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7 使用人からの報告
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再婚するという条件は私自身にとっても有り難いお話だったし、リドリー殿下が私との結婚を嫌ではないと言ってくれたこともあったので、話を受けることに決めた。
離婚後、私は王太子妃殿下の侍女として王城内で仕事をし、リドリー殿下との結婚発表はタオズクの爵位を剥奪してから、頃合いを見て発表することに決まった。
本当は戻りたくないが、仕事もまだ中途半端だし、重要な仕事はお兄様の秘書だった女性に任せていたので、私は屋敷に戻らざるをえなかった。6日後の朝に屋敷にたどり着くと、エントランスで使用人たちが出迎えてくれた。ねぎらいの言葉をかけてきた執事に、何か変わったことがなかった質問しようとすると、タオズクが怒りの形相で近づいてきた。
「一体、どういうことなんだ! 執務室に入ろうとしたら、ずっと掃除中だって言うんだ!」
「掃除中だと言うのであれば、掃除中でしょう」
長旅で疲れているところに、タオズクの顔を見たせいで余計に体が重くなった気がした。
「おかしいだろう! 何日掃除すれば気が済むんだ!?」
「お兄様の時からちゃんと掃除できていなかったんだもの。掃除箇所が多いのは仕方がないことでしょう。私は疲れているから、ここで失礼するわ」
「何だと!?」
タオズクは声を荒らげたけれど、すぐに私の機嫌を損ねてはいけないと気がついたようで、笑みを浮かべて話しかけてくる。
「使用人たちに掃除はもういいと伝えてくれないか。疲れている君のために、僕が仕事をしたいんだ」
「お兄様の秘書だった女性が、ある程度の仕事は片付けてくれているから大丈夫よ」
「なんだって!? 執務室は使えなかったぞ!?」
「必要な書類を別の場所に移動すれば、仕事はできるわ」
「な……、え、そんな!」
悔しそうな顔をして私を見つめるタオズクに微笑みかける。
「あなたはこの何日間か、どう過ごしていたの?」
「え? あ、僕はその、君の仕事を手伝おうと思って、執務室の掃除が終わるのを待っていたんだ」
「待っていただけ?」
これが本当のことだったとしたら驚きだわ。
「う、うん。たまに、母さんと話をしたりしたけど」
タオズクは目を泳がせて答えた。
子爵は仕事があるので帰ったようだけど、まだメイラ様はここに居座っているらしい。出迎えてくれた執事を見ると、タオズクに見えないように体の向きを変えてから、眉間に皺を寄せた。
どうやら、それだけじゃないみたいね。私がいない間、浮気し放題だっだってところかしら。
知らないふりをして尋ねてみる。
「そう。来客も何もなかったの?」
「えっ!? あ、ああ、そうだな。ナターシャが来たような気がする」
来たような気がするって何よ。
と言いたくなったけれど我慢する。
「で?」
「で、ってどういうことだよ」
「追い返したの?」
「い、いや、そんな可哀想なことはできないよ。だって、君の友人じゃないか」
まだ、彼女と私が友人だと言われることにうんざりし、慌てているタオズクを睨みつける。
「ナターシャと私はもう友人じゃないの。だから、これからは彼女が訪ねてきても追い返してちょうだい」
「そ、そんなことはできない! ぼ、僕はもうナターシャと友人になったんだ。だから、今度は僕の友人として招くよ」
「何度も同じことを聞いて申し訳ないけど、あなたたち、本当に浮気していないのよね?」
「してない!」
苛ついた様子で、タオズクは続ける。
「本当に君は疑り深いんだな。してないって言ってるだろう!」
「そうね。それは間違ってないと思うわ」
私は頷くと、タオズクに意味深な言葉を投げかける。
「タオズク、信じているわよ」
「も、もちろんだ!」
何を信じていると言ったのか意味もわかってないくせに、タオズクは何度も頷いた。
きっと、浮気ではないと信じていると受け取ったのでしょうけど、残念ながらそうではない。私が信じていると言ったのは、タオズクが私の描いたシナリオ通りに踊ってくれることを信じているという意味だった。
******
タオズクと別れたあとは、お兄様の秘書だった女性の部屋に行き、感謝の言葉と王都で買ってきた、今、淑女に人気のメイク用品やシルバートレイなどをお礼に手渡した。お兄様がいなくなったあとも、私が心配だからと残ってくれた彼女には、本当に感謝している。
時間があると言うので、今回の計画を話し、いつかまた一緒に仕事をしようと約束した。
その後、執事や使用人たちから、私がいなかった間のタオズクの行動について報告を受けた。
やはり、タオズクはナターシャを屋敷に連れ込んでいて、淑女が口に出来ないようなことを、応接室で堂々としていたらしい。
私の部屋にも入ろうとしていたらしく、兵士たちが追いやってくれたらしい。私の部屋に入って何をしようとしていたのかと考えると、気持ちが悪くなる。
「一応、ナターシャ様とタオクズ……、あ、申し訳ございません。タオズク様が使っておられた、応接のソファなどは消毒しておきましたが、どうしますか?」
「ありがとう。今はまだそのままにしておいて」
