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6−2 (ビアラ視点)
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「ロンバート…、どうして」
オルザベートは横腹をおさえながら、ロンバートを睨む。
切り裂いたといっても傷は深かった様で、ポタポタと彼女の脇腹から流れる血がカーペットを汚していく。
「君が僕を見てくれないからだ!」
ロンバートはナイフを持ったまま叫ぶ。
切っ先からロンバートの手までオルザベートの血が流れていくのがビアラの目にも見えた。
(これはまずいわね)
「ロードウェル、もういいでしょう。ナイフを置いて!」
「嫌だ! このまま僕はオルザベートと一緒に逃げるんだ!」
「あなた、彼女を刺しておいて、この状態でどうやって逃げるって言うのよ!?」
「馬車を手配してある。そこに乗せるんだ!」
「馬鹿なの!? 手当しないと失血死するわよ!」
ビアラの言葉を聞いた、ロンバートの身体がびくりと震えた。
「し、失血死?」
「血を止めなかったら流れ続けるのよ!? 深く考えなくてもわかる事でしょ!?」
(トゥッチなんか、本当は助けたくなんかないけど、見捨てるわけにもいかない)
「トゥッチ、傷を見せて」
横腹をおさえてしゃがみこんだオルザベートに、ビアラが声を掛けると、オルザベートは彼女を睨みつける。
「嫌よ、誰があんたなんかに!」
「あんたに死なれたら困るのよ。死ぬならエアリスとエドワード様の結婚式を見てからにして」
「…そうよ! …エアリスの結婚式!」
「でしょう?」
ビアラがオルザベートに近付いていこうとすると、ロンバートが間に立ちはだかる。
「連れてなんて行かせないぞ! そんな事をするならお前を殺してやる!」
「ロードウェル、あんたは本当に馬鹿ね。刑務所に入って、ちょっとは更生したのかと思ったら全然じゃないの」
「うるさい! 大体、この計画はカイジス公爵から認められている」
「…どういう事?」
聞き返したのはオルザベートだった。
「僕がオルザベートを見つけて、素直に僕と逃げない場合は、無理矢理連れて逃げても良いと言われてる!」
「殺しても良いって言ってたの?」
「僕はオルザベートを殺すつもりなんてない! 本気だって事をわかってほしかったんだ!」
ビアラが尋ねると、ロンバートはそう言ってから、ソファーに座ったまま、呆然としているオラエルを見て叫ぶ。
「おい、お前! オルザベートを治せ!」
「…っ!」
オラエルはロンバートの声にハッと我に返った様だったが、すぐに大きく首を横に振る。
「無理だ! 僕は回復魔法は使えないんだ!」
「なんだって!?」
驚くロンバートを見て、ビアラは頭を抱える。
(馬鹿だとは思ってたけど、ここまで馬鹿だったなんて)
「ロードウェル、あなたは魔法使いに興味がなかったから知らないかもしれないけれど、回復魔法を使える人間なんてごく一部よ。オラエルには使えない」
「そ、そんな!」
「そんな事も調べずに、愛する女性を傷付けたってわけ? 聞いて呆れるわね」
ビアラは着ていたカーディガンを脱ぐと、ロンバートに向かって投げる。
「早く止血してあげなさいよ。その間に回復魔法を使える人間を呼ぶから」
(まあ、私が回復魔法を使えるんだけどねぇ?)
