上 下
8 / 25

2−3

しおりを挟む
「エアリスに何かしようとなんて思っていません! ただ、オルザベートの居場所を知ってるんじゃないかと思っただけです!」

 座っている席が通り側の窓際だったせいで、店の中からやり取りが見えないものの、声はかすかに聞こえてくる。

「お願いです! エアリスと少しだけ話をさせて下さい!」
「無理だな。そんな事をさせる必要性がない。おい、こいつをどこかに捨ててこい」
「ま、待って下さい! オルザベートの居場所を知っているかどうかだけでいいんです!」
「僕が代わりに答えよう。エアリスは何も知らない。彼女の事を忘れているんだ。あと、わかっている事だけ教えてやろう。君の恋人は自分の子供を置いて他の男と一緒に逃げてる」
「…な、なんだって…!? 子供を置いてですか!?」

 ロンバートの悲痛な声が聞こえた。
 
 そういえば、ロンバートは子供には会わせてもらったのかしら?
 名前はエアルくんだった、わよね?
 エアルくんって、まさか、私のエアリスのエアをとったんじゃないわよね?

 そうなると、本当に怖いし、気持ち悪い。
 オルザベートがこんな風になってしまったのには、私に責任があるの?
 今まで面倒をみてきたんだから、死ぬまで面倒をみなさいって事?
 友達だと思っていたから仲良くしていた。
 それは、ビアラ達に対しても同じ事だった。
 同じ事をしてきたつもりなのに、どうして、ビアラ達とオルザベートは感じている事が違うの?
 オルザベートとビアラ達を一緒だと考えていた事が間違ってたの?

 何よりオルザベートにはオラエル先生がいるんだから、私の事なんて忘れてくれたらいいのに…。
 子供を生むのは大変だって聞くし、そんな大変な思いをしてまで生んだ自分の子供を、私よりも可愛いとは思えないのかしら…。

「子供は僕が引き取ります! 僕の子なんですから! 今、どこに!?」
「僕がお前に教えてやる筋合いはない。勝手に調べろ」
「待って下さい! お願いします! 僕を使って下さい!」
「…使う?」
「僕はオルザベートに会いたいんです! その為なら何でもします! オルザベートの居場所がわかれば、すぐにカイジス公爵にお伝えします! 彼女をエアリスに近付けるなと言うなら、見つけ出して絶対に近付けないようにしますから!」
「そんな事がお前に出来るとは思えない」

 エドの冷たい声が聞こえた。
 正直、私もそう思った。
 ロンバートにオルザベートが止められるとは思えない。

「必ず、必ず止めてみせますから! お願いです!」
「お前のメリットは何になる?」
「…はい?」
「何のメリットもなしに、僕に協力するだなんて信用できない」
「僕のメリットはオルザベートに会う事です。彼女と会って、やり直したい」

 オルザベートとやり直すつもりなの!?
 思わず、言葉が口から出そうになってしまって、手で口をおさえる。
 まあ、ロンバートは私にとっては元夫とはいえ、赤の他人ではあるし、彼がどう生きようと勝手だからいいんだけれど。
 静かになったな、と思ったら、エドが店の中に入ってきて、私の所まで戻ってくると尋ねてくる。

「ロードウェルの事なんだが」
「聞こえてたわ。オルザベートとやり直すだなんて驚いたけど、ロンバートはよっぽどオルザベートの事が好きなんでしょうね」
「君を裏切って浮気するくらいなんだから、トゥッチ嬢にも何かいい面はあるんだろう。僕には一生わからないと思うけど」
「まあ、オルザベートにも良いところくらいはあると思うけれど、私も知りたいとは思わない」
「本当に彼がトゥッチ嬢を大人しくさせる事が出来るというのなら投資してやってもいいと思うが、君はどう思う?」
「…難しいところね。ところで投資ってどういう事?」

 どうやら、私はエドとロンバートの会話を聞き逃していた箇所があるらしく、初耳の話題だったので聞いてみると、エドが答えてくれる。

「トゥッチ嬢を探すための旅費がほしいんだそうだ。今は文無しの状態らしいから」
「それであんな格好なのね」

 ここはどうするべきなのかしら。
 とりあえず、信用はせずに飼い慣らすべきかしら。

「ちょっとしたギャンブルになりそうだけれど、様子を見てみる? もちろん、私はロンバートに会いたくないから、エドに任せる事になるけど」
「かまわない。それに、面白い事になりそうだしな…」

 にやりと笑ったエドの顔が怖くって、彼が一体何を考えたのか気になったけれど、いつかわかる事になりそうなので、深く聞く事は止めておいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「君を愛す気はない」と宣言した伯爵が妻への片思いを拗らせるまで ~妻は黄金のお菓子が大好きな商人で、夫は清貧貴族です

朱音ゆうひ
恋愛
アルキメデス商会の会長の娘レジィナは、恩ある青年貴族ウィスベルが婚約破棄される現場に居合わせた。 ウィスベルは、親が借金をつくり自殺して、後を継いだばかり。薄幸の貴公子だ。 「私がお助けしましょう!」 レジィナは颯爽と助けに入り、結果、彼と契約結婚することになった。 別サイトにも投稿してます(https://ncode.syosetu.com/n0596ip/)

あなたを愛するつもりはない、と言われたので自由にしたら旦那様が嬉しそうです

あなはにす
恋愛
「あなたを愛するつもりはない」 伯爵令嬢のセリアは、結婚適齢期。家族から、縁談を次から次へと用意されるが、家族のメガネに合わず家族が破談にするような日々を送っている。そんな中で、ずっと続けているピアノ教室で、かつて慕ってくれていたノウェに出会う。ノウェはセリアの変化を感じ取ると、何か考えたようなそぶりをして去っていき、次の日には親から公爵位のノウェから縁談が入ったと言われる。縁談はとんとん拍子で決まるがノウェには「あなたを愛するつもりはない」と言われる。自分が認められる手段であった結婚がうまくいかない中でセリアは自由に過ごすようになっていく。ノウェはそれを喜んでいるようで……?

