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8 本人次第
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「久しぶりに来たけれど、ここは相変わらず大きくて綺麗な家だよね」
オズック様は先日の件など忘れたかのように、普段通りの笑顔で話しかけてきた。
「ありがとうございます。清潔に保たれているのは手入れをしてくれている使用人たちのおかげですわ」
「そうだね。アルミラと結婚したら、この家を改装しなければならないかもしれないと思っていたけれど、この様子だと大丈夫そうだね」
応接室に通し、いつもなら隣りに座って会話をしていたけれど、わたしはローテーブルを挟んだ彼の向かい側に座ってから微笑む。
「オズック様はこの家が自分のものになると思っておられるようですが、わたしと結婚しなければ意味がありませんからね」
万が一結婚したとしても継ぐことはできないのだけれど、そこまで今は教えてあげる必要はない。
お父様が言うにはオズック様は自分が一番大事だから、ファニには良いように言っているだけで、実際にわたしと結婚したら、わたしではなくファニを捨てて多くの愛人を持つのではないかという考えだった。
2年の間にオズック様は繋がっている女性との縁を切っていくつもりなのではないかと考えられている。
これはお父様の考えであって、オズック様が言っていたことではない。
彼の本音を聞くため、浮気相手たちが騒ぎ出すように動くつもりでいる。
何人出てくるのでしょうね。
「どうしてそんなことを言うんだよ。前回、君が見たり聞いたりした話は演技だって言っているだろう」
「口ではなんとでも言えますわね」
「それを言い出したらオレだって君にそう言いたいよ。君のオレへの愛が薄れているから、そんな嘘に騙されるんだ」
「演技なのですか、嘘なのですか」
「どっちにしたって嘘だよ!」
声を荒らげたオズック様は焦った顔になって問いかけてくる。
「まさか、アルミラ、他に好きな人ができたからオレを悪者にしようとしているんじゃないだろうな」
「よくもそんなことが言えますわね。それほどわたしを逃したくないのかもしれませんが、わたしはあの時の二人の会話が演技だとはどうしても思えません」
「演技じゃないという証拠でもあるのか」
オズック様は大きく息を吐いたあと、ソファの背もたれにもたれかかった。
「君が信じてくれないなんてショックで気を失いそうだよ。遠距離になって不安になっている君の気持ちはわかる。オレだってさみしい気持ちでいっぱいなんだ」
「だから浮気したと言いたいのですか」
「浮気なんてしていないと言っているだろう!」
そこでオズック様は背もたれから身を離して、今度は前屈みになって尋ねてくる。
「じゃあ言うけれど、オレは君が浮気していると聞いた」
「ファニがそう言っていたのですか」
「そうだよ。だけど、オレはそれを信じなかった。君とは違ってね」
ファニが嘘をついている可能性があるから、聞いただけでは証拠にならないから信じなかったと言いたいわけね。
今回の浮気の話についても、本当にファニが言ったのかはわからないけれど、それを信じるか信じないかは本人次第。
ファニとオズック様が寄り添ってあんな話をしていたのも演技ではないという証拠はないと言いたいらしい。
さっきのラギリ様との話し合いも応接室に繋がっている小部屋にサーラや騎士がいてくれたから密室で二人という状態にはなっていない。
先程のことで浮気を疑われることはないでしょうけど、話を作られてしまったらおしまいだから、なるべく男性とかかわらないようにしたほうが良さそうだわ。
考えていると、オズック様が話題を変えてくる。
「で、傘の話なんだけど」
「イボンヌ様という女性のものらしいですわね」
「……なんだ知ってたのか」
一瞬、表情を引きつらせたけれど、すぐに平静を装ってオズック様は微笑む。
「彼女にお金を援助してるんだ。やましいことはない。傘の件もとても良い傘だと思ったから、君にプレゼントしたくて借りていたんだ」
「あの時は嘘をついたと言いたいのですね」
「嘘をついて本当にごめん。君に誤解されたくなかったんだ」
「わかりました。調べ終わり、必要ないと判断しましたらお返しします」
「今すぐに必要なんだよ!」
「イボンヌ様に素直に話をして判断を仰げばよろしいのでは?」
