上 下
15 / 59

12 話し合い②

しおりを挟む
「まったく、誰があの二人をここまで通して良いと許可したのかしら。あとで調べて罰を与えないといけないわね」

 セルロッテ様は大きく息を吐いたあと、座ったままで騒いでいる二人を一喝する。

「それ以上騒がしくするようなら、二度と敷居をまたがせないわよ! 大人しく案内された部屋で待っていなさい!」

 すると、二人はぴたりと騒ぐのをやめた。
 セルロッテ様は小さく鼻を鳴らしたあと、わたしに視線を向けて謝ってくる。

「ごめんなさいね。今日、あなたがオズックの話をしに来るということを、あの二人には話をしていたの。まずはあなたとの話を終えてから二人と話をするつもりだったんだけれど、こんなことをしに来るということは、よっぽど後ろ暗いことがあるのでしょうね」
「そうですわね。自分たちの言っていることが嘘でなければ、あんなに焦る必要もないかと思います」
「……そうかもしれないわね」

 セルロッテ様は頷いてから、話を続ける。

「本当はあなたの話すことを信じるつもりはなかったのよ」
「では、なぜ今日、お話を聞いてくださったのです?」
「リアド辺境伯からの依頼があったことと、私は噂というものが嫌いだからよ。自分の目で見たものしか信じたくないの。この意味はわかるわね」
「では、ご協力いただけるのですか」
「協力というよりかは、オズックが悪くないとこの目で確かめたいだけよ」
「何をご覧になっても、オズック様は悪くないとおっしゃられるのであれば意味がないのですが」
「あなた、私を馬鹿にしているの」

 和やかだったセルロッテ様の表情が険しいものに変わった。
 これについては失礼だったと感じて、頭を下げる。

「大変失礼な発言をしてしまったことをお詫び申し上げます」
「そうね。思ったことを口にすることは悪くはないけれど、時と場合や、相手にもよるわね」

 セルロッテ様は小さく息を吐いたかと思うと、ゆっくりとした動作で立ち上がる。

「余計な人間は追い払うから、あなたはもう帰りなさい」
「お待ち下さい、セルロッテ様、婚約の破棄もしくは解消を認めていただくにはどうしたら良いのです? オズック様に認めてもらえば良いのでしょうか」
「そうね。あなたが悪いという理由ならかまわないわ」
「それはできません」
「あのね、アルミラさん。あなたがただ、婚約破棄を望んでいるだけなら良いのよ」

 セルロッテ様は扉に向かっていた足を止めて、こちらを振り返る。
 そして、わたしに冷たい目を向けた。

「あなたは婚約破棄を望んでいるだけじゃなく、オズックと相手の女の破滅を望んでいる。それがわかるから止めているの。あなたとオズックの繋がりがある以上、あなたはオズックを陥れられない。自分の立場も悪くなる可能性があるからね」
「わたしがそんなことを考える人間だと思われるのですか?」
「そう思うから言っているの。根拠はないわ。言えるのは、あなたの言っていることが本当ならば、大変傷ついたことでしょう。でも、今のあなたは泣いて暮らすわけでもなく、オズックに泣いて縋る様子もない。覚悟を決めた人間が恐ろしいことを私は知っているわ」

 セルロッテ様の言葉を聞いたわたしは微笑んだだけで何も言葉を返さなかった。

 人は中々変われない。
 でも、わたしの中に渦巻いているどす黒い感情も消えることはない。

 わたしの目的は今は婚約破棄ではない。
 オズックとファニの社会的地位をなくすことだ。

 職場にいられなくして、社交界からも排除する。
 彼らから居場所を奪い、わたしの目の前に二度と現せないようにさせる。
 婚約破棄はその目的にたどり着くための段階の一つだ。
 今の段階で婚約破棄をすれば、わたしが悪者になってしまう。

 セルロッテ様を納得させれば、オズックやエルモード夫妻が何を言おうが関係ない。

「オズックが酷いことを本当にしているのならば、私はあなたに味方しましょう。納得できる証拠を私に見せてちょうだい」
「承知いたしました」

 その後、セルロッテ様はここでした話は誰にも話さないことを約束してから部屋を出て行った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】愛してなどおりませんが

仲村 嘉高
恋愛
生まれた瞬間から、王妃になる事が決まっていたアメリア。 物心がついた頃には、王妃になる為の教育が始まった。 父親も母親も娘ではなく、王妃になる者として接してくる。 実兄だけは妹として可愛がってくれたが、それも皆に隠れてコッソリとだった。 そんなある日、両親が事故で亡くなった同い年の従妹ミアが引き取られた。 「可愛い娘が欲しかったの」 父親も母親も、従妹をただただ可愛いがった。 婚約者である王太子も、婚約者のアメリアよりミアとの時間を持ち始め……? ※HOT最高3位!ありがとうございます! ※『廃嫡王子』と設定が似てますが、別のお話です ※またやっちまった、断罪別ルート。(17話から)  どうしても決められなかった!!  結果は同じです。 (他サイトで公開していたものを、こちらでも公開しました)

