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12 話し合い②
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「まったく、誰があの二人をここまで通して良いと許可したのかしら。あとで調べて罰を与えないといけないわね」
セルロッテ様は大きく息を吐いたあと、座ったままで騒いでいる二人を一喝する。
「それ以上騒がしくするようなら、二度と敷居をまたがせないわよ! 大人しく案内された部屋で待っていなさい!」
すると、二人はぴたりと騒ぐのをやめた。
セルロッテ様は小さく鼻を鳴らしたあと、わたしに視線を向けて謝ってくる。
「ごめんなさいね。今日、あなたがオズックの話をしに来るということを、あの二人には話をしていたの。まずはあなたとの話を終えてから二人と話をするつもりだったんだけれど、こんなことをしに来るということは、よっぽど後ろ暗いことがあるのでしょうね」
「そうですわね。自分たちの言っていることが嘘でなければ、あんなに焦る必要もないかと思います」
「……そうかもしれないわね」
セルロッテ様は頷いてから、話を続ける。
「本当はあなたの話すことを信じるつもりはなかったのよ」
「では、なぜ今日、お話を聞いてくださったのです?」
「リアド辺境伯からの依頼があったことと、私は噂というものが嫌いだからよ。自分の目で見たものしか信じたくないの。この意味はわかるわね」
「では、ご協力いただけるのですか」
「協力というよりかは、オズックが悪くないとこの目で確かめたいだけよ」
「何をご覧になっても、オズック様は悪くないとおっしゃられるのであれば意味がないのですが」
「あなた、私を馬鹿にしているの」
和やかだったセルロッテ様の表情が険しいものに変わった。
これについては失礼だったと感じて、頭を下げる。
「大変失礼な発言をしてしまったことをお詫び申し上げます」
「そうね。思ったことを口にすることは悪くはないけれど、時と場合や、相手にもよるわね」
セルロッテ様は小さく息を吐いたかと思うと、ゆっくりとした動作で立ち上がる。
「余計な人間は追い払うから、あなたはもう帰りなさい」
「お待ち下さい、セルロッテ様、婚約の破棄もしくは解消を認めていただくにはどうしたら良いのです? オズック様に認めてもらえば良いのでしょうか」
「そうね。あなたが悪いという理由ならかまわないわ」
「それはできません」
「あのね、アルミラさん。あなたがただ、婚約破棄を望んでいるだけなら良いのよ」
セルロッテ様は扉に向かっていた足を止めて、こちらを振り返る。
そして、わたしに冷たい目を向けた。
「あなたは婚約破棄を望んでいるだけじゃなく、オズックと相手の女の破滅を望んでいる。それがわかるから止めているの。あなたとオズックの繋がりがある以上、あなたはオズックを陥れられない。自分の立場も悪くなる可能性があるからね」
「わたしがそんなことを考える人間だと思われるのですか?」
「そう思うから言っているの。根拠はないわ。言えるのは、あなたの言っていることが本当ならば、大変傷ついたことでしょう。でも、今のあなたは泣いて暮らすわけでもなく、オズックに泣いて縋る様子もない。覚悟を決めた人間が恐ろしいことを私は知っているわ」
セルロッテ様の言葉を聞いたわたしは微笑んだだけで何も言葉を返さなかった。
人は中々変われない。
でも、わたしの中に渦巻いているどす黒い感情も消えることはない。
わたしの目的は今は婚約破棄ではない。
オズックとファニの社会的地位をなくすことだ。
職場にいられなくして、社交界からも排除する。
彼らから居場所を奪い、わたしの目の前に二度と現せないようにさせる。
婚約破棄はその目的にたどり着くための段階の一つだ。
今の段階で婚約破棄をすれば、わたしが悪者になってしまう。
セルロッテ様を納得させれば、オズックやエルモード夫妻が何を言おうが関係ない。
「オズックが酷いことを本当にしているのならば、私はあなたに味方しましょう。納得できる証拠を私に見せてちょうだい」
