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「エアリスに何かしようとなんて思っていません! ただ、オルザベートの居場所を知ってるんじゃないかと思っただけです!」
座っている席が通り側の窓際だったせいで、店の中からやり取りが見えないものの、声はかすかに聞こえてくる。
「お願いです! エアリスと少しだけ話をさせて下さい!」
「無理だな。そんな事をさせる必要性がない。おい、こいつをどこかに捨ててこい」
「ま、待って下さい! オルザベートの居場所を知っているかどうかだけでいいんです!」
「僕が代わりに答えよう。エアリスは何も知らない。彼女の事を忘れているんだ。あと、わかっている事だけ教えてやろう。君の恋人は自分の子供を置いて他の男と一緒に逃げてる」
「…な、なんだって…!? 子供を置いてですか!?」
ロンバートの悲痛な声が聞こえた。
そういえば、ロンバートは子供には会わせてもらったのかしら?
名前はエアルくんだった、わよね?
エアルくんって、まさか、私のエアリスのエアをとったんじゃないわよね?
そうなると、本当に怖いし、気持ち悪い。
オルザベートがこんな風になってしまったのには、私に責任があるの?
今まで面倒をみてきたんだから、死ぬまで面倒をみなさいって事?
友達だと思っていたから仲良くしていた。
それは、ビアラ達に対しても同じ事だった。
同じ事をしてきたつもりなのに、どうして、ビアラ達とオルザベートは感じている事が違うの?
オルザベートとビアラ達を一緒だと考えていた事が間違ってたの?
何よりオルザベートにはオラエル先生がいるんだから、私の事なんて忘れてくれたらいいのに…。
子供を生むのは大変だって聞くし、そんな大変な思いをしてまで生んだ自分の子供を、私よりも可愛いとは思えないのかしら…。
「子供は僕が引き取ります! 僕の子なんですから! 今、どこに!?」
「僕がお前に教えてやる筋合いはない。勝手に調べろ」
「待って下さい! お願いします! 僕を使って下さい!」
「…使う?」
「僕はオルザベートに会いたいんです! その為なら何でもします! オルザベートの居場所がわかれば、すぐにカイジス公爵にお伝えします! 彼女をエアリスに近付けるなと言うなら、見つけ出して絶対に近付けないようにしますから!」
「そんな事がお前に出来るとは思えない」
エドの冷たい声が聞こえた。
正直、私もそう思った。
ロンバートにオルザベートが止められるとは思えない。
「必ず、必ず止めてみせますから! お願いです!」
「お前のメリットは何になる?」
「…はい?」
「何のメリットもなしに、僕に協力するだなんて信用できない」
「僕のメリットはオルザベートに会う事です。彼女と会って、やり直したい」
オルザベートとやり直すつもりなの!?
思わず、言葉が口から出そうになってしまって、手で口をおさえる。
まあ、ロンバートは私にとっては元夫とはいえ、赤の他人ではあるし、彼がどう生きようと勝手だからいいんだけれど。
静かになったな、と思ったら、エドが店の中に入ってきて、私の所まで戻ってくると尋ねてくる。
「ロードウェルの事なんだが」
「聞こえてたわ。オルザベートとやり直すだなんて驚いたけど、ロンバートはよっぽどオルザベートの事が好きなんでしょうね」
「君を裏切って浮気するくらいなんだから、トゥッチ嬢にも何かいい面はあるんだろう。僕には一生わからないと思うけど」
「まあ、オルザベートにも良いところくらいはあると思うけれど、私も知りたいとは思わない」
「本当に彼がトゥッチ嬢を大人しくさせる事が出来るというのなら投資してやってもいいと思うが、君はどう思う?」
「…難しいところね。ところで投資ってどういう事?」
どうやら、私はエドとロンバートの会話を聞き逃していた箇所があるらしく、初耳の話題だったので聞いてみると、エドが答えてくれる。
「トゥッチ嬢を探すための旅費がほしいんだそうだ。今は文無しの状態らしいから」
「それであんな格好なのね」
ここはどうするべきなのかしら。
とりあえず、信用はせずに飼い慣らすべきかしら。
「ちょっとしたギャンブルになりそうだけれど、様子を見てみる? もちろん、私はロンバートに会いたくないから、エドに任せる事になるけど」
「かまわない。それに、面白い事になりそうだしな…」
にやりと笑ったエドの顔が怖くって、彼が一体何を考えたのか気になったけれど、いつかわかる事になりそうなので、深く聞く事は止めておいた。
座っている席が通り側の窓際だったせいで、店の中からやり取りが見えないものの、声はかすかに聞こえてくる。
「お願いです! エアリスと少しだけ話をさせて下さい!」
「無理だな。そんな事をさせる必要性がない。おい、こいつをどこかに捨ててこい」
「ま、待って下さい! オルザベートの居場所を知っているかどうかだけでいいんです!」
「僕が代わりに答えよう。エアリスは何も知らない。彼女の事を忘れているんだ。あと、わかっている事だけ教えてやろう。君の恋人は自分の子供を置いて他の男と一緒に逃げてる」
「…な、なんだって…!? 子供を置いてですか!?」
ロンバートの悲痛な声が聞こえた。
そういえば、ロンバートは子供には会わせてもらったのかしら?
