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10 7番目の妻からの誘い
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翌日の昼過ぎ、ターズ様が王妃陛下に呼び出されている間、私がセブラナ様とレオナルド殿下を庭園に案内することになった。
それを聞いたターズ様は不服そうにして、他の人に案内させようとした。
でも、ルド様が「王妃陛下がお待ちです」と急かして連れて行ってくれたので助かった。
ルド様が私の味方をしてくれていることに、ターズ様も気がついている。
だから、ルド様をどうするか迷っている感じのようだ。
でも、今のターズ様はそれどころじゃなかった。
ターズ様はセブラナ様と私が接触することを嫌がっているのではなく、レオナルド殿下と私が一緒にいることが気に食わないみたい。
まさか、嫉妬とかじゃないわよね。
自分は他国に何人も妻を作っておいて、人のことをどうこう言わないでほしいわ。
お互いの護衛や侍女を少し離れた場所に歩かせて、私から早速、小声で話しかける。
「セブラナ様、お手紙をいただきありがとうございました」
「いえ、……あの、本当に申し訳ございませんでした」
お礼を言うと、セブラナ様が上目遣いで謝ってきた。
「どうして謝るのですか?」
「リリララ様という、婚約者がいることを知っていたのに、ターズ様と結婚してしまいました。本当に申し訳ございません!」
「そんな! 私のことは気にしないでください。それにセブラナ様も被害者なのですから!」
「……そう言っていただけると、とても有り難いです」
しゅんと肩を落とすセブラナ様がとても可愛らしい。
他の妻たちがセブラナ様のような人たちだったら、私の気持ちはまた違っていたのかしら。
――いや、ないわね。
ターズ様の妻でいることが苦痛だもの。
他の妻が良い人であったとしても別れたい。
「早速だが、嫌な質問をしてもいいか?」
「どうぞ」
頷くと、レオナルド殿下は眉間に刻まれた皺を深くして尋ねてくる。
「リリララ妃は自分が番号で呼ばれていることを知っているのか」
「知っています」
「そのことをターズ殿下は知ってるのか?」
「私が知っているということに薄々気づいているかもしれませんが、どうやって知ったかはわかっていないと思います」
私が番号で呼ばれていることをどうやって知ったか話すと、レオナルド殿下は「わざとだな」と呟いた。
「わざと、というのは側近の行動がでしょうか」
「リリララ妃の話から推測すると、その可能性が高い。わざと聞かせようとしたんじゃかいか? もしくは、その側近がよっぽど仕事ができない人間になるが」
「仕事ができる人ですから、わざとだと思います。気になるのは、どうしてそんなやり方をしたかです。そんな回りくどいことをせずに私にこっそり教えてくれたら良いと思うのですけど」
「人伝に聞くより、本人の口から聞くのが一番だろ」
「……そうですわね」
元々はローニャの関係で知り合ったルド様だけど、学生時代はもっと気軽に話をしていた。
私は人を噂では判断しないようにしている。
人は誰かを貶めるために嘘をつくことが多々ある。
だから、自分の目や耳で確かめないと嫌なのだ。
ルド様は私の性格を知っているから、本人に言わせてくれたのね。
「そういえば、その側近はターズ様に惑わされていないようですが、それはどうしてなのでしょうか」
セブラナ様にそう尋ねられた私は、王妃陛下から聞いた紫色の瞳の話をした。
「そうだったんですね。だから、お兄様も?」
「遺伝によって抵抗できているということか」
「そうだと思います」
レオナルド殿下の発言に私が頷くと、セブラナ様が首を傾げる。
「私は紫色の瞳ではないのですが、どうして今は冷静になれているのでしょう」
2人に話をすることは王妃陛下に許可を取っている。
だから、血筋に紫色の瞳の人がいた場合は免疫力のようなものがあるのではないかと伝えた。
「……そう言われてみればそうかもしれません。……わたしのお父様も同じように、冷静に戻ったりするんです。お母様は、その、惑わされたままですが。そういわれてみれば、お兄様はターズ様に惑わされたことは一度もないですものね」
