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14  元夫とその恋人の末路 前編

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 貴重品や普段使っている日用品などを持って、わたしはすぐに宿屋に移動した。

 そこでリドリー殿下と落ち合って話をして、この宿で一泊したあとに、王都に向けて旅立つことになった。
 ちなみにタオズクの両親は、あまりにもしつこく追いかけてきたので、危険人物と認定して、今は留置所にいるそうだ。

 王族に対してあまりにも無礼な態度だったため、不敬罪が適用されるということだった。

 その日の晩にリドリー殿下の従者の一人が、タオズクと私の離婚が成立したことを教えてくれた。
 というわけで、私は平民になってしまったわけだが、リドリー殿下の協力のもと、すぐにエヴァンス姓を取り戻し、子爵の爵位を書状ではあるが、国王陛下から授かることができた。

 だから、わたしが平民になった時間は1時間もない。

 その後、国王陛下からタオズク宛の書状を、リドリー殿下が持っていって帰ってくると、タオズクたちの反応を教えてくれた。

「まだ、辺境伯家の仕事には何も手を付けていないようだった。エヴァンス姓から、新しいテンプラリー姓に変わったことも、特に気にしていないようだったよ」
「ナターシャはどんな感じでしたか?」
「僕に媚びようとしていたから、元気なんだと思うよ」
「前向きな性格で羨ましいです」

 私も前向きに考えるようにしているけど、ナターシャほどではないわ。

「彼女の真似はしないほうが良いと思うけどね」
「さすがに真似をする気にはなりません」

 苦笑して答えると、リドリー殿下は安堵するような表情になった。

 少し雑談をしてから、明日からの旅に備えて、早めに眠ることにした。


◇◆◇◆◇◆
(タオズク視点)

 ソアが出ていったあと、ナターシャはパニックになってしまい、酷いことを言ってしまったと、僕に謝ってきた。

「本当にごめんなさい。本心ではないのよ」
「わかった。でも、次に同じようなことを言ったら、僕も君を見捨てるからな」
「わかっているわ。わたしにはあなたしかいないんだもの。あんなことを言ったりしないわ」

 ナターシャは僕の体にしなだれかかり、潤んだ目で僕を見つめた。

 この顔に弱くて、僕はこれ以上、彼女に恨み言を言う気にはならなかった。

 その日の夜は、堂々とナターシャと一緒に、僕の部屋で眠った。とても幸せな時間で、これからの二人には明るい未来しかないと思っていた。

 次の日の朝、喉がかわいたので、呼び鈴でメイドを呼んだ。でも、どれだけ待ってもやって来る気配がない。

 時間は朝の8時。全員が眠っているなんてありえない。

「なんなんだよ、まったく」

 ため息を吐くと、まだ眠っているナターシャを残して寝巻き姿で部屋を出た。廊下には誰もおらず、静まり返っている。
 
 人の気配を感じないことを不思議に思いながらも、2階から1階に移動した。朝食の時間帯のため、普段なら忙しく動き回っているはずの使用人の姿も、扉付近で見張りをしている兵士もいない。

「……昨日のことがあったから、みんなで集まって、朝礼でもしているのか?」

 とにかく、厨房に行って水をもらってから文句を言おう。

 そう考え、厨房に向かっていると、背後から、声をかけられた。

「タオズク様、おはようございます」

 茶色のトランクケースを持った執事が恭しく頭を下げた。

「……おはよう。どうしてお前以外、使用人が誰もいないんだ?」
「そのことで、わたくしめが代表してご挨拶に参りました」

 顔を上げた執事は神妙な面持ちだ。

「……どういうことだ?」
「全ての使用人が仕えておりましたのは、エヴァンス家でございます。タオズク様は新しい姓を授かったとのことでしたので、雇い主ではありませんので、この屋敷を出ていくことにいたしました。今まで、本当にありがとうございました」
「……へ? なんだって?」

 僕は間抜けな声を上げて聞き返したが、執事は深々と頭を下げたあと、それ以上は何も言わずに踵を返した。

 しばらく呆然と立ち尽くしていた僕だったが、我に返ると、すぐに使用人たちの部屋を確認しに行った。

 夜中のうちに出ていったのか、部屋の中は綺麗に片付けられていた。屋敷内を見て回ってわかったのは、現在、この屋敷の中には、僕とナターシャしかいないということだった。

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