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23 何が言いたいんだ? どうして言う事をきかないといけませんの?

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 あの後、怒りのロゼッタ様が、ドーウッド卿をエントランスホールで待たせ、トルマリア公爵閣下の執務室まで私を連れて来た。
 そして、ロゼッタ様は私の目の前で、トルマリア公爵閣下に言った。

「女は男の言う事を何でもきかないといけないそうなの。ねえ、私が他の男性から誘惑されたら、その人の言う事をきかないといけないから、その時は私の浮気を許してくれるわよね?」

 ロゼッタ様の言葉を聞いて、トルマリア公爵閣下は、仕事の手を止めて、低い声で聞き返した。

「そんな馬鹿な事を誰が言ってる?」
「ドーウッド伯爵よ。今、こちらにいらしているのは知ってるでしょう?」
「君に言ったのか?」
「いいえ、ルキアさんに。だけど、私も女性ですから、同じ事でしょう?」
「そうか。ドーウッド伯爵がそんなに拷問されたいとは知らなかった。最初からそういう事なら、そう言ってくれればいいのにな?」

 トルマリア公爵閣下は笑顔で持っていたペンを置いて立ち上がり、私の顔を見ると、少し、申し訳なさげな顔になって言う。

「私の対処が甘かったせいで、君にも嫌な思いをさせてしまったな。申し訳ない」
「とんでもございません! 元々は、ミゲル様と結婚した事が間違いですし、自分にも責任がありますから」 
「その後の事は私とザックが呑気にしていたせいだ。あまりにも小物だったから、いつでも何とかできるからと放置しすぎた」

 あれ。
 もしかして、トルマリア公爵閣下、めちゃくちゃキレてない?

 貴族の間で、トルマリア公爵閣下が愛妻家なのは有名だけど、予想以上かもしれない。

「ルキアさん、ドーウッド伯爵にきっぱりと言い返していらして、とても素敵だったのよ?」
「そうか。私も見たかったな。悪いがルキア嬢、ドーウッド伯爵の事は、私に任せてくれないだろうか」

 ロゼッタ様に微笑んだ後、トルマリア公爵閣下は私を見て聞いてきた。

「閣下にご迷惑でなければ、私はかまいません」
「迷惑ではない。公爵家の敷地内で私の客人に無礼を働いたんだ。しかも、謝りに来たいと言っていた男がな」
「あなた。ドーウッド伯爵のミゲル様の事だけど、どうにかならないの? 爵位をあげる事はできないのかしら? そうすれば、ルキアさんにつきまとわないでしょうから」
「その事についても考えよう。ロゼッタは、ルキア嬢の事をえらく気に入ったのだな」
「ふふ。だって、あまりにも言いたい事を言うものだから。元々は、ザックからも聞いていたのだけど、生で見ると、とても良いものね。ああ、そうだわ。前にミゲル様の顎を蹴っていたの! とても素敵だったわ!」

 ロゼッタ様…。
 あの後、実はザック様に、めちゃくちゃお説教されたんですよ。
 正座させられて、淑女とはどんなものか教えていただきました。

 でも、その後に思ったんだけど、私、ザック様に娘か何かだと思われてるのかな、って。
 ザック様って、お父さんかお兄ちゃん気質なのかもしれない。

 公爵閣下とロゼッタ様と一緒に、エントランスホールに行くと、ドーウッド伯爵が、スライディング土下座をした。

 スライディング土下座なんて、生で初めて見た!

「申し訳ございませんでした! 公爵夫人に言ったつもりではなかったのです!」
「えーと、ロゼッタ様が女性ではないという事ですか?」

 ロゼッタ様に謝るドーウッド伯爵に聞くと、伯爵は顔を上げて叫ぶ。

「そういう意味ではない! 公爵夫人は女性で、お前は女だという意味で言ったんだ!」
「という事は、女性は男の言う事をきかなくてもよいという事ですのね?」
「えーと、まあ、そうなるな」
「どうしたら女性になれるんでしょうか」
「品のないレイング伯爵令嬢には無理だ! 昔のじめじめした性格に戻ったとしても、女性にはなれん!」
 
 ロゼッタ様が何か言おうとするのを、公爵閣下が止めた。

 私に言わせてくれるらしい。

「では、女性を目指している女として言わせていただきたいのですが」
「何だ。何が言いたいんだ!」
「女は男の言う事をきいておけばいい、は男、もしくは男性の主張ですね?」
「そうだが…」
「どうして言う事をきかないといけませんの?」
「そりゃあ、女は男よりも下だからだ」
「どういう理由で?」
「そ、それは、色々とある」

 ただの偏見で言っていたらしく、ドーウッド伯爵はしどろもどろになる。

「理由はあれだ。ほら、あるだろう。体が小さい」
「体が小さい男性もいらっしゃるのでは?」
「身長の問題ではない! 肩幅の問題だ!」
「肩幅の狭い男性もいらっしゃるでしょう」
「うるさい! お前は黙っていろと…」

 そこまで言ったところで、ドーウッド伯爵は私と2人きりではない事を思い出したのか、顔面蒼白になった。

「ルキア嬢」

 ザック様の声が聞こえて振り返ると、ザック様が話しかけてくる。

「ここにいたのか。中々、帰ってこないから心配した」
「申し訳ございませんでした」

 私がザック様に謝ったところで、公爵閣下が口を開く。

「ルキア嬢、彼を私に任せてもらってもいいか?」
「もちろんでございます」
「では、ドーウッド伯爵、我が家のスペシャルルームにご案内しよう。客人では君が初めてかもしれない」
「お、お、お許し下さい!」

 スペシャルルームというものがどんな物かはわからないけれど、普通の部屋じゃない事はわかったのか、ドーウッド伯爵は涙ながらに訴えたけど、騎士2人に抱えられ、ロゼッタ様と公爵閣下と共に姿が見えなくなった。

「ザック様、あの場所にロゼッタ様がいらっしゃる事を知っておられましたね?」
「何の事だ?」

 ザック様が笑顔で聞いてくる。

 絶対に知ってた顔だ!

「ところでザック様、スペシャルルームって、どんな所ですか?」
「悪い奴が痛い目に合わされるところだ」

 本当に拷問する気じゃないよね?

「大丈夫だ。彼の場合は、一番軽いタイプだと思う。小悪党にそこまで酷い事はしない。二度としない様にこらしめるだけだ」
 
 言葉を発した訳じゃないのに、私の疑問に彼は笑顔で答えた。
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