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50 都合のいい女ではありませんので①
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セルロッテ様は連絡があった数時間後に、我が家に訪ねてこられ、フィルの同席も認めてくれたので、お父様とわたし、フィルの3人で応対することになった。
セルロッテ様は急な来訪を詫びてくださったあと、アフック様についての話を聞かせてくれた。
除籍されたアフック様は、しばらくはエルモード邸で大人しくしていたらしい。
エルモード伯爵夫妻は、これ以上自分の息子が馬鹿なことをしないようにと彼を見張っていたらしいけれど、その生活にアフック様が耐えられなかった。
彼は二度とエルモード伯爵家に戻らないという約束をして家を出た。
そして、貴族の女性の愛人として養ってもらい、自分の家を買ってもらったりして、最初のうちは順調に暮らしていたらしい。
でも、彼は一人の愛人では物足りなくなり、多くの女性を騙していった。
「アフック様の話は社交界では噂になっているはずです。それなのに、どうして女性たちはアフック様を助けようとしたのでしょうか」
「夫と上手くいっていない女性を狙っていたようね。夫は優しくしてくれないけれど、アフックは優しくしてくれる。アフックと会うことで夫との距離は離れていくばかりだから、逆にアフックに救いを求めたのよ」
「自分を相手にしてくれない夫よりも、お金目当てだとわかっていても優しくしてくれるアフック様に癒やしを求め、その内に本気になってしまったというところでしょうか」
わたしの言葉にセルロッテ様は大きく頷いてから、話を続ける。
「アフックを愛人にした中の一人に嫉妬深い女性がいて、一生養っていくから自分だけを見てほしいという人が現れたようなの。だけど、アフックは相手にしなかった。しかも、お前は都合のいい女でしかないのだから、ワガママなことを言うなと言ったそうよ」
「助けてもらっておきながらなんてことを言うんでしょうか」
「だから、殺されたの」
「えっ!?」
驚いたのは、わたしだけではなかった。
フィルもお父様もわたしのように声は上げなかったけれど、驚いた顔をしてセルロッテ様を見つめている。
「相手の女性がナイフを持ち出して、口論になったそうよ。もみ合っている内にアフックの首を……」
わたしが息を呑んだからか、セルロッテ様は口を閉じたあと、わたしが落ち着いたことを確認してから話を続ける。
「冷たい言い方をするけれど、罰が当たったのよ。よくよく調べてみれば、アフックの父である、わたしの息子も女性蔑視が酷すぎたわ。だから嫁も浮気に走ったのよ」
セルロッテ様は大きなため息を吐いた。
アフック様たちは父親に虐げられ、自分に優しくしてくれた男性との浮気に走った母親を見ていたから、女性は夫と上手くいっていないのなら、簡単に浮気をするのだと思い込んだのかもしれない。
セルロッテ様は大きく息を吐いたあと、わたしを見つめる。
「今日はその報告と、一つだけお願いがあって来たの」
「何でしょうか」
「あなたとリアド辺境伯令息の結婚式にオズックを呼んでほしいの。まだ、あなたとよりを戻そうと考えているみたいだから、引導を渡してやってちょうだい」
セルロッテ様は厳しい口調で言った。
口では厳しいことを言っておられるけれど、目尻には涙が浮かんでいたから、わざと視線を逸らして応える。
「フィリップ様が良いというのであればかまいません」
「俺もアルミラ嬢が良いというのであればかまいません」
わたしたちが頷くと、セルロッテ様は「アフックの葬儀などで忙しいから」と言って、慌ただしく帰っていかれたのだった。
*****
それから、約一年が過ぎた頃、わたしとフィルの結婚式が執り行われることになった。
ウエディングドレスはいくつかあるデザインの中から、フィルと一緒に選んだドレスで、今日のメイクはイボンヌさんにお願いしている。
両家の家族や友人にお祝いされて、とても素敵な日になるはず。
だけど、その前にセルロッテ様との約束を果たすことにした。
別に絶対にやらなければいけないことではない。
でも、セルロッテ様にはお世話になっていることや、オズックの様子を見ておきたいということもあった。
ウエディングドレスに着替える前に、フィルと一緒に会場の控室にオズックを呼び出した。
