どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ

文字の大きさ
上 下
11 / 29

10 過去の話を思い出しました

しおりを挟む
 誰かを食べたいと思うにしても、私にこだわる理由がわからないので聞いてみると、ラルフ様は動揺されたのか、持っていたカップを落としそうになられましたが、反対の手で受け止められて何事もなく済みました。

「聞いてはいけませんでしたか?」
「いや、話さなければいけないとは思っていた」

 ラルフ様は私から視線をそらして、言葉を続けます。

「リノアはパートナーなしで、ここ最近は社交場に顔を出していただろう?」
「ええ。あんな人でしたが書類上では婚約者でしたから。弟には婚約者がおりましたし、エスコートしてくれる相手が父くらいしかおりませんでしたので」

 パーティーなどに出席する際、異性と出席するなら相手は婚約者か親族が当たり前だから、婚約者以外の男性と出席しようものなら、私達の国では恥知らず扱いされてしまう。
 だから、どうしても出席しなければいけない時は一人で出席したりしていた。

「俺はそれでリノアの存在に気が付いた」
「毎回、壁の花でしたからね」
「俺は婚約者がいなかったから、毎回一人だったがな」
「ラルフ様なら、そこに立っているだけで女性が集まってくるのでは?」
「リノアはそんな冗談が言えるんだな」

 冗談ではないのですけどね?
 謙遜なのかもしれませんし、苦笑して首を横に振る。

「冗談ではありません。ラルフ様はとても素敵ですよ?」
「…ありがとう」

 目線は合わせずに礼を言われた後、話を続けて下さる。

「パーティに一人で来る令嬢が珍しくて、ついついリノアを目で追うようになってしまって、あなたが普通の令嬢と少し変わっている事に気が付いた」
「な、何かしでかしていましたか?」
「友人に嫌がらせしようとしていた令嬢のドレスを踏んだりして、ターゲットを自分にしようと仕向けていただろう?」
「うっ。見ていらしたのですか…」

 実はそうなのです。
 私は人になじられる事がよくありますが、外見などの悪口に対しては、あまり気にしないタイプという事もあり、お友達が困っていると助けたくなってしまいます。
 なぜか私の友人を目の敵にしていたご令嬢がいて、あるパーティーで私の友人に持っていた飲み物をかけようと企んでいるお話を聞いてしまいまして、その場面で私はそのご令嬢のドレスの裾をわざと踏んでさしあげた事があるのです。
 勢いよく歩いていこうとしていらっしゃいましたから、私に裾を踏まれ、後ろにつんのめったご令嬢は私の友人にではなく、彼女自身に飲み物をかけられたわけです。
 もちろん、私もそんな事を計算してやった事ではないので、すぐに謝りもしましたし、お詫びの新しいドレスを後日にはなりますがお送りしたのを覚えています。

 もしかすると、ラルフ様はその時のお話をしていられるのかも。

「友人が悲しんでいる姿は見たくありません。それに私は私の事をよく知らない方に何か言われても気にならない性格ですので、ターゲットが私になっても、性格の悪い人が私に何か言っている、というくらいにしか思えないのです」
「…そんなリノアだから結婚してほしいと思ったんだ」

 苦笑しながら答えると、ラルフ様は優しく微笑んで言われました。

「で、ですが、それだけで結婚だなんて」
「それからリノアの事を色々と調べさせてもらった」
「え」

 ちょ、ちょっと待ってください。
 色々と調べたって、その前にやる事があるのでは?

「あの、せめてお声をかけていただく事は出来なかったのでしょうか」
「あなたには婚約者がいただろう?」
「そ、そうでした」
「だから、声は掛けられなかった」

 ラルフ様はにっこり微笑んだあと、私にケーキをもっと食べるようにと促してくる。

「手が止まっているぞ? あと、お茶が冷めてしまったな。新しいものを入れてもらうか?」
「お願いできればありがたいですけれども」

 せっかくのケーキを食べないわけにはいかないので、食べる事を再開した私でしたが、頭の中では疑問符がぐるぐるとまわっていました。
 
 だって、さっきのラルフ様の言い方だと、本当に私の事を好きみたいじゃないですか。
 私みたいな平凡な令嬢をラルフ様が好きになるだなんておかしいです。
 私じゃなくても、もっと他に良い方はいるはず。

 どうして、私じゃなきゃ駄目なのでしょう?
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹から私の旦那様と結ばれたと手紙が来ましたが、人違いだったようです

今川幸乃
恋愛
ハワード公爵家の長女クララは半年ほど前にガイラー公爵家の長男アドルフと結婚した。 が、優しく穏やかな性格で領主としての才能もあるアドルフは女性から大人気でクララの妹レイチェルも彼と結ばれたクララをしきりにうらやんでいた。 アドルフが領地に次期当主としての勉強をしに帰ったとき、突然クララにレイチェルから「アドルフと結ばれた」と手紙が来る。 だが、レイチェルは知らなかった。 ガイラー公爵家には冷酷非道で女癖が悪く勘当された、アドルフと瓜二つの長男がいたことを。 ※短め。

