愛しているなら何でもできる? どの口が言うのですか

風見ゆうみ

文字の大きさ
上 下
3 / 56

3  夫と妹の関係

しおりを挟む
「シェリル、今は驚いて冷静な判断ができないんだと思う。だから」
「落ち着いて答えています。ロン様、あなたは私を愛しているのではなかったのですね」

 詰問すると、ロン様は慌てた顔をする。

「どうしてそんなことを言うんだよ」
「言わないほうがおかしいでしょう。それくらいのことをあなたが言ったんです」
「愛しているよ。僕は本当にシェリルのことを愛している」
「そうとは思えません」

 首を横に振って否定すると、ロン様は私の体を揺さぶってくる。

「シェリル、僕のことを、僕の愛を信じてくれ! 僕は君が僕の両親から責められているのを見るのが辛いんだよ」
「それなら、どうして自分に原因があると言ってくださらないのですか!」
「それは君のために言わないだけだ」
「私のためというのはどういうことなんですか!? 理由を教えてください!」

 私とロン様が揉めている様子を黙って見ていたミシェルが大きく息を吐いて話しかけてくる。

「みっともないわよ、お姉様」
「みっともなくて結構よ。それよりもあなたも何か言いなさいよ。本気でパートナー交換なんて考えていたんじゃないでしょう?」
「考えていたわよ」

 ミシェルははっきりと答えると、お茶を一口飲んでから話を続ける。

「お姉様が生んだ子供をわたしが育てて、わたしが生んだ子供をお姉様が育てれば血筋は途切れないわ」
「ふざけないで。どうしてそんなことをしないといけないのよ!?」
「だって、ロン様はお姉様と子作りできないんだからしょうがないじゃないの。ロン様はお姉様に嫌われたくないから、わたしを犠牲にすることに決めたの。実際は良かったから犠牲だとは思っていないけどね」
「待って、ミシェル。あなたのその言い方だと、まるでもう経験したみたいね」

 ミシェルを睨みつけて言うと、ロン様がびくりと体を震わせて私の肩を掴んでいた手を離した。

「すでに関係を持ったんですね」

 問いかけると、ロン様は目を泳がせながらも否定する。

「そんなわけないじゃないか。君に許可を取ってからにしようと」
「ロン様、変に嘘をつくほうが良くないですわ。お姉様、わたしとロン様はデイクスの許可を得て、この2ヶ月間の内に何度か体を重ねています」
「……だそうですが、本当なのですか」

 怒りで体が震えるなんてことは初めてだった。
 冷静になるように努めながら、ロン様に尋ねると、彼は私から目を逸らして答える。

「……子供ができれば、父さんも母さんも何も言わないと思ったんだ。それで、僕たちの子供だって渡せば良いかなって」
「私のお腹が大きくならないのに、私とあなたの子だと誰が信じるのですか!」
「だからだよ!」

 ロン様は声を荒らげて立ち上がり、私を見下ろして叫ぶ。

「デイクスと子供を作ってくれ。生まれたら交換すればいいじゃないか!」
「ふざけたことを言わないでください! 夫でもない上に妹の夫の子供を生めですって!? 絶対に嫌です!」

 しかも、自分が生んだ子供をミシェルが生んだ子と交換しろだなんてありえない。

 私はさっきから黙ったままのデイクスに尋ねる。

「デイクス、あなたは本当に二人の関係を認めているの?」
「はい。私はミシェルのことを愛しています。でも、シェリル様のことも好みのタイプの女性だと思っています。ですから僕と」

 デイクスが私に訴えかけてきた時、ロン様がテーブルを回り込んでデイクスの胸ぐらを掴んだ。

「シェリルは僕の妻だ。そういう目で見るのはやめろ」
「あなたは私の妻と関係を持っているのに、よくもそんなことを言えますね! 私にはシェリル様を抱く権利があるはずです!」
「ミシェルのことは君も同意の上だろう!」
「いい加減にしてください!」

 自分たちのことしか考えていない喧嘩を始めた二人を一喝してから、ロン様にお願いする。

「離婚してください」
「なんだって?」

 ロン様は呆然とした表情で聞き返してきた。

「夫でもない人の子供を生めと言われただけでなく、子供を交換しろだなんて言う人と結婚生活なんて続けていられません」
「落ち着いてくれ、シェリル。君を傷つけたくないんだ」
「何度言ったらわかるんですか! 私はもう十分に傷ついています!」