名前はエアルくんだった、わよね?
エアルくんって、まさか、私のエアリスのエアをとったんじゃないわよね?
そうなると、本当に怖いし、気持ち悪い。
オルザベートがこんな風になってしまったのには、私に責任があるの?
今まで面倒をみてきたんだから、死ぬまで面倒をみなさいって事?
友達だと思っていたから仲良くしていた。
それは、ビアラ達に対しても同じ事だった。
同じ事をしてきたつもりなのに、どうして、ビアラ達とオルザベートは感じている事が違うの?
オルザベートとビアラ達を一緒だと考えていた事が間違ってたの?
何よりオルザベートにはオラエル先生がいるんだから、私の事なんて忘れてくれたらいいのに…。
子供を生むのは大変だって聞くし、そんな大変な思いをしてまで生んだ自分の子供を、私よりも可愛いとは思えないのかしら…。
「子供は僕が引き取ります! 僕の子なんですから! 今、どこに!?」
「僕がお前に教えてやる筋合いはない。勝手に調べろ」
「待って下さい! お願いします! 僕を使って下さい!」
「…使う?」
「僕はオルザベートに会いたいんです! その為なら何でもします! オルザベートの居場所がわかれば、すぐにカイジス公爵にお伝えします! 彼女をエアリスに近付けるなと言うなら、見つけ出して絶対に近付けないようにしますから!」
「そんな事がお前に出来るとは思えない」
エドの冷たい声が聞こえた。
正直、私もそう思った。
ロンバートにオルザベートが止められるとは思えない。
「必ず、必ず止めてみせますから! お願いです!」
「お前のメリットは何になる?」
「…はい?」
「何のメリットもなしに、僕に協力するだなんて信用できない」
「僕のメリットはオルザベートに会う事です。彼女と会って、やり直したい」
オルザベートとやり直すつもりなの!?
思わず、言葉が口から出そうになってしまって、手で口をおさえる。
まあ、ロンバートは私にとっては元夫とはいえ、赤の他人ではあるし、彼がどう生きようと勝手だからいいんだけれど。
静かになったな、と思ったら、エドが店の中に入ってきて、私の所まで戻ってくると尋ねてくる。
「ロードウェルの事なんだが」
「聞こえてたわ。オルザベートとやり直すだなんて驚いたけど、ロンバートはよっぽどオルザベートの事が好きなんでしょうね」
「君を裏切って浮気するくらいなんだから、トゥッチ嬢にも何かいい面はあるんだろう。僕には一生わからないと思うけど」
「まあ、オルザベートにも良いところくらいはあると思うけれど、私も知りたいとは思わない」
「本当に彼がトゥッチ嬢を大人しくさせる事が出来るというのなら投資してやってもいいと思うが、君はどう思う?」
「…難しいところね。ところで投資ってどういう事?」
どうやら、私はエドとロンバートの会話を聞き逃していた箇所があるらしく、初耳の話題だったので聞いてみると、エドが答えてくれる。
「トゥッチ嬢を探すための旅費がほしいんだそうだ。今は文無しの状態らしいから」
「それであんな格好なのね」
ここはどうするべきなのかしら。
とりあえず、信用はせずに飼い慣らすべきかしら。
「ちょっとしたギャンブルになりそうだけれど、様子を見てみる? もちろん、私はロンバートに会いたくないから、エドに任せる事になるけど」
「かまわない。それに、面白い事になりそうだしな…」
にやりと笑ったエドの顔が怖くって、彼が一体何を考えたのか気になったけれど、いつかわかる事になりそうなので、深く聞く事は止めておいた。
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