【完結】我儘で何でも欲しがる元病弱な妹の末路。私は王太子殿下と幸せに過ごしていますのでどうぞご勝手に。

白井ライス
恋愛
シャーリー・レインズ子爵令嬢には、1つ下の妹ラウラが居た。 ブラウンの髪と目をしている地味なシャーリーに比べてラウラは金髪に青い目という美しい見た目をしていた。 ラウラは幼少期身体が弱く両親はいつもラウラを優先していた。 それは大人になった今でも変わらなかった。 そのせいかラウラはとんでもなく我儘な女に成長してしまう。 そして、ラウラはとうとうシャーリーの婚約者ジェイク・カールソン子爵令息にまで手を出してしまう。 彼の子を宿してーー

【完結】私を捨てて駆け落ちしたあなたには、こちらからさようならを言いましょう。

やまぐちこはる
恋愛
パルティア・エンダライン侯爵令嬢はある日珍しく婿入り予定の婚約者から届いた手紙を読んで、彼が駆け落ちしたことを知った。相手は同じく侯爵令嬢で、そちらにも王家の血筋の婿入りする婚約者がいたが、貴族派閥を保つ政略結婚だったためにどうやっても婚約を解消できず、愛の逃避行と洒落こんだらしい。 落ち込むパルティアは、しばらく社交から離れたい療養地としても有名な別荘地へ避暑に向かう。静かな湖畔で傷を癒やしたいと、高級ホテルでひっそり寛いでいると同じ頃から同じように、人目を避けてぼんやり湖を眺める美しい青年に気がついた。 毎日涼しい湖畔で本を読みながら、チラリチラリと彼を盗み見ることが日課となったパルティアだが。 様子がおかしい青年に気づく。 ふらりと湖に近づくと、ポチャっと小さな水音を立てて入水し始めたのだ。 ドレスの裾をたくしあげ、パルティアも湖に駆け込んで彼を引き留めた。 ∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞ 最終話まで予約投稿済です。 次はどんな話を書こうかなと思ったとき、駆け落ちした知人を思い出し、そんな話を書くことに致しました。 ある日突然、紙1枚で消えるのは本当にびっくりするのでやめてくださいという思いを込めて。 楽しんで頂けましたら、きっと彼らも喜ぶことと思います。

全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。

彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

真実の愛を見つけた婚約者(殿下)を尊敬申し上げます、婚約破棄致しましょう

さこの
恋愛
「真実の愛を見つけた」 殿下にそう告げられる 「応援いたします」 だって真実の愛ですのよ? 見つける方が奇跡です! 婚約破棄の書類ご用意いたします。 わたくしはお先にサインをしました、殿下こちらにフルネームでお書き下さいね。 さぁ早く!わたくしは真実の愛の前では霞んでしまうような存在…身を引きます! なぜ婚約破棄後の元婚約者殿が、こんなに美しく写るのか… 私の真実の愛とは誠の愛であったのか… 気の迷いであったのでは… 葛藤するが、すでに時遅し…

公爵令嬢の辿る道

ヤマナ
恋愛
公爵令嬢エリーナ・ラナ・ユースクリフは、迎えた5度目の生に絶望した。 家族にも、付き合いのあるお友達にも、慕っていた使用人にも、思い人にも、誰からも愛されなかったエリーナは罪を犯して投獄されて凍死した。 それから生を繰り返して、その度に自業自得で凄惨な末路を迎え続けたエリーナは、やがて自分を取り巻いていたもの全てからの愛を諦めた。 これは、愛されず、しかし愛を求めて果てた少女の、その先の話。 ※暇な時にちょこちょこ書いている程度なので、内容はともかく出来についてはご了承ください。 追記  六十五話以降、タイトルの頭に『※』が付いているお話は、流血表現やグロ表現がございますので、閲覧の際はお気を付けください。

さよなら、皆さん。今宵、私はここを出ていきます

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【復讐の為、今夜私は偽の家族と婚約者に別れを告げる―】 私は伯爵令嬢フィーネ・アドラー。優しい両親と18歳になったら結婚する予定の婚約者がいた。しかし、幸せな生活は両親の突然の死により、もろくも崩れ去る。私の後見人になると言って城に上がり込んできた叔父夫婦とその娘。私は彼らによって全てを奪われてしまった。愛する婚約者までも。 もうこれ以上は限界だった。復讐する為、私は今夜皆に別れを告げる決意をした―。 ※マークは残酷シーン有り ※(他サイトでも投稿中)

処理中です...