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12 夫と浮気女の末路 ③
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タオズクは両手を合わせて、ナターシャに訴えかける。
「……ナターシャ、家族を捨てて、僕と一緒になってくれないか。君には不自由のない暮らしを約束するよ」
「タオズク様……」
ナターシャは涙を浮かべて、タオズクを見つめた。そう簡単には答えが出ないようで、口を開きかけては結ぶを繰り返している。
その間に、私はリドリー殿下に話しかける。
「リドリー殿下、私は《《タオズク様》から出て行けと言われましたので、離婚届を書いて今すぐに出ていこうと思います。今晩はどこかの宿に泊まろうと思うのですが、リドリー殿下はどちらの宿にお泊りなんですか?」
「僕は繁華街のすぐ近くにある高級宿に泊まってる。君が出る用意をしている間に、宿に戻って部屋が空いているか確認するよ」
「お言葉に甘えてしまって良いのですか?」
「君に義姉の侍女になってもらうために、ここまで来たんだから当たり前だよ」
本当はすでに宿に泊まる段取りはしているのだけど、私とリドリー殿下の関係性などを、タオズクたちに知らしめておきたかった。
私たちの会話を聞いていたナターシャは、私の予想通りの言葉を口にする。
「タオズク様のことは好きですけど、リドリー殿下のほうが素敵な気がしてきました」
「ナターシャ! 何を言っているんだ!」
「だって、ソアとリドリー殿下の仲が良かったとなんて知らなかったんですもの。しかも、義姉の侍女ということは、王太子妃殿下の侍女ですよね!? それって素敵!」
ナターシャが私と仲の良い人を好きになる傾向があると思っていたら、やっぱり間違っていなかった。それに、辺境伯よりも第二王子のほうが格上だもの。
リドリー殿下は見た目も整っているし、余計にほしくなったのかもしれない。
「僕は君に興味はないから、タオズク氏と仲良くやってくれ」
リドリー殿下はナターシャに笑顔で言うと、動きを止めてしまっている、タオズクの両親、レドジェン夫妻に話しかける。
「浮気のことは知っていたみたいだけど、止めなかったようだね。そのことも父上に報告しておくよ」
「「お、お待ちください!」」
レドジェン夫妻は血相を変えて、リドリー殿下に訴えかける。
「私たちは何も知りませんでした!」
「そうですわ! まさか、うちの息子が浮気するだなんて、夢にも思っていませんでした!」
私から話を聞いているリドリー殿下が、そんな嘘に騙されるわけがない。
「わかった。そう言っていたと伝えておくよ」
「「お、お待ちください! リドリー殿下!」」
リドリー殿下は、少し離れた所で控えていた従者と共に、執事に先導されて歩き出した。レドジェン夫妻に呼び止められても、足を止める気配はない。
慌てて追いかけていったレドジェン夫妻の背中を一瞥したあと、笑顔を作って、タオズクに話しかける。
「タオズク様、離婚の件、承知いたしました。今から出ていく準備をさせていただきます。すぐに出ていけということですので、仕事をを残していきますが、よろしくお願いいたしますね。今まで、本当にお世話になりました」
感情のこもっていない声で言い終えたあと、離婚のことは伝えていなかったので、驚いた顔をしている、トールド子爵夫妻に話しかける。
「申し訳ないですが、ナターシャさんに慰謝料の請求はさせてもらいます」
「承知いたしました」
トールド子爵は重い表情で頷いた。
「……ねえ、ソア」
ナターシャがトールド子爵の手を振り払って、私に近づこうとした。それを、近くにいた兵士が腕を掴んで止めると、ナターシャは立ち止まって、私に尋ねる。
「どうしたら、許してくれるの?」
「……何をされても許すつもりはないわ」
ナターシャにそう答えてから、複雑そうな表情をしているタオズクに話しかける。
「タオズク様、あなたは私を上手く騙せていると思っていたかもしれないけど、そうではないのよ?」
「う、うるさい! 騙されているふりをするなんて性格が悪すぎるだろ!」
「そうかもしれないわね」
だってまだ、あなたが知らないことがあるんだもの。わざと隠しているということは、性格が悪いと言われてもしょうがないわ。
「ナターシャ、タオズク様。後日、慰謝料の請求を弁護士を通してしてもらいますね。今までありがとうございました。では、ごきげんよう」
本当は感謝なんてしていないけれど、社交辞令は必要だもの。
