どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ

文字の大きさ
上 下
22 / 29

21 お断りしました

しおりを挟む
「借金と言ってましたが、ついにそこまできているのですね」
「自業自得でしょう。リノア様は気にされなくて良いですよ」

 ソラと話をしながら屋敷に戻ると、扉の前で立っているラルフ様に気付き、慌てて駆け寄る。

「どうなされたのです?」
「あなたの帰りを待ってたんだ」
「中に入って待って下さればよろしいのに」

 辺境伯を待たせてしまった上に、屋敷の中にも入れない非常識な令嬢と噂が立っても困ります。
 といっても、そんな噂を流す人は、ここにはいないでしょうけれど。

「中へどうぞ」

 ソラが扉を開けてくれたので、二人並んで屋敷に入ると、たまたま居合わせたメイドが、ラルフ様を見て飛び上がらんばかりに驚いた表情をしたあと、すぐに頭を下げました。
 そんな彼女にお茶の用意を頼んでから、ソラの先導で応接間に着き、私達がソファーに座ったのを確認してから、ソラは一礼して部屋を出ていきました。

「ケイン様から連絡が?」
「ああ。何かあった時に通信のできる魔道具を渡していたんだ」
「そうですか。…で、なぜ、こちらに?」

 次のデートの約束は二日後。
 ですから、その時に話をするのでも良いと思うのですが…。

「いや、こういう話は早くにしておいた方が良いと思ってな」
「どういう事でしょう?」
「あいつらは、今、建てている家に住む気なんだろう?」
「そうらしいですが、支払うお金があるのかわかりませんね」

 首を傾げてから、ラルフ様に答えてから考える。

 たしか、家が出来上がってから支払うのが普通です。
 ですから、今の状態でお金がないと言っているのなら、建てても支払うお金がないはずなのですが…。
 しかも借金がどうとか言っていましたし。

「それで案を思いついたのだがな」
「なんでしょう?」
「俺のところに来ないか?」
「はい?」

 何を言い出されたのか、意味がわからず聞き返してしまった時でした。

 ガチャン、という音が窓の方から聞こえ、音に驚いた私は立ち上がり、そちらに振り返ろうとしましたが、ラルフ様がローテーブルを飛び越え、後ろにに立つなり私を庇うように抱き寄せたため、私の視界に入るのはラルフ様の白いシャツだけになってしまった。

「ラ、ラルフ様?」

 驚いて名を呼ぶと、私の背中に片方の腕を回されました。

 大変です!
 今、私はラルフ様に抱きかかえられています!

「リノア! クラーク辺境伯、俺の話を聞いて下さい!」

 ディーンの声が聞こえて、自由になっている顔だけそちらに向けると、窓ガラスのかけらが部屋の中に散乱していて、窓の向こうにはディーンがいたのです。

「ケインの奴、何をしている」

 ラルフ様は小さな声で呟いたあと、ディーンに向かって言った。

「そこは扉ではないぞ」
「わかってます! でも、アトラスが邪魔をして中に入れてくれないんですよ!」

 光をとり入れるために、カーテンを締めていなかったのが仇になったみたいです。
 カーテンがなければ、中が丸見えですからね。
 あと、ディーンの言い方だと、ケイン様も屋敷に戻ってらっしゃるようです。

「何か音が聞こえたようですが!?」

 廊下側からソラの声が聞こえると同時、外にはケイン様が現れて、ディーンを羽交い締めにしました。

「アトラス! 君が金を融通してくれれば、こんな事をしなくて良かったんだぞ!」
「お前が選んだ女性の金遣いの荒さを管理できなかったのが原因だろう!」

 ディーンは相変わらず、自分が悪いという発想はないようです。

「リノア、やり直そう! やっぱり、俺の妻は君しかいない。ディアラは愛人にする!」
「はあ?」

 ここ最近、間抜けな声ばかり出している気がします。

「リノア、本当に俺は君を捨ててしまった事を後悔している!」
「何を馬鹿な事を言ってるんですか!」
「…す」
「…はい?」

 ラルフ様の腕の力が強まったのと、何か仰ったようなので聞き返してから、彼を見上げると、それはもう恐ろしい表情をしていらっしゃいました。

「あの、ラルフ様?」
「リノア」
「はい?」
「あいつを始末しても良いか?」

 笑顔を作って聞いてこられるので、私も笑顔で答える。

「駄目です」

 だって、あんな人間でも伯爵ですからね。
 ラルフ様のお立場がこんな事で悪くなるのは良くないのです!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

【完結】私の婚約者は妹のおさがりです

葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」 サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。 ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。 そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……? 妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。 「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」 リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。 小説家になろう様でも別名義にて連載しています。 ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)

婚約者を奪われた私が悪者扱いされたので、これから何が起きても知りません

天宮有
恋愛
子爵令嬢の私カルラは、妹のミーファに婚約者ザノークを奪われてしまう。 ミーファは全てカルラが悪いと言い出し、束縛侯爵で有名なリックと婚約させたいようだ。 屋敷を追い出されそうになって、私がいなければ領地が大変なことになると説明する。 家族は信じようとしないから――これから何が起きても、私は知りません。

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話

彩伊 
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。 しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。 彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。 ............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。 招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。 送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。 そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。 『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』 一日一話 14話完結

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放されました。でもそれが、私を虐げていた人たちの破滅の始まりでした

水上
恋愛
「ソフィア、悪いがお前との婚約は破棄させてもらう」 子爵令嬢である私、ソフィア・ベルモントは、婚約者である子爵令息のジェイソン・フロストに婚約破棄を言い渡された。 彼の隣には、私の妹であるシルビアがいる。 彼女はジェイソンの腕に体を寄せ、勝ち誇ったような表情でこちらを見ている。 こんなこと、許されることではない。 そう思ったけれど、すでに両親は了承していた。 完全に、シルビアの味方なのだ。 しかも……。 「お前はもう用済みだ。この屋敷から出て行け」 私はお父様から追放を宣言された。 必死に食い下がるも、お父様のビンタによって、私の言葉はかき消された。 「いつまで床に這いつくばっているのよ、見苦しい」 お母様は冷たい言葉を私にかけてきた。 その目は、娘を見る目ではなかった。 「惨めね、お姉さま……」 シルビアは歪んだ笑みを浮かべて、私の方を見ていた。 そうして私は、妹に婚約者を奪われ、屋敷から追放された。 途方もなく歩いていたが、そんな私に、ある人物が声を掛けてきた。 一方、私を虐げてきた人たちは、破滅へのカウントダウンがすでに始まっていることに、まだ気づいてはいなかった……。

え、幼馴染みを愛している? 彼女の『あの噂』のこと、ご存じないのですか?

水上
恋愛
「おれはお前ではなく、幼馴染である彼女を愛しているんだ」 子爵令嬢である私、アマンダ・フィールディングは、婚約者であるサム・ワイスマンが連れて来た人物を見て、困惑していた。 彼が愛している幼馴染というのは、ボニー・フルスカという女性である。 しかし彼女には、『とある噂』があった。 いい噂ではなく、悪い噂である。 そのことをサムに教えてあげたけれど、彼は聞く耳を持たなかった。 彼女はやめておいた方がいいと、私はきちんと警告しましたよ。 これで責任は果たしました。 だからもし、彼女に関わったせいで身を滅ぼすことになっても、どうか私を恨まないでくださいね?

婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~

tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。 ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。

処理中です...