絶対に私に見つからないからって、好き勝手やってくれたものだわ。
この話を聞いて、一日でも早く離婚しようと心に決め、残っている仕事を頑張ることにした。
離婚後、私は王太子妃殿下の侍女として王城内で仕事をし、リドリー殿下との結婚発表はタオズクの爵位を剥奪してから、頃合いを見て発表することに決まった。
本当は戻りたくないが、仕事もまだ中途半端だし、重要な仕事はお兄様の秘書だった女性に任せていたので、私は屋敷に戻らざるをえなかった。6日後の朝に屋敷にたどり着くと、エントランスで使用人たちが出迎えてくれた。ねぎらいの言葉をかけてきた執事に、何か変わったことがなかった質問しようとすると、タオズクが怒りの形相で近づいてきた。
「一体、どういうことなんだ! 執務室に入ろうとしたら、ずっと掃除中だって言うんだ!」
「掃除中だと言うのであれば、掃除中でしょう」
長旅で疲れているところに、タオズクの顔を見たせいで余計に体が重くなった気がした。
「おかしいだろう! 何日掃除すれば気が済むんだ!?」
「お兄様の時からちゃんと掃除できていなかったんだもの。掃除箇所が多いのは仕方がないことでしょう。私は疲れているから、ここで失礼するわ」
「何だと!?」
タオズクは声を荒らげたけれど、すぐに私の機嫌を損ねてはいけないと気がついたようで、笑みを浮かべて話しかけてくる。
「使用人たちに掃除はもういいと伝えてくれないか。疲れている君のために、僕が仕事をしたいんだ」
「お兄様の秘書だった女性が、ある程度の仕事は片付けてくれているから大丈夫よ」
「なんだって!? 執務室は使えなかったぞ!?」
「必要な書類を別の場所に移動すれば、仕事はできるわ」
「な……、え、そんな!」
悔しそうな顔をして私を見つめるタオズクに微笑みかける。
「あなたはこの何日間か、どう過ごしていたの?」
「え? あ、僕はその、君の仕事を手伝おうと思って、執務室の掃除が終わるのを待っていたんだ」
「待っていただけ?」
これが本当のことだったとしたら驚きだわ。
「う、うん。たまに、母さんと話をしたりしたけど」
タオズクは目を泳がせて答えた。
子爵は仕事があるので帰ったようだけど、まだメイラ様はここに居座っているらしい。出迎えてくれた執事を見ると、タオズクに見えないように体の向きを変えてから、眉間に皺を寄せた。
どうやら、それだけじゃないみたいね。私がいない間、浮気し放題だっだってところかしら。
知らないふりをして尋ねてみる。
「そう。来客も何もなかったの?」
「えっ!? あ、ああ、そうだな。ナターシャが来たような気がする」
来たような気がするって何よ。
と言いたくなったけれど我慢する。
「で?」
「で、ってどういうことだよ」
「追い返したの?」
「い、いや、そんな可哀想なことはできないよ。だって、君の友人じゃないか」
まだ、彼女と私が友人だと言われることにうんざりし、慌てているタオズクを睨みつける。
「ナターシャと私はもう友人じゃないの。だから、これからは彼女が訪ねてきても追い返してちょうだい」
「そ、そんなことはできない! ぼ、僕はもうナターシャと友人になったんだ。だから、今度は僕の友人として招くよ」
「何度も同じことを聞いて申し訳ないけど、あなたたち、本当に浮気していないのよね?」
「してない!」
苛ついた様子で、タオズクは続ける。
「本当に君は疑り深いんだな。してないって言ってるだろう!」
「そうね。それは間違ってないと思うわ」
私は頷くと、タオズクに意味深な言葉を投げかける。
「タオズク、信じているわよ」
「も、もちろんだ!」
何を信じていると言ったのか意味もわかってないくせに、タオズクは何度も頷いた。
きっと、浮気ではないと信じていると受け取ったのでしょうけど、残念ながらそうではない。私が信じていると言ったのは、タオズクが私の描いたシナリオ通りに踊ってくれることを信じているという意味だった。
******
タオズクと別れたあとは、お兄様の秘書だった女性の部屋に行き、感謝の言葉と王都で買ってきた、今、淑女に人気のメイク用品やシルバートレイなどをお礼に手渡した。お兄様がいなくなったあとも、私が心配だからと残ってくれた彼女には、本当に感謝している。
時間があると言うので、今回の計画を話し、いつかまた一緒に仕事をしようと約束した。
その後、執事や使用人たちから、私がいなかった間のタオズクの行動について報告を受けた。
やはり、タオズクはナターシャを屋敷に連れ込んでいて、淑女が口に出来ないようなことを、応接室で堂々としていたらしい。
私の部屋にも入ろうとしていたらしく、兵士たちが追いやってくれたらしい。私の部屋に入って何をしようとしていたのかと考えると、気持ちが悪くなる。
「一応、ナターシャ様とタオクズ……、あ、申し訳ございません。タオズク様が使っておられた、応接のソファなどは消毒しておきましたが、どうしますか?」
「ありがとう。今はまだそのままにしておいて」
絶対に私に見つからないからって、好き勝手やってくれたものだわ。
この話を聞いて、一日でも早く離婚しようと心に決め、残っている仕事を頑張ることにした。
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