愛しているだなんて戯言を言われても迷惑です

風見ゆうみ

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7  愛している? 寝言は寝てから言いなさいよ!

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「ルキア、どうしたんだ。何かあったのか?」

 部屋の中に入ると、執務机で書類を見ていた、お父様が顔を上げた。

「お父様、離婚したいです!」
「はあ? どうしたんだ、いきなり」

 見た目は、私がスズだった頃と年の変わらない年代で、ルキアの髪色と同じ短髪に同じ瞳の色を持つ、少し渋い感じのお父様は、私の言葉を聞いて目を丸くした。
 ミゲルが慌てて会話に割って入ってくる。

「すみません。ルキアと少し喧嘩になってしまいまして…」
「別れたいです、お父様。こんな浮気男無理です。今すぐ追い出しましょう」
「ルキア、君は黙っていてくれ。君は混乱しているんだ」
「黙るのはあなたよ! 大体、あなたにどうこう言われたくないわよ。それに、何を混乱する事があるって言うの」

 私とミゲルの様子に困惑している、お父様に近付き、事情を話す。

「ミゲルが私を愛していないのはしょうがない事です。恋愛結婚ではありませんしね! でも、結婚初日に、私を自室に帰らせて、毒見役のピノを寝室に連れ込んでいたんです!」
「何だと!?」

 お父様が怒りと驚愕が入り混じった表情で椅子から立ち上がった。

「違います、誤解です! ルキアと少し喧嘩をしてしまいまして、彼女は拗ねているだけなんです!」
「お父様、彼は嘘をついています! 証人もいます!」
 
 お父様に事情を説明したところ、すぐにピノが呼ばれ、夜勤だった使用人達も集められた。

「昨日の晩の出来事だが、お前はミゲルと関係を持ったのか…?」
「いいえ」

 お父様の問いかけに、ピノは大きく首を横に振った。
 腹立たしい事に、私と話をしていた時にはシニヨンにしていた髪を、今は全ておろしていて、キスマークを見えなくしている。
 これに関しても、他の男につけられたと言われたらおしまいだ。

 ミゲルの奴。
 ピノを上手い事、丸め込んだみたい。

 けれど、昨日、ルキアが追い出され、自室に戻るところは他の使用人も見ているはず。
 だから、それを訴えてみたけれど、使用人達は全員、ミゲルの肩を持ち、ルキアが寝室から出たのは朝方だったと証言した。

 どいつもこいつも!
 
 こんな事を言ってはいけないとわかっているけど、こうなったのは、私のせいでもあるし、ルキアのせいでもある。

 ルキアに対して、使用人達の信頼度がないんだ。

 いつも、メソメソして言いたい事を言えないルキアよりも、ハキハキ物を言う、顔だけイケメンな残念男である、ミゲルの味方についた方が良いと判断されてしまった。

 ほんと腹立つ!
 これは、予測出来ていなかった私に対してもだけど!

「ルキアがこれだけ必死になって訴えているのだから、嘘とは思えん」

 静まり返っていた室内に、お父様の優しい言葉が響く。

「今までのルキアは、言いたい事があっても口には出さなかった。だから、こうやって主張するというのなら、親としては信じてやりたい」

 お父様。
 娘を信じてくれるんだ…。
 でも、中身は娘じゃないんだよ。
 本当にごめんなさい。
 だけど、娘さんの身体は幸せにさせるから許してほしい。
 ルキアの意識が戻ったなら、私が本当に死んでしまう事を覚悟しておこう。

 感動していると、お父様が厳しい表情で、ミゲルに話しかける。
 
「ミゲル」
「は、はい!」
「近々、君に爵位を継がせる為に仕事の引き継ぎを考えていたが延期する」
「えっ!?」
「君は結婚初日に浮気をしていたかもしれないんだ。そんな疑いがある男に我が家の家督は継がせられない」
「そんな! 僕は浮気なんかしていません!」
「それなら、証明してみせるんだ!」

 2人が話をしている間に、私はピノに話しかける。

「ねえ、このままだと、あなた、ミゲルと一緒になれないわよ?」
「その手にはのりません! ミゲル様が爵位を継ぐまでは、このお屋敷で顔を合わせ、継がれた後には、私が伯爵夫人に!」
「残念ね。それは無理よ」
「……え?」

 笑顔で言うと、ピノは不思議そうな顔をした。

「あなたは解雇してもらうから」
「い、嫌です、そんな!」
「ミゲルの事がなくても、あなたは解雇されるのは当たり前。あなた、だいぶ前から、私が食べる料理の一部に、何か入れてたでしょう? 少しくらいなら大丈夫だと思ってたかもしれないけど、毎日食べてたら、体調が悪くなってもおかしくないわ」
「そ…そんな…、そんなつもりじゃ…、というか、私、そんな事はしていません!」

 ピノは慌てて首を横に振った。

「悪いけど、料理に何か入れられていた事は料理人が確認済みよ。自分が作った料理にいらない事をされて、腹を立てていたし、この件に関しては、あなたは逃れられないわよ」
「そ、そんな…」

 ピノは助けを求める様にミゲルを見た。
 話が聞こえていたのか、お父様は憤怒の表情だった。
 すると、ミゲルがピノを見つめながら、口を開いた。

「もしかして、僕の事を好きすぎて、ルキアに嫌がらせをしたのか?」

 ミゲルは、やっぱり馬鹿だった。

 ピノとあなたが会ったのは昨日の夕食時でしょうが。
 だいぶ前からって言ってるのに。

「私はそんな事してません! ルキア様の妄想です! そうです! 若旦那様も言っておられましたよね? ルキア様の様子がおかしいと…」
「そ、そうだな。その話はしていた」
「旦那様! ルキア様は朝から様子がおかしいんです! ですから、ルキア様の言葉は信じない方が良いかと思われます!」
「そうです! 何かと嘘をついて横柄な態度で…」

 ミゲルがピノに加勢しようとした時だった。

「ミゲル…」

 お父様は、ミゲルを睨んで続ける。

「君は先程、ルキアと喧嘩になってしまった、と言っていたが、どんな内容だったんだ?」
「そ、それは…」
「お父様! この人は爵位を継ぐ事しか頭にありません! 私の事を大事にするという頭はないんです! 自分の事しか考えられない人に爵位を継がせるなんて駄目です!」

 えーい、どうせなら、この場で言ってしまおう。

「お父様、私が女伯爵になります! だから、この人と離婚できる様にお力添えをお願いいたします!」

 ミゲルは爵位が欲しいんだから、継げなくなったと思ったら諦めるはず!

 そう思ったのだけど。

「僕は離婚したくありません! ルキアは…、ルキアは僕を愛しているんです! だから、こんな事を言っているんです!」

 ミゲルが声高らかに言い放った。

「……は?」

 突然の出来事に私を含め、他の皆もフリーズしていたけれど、いち早く我に返った私は、怒りに任せてミゲルに近付いた。

「寝言は寝てから言いなさいよ!」

 腹パンしたかったけど、ルキアの力ではダメージを与えられそうになかった為、近くにあった辞書くらいに分厚い本を持ち上げ、その本の角を、ミゲルの口に突っ込んでやった。

 しまった!
 本が犠牲になってしまったあ!
 ごめん、本…。
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