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9 浮気相手は誰なのか
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3日後の昼過ぎ、ナターシャがタオズクと一緒に執務室にやって来るなり、満面の笑みを浮かべて話しかけてきた。
「ソア、聞いたわ。爵位をタオズク様に譲渡して、しかも離婚するんですって!?」
「言うなと言ったでしょう」
笑顔のナターシャを無視して、タオズクを睨みつけると、彼は焦った顔をする。
「君が言っても良いって言ったから……」
「喜ぶんじゃないかしらと言っただけよ。正式発表があるまでは言うなと言ったでしょう」
「そ、そうだったかな。ナターシャ、ほら、謝ってくれ」
「ソア、ごめんね!」
ナターシャはタオズクに言われるがままに、私に謝った。
「あなたに謝ってもらわくてもいいわ。それよりも目障りだから出ていって!」
「あの、ソア、僕も仕事を手伝うよ」
タオズクはナターシャを引き連れて近づいて来ようとするので、手を前に出して止めた。
「結構よ。それよりもあなたは、隣にいる女性の相手をしてちょうだい」
「わ、わかったよ。じゃあ、応接室を使うね」
「どうぞ」
「ありがとう! ほら、行くよ、ナターシャ」
「はあい!」
ナターシャは勝ち誇った笑みを浮かべて私を見たあと、タオズクと一緒に執務室を出ていった。
そろそろ、計画を進めましょうか。
そう決めた私は、仕事を手伝ってくれていた侍女に、ある人たちに連絡をするように頼んだ。
******
無事に爵位がタオズクに引き継がれ、離婚するまでは、タオズクはエヴァンスの姓を名乗ることになった。
そして、気が大きくなったタオズクは、堂々とナターシャと会うようになった。
このことは、私にとっては良い機会だった。今のままでは、離婚理由は私に非があることになる。浮気されたという理由が本当の離婚理由なのだから、証拠を掴めば世間にはタオズクの浮気で別れたと発表することができる。
数日後のナターシャがやって来た日、私は先日、連絡をしていた人たちを呼び寄せることにした。タオズクの部屋でのんびりしているというので、人が集まるのを待ってから、タオズクの部屋に向かった。
二人は関係を隠すつもりはなく、ベッドの上で寄り添っていた。私は部屋の中には入らずに、扉を大きく開けたまま話しかける。
「やっぱり浮気をしていたのね」
「正確に言うと君と浮気をしていたということになるかな」
ナターシャの頭に顔をすり寄せ、したり顔で言ったタオズクに呆れていると、ナターシャが手を合わせて謝る。
「ごめんね、ソア。でも、私たち親友だったんだから、男性の好みが似ていてもおかしくないわよね」
「友達だから好みが似るというのは、まだ納得できても、好みが似ているから奪っても良いなんて許されることじゃないけどね」
「そんな態度だから、タオズク様に離婚を切り出されちゃうんじゃない?」
ナターシャは、タオズクの体に顔を寄せてクスクスと笑った。
「今までのあなたたちは浮気なんてしていないと言い続けていた。でも、実際は浮気していたと認めるのね?」
「そうだね。君という浮気相手がいたんだ」
「では、みんなの前でそう言ってくれる?」
「は? 嫌に決まってるだろ」
タオズクは立ち上がって近づいてくると、私の鼻先に指を突きつける。
「君はもう辺境伯じゃない。僕のほうが偉いんだ。今すぐに離婚してやるから、とっとと出ていけ!」
「みんなの前で浮気をしていたという発表はしないということね?」
「当たり前だ! 僕は君のために離婚してやった優しい夫でいなくちゃならないんだからな!」
「なら、私が言うわよ」
「辺境伯の言葉と平民になった君の言葉では、領民はどちらを信じるだろうな!」
タオズクが声を上げて笑い始めた時、若い男性の声が割って入る。
「君が浮気をしていたと口にしていたと、僕が証言するよ」
「は? この使用人風情が! クビにするぞ!」
「失礼だな。僕は使用人じゃない」
呆れた表情で答えたのは、呼び寄せていた中の一人、リドリー殿下だった。そして、その後ろにはタオズクの両親と、ナターシャの両親が立っていた。
タオズクの両親は顔を真っ青にして、タオズクを見つめている。
「え……、なんで」
同じく顔を真っ青にして、タオズクが口を押さえた時、タオズクの両親の後ろに立っていた男性が怒鳴った。
「ナターシャ! 出てきなさい! 一体、お前は何を考えているんだ!」
