27 / 33
27 覚悟は必要よ
しおりを挟む
アイリス様とお知り合いになれたパーティーの日から数日たった、ある日の昼。
「クレア、報告しておきたいことがあるんだが」
「どうしたの?」
庭で犬と戯れていると、イーサンが深刻な表情で近付いてきたので、犬から離れて聞き返す。
「ムートー子爵なんだが」
「……彼がどうしたの?」
「どうやら、悪い奴らと付き合いをはじめたようで」
「どういうこと?」
予想もしていなかった話なので、焦って先を促した時だった。
「きゃー! いたいた、イーサン!」
門のほうから声がかすかに聞こえて、2人で一斉にそちらに目を向けると、レモン色のドレスに身を包んだレーナらしき人物が、こちらに向かって手を振っていた。
彼女の後ろには彼女が乗ってきたであろう馬車が見える。
「……イーサン、あなた、呼ばれてるけど、約束でもしてたの?」
「いや、してない」
イーサンは呆れた表情で答えたあと、慌てて私を期待のこもった目で見てくる。
「何よ?」
「も、もしかして、クレア……、ヤキモチ?」
「約束してたか聞いただけなんだけど?」
「なんだ……、違うのか」
「……浮気は駄目よ、イーサン。しかも堂々と」
「浮気なんてしてない! 酷い! 俺にはクレアだけなのに!」
「……そうね。ごめんね。知ってるわよ?」
シュンとするイーサンの頭を背伸びをして撫でてあげると、彼は嬉しそうに微笑んだ。
「ちょっと、イーサン!」
門からポーチまでの道のりが遠いので、結局、すぐ近くまで馬車に乗ってきたレーナは、馬車から降りてくるなり言う。
「イーサンからの連絡を待ってたんだけどぉ!」
「連絡するなんて言った覚えはないが。それに勝手に入ってこないでくれ。あとで、門番は夕食を抜きの刑にしないと」
罰としては軽い気もするけれど、相手がレーナ嬢だから良いということにしたのかしら。
「普通はしてくるでしょ~!」
「どうしてだ?」
イーサンは心底不思議そうな顔をして大きく首を傾げた。
すると、レーナ嬢が叫ぶ。
「いや~ん、イーサンってば、可愛い! 首なんか傾げちゃって!」
「クレアの方が可愛いぞ?」
「そんな訳ないって~!」
「そんな訳ある!」
そんな訳はない。
可愛さのレベルはイーサンのほうが見た目も性格も上だ。
「もしかしたら、あれなのか? クレアが何をやっても可愛いのは、恋の病というやつなのか?」
「それはあるかもしれないわね。そうじゃないと、私が可愛いなんて思えないだろうから」
イーサンの質問に答えてやると、彼は私を見つめたあと、レーナ嬢に視線を移して言う。
「悪いが、俺は恋の病にかかっていて治りそうにないから、俺のことは忘れてくれ」
「よく見て、イーサン! そんな人より、私のほうが可愛いから~!」
「……そうか?」
イーサンは私とレーナ嬢を見比べて、眉をひそめる。
イーサンってもしや目が悪いとかかしら。
でも、目が悪かったなら、戦地とかでは不便だっただろうし、やはりこれは、イーサンの言う、恋の病というやつなのかしら?