そう言って、テーブルの上に置いてあったベルを鳴らす。
サーラが部屋に入ってきたので、オズック様がお帰りだと告げた。
オズック様は先日の件など忘れたかのように、普段通りの笑顔で話しかけてきた。
「ありがとうございます。清潔に保たれているのは手入れをしてくれている使用人たちのおかげですわ」
「そうだね。アルミラと結婚したら、この家を改装しなければならないかもしれないと思っていたけれど、この様子だと大丈夫そうだね」
応接室に通し、いつもなら隣りに座って会話をしていたけれど、わたしはローテーブルを挟んだ彼の向かい側に座ってから微笑む。
「オズック様はこの家が自分のものになると思っておられるようですが、わたしと結婚しなければ意味がありませんからね」
万が一結婚したとしても継ぐことはできないのだけれど、そこまで今は教えてあげる必要はない。
お父様が言うにはオズック様は自分が一番大事だから、ファニには良いように言っているだけで、実際にわたしと結婚したら、わたしではなくファニを捨てて多くの愛人を持つのではないかという考えだった。
2年の間にオズック様は繋がっている女性との縁を切っていくつもりなのではないかと考えられている。
これはお父様の考えであって、オズック様が言っていたことではない。
彼の本音を聞くため、浮気相手たちが騒ぎ出すように動くつもりでいる。
何人出てくるのでしょうね。
「どうしてそんなことを言うんだよ。前回、君が見たり聞いたりした話は演技だって言っているだろう」
「口ではなんとでも言えますわね」
「それを言い出したらオレだって君にそう言いたいよ。君のオレへの愛が薄れているから、そんな嘘に騙されるんだ」
「演技なのですか、嘘なのですか」
「どっちにしたって嘘だよ!」
声を荒らげたオズック様は焦った顔になって問いかけてくる。
「まさか、アルミラ、他に好きな人ができたからオレを悪者にしようとしているんじゃないだろうな」
「よくもそんなことが言えますわね。それほどわたしを逃したくないのかもしれませんが、わたしはあの時の二人の会話が演技だとはどうしても思えません」
「演技じゃないという証拠でもあるのか」
オズック様は大きく息を吐いたあと、ソファの背もたれにもたれかかった。
「君が信じてくれないなんてショックで気を失いそうだよ。遠距離になって不安になっている君の気持ちはわかる。オレだってさみしい気持ちでいっぱいなんだ」
「だから浮気したと言いたいのですか」
「浮気なんてしていないと言っているだろう!」
そこでオズック様は背もたれから身を離して、今度は前屈みになって尋ねてくる。
「じゃあ言うけれど、オレは君が浮気していると聞いた」
「ファニがそう言っていたのですか」
「そうだよ。だけど、オレはそれを信じなかった。君とは違ってね」
ファニが嘘をついている可能性があるから、聞いただけでは証拠にならないから信じなかったと言いたいわけね。
今回の浮気の話についても、本当にファニが言ったのかはわからないけれど、それを信じるか信じないかは本人次第。
ファニとオズック様が寄り添ってあんな話をしていたのも演技ではないという証拠はないと言いたいらしい。
さっきのラギリ様との話し合いも応接室に繋がっている小部屋にサーラや騎士がいてくれたから密室で二人という状態にはなっていない。
先程のことで浮気を疑われることはないでしょうけど、話を作られてしまったらおしまいだから、なるべく男性とかかわらないようにしたほうが良さそうだわ。
考えていると、オズック様が話題を変えてくる。
「で、傘の話なんだけど」
「イボンヌ様という女性のものらしいですわね」
「……なんだ知ってたのか」
一瞬、表情を引きつらせたけれど、すぐに平静を装ってオズック様は微笑む。
「彼女にお金を援助してるんだ。やましいことはない。傘の件もとても良い傘だと思ったから、君にプレゼントしたくて借りていたんだ」
「あの時は嘘をついたと言いたいのですね」
「嘘をついて本当にごめん。君に誤解されたくなかったんだ」
「わかりました。調べ終わり、必要ないと判断しましたらお返しします」
「今すぐに必要なんだよ!」
「イボンヌ様に素直に話をして判断を仰げばよろしいのでは?」
そう言って、テーブルの上に置いてあったベルを鳴らす。
サーラが部屋に入ってきたので、オズック様がお帰りだと告げた。
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