どうして私にこだわるんですか！？

１ お手紙が届きました

「本当に申し訳ない！　もちろん慰謝料は払う！　だから、俺との婚約を破棄してくれ！　俺は彼女と一緒になりたいんだ！」

　そう言って、私の中ではすでに元婚約者であるディーンが彼の隣に座る豊満な胸を持つ色気たっぷりのご令嬢を抱き寄せました。
　ヒナタから噂を聞いた二日後、ディーンはなぜか新しい婚約者と共に我が家にやってきて、今のこの状態です。

　前々から思ってましたが、やっぱり頭がよろしくないですよね？
　彼女連れてくる必要あります？

「慰謝料というのは、どれくらいいただけるんです？」

　私の左隣りに座っている、お父様が引きつった笑みを浮かべて問い返すと、ディーンは驚きの金額を提示してきました。
　多いのではなく少なすぎる金額です。
　私の右隣に座るお母様は、膝の上に置いていた私の両手を強く握りしめてきました。
　怒りをおさえようとしているみたいです。

「少なすぎます！　こちらから慰謝料の金額は連絡しますんで、絶対に支払って下さい！　支払えないのなら婚約破棄はできませんよ！　いいですね？」

　お父様の隣に座っていたヒナタは立ち上がると、手で扉を指し示す。

「今日はお帰りください」

　ヒナタの顔は笑っているけれど、帰れオーラがはっきりと出ていたため、ディーンと彼の新しい婚約者は帰っていきましたが、帰り際、女性の方は私を見下すような笑みを投げてから帰っていかれました。

「あー、胸糞悪いったらありゃしない！」

　扉が閉まって少ししてから、ヒナタが頭をかきむしりながら叫ぶので、私がたしなめます。

「ヒナタ、私は大丈夫なのです。けれど、お父様、お母様、申し訳ございませんが、私は嫁ぎ先がもう見つからないかもしれません」

　娘が嫁にいけないのは、この国の貴族の間では良く思われていません。
　～なのです、という変な口癖が直らない私は変な女だと嫌がられてしまうだろうから、余計に貰い手がないだろうし、そうなった場合、ますます悪い風評が立ちお父様達に迷惑がかかってしまいます。
　口癖については悪いと思っているから直そうとはしていますが、気を抜いてしまうと出てしまうのです。
　　そう思って、しょんぼりして言うと、お母様が私を抱きしめてくれました。

「リノアったら気にしなくて良いのよ。だって、あなたは悪くないもの」
「そうだよ。お嫁にいけなくてもいいじゃないか。ヒナタ、お前なら私達がいなくなっても、リノアを一人になんかしたりしないだろ？」
「もちろんです！　俺には婚約者がいますが、とても可愛くて優しい人です。ですから、姉さんとの同居も許してくれるはずです！」
「お母様、お父様、ヒナタ…、本当にありがとう」

　家族のありがたみを感じていた時でした。

「旦那様、大変です！」

　執事長のサーヴィスの声と一緒に扉を叩く音が聞こえました。

「うるさいな。なんだって言うんだ」

　お父様は鬱陶しそうにしながらも、サーヴィスに言葉を返します。

「入れ」
「旦那様、急ぎで開封していただきたいというお手紙が届きました！」
「誰からだ？」
「クラーク辺境伯からです！」

　その名を聞いてお父様だけでなく、私達家族全員がびくりと身体を震わせた。