ナターシャがタオズクを選ぶのか、それとも家族を選ぶのか。
そして、エヴァンス辺境伯家の財政がわかったタオズクはどんな行動を起こすのか、今から楽しみになってきたわ。
「……ナターシャ、家族を捨てて、僕と一緒になってくれないか。君には不自由のない暮らしを約束するよ」
「タオズク様……」
ナターシャは涙を浮かべて、タオズクを見つめた。そう簡単には答えが出ないようで、口を開きかけては結ぶを繰り返している。
その間に、私はリドリー殿下に話しかける。
「リドリー殿下、私は《《タオズク様》から出て行けと言われましたので、離婚届を書いて今すぐに出ていこうと思います。今晩はどこかの宿に泊まろうと思うのですが、リドリー殿下はどちらの宿にお泊りなんですか?」
「僕は繁華街のすぐ近くにある高級宿に泊まってる。君が出る用意をしている間に、宿に戻って部屋が空いているか確認するよ」
「お言葉に甘えてしまって良いのですか?」
「君に義姉の侍女になってもらうために、ここまで来たんだから当たり前だよ」
本当はすでに宿に泊まる段取りはしているのだけど、私とリドリー殿下の関係性などを、タオズクたちに知らしめておきたかった。
私たちの会話を聞いていたナターシャは、私の予想通りの言葉を口にする。
「タオズク様のことは好きですけど、リドリー殿下のほうが素敵な気がしてきました」
「ナターシャ! 何を言っているんだ!」
「だって、ソアとリドリー殿下の仲が良かったとなんて知らなかったんですもの。しかも、義姉の侍女ということは、王太子妃殿下の侍女ですよね!? それって素敵!」
ナターシャが私と仲の良い人を好きになる傾向があると思っていたら、やっぱり間違っていなかった。それに、辺境伯よりも第二王子のほうが格上だもの。
リドリー殿下は見た目も整っているし、余計にほしくなったのかもしれない。
「僕は君に興味はないから、タオズク氏と仲良くやってくれ」
リドリー殿下はナターシャに笑顔で言うと、動きを止めてしまっている、タオズクの両親、レドジェン夫妻に話しかける。
「浮気のことは知っていたみたいだけど、止めなかったようだね。そのことも父上に報告しておくよ」
「「お、お待ちください!」」
レドジェン夫妻は血相を変えて、リドリー殿下に訴えかける。
「私たちは何も知りませんでした!」
「そうですわ! まさか、うちの息子が浮気するだなんて、夢にも思っていませんでした!」
私から話を聞いているリドリー殿下が、そんな嘘に騙されるわけがない。
「わかった。そう言っていたと伝えておくよ」
「「お、お待ちください! リドリー殿下!」」
リドリー殿下は、少し離れた所で控えていた従者と共に、執事に先導されて歩き出した。レドジェン夫妻に呼び止められても、足を止める気配はない。
慌てて追いかけていったレドジェン夫妻の背中を一瞥したあと、笑顔を作って、タオズクに話しかける。
「タオズク様、離婚の件、承知いたしました。今から出ていく準備をさせていただきます。すぐに出ていけということですので、仕事をを残していきますが、よろしくお願いいたしますね。今まで、本当にお世話になりました」
感情のこもっていない声で言い終えたあと、離婚のことは伝えていなかったので、驚いた顔をしている、トールド子爵夫妻に話しかける。
「申し訳ないですが、ナターシャさんに慰謝料の請求はさせてもらいます」
「承知いたしました」
トールド子爵は重い表情で頷いた。
「……ねえ、ソア」
ナターシャがトールド子爵の手を振り払って、私に近づこうとした。それを、近くにいた兵士が腕を掴んで止めると、ナターシャは立ち止まって、私に尋ねる。
「どうしたら、許してくれるの?」
「……何をされても許すつもりはないわ」
ナターシャにそう答えてから、複雑そうな表情をしているタオズクに話しかける。
「タオズク様、あなたは私を上手く騙せていると思っていたかもしれないけど、そうではないのよ?」
「う、うるさい! 騙されているふりをするなんて性格が悪すぎるだろ!」
「そうかもしれないわね」
だってまだ、あなたが知らないことがあるんだもの。わざと隠しているということは、性格が悪いと言われてもしょうがないわ。
「ナターシャ、タオズク様。後日、慰謝料の請求を弁護士を通してしてもらいますね。今までありがとうございました。では、ごきげんよう」
本当は感謝なんてしていないけれど、社交辞令は必要だもの。
ナターシャがタオズクを選ぶのか、それとも家族を選ぶのか。
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