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10 夫と浮気女の末路 ①
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「お、お父様!? どうしてここにいらっしゃるんですか!?」
姿を見なくても声だけでわかったらしい。ナターシャは血相を変えて部屋から飛び出してきて叫んだ。
「お前がエヴァンス辺境伯家に訪問していることは知っていたが、ソア様に会いに行っていると思っていたら、タオズク様に会いに行っていたなんて! 何を考えているんだ!?」
「そ……、その……、わたしはちゃんとソアに会いに行っていましたが会ってくれなくて……、それで……」
「うるさい! さっきのお前の発言は全部聞こえていたんだぞ!」
いかにも気難しそうな見た目のトーラド子爵は、ナターシャの腕を掴んで睨みつける。
「いつから、そんな馬鹿なことをしていたんだ!?」
「だ、だって、仕方がないじゃないですか!」
ナターシャは涙目になって、トールド子爵に訴える。
「ソアがかまってくれないからです! わたしは寂しくてタオズク様を好きになるしかなかったんです!」
「何を言っているのかわからない!」
トーラド子爵はため息を吐くと、ナターシャを夫人に任せ、私に頭を下げる。
「娘がご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでした。慰謝料もお支払いし、二度とタオズク様に会わませんので、お許し願えますでしょうか」
「「そんな!」」
タオズクとナターシャが声を揃えた。私はそんな二人を一瞥してから、トーラド子爵に話しかける。
「トールド子爵夫妻は許しましょう。娘のこととはいえ、四六時中、監視しているわけではありませんから」
「ありがとうございます。ですが、長い間続いていたのであれば、わたくし共も気づかなければなりませんでした」
トーラド子爵が再度頭を下げると、子爵夫人も深々と頭を下げた。両親のそんな様子を見て、ナターシャは泣きそうな顔になっていた。
顔を上げたトールド子爵は、ナターシャを怒鳴りつける。
「ナターシャ、お前も謝りなさい!」
「えっ……、あ……」
ナターシャは唇を噛み締めたあと、私を見つめて話を始める。
「ソアだって悪いのよ。私とタオズク様の関係に気づいていなかったんだから。学生時代、あなたから浮気を疑われた時よりも前から、私とタオズク様は付き合っていたのに!」
「その時から、ずっと今まで途切れることなく、あなたはタオズク様と恋人同士だったの?」
「そうよ!」
「自白してくれてありがとう」
「……え?」
笑顔でお礼を言うと、私の反応が予想外だったのか、ナターシャは目を丸くして見つめてくる。
「どういうこと?」
「浮気のことは、浮気をあなたたちに確認した時から気づいていた。結婚してからも、あなたたちを監視していたからね。でも、否定されていたし、物的証拠となかったから泳がせていたの。あなたが浮気を認めてくれたから、遠慮なく慰謝料を請求させてもらうわ。あなたのお父様も払ってくれると言っていたしね」
「そ……、そんな……!」
「あなたとタオズクが結婚するのなら、エヴァンス辺境伯家の財産から支払ってくれてかまわないわよ」
「そ……、そうなの?」
ナターシャがタオズクに尋ねると、タオズクは明るい表情になって何度も頷く。
「そ、そうだ。辺境伯家なんだから、十分な金はあるはずだ」
「お支払いいただけるということね?」
「もちろんだ」
タオズクは財政状況を知らないくせに、首を縦に振った。
弁護士に相談してみたら、現在、現金化している金額分の半分くらいは、慰謝料としてタオズクから取れそうだった。その上にナターシャの分も支払うことになれば、現金はほとんど残らない。
土地や家屋は私が相続したものなので、夫婦の共有財産ではないので、財産分与には当てはまらない。タオズクがエヴァンス辺境伯と名乗っている間は住まわせてあげるけど、新しい名前をタオズクに授けられ、私にエヴァンス姓を戻してもらったあとは、遠慮なく追い出すことに決めている。
私が国王陛下と関わり合いがなければ、今回のやり方は実現できなかった。
「ありがとう。それからタオズク、あなたが使用人だと勘違いした男性はリドリー殿下よ。お兄様の件で何度か訪ねてくださったことがあるんだから、見たことがないなんて言わないわよね?」
