騙されていたのは私ではありません

風見ゆうみ

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16  元夫とその恋人の末路 後編

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 タオズクの爵位を剥奪するという話を聞いたのは、わたしたちが王都に着いてすぐのことだった。
 タオズクが仕事を優先する様子には見えなかったので、思った以上に早くに陛下が判断を下したのだ。待てば待つほど状況が悪くなってしまうため、一時的に領土を分けて管理してくれる複数の伯爵家と辺境伯家が陛下に一日でも早くタオズクから爵位を剥奪してほしいという意見が多かったからだと思われる。

 私の実家の周辺はエヴァンス子爵家が管轄することになり、リドリー殿下が何らかの爵位を授けられる時は、エヴァンス姓で引き継ぐことになった。リドリー殿下は結婚後は王族を離脱し、エヴァンス姓を継ぐといってくれているので、その時のエヴァンス家は伯爵以上になることは間違いない。

 私にとって、とても都合の良い方向に動いているのは、きっと、リドリー殿下や両陛下の計らいなのだと思う。

 ……亡くなったお兄様に渡せなかった褒美の代わりなのかもしれない。

 感傷に浸っている暇はなく、タオズクたちの話を聞いたわたしはリドリー殿下と共に実家に戻ることになった。


*****

 数日後の朝、馬車から降り、静まり返っている実家の前に立つと、リドリー殿下に話しかける。

「無駄な時間を使わせてしまって申し訳ないです。もう少し、頑張るかと思っていたんですけど」
「別に謝る必要はないよ。思った以上に頑張れなかったタオズクたちが悪いんだ」

 リドリー殿下が答えたところで玄関の扉が勢いよく開き、ポーチにタオズクとナターシャが現れた。書状には速やかに出て行くように書かれていたはずだけど、行く宛がないのか、まだ居座っていたのだ。

「ソア! 助けに来てくれたの!?」

 ナターシャが笑顔で近づいてこようとした時、護衛が間に入って彼女の腕を掴んだ。

「えっ!? ちょ、何なの!?」

 困惑しているナターシャに笑顔で話しかける。

「部屋に閉じこもって出てこなかったらどうしようかと思っていたの。外に出てきてくれて助かったわ」
「あっ!」

 私の言葉の意味に気がついたタオズクは慌てて屋敷の中に戻ろうとした。でも、護衛に掴まれてポーチの外に引きずり出され、地面に押さえつけられた。

「……騙すなんて酷い。酷すぎる!」

 地面に頬をつけ、タオズクが呟いた。わたしは彼を見下ろして話しかける。

「あなたが先に私を騙そうとするからいけなかったの。そんなことをしなかったら、私だってあなたを騙してなんかいないわ」
「騙し返すなんて、普通はやるもんじゃない!」
「騙そうとした人間が、自分が騙されたからって人を否定するのはどうかと思うわ」

 鼻で笑うと、タオズクは涙目で問いかけてくる。

「……今後、僕はどうなるんだ?」
「実家に戻ればいいんじゃないの? ナターシャは勘当されているから、二人で一緒に戻ったら良いと思うわ」
「無理なんだよ! 王族に目を付けられたかもしれないから、そんな僕とは縁を切るって、両親は僕を見捨てたんだ!」
「……だから、この家に居座っていたというわけね?」
「君が僕に騙され続けていれば、こんなことにならなかったのに!」
「最初から騙されてなんかいないわ。あなたが私を騙せていると思うように動いていただけ」

 騙されていたのは私ではなかった。

 浮気がわかってからずっと、騙されていたのはあなたのほうだったのよ。

「さようなら、タオズク。それから、ナターシャもね。もうあなたにはタオズクしかいないんだから仲良く暮らしなさい」
「そ、そんな! ソア! 冷たすぎない!?」
「……あなたたちには冷たくしても良いと思っているから。というよりも、今の私の対応は優しいほうだと思うわよ? 本来なら、もっと重い罰を受けなければならないんだから」
 
 文句を言うナターシャにそう答えてから、ナターシャやタオズクを押さえつけている護衛たちに指示をする。

「悪いけれど、二人を近くの繁華街まで送り届けてくれる? うちの馬車を使ってくれていいわ」
「承知いたしました」
「嫌よ! わたしはここで暮らすんだから!」

 ナターシャが意味のわからないことを言って暴れ出したけれど、屈強な男性の力にかなうはずがない。ナターシャとタオズクは最終的にはロープで縛られて馬車に乗せられた。

「ナターシャが……、ナターシャがいなければ、僕は幸せになっていたのに!」
「それはこっちの台詞だわ! あなたに声をかけられなければ、わたしはこんな目にあわずに済んだのに!」

 最後まで反省する様子のない二人に、怒りよりも呆れの感情しかわかなかった。

  
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