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7 夫なりの思いやり
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ロン様と義父母は、私がミオ様の住むエイト公爵家の別邸に行くことを反対してきた。
ミオ様は見た目は、大人しそうで人に意見を言えないタイプに見える。
だから、強く言えば引き下がると思ったのかもしれない。
でも、彼女は公爵令嬢だ。
それくらいで負ける人ではない。
「公爵令嬢の私の願いが聞けないというのであれば、父からお願いしてもらえばよろしいですか」
その言葉を聞いた3人は、その場では黙り込み、言い返すことはできなかった。
ミオ様には馬車で待っていてもらい、いつでも出ていけるように用意していたトランクケースを部屋に取りに行く。
その時に、助けてくれたメイドにお礼を伝えた。
パンを持ってきてくれたメイドとは別の人だったから、この世の中、悪い人ばかりではないのだと思って温かい気持ちになった。
世話をしてくれていた使用人たちには改めて礼をするという話をしていると、ロン様とお義母様が部屋にやって来た。
「シェリルさん。エイト公爵家のご迷惑になるから長居はしないようにね。伯爵夫人としての仕事もあるのだから、早めに帰ってきなさい」
「その件なのですが、ロン様に離婚を認めるようにお願いしてもらえませんか。ロン様には私よりも良い人がいらっしゃるかと思います」
「シェリルの代わりなんているわけがない!」
お義母様が応える前にロン様が叫んだ。
「私の代わりはいないかもしれませんが、リグマ伯爵夫人になれる人はいるはずです」
「いないと言ってるじゃないか! 僕の妻はシェリルだけだ!」
表情を歪めて叫んだロン様の前に立ち、お義母様が尋ねてくる。
「シェリルさん。あなた、何が不満だって言うの? こんなにもロンがあなたを大切にしているというのに、どうしてその気持ちがわからないの!」
「価値観の違いとでも言うのでしょうか。私はロン様の行動に愛を感じることができません」
お義母様と呼ぶことも嫌になった。
元リグマ伯爵夫人であるビエネッタ様にそう伝えてから、メイドと一緒に成り行きを見守ってくれていたフットマンに声をかける。
「悪いけれど、トランクケースを馬車に乗せてもらえるかしら」
「承知いたしました」
フットマンが私のトランクケースを持って部屋から出ていくと、我に返ったビエネッタ様が睨みつけてくる。
「絶対に離婚なんてさせないわ。ロンを妻に捨てられた可哀想な男にしてやるものですか!」
「なら、ロン様が私を捨てたということにしてくださって結構です」
「それも世間体が良くないのよ!」
ビエネッタ様は大きく肩で息をしながら、私との距離を縮める。
「ロンは痛がるあなたに無理矢理はできないと言っているの。とても、優しい子よ」
「実際には起きていませんから絶対とは言えませんが、無理矢理にはならなかったでしょう。私は痛みも含めてロン様を受け入れるつもりでした」
「君に失望されるのが怖かったんだ!」
訴えてきたロン様を見て考える。
本当かどうかはわからないけれど、初めての痛みも相手が経験豊富だと楽だと聞いたことがある。
ロン様は女性を買ったりはしていないはずだから、女性経験は少ないはず。
自分が下手かもしれないから、私を抱けなかったということかしら。
痛みを与えないことが優しさだと言いたいのね。
「そんなことで失望なんてしません。幸せな痛みになるはずでしたから」
初夜の時の私は、怖いながらも本当にそう思っていた。
「帰ってきてくれるよね」
「……エイト公爵家の別邸には何日か滞在させてもらいます」
「ずっと待ってるよ」
ロン様が震える声で言うと、ビエネッタ様はロン様の背中を撫でて慰める。
「大丈夫よ、ロン。あなたは何も悪くないのだから。シェリルさんの住む家はここしかないわ」
「でも、エイト公爵家は」
「大丈夫だと言っているでしょう。フェリックス様は別邸にはいないのよ。それに結婚している人を相手にするような方ではないでしょう」
ロン様はビエネッタ様の言葉に頷くと、私を見つめてくる。
「……シェリル。浮気はしないでくれよ」
「あなたと一緒にしないでください」
「僕の心は浮ついてなんかない! 君だけを愛してるんだ!」
駄目だわ。
ロン様は私を愛しているからと言って不貞行為を正当化している。
私のためだから許されるのだと思いこんでいるんでしょう。
これでは話にならない。
エイト公爵家にいつまでもお世話になるわけにはいかない。
だけど、この邸に帰ってくるつもりもない。
別居が長く続けば時間はかかるけれど、離婚は認められる。
相手の不貞行為があるのだから、期間はもっと短くなるはずだ。