「うーん、やっぱり俺はクレアのほうが可愛いと思う。もちろん、君のほうが可愛いという人間もいるだろうが、俺は違う。だから、用がそれだけなら、お引取り願おう」
「え!? そんな、どうして私の魅力がわからないのよ~!?」
「魅力も何も君は俺との婚約を解消したじゃないか。婚前交渉については、俺は君とは結婚後ではないと駄目だと思ったが、クレアとなら、許されるなら今すぐにでもと思うくらいに好きなんだ!」
「やめなさい」
暴走しかけているイーサンを止めてから、私はあることを思いついた。
「イーサン、ちょっと」
「なんだ?」
屋敷の裏にまわり、薪を作るために切られた丸太が置かれている場所に行き、イーサンが持てそうな大きさのものを指差して続ける。
「あれを私だと思って抱きしめてちょうだい」
「いいけど、力の加減が出来るかな」
「薪を作るものだから、折れてもいいんじゃないかしら」
詳しいことはわからないので、駄目だった場合は後で謝ろう。
「とにかく持っていってくれる?」
「わかった」
イーサンは頷いて小さめの丸太を持ち上げる。
「彼女の前で抱きしめるのよ?」
「わかった」
イーサンは自分の体の半分以上ある太さの丸太を持ち上げると、私と一緒にポーチまで戻った。
そして、大人しく待っていたレーナ嬢に言う。
「イーサンと結婚したいなら、覚悟が必要よ? いい? よく見ててね! ほら、イーサン、抱きしめて!」
「わかった!」
イーサンは大きく頷くと、私に言われた通り丸太を抱きしめた。
するとすぐに、イーサンの腕の中の丸太はバキバキと音を立てて、無惨なバラバラ死た……じゃなく、バラバラになった。
「……こうなる覚悟がおありなら復縁しても良いかと思われますよ?」
私が言うと、青ざめた顔をしたレーナ嬢は大きく首を横に振って言う。
「……イーサンのことは、諦めることにします」
思ったよりも賢かったみたいで良かったわ。
「クレア、報告しておきたいことがあるんだが」
「どうしたの?」
庭で犬と戯れていると、イーサンが深刻な表情で近付いてきたので、犬から離れて聞き返す。
「ムートー子爵なんだが」
「……彼がどうしたの?」
「どうやら、悪い奴らと付き合いをはじめたようで」
「どういうこと?」
予想もしていなかった話なので、焦って先を促した時だった。
「きゃー! いたいた、イーサン!」
門のほうから声がかすかに聞こえて、2人で一斉にそちらに目を向けると、レモン色のドレスに身を包んだレーナらしき人物が、こちらに向かって手を振っていた。
彼女の後ろには彼女が乗ってきたであろう馬車が見える。
「……イーサン、あなた、呼ばれてるけど、約束でもしてたの?」
「いや、してない」
イーサンは呆れた表情で答えたあと、慌てて私を期待のこもった目で見てくる。
「何よ?」
「も、もしかして、クレア……、ヤキモチ?」
「約束してたか聞いただけなんだけど?」
「なんだ……、違うのか」
「……浮気は駄目よ、イーサン。しかも堂々と」
「浮気なんてしてない! 酷い! 俺にはクレアだけなのに!」
「……そうね。ごめんね。知ってるわよ?」
シュンとするイーサンの頭を背伸びをして撫でてあげると、彼は嬉しそうに微笑んだ。
「ちょっと、イーサン!」
門からポーチまでの道のりが遠いので、結局、すぐ近くまで馬車に乗ってきたレーナは、馬車から降りてくるなり言う。
「イーサンからの連絡を待ってたんだけどぉ!」
「連絡するなんて言った覚えはないが。それに勝手に入ってこないでくれ。あとで、門番は夕食を抜きの刑にしないと」
罰としては軽い気もするけれど、相手がレーナ嬢だから良いということにしたのかしら。
「普通はしてくるでしょ~!」
「どうしてだ?」
イーサンは心底不思議そうな顔をして大きく首を傾げた。
すると、レーナ嬢が叫ぶ。
「いや~ん、イーサンってば、可愛い! 首なんか傾げちゃって!」
「クレアの方が可愛いぞ?」
「そんな訳ないって~!」
「そんな訳ある!」
そんな訳はない。
可愛さのレベルはイーサンのほうが見た目も性格も上だ。
「もしかしたら、あれなのか? クレアが何をやっても可愛いのは、恋の病というやつなのか?」
「それはあるかもしれないわね。そうじゃないと、私が可愛いなんて思えないだろうから」
イーサンの質問に答えてやると、彼は私を見つめたあと、レーナ嬢に視線を移して言う。
「悪いが、俺は恋の病にかかっていて治りそうにないから、俺のことは忘れてくれ」
「よく見て、イーサン! そんな人より、私のほうが可愛いから~!」
「……そうか?」
イーサンは私とレーナ嬢を見比べて、眉をひそめる。
イーサンってもしや目が悪いとかかしら。
でも、目が悪かったなら、戦地とかでは不便だっただろうし、やはりこれは、イーサンの言う、恋の病というやつなのかしら?