最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。

window
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。 幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。 一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。 ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。

【完結】虐げられていた侯爵令嬢が幸せになるお話

彩伊 
恋愛
歴史ある侯爵家のアルラーナ家、生まれてくる子供は皆決まって金髪碧眼。 しかし彼女は燃えるような紅眼の持ち主だったために、アルラーナ家の人間とは認められず、疎まれた。 彼女は敷地内の端にある寂れた塔に幽閉され、意地悪な義母そして義妹が幸せに暮らしているのをみているだけ。 ............そんな彼女の生活を一変させたのは、王家からの”あるパーティー”への招待状。 招待状の主は義妹が恋い焦がれているこの国の”第3皇子”だった。 送り先を間違えたのだと、彼女はその招待状を義妹に渡してしまうが、実際に第3皇子が彼女を迎えにきて.........。 そして、このパーティーで彼女の紅眼には大きな秘密があることが明らかにされる。 『これは虐げられていた侯爵令嬢が”愛”を知り、幸せになるまでのお話。』 一日一話 14話完結

婚約破棄をされて魔導図書館の運営からも外されたのに今さら私が協力すると思っているんですか?絶対に協力なんてしませんよ!

しまうま弁当
恋愛
ユーゲルス公爵家の跡取りベルタスとの婚約していたメルティだったが、婚約者のベルタスから突然の婚約破棄を突き付けられたのだった。しかもベルタスと一緒に現れた同級生のミーシャに正妻の座に加えて魔導司書の座まで奪われてしまう。罵声を浴びせられ罪まで擦り付けられたメルティは婚約破棄を受け入れ公爵家を去る事にしたのでした。メルティがいなくなって大喜びしていたベルタスとミーシャであったが魔導図書館の設立をしなければならなくなり、それに伴いどんどん歯車が狂っていく。ベルタスとミーシャはメルティがいなくなったツケをドンドン支払わなければならなくなるのでした。

一年後に離婚すると言われてから三年が経ちましたが、まだその気配はありません。

木山楽斗
恋愛
「君とは一年後に離婚するつもりだ」 結婚して早々、私は夫であるマグナスからそんなことを告げられた。 彼曰く、これは親に言われて仕方なくした結婚であり、義理を果たした後は自由な独り身に戻りたいらしい。 身勝手な要求ではあったが、その気持ちが理解できない訳ではなかった。私もまた、親に言われて結婚したからだ。 こうして私は、一年間の期限付きで夫婦生活を送ることになった。 マグナスは紳士的な人物であり、最初に言ってきた要求以外は良き夫であった。故に私は、それなりに楽しい生活を送ることができた。 「もう少し様子を見たいと思っている。流石に一年では両親も納得しそうにない」 一年が経った後、マグナスはそんなことを言ってきた。 それに関しては、私も納得した。彼の言う通り、流石に離婚までが早すぎると思ったからだ。 それから一年後も、マグナスは離婚の話をしなかった。まだ様子を見たいということなのだろう。 夫がいつ離婚を切り出してくるのか、そんなことを思いながら私は日々を過ごしている。今の所、その気配はまったくないのだが。

本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

四季
恋愛
本を返すため婚約者の部屋へ向かったところ、女性を連れ込んでよく分からないことをしているところを目撃してしまいました。

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?

しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。 そんな小説みたいなことが本当に起こった。 婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。 婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。 仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。 これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。 辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

両親から溺愛されている妹に婚約者を奪われました。えっと、その婚約者には隠し事があるようなのですが、大丈夫でしょうか?

水上
恋愛
「悪いけど、君との婚約は破棄する。そして私は、君の妹であるキティと新たに婚約を結ぶことにした」 「え……」  子爵令嬢であるマリア・ブリガムは、子爵令息である婚約者のハンク・ワーナーに婚約破棄を言い渡された。  しかし、私たちは政略結婚のために婚約していたので、特に問題はなかった。  昔から私のものを何でも奪う妹が、まさか婚約者まで奪うとは思っていなかったので、多少驚いたという程度のことだった。 「残念だったわね、お姉さま。婚約者を奪われて悔しいでしょうけれど、これが現実よ」  いえいえ、べつに悔しくなんてありませんよ。  むしろ、政略結婚のために嫌々婚約していたので、お礼を言いたいくらいです。  そしてその後、私には新たな縁談の話が舞い込んできた。  妹は既に婚約しているので、私から新たに婚約者を奪うこともできない。  私は家族から解放され、新たな人生を歩みだそうとしていた。  一方で、私から婚約者を奪った妹は後に、婚約者には『とある隠し事』があることを知るのだった……。

処理中です...