セブラナ様が納得していると、レオナルド殿下が頷いて話し始める。
「俺はターズ殿下と長く見つめ合ったりすることがないからな。リリララ妃が惑わされたのも長く見つめ合ったからだろう」
「私もそう思います。長く視線が合わなければ、冷静なままでいられました」
「ということは、ターズ様の側近の方も……」
セブラナ様が確認するように私を見る。
「確認はしていませんが、彼にも紫色の瞳の血縁者がいるのかもしれません」
頷くと、セブラナ様は小首を傾げる。
「……それならどうして、ターズ様はその方を側近として置いているのでしょうか」
「派閥の関係でクビにしたくてもできないのではないかと思います」
国の内情を他国の王家に詳しく話すわけにはいかない。
それはセブラナ様も理解してくれたようで、納得したと言わんばかりに二度、首を縦に振った。
「一つの勢力に力が偏ってもいけませんものね」
「あまり公に力を使いすぎても墓穴を掘るだろうに、どうしてターズ殿下は頻繁に力を使うんだろうか」
「王妃陛下はターズ様が自分の力を使いこなせていないんじゃないかと言っておられました」
「くそ! 厄介だな。垂れ流し状態か」
「お兄様、くそ、と言ってはいけないとお願いしておりますでしょう」
「悪かったよ」
セブラナ様に窘められて、レオナルド殿下は整った顔を歪めた。
兄と妹のやり取りを微笑ましく眺めてから尋ねる。
「ところで、ターズ様に何か秘密があるとわかっていて、どうしてこちらにいらっしゃったんですか? もしかして、離婚するためでしょうか」
「……正直に話をしてくれたようだから、こちらも話すが、サレナール王国にまともな王族や王族の関係者がいるのか確かめに来た。それに妹を穢したくない」
そういえば、手紙にはセブラナ様はターズ様と肉体関係はないと書いてあったわね。
相手が駄目な人間だとわかっているのなら、そんな関係にならないようにするのは当たり前のことだわ。
「では、夜は別々に過ごしているのですね」
「はい。……一緒にいる時は、ターズ様のことを大好きだと思うんです。でも、離れてしまうと急に冷めるので、一緒にいなくても苦ではないんです」
「セブラナ様がターズ様に身を捧げる前に目を覚ますことができて良かったです。他の人たちは魅了の力に惑わされて一線を越えているでしょうから」
ターズ様の見た目自体はそう悪くない。
だから、魅了の力が薄れても彼のことを好きなままでいられる人も多いのだと思う。
王女なら箱入り娘のように育てられた人も多いでしょう。
しかも周りがターズ様を認めているのなら余計に疑わないはずだわ。
考えていると、レオナルド殿下が尋ねてくる。
「そういえば、この国では紫色の瞳は不吉だと言われているんだよな」
「はい。ライレフ王国ではどうなんでしょうか」
「こちらは逆だ。紫色の瞳は邪悪なものを祓うと言われている」
「……ということは」
「昔、同じようなことがあったのかもしれないな」
私とレオナルド殿下は顔を見合わせて頷きあった。
すると、セブラナ様が声を出して笑う。
「ふふ。お兄様、普段は女性と話すことを嫌がりますのに、リリララ様は大丈夫なのですね」
「たぶん、俺の紫色の瞳を珍しがらないからだろうな」
「……そう言われてみればそうかもしれませんわね。ライレフ王国で出会った人の中で紫色の瞳を持つ人は、お兄様だけですわ」
「見世物みたいで嫌なんだ」
サレナール王国では紫色の瞳は不吉だと言われていたから、瞳の色を珍しがることはあっても、そのことで近寄ってくる人はいなかった。
でも、逆のパターンだとまた違ってくるみたいね。
「こんなことを言うのもなんですが、レオナルド殿下が少し羨ましいです」
「……どうしてだ」
「離婚して平民になれても、この国にいれば紫色の瞳というだけで迫害を受けるでしょうから」
平民として暮らしていくだけで大変なのに、瞳のせいで受け入れてもらえないだろうから余計に辛い。
「あの、……リリララ様は離婚を考えていらっしゃるのですか?」
「はい」
力強く答えると、セブラナ様は両手を合わせ、笑みを浮かべて言う。