「ああっ!」
余裕のある表情に戻っていたタオズクだったが、呆れた顔をしているリドリー殿下を見て、また顔が真っ青になった。
姿を見なくても声だけでわかったらしい。ナターシャは血相を変えて部屋から飛び出してきて叫んだ。
「お前がエヴァンス辺境伯家に訪問していることは知っていたが、ソア様に会いに行っていると思っていたら、タオズク様に会いに行っていたなんて! 何を考えているんだ!?」
「そ……、その……、わたしはちゃんとソアに会いに行っていましたが会ってくれなくて……、それで……」
「うるさい! さっきのお前の発言は全部聞こえていたんだぞ!」
いかにも気難しそうな見た目のトーラド子爵は、ナターシャの腕を掴んで睨みつける。
「いつから、そんな馬鹿なことをしていたんだ!?」
「だ、だって、仕方がないじゃないですか!」
ナターシャは涙目になって、トールド子爵に訴える。
「ソアがかまってくれないからです! わたしは寂しくてタオズク様を好きになるしかなかったんです!」
「何を言っているのかわからない!」
トーラド子爵はため息を吐くと、ナターシャを夫人に任せ、私に頭を下げる。
「娘がご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございませんでした。慰謝料もお支払いし、二度とタオズク様に会わませんので、お許し願えますでしょうか」
「「そんな!」」
タオズクとナターシャが声を揃えた。私はそんな二人を一瞥してから、トーラド子爵に話しかける。
「トールド子爵夫妻は許しましょう。娘のこととはいえ、四六時中、監視しているわけではありませんから」
「ありがとうございます。ですが、長い間続いていたのであれば、わたくし共も気づかなければなりませんでした」
トーラド子爵が再度頭を下げると、子爵夫人も深々と頭を下げた。両親のそんな様子を見て、ナターシャは泣きそうな顔になっていた。
顔を上げたトールド子爵は、ナターシャを怒鳴りつける。
「ナターシャ、お前も謝りなさい!」
「えっ……、あ……」
ナターシャは唇を噛み締めたあと、私を見つめて話を始める。
「ソアだって悪いのよ。私とタオズク様の関係に気づいていなかったんだから。学生時代、あなたから浮気を疑われた時よりも前から、私とタオズク様は付き合っていたのに!」
「その時から、ずっと今まで途切れることなく、あなたはタオズク様と恋人同士だったの?」
「そうよ!」
「自白してくれてありがとう」
「……え?」
笑顔でお礼を言うと、私の反応が予想外だったのか、ナターシャは目を丸くして見つめてくる。
「どういうこと?」
「浮気のことは、浮気をあなたたちに確認した時から気づいていた。結婚してからも、あなたたちを監視していたからね。でも、否定されていたし、物的証拠となかったから泳がせていたの。あなたが浮気を認めてくれたから、遠慮なく慰謝料を請求させてもらうわ。あなたのお父様も払ってくれると言っていたしね」
「そ……、そんな……!」
「あなたとタオズクが結婚するのなら、エヴァンス辺境伯家の財産から支払ってくれてかまわないわよ」
「そ……、そうなの?」
ナターシャがタオズクに尋ねると、タオズクは明るい表情になって何度も頷く。
「そ、そうだ。辺境伯家なんだから、十分な金はあるはずだ」
「お支払いいただけるということね?」
「もちろんだ」
タオズクは財政状況を知らないくせに、首を縦に振った。
弁護士に相談してみたら、現在、現金化している金額分の半分くらいは、慰謝料としてタオズクから取れそうだった。その上にナターシャの分も支払うことになれば、現金はほとんど残らない。
土地や家屋は私が相続したものなので、夫婦の共有財産ではないので、財産分与には当てはまらない。タオズクがエヴァンス辺境伯と名乗っている間は住まわせてあげるけど、新しい名前をタオズクに授けられ、私にエヴァンス姓を戻してもらったあとは、遠慮なく追い出すことに決めている。
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「ありがとう。それからタオズク、あなたが使用人だと勘違いした男性はリドリー殿下よ。お兄様の件で何度か訪ねてくださったことがあるんだから、見たことがないなんて言わないわよね?」
「ああっ!」
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