どうして私にこだわるんですか!?

風見ゆうみ

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「続けて聞いてもよろしいですか?」
「かまわない」
「ラルフ様はその…」

 なんて聞いたら良いのかわからなくて困ってしまう。
 
 二つ目の噂は、彼が人を食べるという噂だ。
 実は魔族で人間のフリをしているのだというもの。
 これに関しては、さすがに嘘だと思っているのだけれど、確認しておきたい。
 勇気を出して聞いてみる。
 
「あ、あの、お、お食べになるのですか?」
「……?」
「私を食べてしまわれるのですか?」

 もしかしたら、私は何かあった時の非常食にと思っていらっしゃるのかも?
 さすがに、そんな訳ないですよね?
 だって、噂ですもんね!

「そ、それは、結婚すればそうなるだろうな」

 なぜか、ラルフ様は照れた様子で私から目をそらして、お答えになりました。

 私、別に褒めたりしたわけではないんですが!?
 というか、本当に食べるんですか!?

「あの、私は、あまり美味しくないと思いますよ?」
「いや、そんな事はない! 俺は、どんな君でも、その、美味しいはずだと思っている」

 言葉を荒げて否定したあと、なぜかラルフ様の頬がなぜか赤く染まっていきます。

 え?
 私を食べたくて興奮しているとかですか?
 嫌ですよ。
 まだ、食べられたくないです!

「…あの、やっぱりお断りしても?」
「なぜだ?」
「え、いや、だって」

 食べられるのがわかっていて、嫁になんていきたくないです!
 あなたに食べられたくないんです!
 私だってまだ、美味しいものをいっぱい食べたいです!
 そう口に出してしまったら、今すぐ彼の屋敷に連れ帰られて、食べられてしまうんでしょうか…。

「何か断らないといけない理由があるのか?」
「もちろ、あ、いいえ。ですが、少し考えさせて下さい!」
「理由がないなら申し出を受けてくれたら良いだろう」
「いえ、その女性には色々とあるのですよ」

 モゴモゴ言っていると、ラルフ様は首を傾げて聞いてこられます。

「お互いを知る期間が必要だという事か?」
「そっ、そうです! その間にラルフ様のお考えも変わると思いますし」
「なぜ、あなたは…」

 ラルフ様は不満そうな顔をされたあと、大きくため息を吐かれました。

 何かいけない事を言ってしまったようです。

 気まずくなって黙っていると、テーブルの上に置いていた私の左手に、ラルフ様は自分の大きな右手を重ねて、こう言われました。

「では、まずはどこかへ一緒に出かけないか?」
「えっ!?」
「転移の道具を使えば、王都にでも一瞬で出かけられる。もちろん、俺が準備しよう」
「ええっ!?」
「あなたの都合の良い日を教えてくれ」

 笑顔で聞いてこられますが、田舎に引っ込んだ私に用事なんてあるようでないものなんですが?
 答えずにいたからか、ラルフ様は私の手を握りしめ「では、明日にしよう」と勝手に決めてしまわれたのです。

「な、なぜ明日なのですか?」
「いつ仕事が入るかわからないからな。行ける時に行っておかないと」

 ラルフ様の言う仕事とは、きっと、隣国との諍いをおさめる事かもしれません。
 隣国はこちらの都合なんておかまいなしですものね。
 最近、戦争が終わったとはいえ、いつ難癖をつけてくるかわからないですし。

「わかりました!」

 覚悟を決めて頷くと、優しい笑みを返して下さいました。

 私の意思では結婚は逃れられそうにないですから、美味しくなさそうだ、と思ってもらうしかありません。

 そんな事を思っていると、ラルフ様は私の手をはなしてから、心配そうな表情で私を見つめ尋ねてこられました。

「君の元婚約者が、この屋敷の近くに家を買った事を知っているか?」
「は、はあ!?」

 信じられない情報に、私は大きな声で聞き返してしまった。
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