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10 触れたいなら触れたいと言えばいい? そんな訳ないでしょう

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 ルキアは今まで一つも化粧をしていなかった。
 髪や眉などは整えてもらっていたみたいだけど、ワンポイントメイクもしていなかった。
 すっぴんというやつだ。
 なので、今日は口紅をつけてみたら、ミゲルのルキアへの好感度が上がってしまった。

 かといって、ミゲルの為に、お洒落を諦めるのも違う。
 いつ何時、私が消えてしまうかわからないから、彼女には色んな世界を見てもらいたい。

 朝食後、メアリーに近くにミゲルがいない事を確認してもらってから、部屋を出た。

 今のところ、私は何もやる事がないんだけど、女伯爵になるというのなら、仕事の事も覚えておきたいし、仕事について教えてもらおうと、お父様がいると思われる執務室に向かった。

「おはようございます、お父様」
「おはよう、ルキア」

 お父様は優しく迎えてくれて、ボルドー色の口紅にも気が付いてくれた。

「今日は化粧をしているんだな。大人っぽく見えるよ」
「他のところに化粧をしていないのと、ルキアの肌が白いから、少し濃い目の口紅にしてみました」
「とても似合っているよ」
「ありがとうございます」

 親子にしては、ぎこちない会話を交わした後、仕事を覚えたいという話をすると、お父様は嫌がる素振りもなく頷いてくれた。

 いきなり今日から、というのは、お父様に来客の予定があるから無理だったけれど、少しだけ、話をする事が出来た。

「まさか、ミゲルが浮気をするとは思っていなかった」
「結婚前に素行調査はされていたんですか?」
「まあな。その時には女性の影はなかっだったんだ。真面目な男だと思っていたのに」
「そうなんですか…。あの容姿だから、さぞかしモテていると思ってましたが、女性の影はなかったんですか」

 ルキアの記憶では、人気者だったイメージなんだけど、女性のみというわけではなかったようだし、外面は良くしていたのかもしれない。
 
 ピノは解雇の話をされた際に、白状して、最後まではしていないから許してくれ、と言っていたらしい。

 ミゲルにとって、ピノは練習の相手だったというのだ。

 でも、彼女に対して怒っているのは、毒見役の仕事をしているくせに、ルキアの料理に洗剤を少量だけれど入れていた事だ。

 なぜ、そんな事をしたかというと、弱々しいルキアの態度にイライラしたらしい。

 自分にはないものをたくさん持っているのに、どうして、そんな風になるのかわからなかったんだそうだ。

 後から考えれば些細な事でも、自分の精神状態によって、理不尽な事で相手にイラッとしてしまう事はありえない事ではない。

 だけど、それを理由に、自分のストレス発散のはけ口にしようとする事はおかしいと思う。

 何より、健康被害が出てるみたいだし、ピノは許せない。
 これからは毎日、普通の食事をとれるから、ルキアの身体が、良くなっていけばいいけど。

 ちなみに、ピノについての刑事処分については、お父様に任せてある。
 ただ、罪が軽くても、もう、貴族の屋敷では働けないと思う。
 毒見役が料理に何か入れてたなんて、どうしようもない。

 そういえば。

「ミゲルは無実の証拠については何か言ってきていますか?」
「浮気していないの一点張りだ」

 お父様は大きく息を吐いてから続ける。

「ドーウッド家とは、必ず爵位を継がせるという契約はしていない。爵位を継がせる時には、養子縁組の手続きをするという事にはしていたが、このままいけば、その必要はなさそうだ」
「ドーウッド家に、ミゲルを今から返す事はできませんか?」
「本人が浮気を認めていないから無理だ。何より、ドーウッド家は、そんな事をする息子ではないと、こちらに対して抗議してきている。同じ伯爵でも権力的に向こうの方が上だから困ったものだ」
「使用人達に正直に話をしてもらうのはどうでしょう?」
「一度、嘘をついている使用人の言うことなど信用しないと言い出すだろうな」

 そんな使用人が数多くいるんだけど…。
 この屋敷、大丈夫かな?
 でも、さすがに大量に解雇するとなると、世間体も良くない。

 目に余る人達だけ、順番に解雇していかなければ。

 何より、私に対して、何か言ってくるような人なら、こちらが悪い場合は素直に受け止めるけど、理不尽な場合は対処しなくちゃ。

 って、これ、誰が悪役かわからないな…。

 そう長く、お父様の邪魔は出来ないので、部屋に戻る事にした。
 すると、部屋の前にストーカーがいた。

 その名もストーカーミゲル。
 って、そのまんまか。

「ミゲル」

 逃げても無駄なので、退いてもらおうと声を掛けると、ミゲルは嬉しそうにこちらを見たかと思うと、すぐに表情を不機嫌そうな顔に変えた。

 なんなの、面倒くさい。

「偶然だね、ルキア」
「そこ、私の部屋なの。だから、退いてくれる?」

 笑顔で言うと、ミゲルは言う。

「どうせ暇なんだろう? お互いを知る為に、少し話をしようよ」
「あなたに割り振る時間はないわね。その時間は違う事に使いたいわ」
「少しくらい、いいだろう」
「そんな時間はありません。あ、離婚してくれるというのなら、時間を取るわよ? どうする?」
「それは駄目だと言っているだろ。いいかい? 君みたいな女性を相手にしてくれる男性はいないんだよ? だから、僕が結婚してあげたんだ」
「あなたは爵位を継げれば、相手は誰でも良かったんでしょう? 私だって昔はそうだった。だけど、今は違うの。私は自分で爵位を継ぐから。いいかげん諦めて」

 ミゲルを押し退けようとしたけれど、体格も違うし、ルキアには力がないから、無理だった。

「僕に触れたいなら触れたいと言えばいい」
「そんな訳ないでしょう」
  
 得意げに言うミゲルにツッコんでから、尋ねる。

「あなたが私と別れてくれない理由は何なの?」
「君の為だよ」
「私の為?」
「君は社交場に出ていないから知らないかもしれないが、君は陰でどう言われてるか教えてあげようか?」
「……」

 聞くか聞かざるべきか迷っていると、タイムオーバーと言わんばかりにミゲルが口を開いた。

「根暗の俯き令嬢だよ。そんな君が伯爵になっても、他の貴族になめられるだけだ」

 ミゲルが鼻で笑った。

 ルキアがあまりよく思われていない事は理解していたけど、信用性がないのは辛い。

 味方を作らないと駄目みたいね。

「ルキア嬢」

 その時だった。
 背後から、私の名を呼ぶ声が聞こえて振り返った。

 メアリーと一緒に立っていたのは、ルキアにとって、学園で唯一、彼女に優しくしてくれたトルマリア公爵家の次男、ザックだった。






※ ホトラン入りありがとうございます!
申し訳ございませんが、ヒロイン、ヒーロー(ミゲルではありません)への悪口、作者自身や、作者の考えたシナリオに対して悪意しかないと思われる感想をいただいた場合は、モチベーション維持の為、ブロックさせていただいております。
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