騙されていたのは私ではありません

風見ゆうみ

文字の大きさ
上 下
11 / 18

10  夫と浮気女の末路 ①

しおりを挟む
「お、お父様!? どうしてここにいらっしゃるんですか!?」

 姿を見なくても声だけでわかったらしい。ナターシャは血相を変えて部屋から飛び出してきて叫んだ。

「お前がエヴァンス辺境伯家に訪問していることは知っていたが、ソア様に会いに行っていると思っていたら、タオズク様に会いに行っていたなんて! 何を考えているんだ!?」
「そ……、その……、わたしはちゃんとソアに会いに行っていましたが会ってくれなくて……、それで……」
「うるさい! さっきのお前の発言は全部聞こえていたんだぞ!」

 いかにも気難しそうな見た目のトーラド子爵は、ナターシャの腕を掴んで睨みつける。

「いつから、そんな馬鹿なことをしていたんだ!?」
「だ、だって、仕方がないじゃないですか!」

 ナターシャは涙目になって、トールド子爵に訴える。

「ソアがかまってくれないからです! わたしは寂しくてタオズク様を好きになるしかなかったんです!」
「何を言っているのかわからない!」

 トーラド子爵はため息を吐くと、ナターシャを夫人に任せ、私に頭を下げる。

「娘がご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでした。慰謝料もお支払いし、二度とタオズク様に会わませんので、お許し願えますでしょうか」
「「そんな!」」

 タオズクとナターシャが声を揃えた。私はそんな二人を一瞥してから、トーラド子爵に話しかける。

「トールド子爵夫妻は許しましょう。娘のこととはいえ、四六時中、監視しているわけではありませんから」
「ありがとうございます。ですが、長い間続いていたのであれば、わたくし共も気づかなければなりませんでした」

 トーラド子爵が再度頭を下げると、子爵夫人も深々と頭を下げた。両親のそんな様子を見て、ナターシャは泣きそうな顔になっていた。

 顔を上げたトールド子爵は、ナターシャを怒鳴りつける。

「ナターシャ、お前も謝りなさい!」
「えっ……、あ……」

 ナターシャは唇を噛み締めたあと、私を見つめて話を始める。

「ソアだって悪いのよ。私とタオズク様の関係に気づいていなかったんだから。学生時代、あなたから浮気を疑われた時よりも前から、私とタオズク様は付き合っていたのに!」
「その時から、ずっと今まで途切れることなく、あなたはタオズク様と恋人同士だったの?」
「そうよ!」 
「自白してくれてありがとう」
「……え?」

 笑顔でお礼を言うと、私の反応が予想外だったのか、ナターシャは目を丸くして見つめてくる。

「どういうこと?」
「浮気のことは、浮気をあなたたちに確認した時から気づいていた。結婚してからも、あなたたちを監視していたからね。でも、否定されていたし、物的証拠となかったから泳がせていたの。あなたが浮気を認めてくれたから、遠慮なく慰謝料を請求させてもらうわ。あなたのお父様も払ってくれると言っていたしね」
「そ……、そんな……!」
「あなたとタオズクが結婚するのなら、エヴァンス辺境伯家の財産から支払ってくれてかまわないわよ」
「そ……、そうなの?」

 ナターシャがタオズクに尋ねると、タオズクは明るい表情になって何度も頷く。

「そ、そうだ。辺境伯家なんだから、十分な金はあるはずだ」
「お支払いいただけるということね?」
「もちろんだ」
 
 タオズクは財政状況を知らないくせに、首を縦に振った。

 弁護士に相談してみたら、現在、現金化している金額分の半分くらいは、慰謝料としてタオズクから取れそうだった。その上にナターシャの分も支払うことになれば、現金はほとんど残らない。

 土地や家屋は私が相続したものなので、夫婦の共有財産ではないので、財産分与には当てはまらない。タオズクがエヴァンス辺境伯と名乗っている間は住まわせてあげるけど、新しい名前をタオズクに授けられ、私にエヴァンス姓を戻してもらったあとは、遠慮なく追い出すことに決めている。