「承知いたしました」
その後、セルロッテ様はここでした話は誰にも話さないことを約束してから部屋を出て行った。
セルロッテ様は大きく息を吐いたあと、座ったままで騒いでいる二人を一喝する。
「それ以上騒がしくするようなら、二度と敷居をまたがせないわよ! 大人しく案内された部屋で待っていなさい!」
すると、二人はぴたりと騒ぐのをやめた。
セルロッテ様は小さく鼻を鳴らしたあと、わたしに視線を向けて謝ってくる。
「ごめんなさいね。今日、あなたがオズックの話をしに来るということを、あの二人には話をしていたの。まずはあなたとの話を終えてから二人と話をするつもりだったんだけれど、こんなことをしに来るということは、よっぽど後ろ暗いことがあるのでしょうね」
「そうですわね。自分たちの言っていることが嘘でなければ、あんなに焦る必要もないかと思います」
「……そうかもしれないわね」
セルロッテ様は頷いてから、話を続ける。
「本当はあなたの話すことを信じるつもりはなかったのよ」
「では、なぜ今日、お話を聞いてくださったのです?」
「リアド辺境伯からの依頼があったことと、私は噂というものが嫌いだからよ。自分の目で見たものしか信じたくないの。この意味はわかるわね」
「では、ご協力いただけるのですか」
「協力というよりかは、オズックが悪くないとこの目で確かめたいだけよ」
「何をご覧になっても、オズック様は悪くないとおっしゃられるのであれば意味がないのですが」
「あなた、私を馬鹿にしているの」
和やかだったセルロッテ様の表情が険しいものに変わった。
これについては失礼だったと感じて、頭を下げる。
「大変失礼な発言をしてしまったことをお詫び申し上げます」
「そうね。思ったことを口にすることは悪くはないけれど、時と場合や、相手にもよるわね」
セルロッテ様は小さく息を吐いたかと思うと、ゆっくりとした動作で立ち上がる。
「余計な人間は追い払うから、あなたはもう帰りなさい」
「お待ち下さい、セルロッテ様、婚約の破棄もしくは解消を認めていただくにはどうしたら良いのです? オズック様に認めてもらえば良いのでしょうか」
「そうね。あなたが悪いという理由ならかまわないわ」
「それはできません」
「あのね、アルミラさん。あなたがただ、婚約破棄を望んでいるだけなら良いのよ」
セルロッテ様は扉に向かっていた足を止めて、こちらを振り返る。
そして、わたしに冷たい目を向けた。
「あなたは婚約破棄を望んでいるだけじゃなく、オズックと相手の女の破滅を望んでいる。それがわかるから止めているの。あなたとオズックの繋がりがある以上、あなたはオズックを陥れられない。自分の立場も悪くなる可能性があるからね」
「わたしがそんなことを考える人間だと思われるのですか?」
「そう思うから言っているの。根拠はないわ。言えるのは、あなたの言っていることが本当ならば、大変傷ついたことでしょう。でも、今のあなたは泣いて暮らすわけでもなく、オズックに泣いて縋る様子もない。覚悟を決めた人間が恐ろしいことを私は知っているわ」
セルロッテ様の言葉を聞いたわたしは微笑んだだけで何も言葉を返さなかった。
人は中々変われない。
でも、わたしの中に渦巻いているどす黒い感情も消えることはない。
わたしの目的は今は婚約破棄ではない。
オズックとファニの社会的地位をなくすことだ。
職場にいられなくして、社交界からも排除する。
彼らから居場所を奪い、わたしの目の前に二度と現せないようにさせる。
婚約破棄はその目的にたどり着くための段階の一つだ。
今の段階で婚約破棄をすれば、わたしが悪者になってしまう。
セルロッテ様を納得させれば、オズックやエルモード夫妻が何を言おうが関係ない。
「オズックが酷いことを本当にしているのならば、私はあなたに味方しましょう。納得できる証拠を私に見せてちょうだい」
「承知いたしました」
その後、セルロッテ様はここでした話は誰にも話さないことを約束してから部屋を出て行った。
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