そう言って、ビアラが家から出ようとすると、ロンバートが叫んだ。
「止めろ! 人なんて呼ぶな!」
「あら、いいの? 可愛い彼女が死んじゃうわよ?」
「くそ! 殺してやる!」
ロンバートが怒りの形相でビアラに向かってきた時だった。
家の扉が蹴り破られ、澄ました顔のエドワードが家の中に入ってきた。
「ビアラ、君は結構、性格が悪いな」
「あら、そうですか? トゥッチよりかはマシだと思いますけど」
「そういうところだ」
「こういう性格なんですよ」
ビアラが笑うと、エドワードは呆れた様な顔をして彼女を見たあと、外に出る様に促す。
「エアリスが心配してる。元気な顔を見せてやれ」
「はーい!」
明るい声でビアラは返事をすると、オルザベートの方に振り返って言う。
「残念だったわね。エアリスの結婚式での友人のスピーチは私とノノレイがやらせてもらうから」
「駄目よっ!!」
オルザベートは叫んで立ち上がろうとしたが、出血が多かったからか、体をふらつかせた。
「オルザベート!」
ロンバートがナイフを床に置き、彼女の身体を支えて言う。
「悪かったよ! こんな事になるなんて思わなかった! だけど、どうしても君に僕を見てほしかったんだ!」
(これじゃあ、いつまでたっても止血しそうにないわね…)
「エドワード様、ロードウェルをお願いできます? トゥッチの止血をします」
「ああ」
エドワードは頷くと、オルザベートを支えていたロンバートの横にしゃがんで言う。
「大人しくしてろ。余計な事をすると、お前は子供に会えずに人生が終わるぞ」
エドワードの言葉にロンバートが頷くのを確認してから、ビアラはオルザベートの横にしゃがむと回復魔法をかけた。
「傷は塞いだけど、血は戻らないからね」
「あんたなんかに…、助けられるなんて…」
「はいはい。恨むなら、ロードウェルを恨んでね」
ビアラが立ち上がった時だった。
「あんたなんて殺してやる!」
ロンバートが置いていたナイフを手に取り、ビアラの足にナイフを突き立てようとしたが、ビアラには避けられ、エドワードに体を床におさえつけられた。
「放しなさいよ!」
「オルザベート!」
オラエルとロンバートが叫んで、彼女を助けようとしたが、家の中に入ってきた騎士に取り押さえられた。
(わざとナイフを放置しておいたんだけど、上手くひっかかってくれたわね)
「短絡的で助かったわ。あなたには殺人未遂の現行犯で捕まってもらうわね?」
中に入ってきた警察官にエドワードがオルザベートの身を任せたのを確認した後、ビアラはオルザベートにそう言うと、外で待っているエアリスの所へ向かう事にした。
オルザベートは横腹をおさえながら、ロンバートを睨む。
切り裂いたといっても傷は深かった様で、ポタポタと彼女の脇腹から流れる血がカーペットを汚していく。
「君が僕を見てくれないからだ!」
ロンバートはナイフを持ったまま叫ぶ。
切っ先からロンバートの手までオルザベートの血が流れていくのがビアラの目にも見えた。
(これはまずいわね)
「ロードウェル、もういいでしょう。ナイフを置いて!」
「嫌だ! このまま僕はオルザベートと一緒に逃げるんだ!」
「あなた、彼女を刺しておいて、この状態でどうやって逃げるって言うのよ!?」
「馬車を手配してある。そこに乗せるんだ!」
「馬鹿なの!? 手当しないと失血死するわよ!」
ビアラの言葉を聞いた、ロンバートの身体がびくりと震えた。
「し、失血死?」
「血を止めなかったら流れ続けるのよ!? 深く考えなくてもわかる事でしょ!?」
(トゥッチなんか、本当は助けたくなんかないけど、見捨てるわけにもいかない)
「トゥッチ、傷を見せて」
横腹をおさえてしゃがみこんだオルザベートに、ビアラが声を掛けると、オルザベートは彼女を睨みつける。
「嫌よ、誰があんたなんかに!」
「あんたに死なれたら困るのよ。死ぬならエアリスとエドワード様の結婚式を見てからにして」
「…そうよ! …エアリスの結婚式!」
「でしょう?」
ビアラがオルザベートに近付いていこうとすると、ロンバートが間に立ちはだかる。
「連れてなんて行かせないぞ! そんな事をするならお前を殺してやる!」
