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2 夫からの提案
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義父母は頻繁にやって来て、私にだけ子供を急かすような発言をしてきた。
私が正直に話をしても信じてもらえず、義母からは「そんな嘘をつくだなんて」とか「こんな女性だとは思わなかった」と言われた。
気を遣ってくれた使用人たちが、本当のことを話してくれても、義父母はロン様の言うことしか信じなかった。
ロン様に、こんな生活は続けていられないと訴えたけれど、彼は「聞き流せばいいよ」と笑うだけで、私の精神的な辛さを理解してくれるつもりはない。
愛してくれているのなら、せめて本当のことを自分の口から話してほしい。
そう訴えても無駄だった。
あまりにも辛くて両親に相談したけれど、ロン様に相手にされていない私が悪いのだと言われた。
私に魅力がないことが原因なので、もっと努力しろと言われてしまった。
口留めをしたにもかかわらず、両親は自分たちと同居している兄嫁に、この話をした。
二人目を妊娠中の兄嫁にも私に問題があるのだろうと言われてしまったし、兄からも馬鹿にされた。
肉親に私の味方はいなかった。
恥を偲んで友人に相談してみようかと思い始めた頃、妹夫婦が近くに来るので挨拶をしたいという連絡が来た。
その時、嫌な予感がしたことは確かだった。
妹とは昔から仲が良くなかったからだ。
ロン様に妹夫婦の話をすると、昔から付き合いがあったこともあり、歓迎すると言っただけで嫌がる素振りもなかった。
だから、姉として歓迎することに決めた。
「久しぶりね、お姉様」
「お久しぶりです、義姉さん」
腰までの長さの金色の髪をハーフツインにしているミシェルは、青色の瞳を持つスレンダー体型の吊り目気味の美少女だ。
その隣に座る彼女の夫、子爵令息であるデイクスはサラサラの肩まである黒い髪をおろした清潔感のある中肉中背の男性だ。
「あなたたちは元気にしていた?」
「もちろんよ」
結婚式以来、会っていなかったミシェルは頷いたあと、私の横に座るロン様を見て微笑む。
「ロン様って、こんなに素敵な人だったかしら」
「何を言ってるんだよ。もし、以前よりも素敵に見えるというのなら、シェリルと結婚したからかな」
ロン様はそう言って、私の肩を抱き寄せた。
こんな風に触れることはできるのに、どうして夜の営みは無理なのだろうか。
二人きりでもないのに、そんなことを思ってしまう自分が嫌になった。
「お姉様はそのわりに幸せそうには見えないけれど、本当に結婚生活は上手くいっているの?」
ミシェルは私を心配して言っているかのように見せているけれど、口元が笑みをこらえて引きつっているのがわかった。
今日、ミシェルがここに来たのは、私の不幸せな姿を確認するためみたいね。
私がミシェルにここまで嫌われている理由はわかっている。
ミシェルの好きな人が、私のことを好きだったから。
でも、それはもう5年も前の話で、ミシェルだって結婚しているのだから、もう忘れているのだと思っていたけど違うみたいだ。
「あの、顔色が悪いですよ」
デイクスが心配そうな顔をして、私に話しかけてきた。
「大丈夫よ。心配してくれてありがとう」
「……こう見ると、お姉様とデイクスはお似合いだわ」
ミシェルは口元に笑みを浮かべて、デイクスに言う。
「わたしなんかと結婚するよりも、デイクスだってお姉様と結婚したほうが良かったんじゃない?」
「そんなわけないだろう」
デイクスが焦った顔をして言うと、ロン様もミシェルに苦言を呈する。
「シェリルは僕の妻なんだ。変なことを言わないでくれよ」
「ごめんなさい。でも、ロン様とお姉様はまだ体の関係がないのでしょう?」
「どうして君がそんなことを知ってるんだ?」
ロン様はミシェルにそう尋ねたあと、疑うような眼差しを私に向けてくる。
「私の口からは両親にしか話していません。口留めもいたしました」
「できていないじゃないか」