式場のスタッフの人に車椅子を押してもらい、オズックは部屋にやって来た。
車椅子に座っているオズックは、昔とは比べ物にならないくらいにやせ細っていて、見るだけで痛々しい気持ちになった。
でも、そんな気持ちを吹き飛ばすような言葉が、オズックンの口から発された。
「アルミラ! 助けてくれ! 君はやり過ぎだ! オレは君にここまで酷いことをしていない!」
兄が女性関係で殺されたというのに、この人は、自分もそれだけのことをされてしまうようなことをしたのだと、どうしてわからないのかしら。
セルロッテ様は急な来訪を詫びてくださったあと、アフック様についての話を聞かせてくれた。
除籍されたアフック様は、しばらくはエルモード邸で大人しくしていたらしい。
エルモード伯爵夫妻は、これ以上自分の息子が馬鹿なことをしないようにと彼を見張っていたらしいけれど、その生活にアフック様が耐えられなかった。
彼は二度とエルモード伯爵家に戻らないという約束をして家を出た。
そして、貴族の女性の愛人として養ってもらい、自分の家を買ってもらったりして、最初のうちは順調に暮らしていたらしい。
でも、彼は一人の愛人では物足りなくなり、多くの女性を騙していった。
「アフック様の話は社交界では噂になっているはずです。それなのに、どうして女性たちはアフック様を助けようとしたのでしょうか」
「夫と上手くいっていない女性を狙っていたようね。夫は優しくしてくれないけれど、アフックは優しくしてくれる。アフックと会うことで夫との距離は離れていくばかりだから、逆にアフックに救いを求めたのよ」
「自分を相手にしてくれない夫よりも、お金目当てだとわかっていても優しくしてくれるアフック様に癒やしを求め、その内に本気になってしまったというところでしょうか」
わたしの言葉にセルロッテ様は大きく頷いてから、話を続ける。
「アフックを愛人にした中の一人に嫉妬深い女性がいて、一生養っていくから自分だけを見てほしいという人が現れたようなの。だけど、アフックは相手にしなかった。しかも、お前は都合のいい女でしかないのだから、ワガママなことを言うなと言ったそうよ」
「助けてもらっておきながらなんてことを言うんでしょうか」
「だから、殺されたの」
「えっ!?」
驚いたのは、わたしだけではなかった。
フィルもお父様もわたしのように声は上げなかったけれど、驚いた顔をしてセルロッテ様を見つめている。
「相手の女性がナイフを持ち出して、口論になったそうよ。もみ合っている内にアフックの首を……」
わたしが息を呑んだからか、セルロッテ様は口を閉じたあと、わたしが落ち着いたことを確認してから話を続ける。
「冷たい言い方をするけれど、罰が当たったのよ。よくよく調べてみれば、アフックの父である、わたしの息子も女性蔑視が酷すぎたわ。だから嫁も浮気に走ったのよ」
セルロッテ様は大きなため息を吐いた。
アフック様たちは父親に虐げられ、自分に優しくしてくれた男性との浮気に走った母親を見ていたから、女性は夫と上手くいっていないのなら、簡単に浮気をするのだと思い込んだのかもしれない。
セルロッテ様は大きく息を吐いたあと、わたしを見つめる。
「今日はその報告と、一つだけお願いがあって来たの」
「何でしょうか」
「あなたとリアド辺境伯令息の結婚式にオズックを呼んでほしいの。まだ、あなたとよりを戻そうと考えているみたいだから、引導を渡してやってちょうだい」
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「フィリップ様が良いというのであればかまいません」
「俺もアルミラ嬢が良いというのであればかまいません」
わたしたちが頷くと、セルロッテ様は「アフックの葬儀などで忙しいから」と言って、慌ただしく帰っていかれたのだった。
*****
それから、約一年が過ぎた頃、わたしとフィルの結婚式が執り行われることになった。
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でも、そんな気持ちを吹き飛ばすような言葉が、オズックンの口から発された。
「アルミラ! 助けてくれ! 君はやり過ぎだ! オレは君にここまで酷いことをしていない!」
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