽観的な性格だということはわかっている。
だから、この言葉を鵜呑みにしてもいいわけじゃない。
「どうしたら、シェリルは戻ってきてくれるんだろう」
「僕のことを愛しているなら戻ってきてくれと言えばいいだろう」
「……シェリルはまだ、僕を愛してくれているだろうか」
「そんなことは本人に聞けよ。まあ、嫁は諦めて浮気相手と上手くいくのも良いかもしれないけどな。ほんと、お前が羨ましいよ」
ボブに羨ましいと言われたのは初めてだった。
でも、少しも嬉しくない。
シェリルは僕がミシェルを抱いたから怒っている。
それは嫉妬と同じなんだろうか。
嫉妬するということは愛があるということだ。
なら、やり直せるんじゃないか?
いや、そう思うのは僕の願望なのだろうか。
「ロン様、こんなところでどうされたんですか」
ボブと入れ替わるように、元凶であるミシェルが紺色のイブニングドレス姿で現れた。
その後ろには黒のタキシード姿のデイクスもいた。
シェリルがデイクスとの子作りを拒んでくれたのは、正直にいえば嬉しかった。
特にこの男はミシェル以外の女性と結ばれたくて必死らしい。
もしくは、昔からシェリルを狙っていたんだろうか。
「……ロン様、どうかされましたか」
「ああ、いや。もう帰ろうかと思っていたんだ」
「そうなんですか? あの、お姉様はどこにいるのかしら」
「来ていないよ」
「どうして!? 連れてきてくれって言ったでしょう? まだ、仲直りしていないんですか?」
ミシェルたちは今日の晩にパートナーを交換して、馬車の中でしようと考えていたらしい。
シェリルが来ていないと聞いたデイクスは肩を落として言う。
「どうしたら、シェリル様は僕に体を許してくれるんでしょうか」
「強引に押し倒してしまいなさいよ。やってしまえば勝ちよ」
ミシェルは自分の夫が他の女性を抱くことに抵抗はないみたいだった。
そんな彼女をたしなめる。
「ミシェル、淑女の言う言葉じゃない。それに、シェリルが嫌がるようなことはやめてくれ。優しく初めてを奪ってあげてほしいんだ」
「ロン様、それはわかっています」
ミシェルではなく、デイクスが大きく頷いた。
僕たちの会話を普通の人が聞いたら気持ち悪いと思うかもしれない。
でも、僕たちは真剣だった。
その時、パーティー会場の出入り口のほうが騒がしくなった。
人だかりのせいで姿は見えないから理由はわからない。
すると、ボブが近づいてきて教えてくれる。
「おい、フェリックス様が来たぞ。お前の嫁の元恋人だろ」
ボブはこの状況を面白がっているのか、満面の笑みを浮かべていた。
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