「申し訳ございません」
私とロン様の険悪な様子を見て、ミシェルは失笑する。
「ごめんなさい。お母様が義理のお姉様と大声で話をしていたものだから聞いてしまったの。普通なら、そんな恥ずかしい話を自分から広めたりはしないわよ」
「……それなら良いんだが、その話は外にはしないでくれよ。僕らの夫婦仲が悪いと思われても困るんだ」
「わかってますわ。わたしだって、お姉様をこれ以上、みじめな気持ちにさせたくないですもの」
ミシェルはわたしに笑顔を向けて続ける。
「家族だけの秘密の話にしましょうね」
「お願いするわ」
私が頼むと、ミシェルは勝ち誇ったような笑みを浮かべて頷いた。
そして、この日からロン様は仕事が忙しくなったと言って泊まりがけで出かけるようになった。
浮気を疑わなかったわけではない。
でも、証明できる何かがあったわけでもないから、最初は探りを入れるだけだった。
それに、ロン様に外泊が頻繁になった理由を問いかけても、近い内に話すとはぐらかされていた。
結婚して3ヶ月が経った頃、ミシェルがまたデイクスと一緒に訪ねてきた。
その日はロン様も一緒にいて、あの時と同じように四人で話すことになった。
笑顔のミシェルに対して、デイクスは気が重そうな顔をしていたので話しかける。
「デイクス、どうかしたの? 気分でも悪いの?」
「……あ、いえ」
デイクスが曖昧な言葉を返して俯くと、ロン様が話し始める。
「シェリル、君に話したいことがあるんだ」
「……今ですか?」
頭の中で警鐘が鳴った。
ロン様から私への話なら、今、この場である必要はない。
「そうよ。お姉様」
ロン様が何か言う前にミシェルは頷くと、笑顔で話しかけてくる。
「あのね、お姉様。私とロン様は相性が良いみたい」
「……は?」
意味がわからなくて聞き返すと、ロン様が私の両肩を掴んで言う。
「シェリル、落ち着いて聞いてほしい。ミシェルたちも僕たちと同じ状況らしいんだ。だから、夜だけパートナーを交換しないか?」
「は?」
「これは君のためを思っての提案なんだよ」
「何を馬鹿なことを言っているんですか」
私は迷うことなく、冷たく言い返した。
私が正直に話をしても信じてもらえず、義母からは「そんな嘘をつくだなんて」とか「こんな女性だとは思わなかった」と言われた。
気を遣ってくれた使用人たちが、本当のことを話してくれても、義父母はロン様の言うことしか信じなかった。
ロン様に、こんな生活は続けていられないと訴えたけれど、彼は「聞き流せばいいよ」と笑うだけで、私の精神的な辛さを理解してくれるつもりはない。
愛してくれているのなら、せめて本当のことを自分の口から話してほしい。
そう訴えても無駄だった。
あまりにも辛くて両親に相談したけれど、ロン様に相手にされていない私が悪いのだと言われた。
私に魅力がないことが原因なので、もっと努力しろと言われてしまった。
口留めをしたにもかかわらず、両親は自分たちと同居している兄嫁に、この話をした。
二人目を妊娠中の兄嫁にも私に問題があるのだろうと言われてしまったし、兄からも馬鹿にされた。
肉親に私の味方はいなかった。
恥を偲んで友人に相談してみようかと思い始めた頃、妹夫婦が近くに来るので挨拶をしたいという連絡が来た。
その時、嫌な予感がしたことは確かだった。
妹とは昔から仲が良くなかったからだ。
ロン様に妹夫婦の話をすると、昔から付き合いがあったこともあり、歓迎すると言っただけで嫌がる素振りもなかった。
だから、姉として歓迎することに決めた。
「久しぶりね、お姉様」
「お久しぶりです、義姉さん」
腰までの長さの金色の髪をハーフツインにしているミシェルは、青色の瞳を持つスレンダー体型の吊り目気味の美少女だ。
その隣に座る彼女の夫、子爵令息であるデイクスはサラサラの肩まである黒い髪をおろした清潔感のある中肉中背の男性だ。
「あなたたちは元気にしていた?」
「もちろんよ」
結婚式以来、会っていなかったミシェルは頷いたあと、私の横に座るロン様を見て微笑む。
「ロン様って、こんなに素敵な人だったかしら」