謹んで婚約者候補を辞退いたします

四折 柊
恋愛
 公爵令嬢ブリジットは王太子ヴィンセントの婚約者候補の三人いるうちの一人だ。すでに他の二人はお試し期間を経て婚約者候補を辞退している。ヴィンセントは完璧主義で頭が古いタイプなので一緒になれば気苦労が多そうで将来を考えられないからだそうだ。ブリジットは彼と親しくなるための努力をしたが報われず婚約者候補を辞退した。ところがその後ヴィンセントが声をかけて来るようになって……。(えっ?今になって?)傲慢不遜な王太子と実は心の中では口の悪い公爵令嬢のくっつかないお話。全3話。暇つぶしに流し読んで頂ければ幸いです。

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

ゲームと現実の区別が出来ないヒドインがざまぁされるのはお約束である(仮)

白雪の雫
恋愛
「このエピソードが、あたしが妖魔の王達に溺愛される全ての始まりなのよね~」 ゲームの画面を目にしているピンク色の髪の少女が呟く。 少女の名前は篠原 真莉愛(16) 【ローズマリア~妖魔の王は月の下で愛を請う~】という乙女ゲームのヒロインだ。 そのゲームのヒロインとして転生した、前世はゲームに課金していた元社会人な女は狂喜乱舞した。 何故ならトリップした異世界でチートを得た真莉愛は聖女と呼ばれ、神かかったイケメンの妖魔の王達に溺愛されるからだ。 「複雑な家庭環境と育児放棄が原因で、ファザコンとマザコンを拗らせたアーデルヴェルトもいいけどさ、あたしの推しは隠しキャラにして彼の父親であるグレンヴァルトなのよね~。けどさ~、アラブのシークっぽい感じなラクシャーサ族の王であるブラッドフォードに、何かポセイドンっぽい感じな水妖族の王であるヴェルナーも捨て難いし~・・・」 そうよ! だったら逆ハーをすればいいじゃない! 逆ハーは達成が難しい。だが遣り甲斐と達成感は半端ない。 その後にあるのは彼等による溺愛ルートだからだ。 これは乙女ゲームに似た現実の異世界にトリップしてしまった一人の女がゲームと現実の区別がつかない事で痛い目に遭う話である。 思い付きで書いたのでガバガバ設定+設定に矛盾がある+ご都合主義です。 いいタイトルが浮かばなかったので(仮)をつけています。

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

自称地味っ子公爵令嬢は婚約を破棄して欲しい?

バナナマヨネーズ
恋愛
アメジシスト王国の王太子であるカウレスの婚約者の座は長い間空席だった。 カウレスは、それはそれは麗しい美青年で婚約者が決まらないことが不思議でならないほどだ。 そんな、麗しの王太子の婚約者に、何故か自称地味でメガネなソフィエラが選ばれてしまった。 ソフィエラは、麗しの王太子の側に居るのは相応しくないと我慢していたが、とうとう我慢の限界に達していた。 意を決して、ソフィエラはカウレスに言った。 「お願いですから、わたしとの婚約を破棄して下さい!!」 意外にもカウレスはあっさりそれを受け入れた。しかし、これがソフィエラにとっての甘く苦しい地獄の始まりだったのだ。 そして、カウレスはある驚くべき条件を出したのだ。 これは、自称地味っ子な公爵令嬢が二度の恋に落ちるまでの物語。 全10話 ※世界観ですが、「妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。」「元の世界に戻るなんて聞いてない!」「貧乏男爵令息(仮)は、お金のために自身を売ることにしました。」と同じ国が舞台です。 ※時間軸は、元の世界に~より5年ほど前となっております。 ※小説家になろう様にも掲載しています。

私、侯爵令嬢ですが、家族から疎まれ、皇太子妃になる予定が、国難を救うとかの理由で、野蛮な他国に嫁ぐことになりました。でも、結果オーライです

もぐすけ
恋愛
 カトリーヌは王国有数の貴族であるアードレー侯爵家の長女で、十七歳で学園を卒業したあと、皇太子妃になる予定だった。  ところが、幼少時にアードレー家の跡継ぎだった兄を自分のせいで事故死させてしまってから、運命が暗転する。両親から疎まれ、妹と使用人から虐められる日々を過ごすことになったのだ。  十二歳で全寮制の学園に入ってからは勉学に集中できる生活を過ごせるようになるが、カトリーヌは兄を事故死させた自分を許すことが出来ず、時間を惜しんで自己研磨を続ける。王妃になって世のため人のために尽くすことが、兄への一番の償いと信じていたためだった。  しかし、妹のシャルロットと王国の皇太子の策略で、カトリーヌは王国の皇太子妃ではなく、戦争好きの野蛮人の国の皇太子妃として嫁がされてしまう。  だが、野蛮だと思われていた国は、実は合理性を追求して日進月歩する文明国で、そこの皇太子のヒューイは、頭脳明晰で行動力がある超美形の男子だった。  カトリーヌはヒューイと出会い、兄の呪縛から少しずつ解き放され、遂にはヒューイを深く愛するようになる。  一方、妹のシャルロットは王国の王妃になるが、思い描いていた生活とは異なり、王国もアードレー家も力を失って行く……

処理中です...