裁判をするお金を貯めなければならないとか、色々と考えないといけないことはある。
でも、とにかく今は、一時的とはいえ安全な場所に避難させてもらうことにした。
ミオ様は見た目は、大人しそうで人に意見を言えないタイプに見える。
だから、強く言えば引き下がると思ったのかもしれない。
でも、彼女は公爵令嬢だ。
それくらいで負ける人ではない。
「公爵令嬢の私の願いが聞けないというのであれば、父からお願いしてもらえばよろしいですか」
その言葉を聞いた3人は、その場では黙り込み、言い返すことはできなかった。
ミオ様には馬車で待っていてもらい、いつでも出ていけるように用意していたトランクケースを部屋に取りに行く。
その時に、助けてくれたメイドにお礼を伝えた。
パンを持ってきてくれたメイドとは別の人だったから、この世の中、悪い人ばかりではないのだと思って温かい気持ちになった。
世話をしてくれていた使用人たちには改めて礼をするという話をしていると、ロン様とお義母様が部屋にやって来た。
「シェリルさん。エイト公爵家のご迷惑になるから長居はしないようにね。伯爵夫人としての仕事もあるのだから、早めに帰ってきなさい」
「その件なのですが、ロン様に離婚を認めるようにお願いしてもらえませんか。ロン様には私よりも良い人がいらっしゃるかと思います」
「シェリルの代わりなんているわけがない!」
お義母様が応える前にロン様が叫んだ。
「私の代わりはいないかもしれませんが、リグマ伯爵夫人になれる人はいるはずです」
「いないと言ってるじゃないか! 僕の妻はシェリルだけだ!」
表情を歪めて叫んだロン様の前に立ち、お義母様が尋ねてくる。
「シェリルさん。あなた、何が不満だって言うの? こんなにもロンがあなたを大切にしているというのに、どうしてその気持ちがわからないの!」
「価値観の違いとでも言うのでしょうか。私はロン様の行動に愛を感じることができません」
お義母様と呼ぶことも嫌になった。
元リグマ伯爵夫人であるビエネッタ様にそう伝えてから、メイドと一緒に成り行きを見守ってくれていたフットマンに声をかける。
「悪いけれど、トランクケースを馬車に乗せてもらえるかしら」
「承知いたしました」
フットマンが私のトランクケースを持って部屋から出ていくと、我に返ったビエネッタ様が睨みつけてくる。
「絶対に離婚なんてさせないわ。ロンを妻に捨てられた可哀想な男にしてやるものですか!」
「なら、ロン様が私を捨てたということにしてくださって結構です」
「それも世間体が良くないのよ!」
ビエネッタ様は大きく肩で息をしながら、私との距離を縮める。
「ロンは痛がるあなたに無理矢理はできないと言っているの。とても、優しい子よ」
「実際には起きていませんから絶対とは言えませんが、無理矢理にはならなかったでしょう。私は痛みも含めてロン様を受け入れるつもりでした」
「君に失望されるのが怖かったんだ!」
訴えてきたロン様を見て考える。
本当かどうかはわからないけれど、初めての痛みも相手が経験豊富だと楽だと聞いたことがある。
ロン様は女性を買ったりはしていないはずだから、女性経験は少ないはず。
自分が下手かもしれないから、私を抱けなかったということかしら。
痛みを与えないことが優しさだと言いたいのね。
「そんなことで失望なんてしません。幸せな痛みになるはずでしたから」
初夜の時の私は、怖いながらも本当にそう思っていた。
「帰ってきてくれるよね」
「……エイト公爵家の別邸には何日か滞在させてもらいます」
「ずっと待ってるよ」
ロン様が震える声で言うと、ビエネッタ様はロン様の背中を撫でて慰める。
「大丈夫よ、ロン。あなたは何も悪くないのだから。シェリルさんの住む家はここしかないわ」
「でも、エイト公爵家は」
「大丈夫だと言っているでしょう。フェリックス様は別邸にはいないのよ。それに結婚している人を相手にするような方ではないでしょう」
ロン様はビエネッタ様の言葉に頷くと、私を見つめてくる。
「……シェリル。浮気はしないでくれよ」
「あなたと一緒にしないでください」
「僕の心は浮ついてなんかない! 君だけを愛してるんだ!」
駄目だわ。
ロン様は私を愛しているからと言って不貞行為を正当化している。
私のためだから許されるのだと思いこんでいるんでしょう。
これでは話にならない。
エイト公爵家にいつまでもお世話になるわけにはいかない。
だけど、この邸に帰ってくるつもりもない。
別居が長く続けば時間はかかるけれど、離婚は認められる。
相手の不貞行為があるのだから、期間はもっと短くなるはずだ。
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