「何を言ってるんだよ。もし、以前よりも素敵に見えるというのなら、シェリルと結婚したからかな」
ロン様はそう言って、私の肩を抱き寄せた。
こんな風に触れることはできるのに、どうして夜の営みは無理なのだろうか。
二人きりでもないのに、そんなことを思ってしまう自分が嫌になった。
「お姉様はそのわりに幸せそうには見えないけれど、本当に結婚生活は上手くいっているの?」
ミシェルは私を心配して言っているかのように見せているけれど、口元が笑みをこらえて引きつっているのがわかった。
今日、ミシェルがここに来たのは、私の不幸せな姿を確認するためみたいね。
私がミシェルにここまで嫌われている理由はわかっている。
ミシェルの好きな人が、私のことを好きだったから。
でも、それはもう5年も前の話で、ミシェルだって結婚しているのだから、もう忘れているのだと思っていたけど違うみたいだ。
「あの、顔色が悪いですよ」
デイクスが心配そうな顔をして、私に話しかけてきた。
「大丈夫よ。心配してくれてありがとう」
「……こう見ると、お姉様とデイクスはお似合いだわ」
ミシェルは口元に笑みを浮かべて、デイクスに言う。
「わたしなんかと結婚するよりも、デイクスだってお姉様と結婚したほうが良かったんじゃない?」
「そんなわけないだろう」
デイクスが焦った顔をして言うと、ロン様もミシェルに苦言を呈する。
「シェリルは僕の妻なんだ。変なことを言わないでくれよ」
「ごめんなさい。でも、ロン様とお姉様はまだ体の関係がないのでしょう?」
「どうして君がそんなことを知ってるんだ?」
ロン様はミシェルにそう尋ねたあと、疑うような眼差しを私に向けてくる。
「私の口からは両親にしか話していません。口留めもいたしました」
「できていないじゃないか」
「申し訳ございません」
私とロン様の険悪な様子を見て、ミシェルは失笑する。
「ごめんなさい。お母様が義理のお姉様と大声で話をしていたものだから聞いてしまったの。普通なら、そんな恥ずかしい話を自分から広めたりはしないわよ」
「……それなら良いんだが、その話は外にはしないでくれよ。僕らの夫婦仲が悪いと思われても困るんだ」
「わかってますわ。わたしだって、お姉様をこれ以上、みじめな気持ちにさせたくないですもの」
ミシェルはわたしに笑顔を向けて続ける。
「家族だけの秘密の話にしましょうね」
「お願いするわ」
私が頼むと、ミシェルは勝ち誇ったような笑みを浮かべて頷いた。
そして、この日からロン様は仕事が忙しくなったと言って泊まりがけで出かけるようになった。
浮気を疑わなかったわけではない。
でも、証明できる何かがあったわけでもないから、最初は探りを入れるだけだった。
それに、ロン様に外泊が頻繁になった理由を問いかけても、近い内に話すとはぐらかされていた。
結婚して3ヶ月が経った頃、ミシェルがまたデイクスと一緒に訪ねてきた。
その日はロン様も一緒にいて、あの時と同じように四人で話すことになった。
笑顔のミシェルに対して、デイクスは気が重そうな顔をしていたので話しかける。
「デイクス、どうかしたの? 気分でも悪いの?」
「……あ、いえ」
デイクスが曖昧な言葉を返して俯くと、ロン様が話し始める。
「シェリル、君に話したいことがあるんだ」
「……今ですか?」
頭の中で警鐘が鳴った。
ロン様から私への話なら、今、この場である必要はない。
「そうよ。お姉様」
ロン様が何か言う前にミシェルは頷くと、笑顔で話しかけてくる。
「あのね、お姉様。私とロン様は相性が良いみたい」
「……は?」
意味がわからなくて聞き返すと、ロン様が私の両肩を掴んで言う。
「シェリル、落ち着いて聞いてほしい。ミシェルたちも僕たちと同じ状況らしいんだ。だから、夜だけパートナーを交換しないか?」
「は?」
「これは君のためを思っての提案なんだよ」
「何を馬鹿なことを言っているんですか」
私は迷うことなく、冷たく言い返した。
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