「うーん、やっぱり俺はクレアのほうが可愛いと思う。もちろん、君のほうが可愛いという人間もいるだろうが、俺は違う。だから、用がそれだけなら、お引取り願おう」
「え!? そんな、どうして私の魅力がわからないのよ~!?」
「魅力も何も君は俺との婚約を解消したじゃないか。婚前交渉については、俺は君とは結婚後ではないと駄目だと思ったが、クレアとなら、許されるなら今すぐにでもと思うくらいに好きなんだ!」
「やめなさい」
暴走しかけているイーサンを止めてから、私はあることを思いついた。
「イーサン、ちょっと」
「なんだ?」
屋敷の裏にまわり、薪を作るために切られた丸太が置かれている場所に行き、イーサンが持てそうな大きさのものを指差して続ける。
「あれを私だと思って抱きしめてちょうだい」
「いいけど、力の加減が出来るかな」
「薪を作るものだから、折れてもいいんじゃないかしら」
詳しいことはわからないので、駄目だった場合は後で謝ろう。
「とにかく持っていってくれる?」
「わかった」
イーサンは頷いて小さめの丸太を持ち上げる。
「彼女の前で抱きしめるのよ?」
「わかった」
イーサンは自分の体の半分以上ある太さの丸太を持ち上げると、私と一緒にポーチまで戻った。
そして、大人しく待っていたレーナ嬢に言う。
「イーサンと結婚したいなら、覚悟が必要よ? いい? よく見ててね! ほら、イーサン、抱きしめて!」
「わかった!」
イーサンは大きく頷くと、私に言われた通り丸太を抱きしめた。
するとすぐに、イーサンの腕の中の丸太はバキバキと音を立てて、無惨なバラバラ死た……じゃなく、バラバラになった。
「……こうなる覚悟がおありなら復縁しても良いかと思われますよ?」
私が言うと、青ざめた顔をしたレーナ嬢は大きく首を横に振って言う。
「……イーサンのことは、諦めることにします」
思ったよりも賢かったみたいで良かったわ。
33
お気に入りに追加
2,011
あなたにおすすめの小説
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。

王子からの縁談の話が来たのですが、双子の妹が私に成りすまして王子に会いに行きました。しかしその結果……
水上
恋愛
侯爵令嬢である私、エマ・ローリンズは、縁談の話を聞いて喜んでいた。
相手はなんと、この国の第三王子であるウィリアム・ガーヴィー様である。
思わぬ縁談だったけれど、本当に嬉しかった。
しかし、その喜びは、すぐに消え失せた。
それは、私の双子の妹であるヘレン・ローリンズのせいだ。
彼女と、彼女を溺愛している両親は、ヘレンこそが、ウィリアム王子にふさわしいと言い出し、とんでもない手段に出るのだった。
それは、妹のヘレンが私に成りすまして、王子に近づくというものだった。
私たちはそっくりの双子だから、確かに見た目で判断するのは難しい。
でも、そんなバカなこと、成功するはずがないがないと思っていた。
しかし、ヘレンは王宮に招かれ、幸せな生活を送り始めた。
一方、私は王子を騙そうとした罪で捕らえられてしまう。
すべて、ヘレンと両親の思惑通りに事が進んでいた。
しかし、そんなヘレンの幸せは、いつまでも続くことはなかった。
彼女は幸せの始まりだと思っていたようだけれど、それは地獄の始まりなのだった……。
※この作品は、旧作を加筆、修正して再掲載したものです。

デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまで~痩せたら死ぬと刷り込まれてました~
バナナマヨネーズ
恋愛
伯爵令嬢のアンリエットは、死なないために必死だった。
幼い頃、姉のジェシカに言われたのだ。
「アンリエット、よく聞いて。あなたは、普通の人よりも体の中のマナが少ないの。このままでは、すぐマナが枯渇して……。死んでしまうわ」
その言葉を信じたアンリエットは、日々死なないために努力を重ねた。
そんなある日のことだった。アンリエットは、とあるパーティーで国の英雄である将軍の気を引く行動を取ったのだ。
これは、デブスの伯爵令嬢と冷酷将軍が両思いになるまでの物語。
全14話
※小説家になろう様にも掲載しています。

逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます
黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。
ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。
目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが……
つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも?
