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31 うるさい! この馬鹿!

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「そんな……。俺は、俺は大丈夫なのか!?」
「大丈夫って何がよ」
「あんなことをして、マオニール公爵閣下から何かされるんじゃないのか!?」
「そんなの知らないわよ。まあ、何かされてもおかしくないことはしているから、あとはリアム様がどう判断するかじゃないの」
「……ムートー子爵、まあ、なんとかなるだろうから、そんなことは気にするな」

 冷たく答えた私とは正反対に、ノマド男爵は笑いながら、ガレッド様の肩を叩いてから続ける。

「君の目的も果たせたことだし、嫌なことは考えずに祝杯をあげよう!」
「……そ、そうだな。それに、マオニール公爵夫人は、ノマド男爵の娘なのだから、何かあっても助けてくれるよな?」

 アイリス様と、そこのノマド男爵は親子関係の縁を切ってますけどね。

 そんなことを知らないガレッド様はノマド男爵に向かってそう言うと、返事も返ってきていないのに、勝手に安心すると、また尊大な態度に戻って、私を指差して言う。

「クレア! こんなことになったのも、お前の責任なんだから、お前が責任をとれよ! マオニール公爵夫人にはお前から謝っておけ! あんな無礼な真似をしたのは自分が不甲斐なかったせいだとな!」
「何だと?」

 ガレッド様の言葉にいち早く反応したのは、私ではなくイーサンだった。
 ちなみにガレッド様の言っている事が無茶苦茶すぎて、私のほうは言葉の意味を理解するのに時間がかかってしまって反応が遅れてしまった。

「ジュード卿! 俺はあなたがこの家に入ることを認めていません! ですから、今すぐに出ていって下さい!」
「俺はクレアの婚約者だ。彼女がここにいる限り、俺は出ていかない」
「私が許可したのよ。イーサンは出ていかなくて良いわ」

 ガレッド様に言うと、彼はつばを飛ばしながら叫ぶ。

「何様だ! ここの屋敷の主は俺だぞ!」
「うるさい、この馬鹿!」
「バ、馬鹿だと?」

 何の関係もないイーサンを巻き込んでしまったことに反省はしている。
 けれど、そんなこともわからずに、イーサンに文句を言うガレッド様にムカついてしまい、私は遠慮することを止めて答える。

「え? そうじゃないの? 私が出て行っただけで、自分の家を危なくさせるようなあんたが馬鹿じゃなければなんだって言ったらいいの?」
「俺は経営に向いてないだけで、馬鹿ではない! お前を屋敷に戻ってくるように出来たじゃないか!」
「あんた、本当に私がこの屋敷に戻ってきたと思ってんの? 必要なものがあったから取りに返ってきただけ。あとは、今のムートー家がどんな風になっているのか見に来たっていう、ただの好奇心よ」
「なんだと!?」
「あんたがそんな調子じゃ、私がこの家に戻ってきて、なんとか前の状況に戻せても、私がまた出ていったら元の木阿弥でしょ。そんなものにいちいち、時間をかけるつもりはないのよ」

 私の隣で怒りをおさえてくれているイーサンの右腕を優しく叩いてから続ける。

「もう、ここには用はないから帰りましょうか。あ、ガレッド様、私が写っていた写真はもらっていきますかやね。お金は置いておきました」
「帰っていいとは言ってないだろ! お前にはまだやってもらわないといけないことがあるんだ!」
「あんたに命令される筋合いはないわ」
「クレア」

 イーサンが私の名を呼んでから聞いてくる。

「もういいか?」
「……どういう事?」
「リアムに言ってもいいか?」
「別にいいわよ。この家がどうなろうが、もう私には関係ないから」

 どうして今、リアム様の名前が出てきたのかはわからなかったけれど、私が頷くと、イーサンは窓の方へ歩いていき、外を見ながら、何やら手を動かし始めた。

 何をしているんだろうと思って、彼に近付いて窓の外を見てみる。
 見える範囲が限られているから、はっきりとはわからないけれど、警察の制服を着た人達が屋敷を取り囲んでいるのがわかった。

「……どういうこと?」
「クレアが今、家を潰されたら困るからリアムに待つ様に言えと言っていただろう?」
「お願いしただけで、言えとは言ってないけどね」
「クレアがもう用事がなさそうだったから、リアムに伝えたんだ」
「は? どういうこと?」
「うーん。言えるのは、リアムを怒らせたらいけないってことだ」

 イーサンが私に苦笑しながら言ったあと、困惑の表情で突っ立っているガレッド様を見て続ける。

「あと、俺のこともな」

 ガレッド様を睨みつけるイーサンの表情は、今までに見たこともないくらい、怒りに満ちた表情をしていた。
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