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6  令嬢とドレス

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 その日は結局、ヴァージニア様を部屋まで送り届け、彼女のメイド達に与えられた部屋へ案内してから別れた。
 そして次の日は朝から、仕事をちゃんとこなそうとしたのだけれど、着替えさせる事から手間をかけさせられた。

 ドレスに着替えたはいいが、やはり、今日はこんな色の気分ではないと言い出し、赤から緑のドレスに着替えたかと思ったら、デザインが気に食わないといい、最終的には私が着替えさせるから、ドレスが良くないのだと言い出した。

 私って、良いドレスをダサくさせる力を持ってるの?
 ある意味、すごくない?

「あなたって、本当に神経が図太いのね。ブスで鈍くて態度が悪い、仕事も出来ないなんて最悪じゃない」
「では、この任をといていただけると助かるのですが…」
「そんな事をするわけないでしょ! 滞在できる間に、あなたなんかよりも私のほうが優れているって事を殿下に証明するんだから」

 そう言って、ティーテーブルに置かれていた紅茶を一口飲んでから叫ぶ。

「なんなのこれ! 冷めてるし美味しくない! お茶も満足に入れられないの!?」
「お茶は私が入れてませんが?」
「うるさいわね! あなたが入れたという事にしておきなさいよ!」
「まあ、それはそれでかまいませんけど」

 ため息を吐いてから続ける。

「今日の晩のドレスはどうされます?」
「これにしようと思っているわ!」

 そう言って、彼女はドレスが並べられたウォークインクローゼットまで歩いていき、自分でそのドレスを出して持ってきた。

 この人、本当に公爵令嬢なの?
 ああ。
 でも、侍女がすぐに辞めたり、辞めさせたりするから、いない時期は自分でやってるのかもね?
 何も出来ない、お嬢様ではないのかも?

「ちょっとブス! 聞いてるの!?」
「はい。もちろん聞いております。あの…、ブスから意見を言わせていただいても?」
「何よ。何か文句あるの?」

 ヴァージニア様が腕に抱えているドレスを受け取り、どんなものか確認する。
 黒色の胸元が開いたワンショルダーのイブニングドレスで、セクシー路線でいくようだけれど、たぶん、殿下の好みではない。

「殿下は肌があまり露出していないものの方がお好きだと思いますよ?」
「あなたの言う事なんて信じる訳ないでしょ。嘘を教えて有利に立つつもりね?」
「有利に立つも何も、私は歓迎パーティーには出席いたしませんが…」
「駄目よ! 出席しなさい!」
「それはヴァージニア様が決めるものではないのでは? それに出席するためのドレスを持っておりません」

 侍女として来ているのに、パーティー用のドレスなんて持ってきているはずもないのは、わかりそうなものなんだけど?

「何言ってるの。殿下は露出していないものの方が好きと言ったんだから、あなたはそのメイド服みたいな格好で出なさいよ」

 動きやすいので黒のメイド服を着ているから、メイド服みたいな、ではなく、メイド服なのだけど、私にとって勝負服みたいなものだから、躊躇わずに首を縦に振る。

「承知いたしました」
「ふん! 恥をかくといいわ!」
「パーティーと言いましても、王家の方しかいらっしゃいませんから」
「…どういう事?」
「正式な婚約者ではありませんので、盛大なパーティーは開けませんよね?」
「…でも、私を歓迎して下さるという事にかわりはないわよね!?」
「それは間違いございません」

 頷いて見せると、ヴァージニア様は、ふふん、と勝ち誇った要な笑みを見せる。

「私の美しさで殿下もイチコロよ!」
「イチコロ…」

 公爵令嬢が発言する言葉ではないような?
 型破りな公爵令嬢という事かしら?

 まあ、いいわ。
 あとで、休憩時間中にでもティーダさんの所に行って、私は一緒の席には着かないけれど、同じ部屋に入れてもらえるかだけ確認しにいかないと。
 
 どうせ、ヴァージニア様はそんな手配なんてしないだろうから。
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