 私が国王陛下と関わり合いがなければ、今回のやり方は実現できなかった。

「ありがとう。それからタオズク、あなたが使用人だと勘違いした男性はリドリー殿下よ。お兄様の件で何度か訪ねてくださったことがあるんだから、見たことがないなんて言わないわよね?」
「ああっ!」

 余裕のある表情に戻っていたタオズクだったが、呆れた顔をしているリドリー殿下を見て、また顔が真っ青になった。

しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

【完結】私に可愛げが無くなったから、離縁して使用人として雇いたい? 王妃修行で自立した私は離縁だけさせてもらいます。

西東友一
恋愛
私も始めは世間知らずの無垢な少女でした。 それをレオナード王子は可愛いと言って大層可愛がってくださいました。 大した家柄でもない貴族の私を娶っていただいた時には天にも昇る想いでした。 だから、貴方様をお慕いしていた私は王妃としてこの国をよくしようと礼儀作法から始まり、国政に関わることまで勉強し、全てを把握するよう努めてまいりました。それも、貴方様と私の未来のため。 ・・・なのに。 貴方様は、愛人と床を一緒にするようになりました。 貴方様に理由を聞いたら、「可愛げが無くなったのが悪い」ですって? 愛がない結婚生活などいりませんので、離縁させていただきます。 そう、申し上げたら貴方様は―――

【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます

との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。 (さて、さっさと逃げ出すわよ) 公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。 リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。 どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。 結婚を申し込まれても・・ 「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」 「「はあ? そこ?」」 ーーーーーー 設定かなりゆるゆる? 第一章完結

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~

玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。 その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは? ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。

双子の妹は私に面倒事だけを押し付けて婚約者と会っていた

今川幸乃
恋愛
レーナとシェリーは瓜二つの双子。 二人は入れ替わっても周囲に気づかれないぐらいにそっくりだった。 それを利用してシェリーは学問の手習いなど面倒事があると「外せない用事がある」とレーナに入れ替わっては面倒事を押し付けていた。 しぶしぶそれを受け入れていたレーナだが、ある時婚約者のテッドと話していると会話がかみ合わないことに気づく。 調べてみるとどうもシェリーがレーナに成りすましてテッドと会っているようで、テッドもそれに気づいていないようだった。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

公爵家の家族ができました。〜記憶を失くした少女は新たな場所で幸せに過ごす〜

ファンタジー
記憶を失くしたフィーは、怪我をして国境沿いの森で倒れていたところをウィスタリア公爵に助けてもらい保護される。 けれど、公爵家の次女フィーリアの大切なワンピースを意図せず着てしまい、双子のアルヴァートとリティシアを傷付けてしまう。 ウィスタリア公爵夫妻には五人の子どもがいたが、次女のフィーリアは病気で亡くなってしまっていたのだ。 大切なワンピースを着てしまったこと、フィーリアの愛称フィーと公爵夫妻から呼ばれたことなどから双子との確執ができてしまった。 子どもたちに受け入れられないまま王都にある本邸へと戻ることになってしまったフィーに、そのこじれた関係のせいでとある出来事が起きてしまう。 素性もわからないフィーに優しくしてくれるウィスタリア公爵夫妻と、心を開き始めた子どもたちにどこか後ろめたい気持ちを抱いてしまう。 それは夢の中で見た、フィーと同じ輝くような金色の髪をした男の子のことが気になっていたからだった。 夢の中で見た、金色の花びらが舞う花畑。 ペンダントの金に彫刻された花と水色の魔石。 自分のことをフィーと呼んだ、夢の中の男の子。 フィーにとって、それらは記憶を取り戻す唯一の手がかりだった。 夢で会った、金色の髪をした男の子との関係。 新たに出会う、友人たち。 再会した、大切な人。 そして成長するにつれ周りで起き始めた不可解なこと。 フィーはどのように公爵家で過ごしていくのか。 ★記憶を失くした代わりに前世を思い出した、ちょっとだけ感情豊かな少女が新たな家族の優しさに触れ、信頼できる友人に出会い、助け合い、そして忘れていた大切なものを取り戻そうとするお話です。 ※前世の記憶がありますが、転生のお話ではありません。 ※一話あたり二千文字前後となります。

【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?

ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。 世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。 ざまぁ必須、微ファンタジーです。

処理中です...