「では、よろしければライレフ王国にいらっしゃいませんか。紫色の瞳を持っているリリララ様なら国民も大歓迎だと思いますわ」
「ええっ!?」
思ってもいない申し出に、はしたないとわかっていながらも大きな声で聞き返してしまった。
それを聞いたターズ様は不服そうにして、他の人に案内させようとした。
でも、ルド様が「王妃陛下がお待ちです」と急かして連れて行ってくれたので助かった。
ルド様が私の味方をしてくれていることに、ターズ様も気がついている。
だから、ルド様をどうするか迷っている感じのようだ。
でも、今のターズ様はそれどころじゃなかった。
ターズ様はセブラナ様と私が接触することを嫌がっているのではなく、レオナルド殿下と私が一緒にいることが気に食わないみたい。
まさか、嫉妬とかじゃないわよね。
自分は他国に何人も妻を作っておいて、人のことをどうこう言わないでほしいわ。
お互いの護衛や侍女を少し離れた場所に歩かせて、私から早速、小声で話しかける。
「セブラナ様、お手紙をいただきありがとうございました」
「いえ、……あの、本当に申し訳ございませんでした」
お礼を言うと、セブラナ様が上目遣いで謝ってきた。
「どうして謝るのですか?」
「リリララ様という、婚約者がいることを知っていたのに、ターズ様と結婚してしまいました。本当に申し訳ございません!」
「そんな! 私のことは気にしないでください。それにセブラナ様も被害者なのですから!」
「……そう言っていただけると、とても有り難いです」
しゅんと肩を落とすセブラナ様がとても可愛らしい。
他の妻たちがセブラナ様のような人たちだったら、私の気持ちはまた違っていたのかしら。
――いや、ないわね。
ターズ様の妻でいることが苦痛だもの。
他の妻が良い人であったとしても別れたい。
「早速だが、嫌な質問をしてもいいか?」
「どうぞ」
頷くと、レオナルド殿下は眉間に刻まれた皺を深くして尋ねてくる。
「リリララ妃は自分が番号で呼ばれていることを知っているのか」
「知っています」
「そのことをターズ殿下は知ってるのか?」
「私が知っているということに薄々気づいているかもしれませんが、どうやって知ったかはわかっていないと思います」
私が番号で呼ばれていることをどうやって知ったか話すと、レオナルド殿下は「わざとだな」と呟いた。
「わざと、というのは側近の行動がでしょうか」
「リリララ妃の話から推測すると、その可能性が高い。わざと聞かせようとしたんじゃかいか? もしくは、その側近がよっぽど仕事ができない人間になるが」
「仕事ができる人ですから、わざとだと思います。気になるのは、どうしてそんなやり方をしたかです。そんな回りくどいことをせずに私にこっそり教えてくれたら良いと思うのですけど」
「人伝に聞くより、本人の口から聞くのが一番だろ」
「……そうですわね」
元々はローニャの関係で知り合ったルド様だけど、学生時代はもっと気軽に話をしていた。
私は人を噂では判断しないようにしている。
人は誰かを貶めるために嘘をつくことが多々ある。
だから、自分の目や耳で確かめないと嫌なのだ。
ルド様は私の性格を知っているから、本人に言わせてくれたのね。
「そういえば、その側近はターズ様に惑わされていないようですが、それはどうしてなのでしょうか」
セブラナ様にそう尋ねられた私は、王妃陛下から聞いた紫色の瞳の話をした。
「そうだったんですね。だから、お兄様も?」
「遺伝によって抵抗できているということか」
「そうだと思います」
レオナルド殿下の発言に私が頷くと、セブラナ様が首を傾げる。
「私は紫色の瞳ではないのですが、どうして今は冷静になれているのでしょう」
2人に話をすることは王妃陛下に許可を取っている。
だから、血筋に紫色の瞳の人がいた場合は免疫力のようなものがあるのではないかと伝えた。
「……そう言われてみればそうかもしれません。……わたしのお父様も同じように、冷静に戻ったりするんです。お母様は、その、惑わされたままですが。そういわれてみれば、お兄様はターズ様に惑わされたことは一度もないですものね」
セブラナ様が納得していると、レオナルド殿下が頷いて話し始める。