短いお話を三話に分割してお届けします。
この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。

婚約破棄をされて魔導図書館の運営からも外されたのに今さら私が協力すると思っているんですか?絶対に協力なんてしませんよ!
しまうま弁当
恋愛
ユーゲルス公爵家の跡取りベルタスとの婚約していたメルティだったが、婚約者のベルタスから突然の婚約破棄を突き付けられたのだった。しかもベルタスと一緒に現れた同級生のミーシャに正妻の座に加えて魔導司書の座まで奪われてしまう。罵声を浴びせられ罪まで擦り付けられたメルティは婚約破棄を受け入れ公爵家を去る事にしたのでした。メルティがいなくなって大喜びしていたベルタスとミーシャであったが魔導図書館の設立をしなければならなくなり、それに伴いどんどん歯車が狂っていく。ベルタスとミーシャはメルティがいなくなったツケをドンドン支払わなければならなくなるのでした。

アクアリネアへようこそ
みるくてぃー
恋愛
突如両親を亡くしたショックで前世の記憶を取り戻した私、リネア・アージェント。
家では叔母からの嫌味に耐え、学園では悪役令嬢の妹して蔑まれ、おまけに齢(よわい)70歳のお爺ちゃんと婚約ですって!?
可愛い妹を残してお嫁になんて行けないわけないでしょ!
やがて流れ着いた先で小さな定食屋をはじめるも、いつしか村全体を巻き込む一大観光事業に駆り出される。
私はただ可愛い妹と暖かな暮らしがしたいだけなのよ!
働く女の子が頑張る物語。お仕事シリーズの第三弾、食と観光の町アクアリネアへようこそ。
【完結】欲しがり義妹に王位を奪われ偽者花嫁として嫁ぎました。バレたら処刑されるとドキドキしていたらイケメン王に溺愛されてます。
美咲アリス
恋愛
【Amazonベストセラー入りしました(長編版)】「国王陛下!わたくしは偽者の花嫁です!どうぞわたくしを処刑してください!!」「とりあえず、落ち着こうか?(にっこり)」意地悪な義母の策略で義妹の代わりに辺境国へ嫁いだオメガ王女のフウル。正直な性格のせいで嘘をつくことができずに命を捨てる覚悟で夫となる国王に真実を告げる。だが美貌の国王リオ・ナバはなぜかにっこりと微笑んだ。そしてフウルを甘々にもてなしてくれる。「きっとこれは処刑前の罠?」不幸生活が身についたフウルはビクビクしながら城で暮らすが、実は国王にはある考えがあって⋯⋯?

人質王女の婚約者生活(仮)〜「君を愛することはない」と言われたのでひとときの自由を満喫していたら、皇太子殿下との秘密ができました〜
清川和泉
恋愛
幼い頃に半ば騙し討ちの形で人質としてブラウ帝国に連れて来られた、隣国ユーリ王国の王女クレア。
クレアは皇女宮で毎日皇女らに下女として過ごすように強要されていたが、ある日属国で暮らしていた皇太子であるアーサーから「彼から愛されないこと」を条件に婚約を申し込まれる。
(過去に、婚約するはずの女性がいたと聞いたことはあるけれど…)
そう考えたクレアは、彼らの仲が公になるまでの繋ぎの婚約者を演じることにした。
移住先では夢のような好待遇、自由な時間をもつことができ、仮初めの婚約者生活を満喫する。
また、ある出来事がきっかけでクレア自身に秘められた力が解放され、それはアーサーとクレアの二人だけの秘密に。行動を共にすることも増え徐々にアーサーとの距離も縮まっていく。
「俺は君を愛する資格を得たい」
(皇太子殿下には想い人がいたのでは。もしかして、私を愛せないのは別のことが理由だった…?)
これは、不遇な人質王女のクレアが不思議な力で周囲の人々を幸せにし、クレア自身も幸せになっていく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる