どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ

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 クラーク辺境伯がお帰りになられてから、実家から一緒にここまで来てくれた侍女達を集めて、どうしたら良いか相談したところ「逆らわないほうが良いのでは?」というのが皆の意見でした。

 噂には尾ひれがつくものですから、全てが本当かはわからないけれど、気になる噂があるから皆は逆らうな、と言うのです。
 その噂の内容を聞いて、私も少し考えを改めた。

 二日後、また彼が我が家を訪ねてこられました。

「おはようリノア」
「おはようございます。ラルフ様」

 そう呼ぶように言われていたので、初めてラルフ様と呼んでみると、彼は驚いた表情を浮かべて私を見ましたが、すぐに視線をそらしました。

 どうして、視線をそらすのかしら。
 私の笑顔ってそんなにひどいんですかね?
 家族は可愛いといってくれていたけど、やっぱりそれは家族の贔屓目だったのね…。

 今、私とラルフ様は庭にあるガゼボでお茶をしていた。
 今日はさすがに前回のように門前払いではなく、おもてなしする事にしたからです。
 
 私だってまだ、命が惜しいですからね。

 彼の屋敷から私の家までは、馬車で移動したなら、丸一日くらいはかかりそうなものだけど、一度行った場所には転移できる魔道具を持っているから、今日はそれで来ているらしい。
 シワ一つない黒のスーツに白いシャツ、お顔は今日も美形すぎて直視しづらいですが、ここは何とか機嫌を損ねないようにお断りする方法に持っていかないといけません。

 いやいや、素直に結婚したら良いじゃないか、とおっしゃる方もいらっしゃるでしょう。
 それは私も思うところではありますが、色々な噂を聞けば、やはり尻込みしてしまいますよ。

 気になる噂の1つ目は女性がお嫌いである事。

 だから、今まで独身でいらっしゃるのではないか、と。
 ただ、今、私の目の前に座っている方は、そんな風にはあまり思えない。
 もちろん、視線をそらされたので私の事は嫌がっているようですけど、女性自体が嫌いでしたら、わざわざ家にも訪ねてこないと思うんですよね?

 まずは、一つ一つ、聞いていく事にした。
 女性が嫌いと仰ってくだされば、私もお断りしやすくなりますし!

「あの、ラルフ様」

 お茶を一口飲んで喉を潤してから、勇気を出して話しかける。

「…何だ?」
「大変失礼な事を口にするかもしれませんが、いくつか質問させていただいても?」
「かまわない」

 お許しが出たので、ピンクのワンピースドレスの裾を引っ張り、居住まいを正したあと、仏頂面のラルフ様に尋ねる。

「あの女性がお嫌いだとお聞きしたのですが」
「誰からだ?」
「あ、えっと」

 噂だとは言いづらいので言葉に詰まると、そういえばお父様がそんな事を言っていた事を思い出して答える。

「あの、父がそういう噂を聞いたと言っていたものですから」
「お父上から?」
「あ、はい」

 ジロリと睨むような視線を向けられて、泣き出したくなるのをこらえる。

 うわーん。
 お父様、ごめんなさい。
 怒らせてしまったようです。
 こんな事なら素直に自分が噂で聞いたといえば良かったです!

「女性が嫌いというわけではなく、ある女性が好きなだけだ」

 咳払いをされたあと、ラルフ様は私を見ながら答えて下さいました。
 
 ある女性って、まさか私の事ではないですよね?
 だって、私、あなた様との接点を思い出せないんです!
 それに私かどうか確かめて違った時は恥ずかしさで死んでしまうかもしれませんし。

 一つ目の噂に関しては、嘘だったという事にしておきましょう。
 では、次の噂を確認しましょう!
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