「俺はターズ殿下と長く見つめ合ったりすることがないからな。リリララ妃が惑わされたのも長く見つめ合ったからだろう」
「私もそう思います。長く視線が合わなければ、冷静なままでいられました」
「ということは、ターズ様の側近の方も……」
セブラナ様が確認するように私を見る。
「確認はしていませんが、彼にも紫色の瞳の血縁者がいるのかもしれません」
頷くと、セブラナ様は小首を傾げる。
「……それならどうして、ターズ様はその方を側近として置いているのでしょうか」
「派閥の関係でクビにしたくてもできないのではないかと思います」
国の内情を他国の王家に詳しく話すわけにはいかない。
それはセブラナ様も理解してくれたようで、納得したと言わんばかりに二度、首を縦に振った。
「一つの勢力に力が偏ってもいけませんものね」
「あまり公に力を使いすぎても墓穴を掘るだろうに、どうしてターズ殿下は頻繁に力を使うんだろうか」
「王妃陛下はターズ様が自分の力を使いこなせていないんじゃないかと言っておられました」
「くそ! 厄介だな。垂れ流し状態か」
「お兄様、くそ、と言ってはいけないとお願いしておりますでしょう」
「悪かったよ」
セブラナ様に窘められて、レオナルド殿下は整った顔を歪めた。
兄と妹のやり取りを微笑ましく眺めてから尋ねる。
「ところで、ターズ様に何か秘密があるとわかっていて、どうしてこちらにいらっしゃったんですか? もしかして、離婚するためでしょうか」
「……正直に話をしてくれたようだから、こちらも話すが、サレナール王国にまともな王族や王族の関係者がいるのか確かめに来た。それに妹を穢したくない」
そういえば、手紙にはセブラナ様はターズ様と肉体関係はないと書いてあったわね。
相手が駄目な人間だとわかっているのなら、そんな関係にならないようにするのは当たり前のことだわ。
「では、夜は別々に過ごしているのですね」
「はい。……一緒にいる時は、ターズ様のことを大好きだと思うんです。でも、離れてしまうと急に冷めるので、一緒にいなくても苦ではないんです」
「セブラナ様がターズ様に身を捧げる前に目を覚ますことができて良かったです。他の人たちは魅了の力に惑わされて一線を越えているでしょうから」
ターズ様の見た目自体はそう悪くない。
だから、魅了の力が薄れても彼のことを好きなままでいられる人も多いのだと思う。
王女なら箱入り娘のように育てられた人も多いでしょう。
しかも周りがターズ様を認めているのなら余計に疑わないはずだわ。
考えていると、レオナルド殿下が尋ねてくる。
「そういえば、この国では紫色の瞳は不吉だと言われているんだよな」
「はい。ライレフ王国ではどうなんでしょうか」
「こちらは逆だ。紫色の瞳は邪悪なものを祓うと言われている」
「……ということは」
「昔、同じようなことがあったのかもしれないな」
私とレオナルド殿下は顔を見合わせて頷きあった。
すると、セブラナ様が声を出して笑う。
「ふふ。お兄様、普段は女性と話すことを嫌がりますのに、リリララ様は大丈夫なのですね」
「たぶん、俺の紫色の瞳を珍しがらないからだろうな」
「……そう言われてみればそうかもしれませんわね。ライレフ王国で出会った人の中で紫色の瞳を持つ人は、お兄様だけですわ」
「見世物みたいで嫌なんだ」
サレナール王国では紫色の瞳は不吉だと言われていたから、瞳の色を珍しがることはあっても、そのことで近寄ってくる人はいなかった。
でも、逆のパターンだとまた違ってくるみたいね。
「こんなことを言うのもなんですが、レオナルド殿下が少し羨ましいです」
「……どうしてだ」
「離婚して平民になれても、この国にいれば紫色の瞳というだけで迫害を受けるでしょうから」
平民として暮らしていくだけで大変なのに、瞳のせいで受け入れてもらえないだろうから余計に辛い。
「あの、……リリララ様は離婚を考えていらっしゃるのですか?」
「はい」
力強く答えると、セブラナ様は両手を合わせ、笑みを浮かべて言う。
「では、よろしければライレフ王国にいらっしゃいませんか。紫色の瞳を持っているリリララ様なら国民も大歓迎だと思いますわ」
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