「ロードウェル、あんたは本当に馬鹿ね。刑務所に入って、ちょっとは更生したのかと思ったら全然じゃないの」
「うるさい! 大体、この計画はカイジス公爵から認められている」
「…どういう事?」
聞き返したのはオルザベートだった。
「僕がオルザベートを見つけて、素直に僕と逃げない場合は、無理矢理連れて逃げても良いと言われてる!」
「殺しても良いって言ってたの?」
「僕はオルザベートを殺すつもりなんてない! 本気だって事をわかってほしかったんだ!」
ビアラが尋ねると、ロンバートはそう言ってから、ソファーに座ったまま、呆然としているオラエルを見て叫ぶ。
「おい、お前! オルザベートを治せ!」
「…っ!」
オラエルはロンバートの声にハッと我に返った様だったが、すぐに大きく首を横に振る。
「無理だ! 僕は回復魔法は使えないんだ!」
「なんだって!?」
驚くロンバートを見て、ビアラは頭を抱える。
(馬鹿だとは思ってたけど、ここまで馬鹿だったなんて)
「ロードウェル、あなたは魔法使いに興味がなかったから知らないかもしれないけれど、回復魔法を使える人間なんてごく一部よ。オラエルには使えない」
「そ、そんな!」
「そんな事も調べずに、愛する女性を傷付けたってわけ? 聞いて呆れるわね」
ビアラは着ていたカーディガンを脱ぐと、ロンバートに向かって投げる。
「早く止血してあげなさいよ。その間に回復魔法を使える人間を呼ぶから」
(まあ、私が回復魔法を使えるんだけどねぇ?)
そう言って、ビアラが家から出ようとすると、ロンバートが叫んだ。
「止めろ! 人なんて呼ぶな!」
「あら、いいの? 可愛い彼女が死んじゃうわよ?」
「くそ! 殺してやる!」
ロンバートが怒りの形相でビアラに向かってきた時だった。
家の扉が蹴り破られ、澄ました顔のエドワードが家の中に入ってきた。
「ビアラ、君は結構、性格が悪いな」
「あら、そうですか? トゥッチよりかはマシだと思いますけど」
「そういうところだ」
「こういう性格なんですよ」
ビアラが笑うと、エドワードは呆れた様な顔をして彼女を見たあと、外に出る様に促す。
「エアリスが心配してる。元気な顔を見せてやれ」
「はーい!」
明るい声でビアラは返事をすると、オルザベートの方に振り返って言う。
「残念だったわね。エアリスの結婚式での友人のスピーチは私とノノレイがやらせてもらうから」
「駄目よっ!!」
オルザベートは叫んで立ち上がろうとしたが、出血が多かったからか、体をふらつかせた。
「オルザベート!」
ロンバートがナイフを床に置き、彼女の身体を支えて言う。
「悪かったよ! こんな事になるなんて思わなかった! だけど、どうしても君に僕を見てほしかったんだ!」
(これじゃあ、いつまでたっても止血しそうにないわね…)
「エドワード様、ロードウェルをお願いできます? トゥッチの止血をします」
「ああ」
エドワードは頷くと、オルザベートを支えていたロンバートの横にしゃがんで言う。
「大人しくしてろ。余計な事をすると、お前は子供に会えずに人生が終わるぞ」
エドワードの言葉にロンバートが頷くのを確認してから、ビアラはオルザベートの横にしゃがむと回復魔法をかけた。
「傷は塞いだけど、血は戻らないからね」
「あんたなんかに…、助けられるなんて…」
「はいはい。恨むなら、ロードウェルを恨んでね」
ビアラが立ち上がった時だった。
「あんたなんて殺してやる!」
ロンバートが置いていたナイフを手に取り、ビアラの足にナイフを突き立てようとしたが、ビアラには避けられ、エドワードに体を床におさえつけられた。
「放しなさいよ!」
「オルザベート!」
オラエルとロンバートが叫んで、彼女を助けようとしたが、家の中に入ってきた騎士に取り押さえられた。
(わざとナイフを放置しておいたんだけど、上手くひっかかってくれたわね)
「短絡的で助かったわ。あなたには殺人未遂の現行犯で捕まってもらうわね?」
中に入ってきた警察官にエドワードがオルザベートの身を任せたのを確認した後、ビアラはオルザベートにそう言うと、外で待っているエアリスの所へ向かう事にした。
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