 目頭が熱くなるのを感じて深呼吸したあと、もう一度、先程の言葉を口にする。

「離婚してください。お願いします」
「嫌だ。絶対に離婚なんてしない! シェリル、聞いてくれ! これが最善なんだよ!」
「そうよ、お姉様。こうすればみんな、幸せになれるのよ」
「みんなじゃないわ。私は幸せになんかなれない!」

 訴える私を見て、ロン様とデイクスは気の毒なものを見るような顔をしていた。
 ミシェルはそんな二人とは対照的に鼻で笑う。

「可哀相だけど、お姉様。お父様もお母様もこのことについては了承しているの。だから、離婚なんてしたら行く場所なんてないわよ。今まで面倒をかけてきたんですから、親孝行だと思って我慢したらどうですか?」
「ふざけないで」

 ミシェルはいつから、このシナリオを考えていたのだろうか。

 ロン様との婚約が決まる前に、付き合っていた恋人と別れることになったのもミシェルが絡んでいたことを思い出して、気分はもっと重くなった。
しおりを挟む
感想 145

あなたにおすすめの小説

【完結】「君を愛することはない」と言われた公爵令嬢は思い出の夜を繰り返す

おのまとぺ
恋愛
「君を愛することはない!」 鳴り響く鐘の音の中で、三年の婚約期間の末に結ばれるはずだったマルクス様は高らかに宣言しました。隣には彼の義理の妹シシーがピッタリとくっついています。私は笑顔で「承知いたしました」と答え、ガラスの靴を脱ぎ捨てて、一目散に式場の扉へと走り出しました。 え?悲しくないのかですって? そんなこと思うわけないじゃないですか。だって、私はこの三年間、一度たりとも彼を愛したことなどなかったのですから。私が本当に愛していたのはーーー ◇よくある婚約破棄 ◇元サヤはないです ◇タグは増えたりします ◇薬物などの危険物が少し登場します

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

婚約破棄されたので、隠していた力を解放します

ミィタソ
恋愛
「――よって、私は君との婚約を破棄する」  豪華なシャンデリアが輝く舞踏会の会場。その中心で、王太子アレクシスが高らかに宣言した。  周囲の貴族たちは一斉にどよめき、私の顔を覗き込んでくる。興味津々な顔、驚きを隠せない顔、そして――あからさまに嘲笑する顔。  私は、この状況をただ静かに見つめていた。 「……そうですか」  あまりにも予想通りすぎて、拍子抜けするくらいだ。  婚約破棄、大いに結構。  慰謝料でも請求してやりますか。  私には隠された力がある。  これからは自由に生きるとしよう。

あなたの姿をもう追う事はありません

彩華(あやはな)
恋愛
幼馴染で二つ年上のカイルと婚約していたわたしは、彼のために頑張っていた。 王立学園に先に入ってカイルは最初は手紙をくれていたのに、次第に少なくなっていった。二年になってからはまったくこなくなる。でも、信じていた。だから、わたしはわたしなりに頑張っていた。  なのに、彼は恋人を作っていた。わたしは婚約を解消したがらない悪役令嬢?どう言うこと?  わたしはカイルの姿を見て追っていく。  ずっと、ずっと・・・。  でも、もういいのかもしれない。

ご自慢の聖女がいるのだから、私は失礼しますわ

ネコ
恋愛
伯爵令嬢ユリアは、幼い頃から第二王子アレクサンドルの婚約者。だが、留学から戻ってきたアレクサンドルは「聖女が僕の真実の花嫁だ」と堂々宣言。周囲は“奇跡の力を持つ聖女”と王子の恋を応援し、ユリアを貶める噂まで広まった。婚約者の座を奪われるより先に、ユリアは自分から破棄を申し出る。「お好きにどうぞ。もう私には関係ありません」そう言った途端、王宮では聖女の力が何かとおかしな騒ぎを起こし始めるのだった。

幼馴染の親友のために婚約破棄になりました。裏切り者同士お幸せに

hikari
恋愛
侯爵令嬢アントニーナは王太子ジョルジョ7世に婚約破棄される。王太子の新しい婚約相手はなんと幼馴染の親友だった公爵令嬢のマルタだった。 二人は幼い時から王立学校で仲良しだった。アントニーナがいじめられていた時は身を張って守ってくれた。しかし、そんな友情にある日亀裂が入る。

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷 ※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

処理中です...