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35 婚約者の苦悩

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 詳しく調べてみると、ルララ辺境伯令嬢がドーナモイ伯爵令息を捨てた理由は、彼が浮気をしたからという理由ではないらしい。

 公にされている理由は浮気をした彼との婚約を破棄したことになっているけれど、本当の理由はルララ辺境伯令嬢がオズックに乗り換えたのだ。

 本当にドロドロした関係になってしまった。

 わたしにしてみれば、オズックがわたしに関わってくることはなくなるだろうし、誰かとくっついてくれることは有り難い。

 まさか、相手がわたしの婚約者の元婚約者になるだなんて思ってもいなかった。
 ルララ辺境伯令嬢はドーナモイ伯爵令息のことを本当に好きだと思っていたからだ。
 そして、その他にも予想外の出来事が起きた。

 話を聞いた次の日に、ルララ辺境伯令嬢からオズックのことで話が聞きたいと連絡があった。

 そのついでと言わんばかりに、フィルのことでも話しておきたいこともあるのだと手紙には書かれていた。

 フィルに相談すると、話を聞いて判断してほしいと返事がきた。

 彼は未だに自分のことを良くない人間だと思い続けている。

 わたしとしては、彼のことを少しずつだけれど理解していっているつもりだから、ルララ辺境伯令嬢に会う必要はない。

 でも、フィルは自分では気付けなかった、何か悪い部分があるかもしれないから、会わなくても話しを聞いてはほしいという。

 彼がそうしないと納得しないようだから、ルララ辺境伯令嬢と会うことに決めた。
 その代わり、オズックの話はしても良いけれど、彼を許すことはないという条件はつけておいた。

 そのことを納得してもらってから、会う日付を決め、それまでにフィルと会って、ルララ辺境伯令嬢の話を聞くことにした。



 フィルは仕事で忙しいので、融通がきくわたしがフィルに会いに行くと、辺境伯邸の応接室に案内してくれた。

「ルララ辺境伯令嬢はイボンヌ程ではないけど、かなりポジティブな性格だよ。ワガママな点で言えばイボンヌよりも上だな。彼女の場合は自分のことだけを考えているわけじゃないから」
「イボンヌさんはリアド辺境伯邸でうまくやっているのね」
「なんだかんだと可愛がられてるよ。シャーロットともうまくやってるしな。あとで会っていけばいい。シャーロットは仕事だけど、イボンヌは邸内にいるよ」
「それなら良かったわ」

 イボンヌさんとは良い知り合い方じゃない。
 だけど、何だか彼女のことを憎めない。

 イボンヌさんはシャーロット様とも性格が似ても似つかないけれど、だからこそ上手くやれているのかもしれない。
 そんなことを考えてから、それよりも、聞いておきたいことを忘れないうちに聞いておく。

「フィルはわたしに隠していることはないわよね?」
「どういうことだよ」
「あなたが自分に自信がなさすぎるのが、わたしには疑問なの。辺境伯家の三男だということを気にしているにしたって、自分を卑下しすぎだわ。だから、何か隠していることがあるのかと思ったの」
「ない。伝えられていないことはたくさんあるかもしれないが、聞かれたら答えられることしかない」

 フィルは躊躇う様子もなく、わたしの目を見つめてはっきりと答えた。
 では、質問してみようと思い、少しだけ考えてから尋ねる。

「昔、浮気していたとか」
「あるわけねぇだろ」
「それは失礼しました。わたしの周りで浮気や不倫をしている人が多すぎて疑いたくなってしまうの」
「浮気や不倫をしている人間の多くは、それがバレたら色々と不利益があることはわかってる。だから隠すんだ。そして、そういうことを強く責める人間には絶対に口にしない」
「わたしだって責めるわよ」
「今回の場合は当事者だったからわかったんだろ」

 フィルは苦笑してから話題を戻す。

「俺が会ってほしいと思っている理由は自分のことって自分にはわからないだろ。気づけていなかった部分もたくさんあると思う。だから、ルララ辺境伯令嬢から話を聞いて、アルミラがちゃんと判断してほしいんだ。正直言うと、これ以上仲良くなってから、婚約を破棄されるのは辛い」
「わかったわ」

 フィルは婚約破棄について、わたし以上に傷ついているのだとわかり、彼が満足してくれるのなら、ルララ辺境伯令嬢に会うことは、そう苦痛にはならないと思った。
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