上 下
13 / 18

12  夫と浮気女の末路 ③

しおりを挟む
 タオズクは両手を合わせて、ナターシャに訴えかける。

「……ナターシャ、家族を捨てて、僕と一緒になってくれないか。君には不自由のない暮らしを約束するよ」
「タオズク様……」

 ナターシャは涙を浮かべて、タオズクを見つめた。そう簡単には答えが出ないようで、口を開きかけては結ぶを繰り返している。
 その間に、私はリドリー殿下に話しかける。

「リドリー殿下、私は《《タオズク様》から出て行けと言われましたので、離婚届を書いて今すぐに出ていこうと思います。今晩はどこかの宿に泊まろうと思うのですが、リドリー殿下はどちらの宿にお泊りなんですか?」
「僕は繁華街のすぐ近くにある高級宿に泊まってる。君が出る用意をしている間に、宿に戻って部屋が空いているか確認するよ」
「お言葉に甘えてしまって良いのですか?」
「君に義姉の侍女になってもらうために、ここまで来たんだから当たり前だよ」

 本当はすでに宿に泊まる段取りはしているのだけど、私とリドリー殿下の関係性などを、タオズクたちに知らしめておきたかった。

 私たちの会話を聞いていたナターシャは、私の予想通りの言葉を口にする。

「タオズク様のことは好きですけど、リドリー殿下のほうが素敵な気がしてきました」
「ナターシャ! 何を言っているんだ!」
「だって、ソアとリドリー殿下の仲が良かったとなんて知らなかったんですもの。しかも、義姉の侍女ということは、王太子妃殿下の侍女ですよね!? それって素敵!」

 ナターシャが私と仲の良い人を好きになる傾向があると思っていたら、やっぱり間違っていなかった。それに、辺境伯よりも第二王子のほうが格上だもの。

 リドリー殿下は見た目も整っているし、余計にほしくなったのかもしれない。

「僕は君に興味はないから、タオズク氏と仲良くやってくれ」

 リドリー殿下はナターシャに笑顔で言うと、動きを止めてしまっている、タオズクの両親、レドジェン夫妻に話しかける。

「浮気のことは知っていたみたいだけど、止めなかったようだね。そのことも父上に報告しておくよ」
「「お、お待ちください!」」

 レドジェン夫妻は血相を変えて、リドリー殿下に訴えかける。

「私たちは何も知りませんでした!」
「そうですわ! まさか、うちの息子が浮気するだなんて、夢にも思っていませんでした!」

 私から話を聞いているリドリー殿下が、そんな嘘に騙されるわけがない。

「わかった。と伝えておくよ」
「「お、お待ちください! リドリー殿下!」」

 リドリー殿下は、少し離れた所で控えていた従者と共に、執事に先導されて歩き出した。レドジェン夫妻に呼び止められても、足を止める気配はない。

 慌てて追いかけていったレドジェン夫妻の背中を一瞥したあと、笑顔を作って、タオズクに話しかける。

「タオズク様、離婚の件、承知いたしました。今から出ていく準備をさせていただきます。すぐに出ていけということですので、仕事をを残していきますが、よろしくお願いいたしますね。今まで、本当にお世話になりました」

 感情のこもっていない声で言い終えたあと、離婚のことは伝えていなかったので、驚いた顔をしている、トールド子爵夫妻に話しかける。

「申し訳ないですが、ナターシャさんに慰謝料の請求はさせてもらいます」
「承知いたしました」

 トールド子爵は重い表情で頷いた。

「……ねえ、ソア」

 ナターシャがトールド子爵の手を振り払って、私に近づこうとした。それを、近くにいた兵士が腕を掴んで止めると、ナターシャは立ち止まって、私に尋ねる。

「どうしたら、許してくれるの?」
「……何をされても許すつもりはないわ」

 ナターシャにそう答えてから、複雑そうな表情をしているタオズクに話しかける。

「タオズク様、あなたは私を上手く騙せていると思っていたかもしれないけど、そうではないのよ?」
「う、うるさい! 騙されているふりをするなんて性格が悪すぎるだろ!」
「そうかもしれないわね」

 だってまだ、あなたが知らないことがあるんだもの。わざと隠しているということは、性格が悪いと言われてもしょうがないわ。

「ナターシャ、タオズク様。後日、慰謝料の請求を弁護士を通してしてもらいますね。今までありがとうございました。では、ごきげんよう」
 
 本当は感謝なんてしていないけれど、社交辞令は必要だもの。

 ナターシャがタオズクを選ぶのか、それとも家族を選ぶのか。

 そして、エヴァンス辺境伯家の財政がわかったタオズクはどんな行動を起こすのか、今から楽しみになってきたわ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」 隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。 「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」 三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。 ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。 妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。 本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。 随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

【完結】お世話になりました

こな
恋愛
わたしがいなくなっても、きっとあなたは気付きもしないでしょう。 ✴︎書き上げ済み。 お話が合わない場合は静かに閉じてください。

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

【完結】結婚して12年一度も会った事ありませんけど? それでも旦那様は全てが欲しいそうです

との
恋愛
結婚して12年目のシエナは白い結婚継続中。 白い結婚を理由に離婚したら、全てを失うシエナは漸く離婚に向けて動けるチャンスを見つけ・・  沈黙を続けていたルカが、 「新しく商会を作って、その先は?」 ーーーーーー 題名 少し改変しました

彼女が望むなら

mios
恋愛
公爵令嬢と王太子殿下の婚約は円満に解消された。揉めるかと思っていた男爵令嬢リリスは、拍子抜けした。男爵令嬢という身分でも、王妃になれるなんて、予定とは違うが高位貴族は皆好意的だし、王太子殿下の元婚約者も応援してくれている。 リリスは王太子妃教育を受ける為、王妃と会い、そこで常に身につけるようにと、ある首飾りを渡される。

処理中です...