ナターシャの父親のトーラド子爵は曲がったことが嫌いだと聞いていた。そんな人が、自分の娘が婚約者がいる人間と浮気していただけでなく、結婚してでも関係を続けていただなんてありえないことだ。
トーラド子爵は烈火のごとく怒っていた。
「ソア、聞いたわ。爵位をタオズク様に譲渡して、しかも離婚するんですって!?」
「言うなと言ったでしょう」
笑顔のナターシャを無視して、タオズクを睨みつけると、彼は焦った顔をする。
「君が言っても良いって言ったから……」
「喜ぶんじゃないかしらと言っただけよ。正式発表があるまでは言うなと言ったでしょう」
「そ、そうだったかな。ナターシャ、ほら、謝ってくれ」
「ソア、ごめんね!」
ナターシャはタオズクに言われるがままに、私に謝った。
「あなたに謝ってもらわくてもいいわ。それよりも目障りだから出ていって!」
「あの、ソア、僕も仕事を手伝うよ」
タオズクはナターシャを引き連れて近づいて来ようとするので、手を前に出して止めた。
「結構よ。それよりもあなたは、隣にいる女性の相手をしてちょうだい」
「わ、わかったよ。じゃあ、応接室を使うね」
「どうぞ」
「ありがとう! ほら、行くよ、ナターシャ」
「はあい!」
ナターシャは勝ち誇った笑みを浮かべて私を見たあと、タオズクと一緒に執務室を出ていった。
そろそろ、計画を進めましょうか。
そう決めた私は、仕事を手伝ってくれていた侍女に、ある人たちに連絡をするように頼んだ。
******
無事に爵位がタオズクに引き継がれ、離婚するまでは、タオズクはエヴァンスの姓を名乗ることになった。
そして、気が大きくなったタオズクは、堂々とナターシャと会うようになった。
このことは、私にとっては良い機会だった。今のままでは、離婚理由は私に非があることになる。浮気されたという理由が本当の離婚理由なのだから、証拠を掴めば世間にはタオズクの浮気で別れたと発表することができる。
数日後のナターシャがやって来た日、私は先日、連絡をしていた人たちを呼び寄せることにした。タオズクの部屋でのんびりしているというので、人が集まるのを待ってから、タオズクの部屋に向かった。
二人は関係を隠すつもりはなく、ベッドの上で寄り添っていた。私は部屋の中には入らずに、扉を大きく開けたまま話しかける。
「やっぱり浮気をしていたのね」
「正確に言うと君と浮気をしていたということになるかな」
ナターシャの頭に顔をすり寄せ、したり顔で言ったタオズクに呆れていると、ナターシャが手を合わせて謝る。
「ごめんね、ソア。でも、私たち親友だったんだから、男性の好みが似ていてもおかしくないわよね」
「友達だから好みが似るというのは、まだ納得できても、好みが似ているから奪っても良いなんて許されることじゃないけどね」
「そんな態度だから、タオズク様に離婚を切り出されちゃうんじゃない?」
ナターシャは、タオズクの体に顔を寄せてクスクスと笑った。
「今までのあなたたちは浮気なんてしていないと言い続けていた。でも、実際は浮気していたと認めるのね?」
「そうだね。君という浮気相手がいたんだ」
「では、みんなの前でそう言ってくれる?」
「は? 嫌に決まってるだろ」
タオズクは立ち上がって近づいてくると、私の鼻先に指を突きつける。
「君はもう辺境伯じゃない。僕のほうが偉いんだ。今すぐに離婚してやるから、とっとと出ていけ!」
「みんなの前で浮気をしていたという発表はしないということね?」
「当たり前だ! 僕は君のために離婚してやった優しい夫でいなくちゃならないんだからな!」
「なら、私が言うわよ」
「辺境伯の言葉と平民になった君の言葉では、領民はどちらを信じるだろうな!」
タオズクが声を上げて笑い始めた時、若い男性の声が割って入る。
「君が浮気をしていたと口にしていたと、僕が証言するよ」
「は? この使用人風情が! クビにするぞ!」
「失礼だな。僕は使用人じゃない」
呆れた表情で答えたのは、呼び寄せていた中の一人、リドリー殿下だった。そして、その後ろにはタオズクの両親と、ナターシャの両親が立っていた。
タオズクの両親は顔を真っ青にして、タオズクを見つめている。
「え……、なんで」
同じく顔を真っ青にして、タオズクが口を押さえた時、タオズクの両親の後ろに立っていた男性が怒鳴った。
「ナターシャ! 出てきなさい! 一体、お前は何を考えているんだ!」
ナターシャの父親のトーラド子爵は曲がったことが嫌いだと聞いていた。そんな人が、自分の娘が婚約者がいる人間と浮気していただけでなく、結婚してでも関係を続けていただなんてありえないことだ。
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