酷いことをしたのはあなたの方です

風見ゆうみ

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 魔法使いの中でも、レベルの違いがあり、レベルが高い人だと、魔力を感じただけで、どの人がかけた魔法なのかがわかるらしい。
 もちろん、魔力で名前がわかるわけではないから、その人が誰だか知っている場合によるみたいだけど。

 ディラン様はオラエル先生の魔力に触れているから、オラエル先生の魅了魔法にかかった誰かがいるなら、近くにいるなら、すぐにわかるらしい。
 だから、自分の身近でそれを感じた時には教えてくれるという話をしてくれていた。

「ディラン様って、本当にすごいわね」

 とある日の夕方、屋敷の中から出る事がほとんどないため、暇を持て余している私は、エドの執務室で刺繍の練習をしながら、彼に話しかけた。

「恋人に他の男を褒める話をするのか」
「人を褒める事は悪い事じゃないでしょう」
「ディランに惚れたんじゃないだろうな」
「そんなわけないでしょ。親友の恋人なのよ?」
「付き合っているわけではないんだろ?」
「似た様なものじゃない! それに私がディラン様を好きになったとしても、ディラン様は私を好きにならないから大丈夫よ! 何より、私も好きになったりしないし! 私はエドが好きなんだから」

 エドが子供みたいな事を言ってくるので呆れて言うと、エドは目を通していた書類を置いて、私の隣に座った。

「何?」
「ごめん」
「謝らないでよ」
「エアリスの事もディランの事も信用してないわけじゃない」
「わかってるわよ。元々は私が魅了魔法にかかってしまったから、エドはそのせいで不安になってるんでしょう?」

 尋ねると、エドは私の肩に自分の頭をのせてきた。

「そうだな。もう、あんな思いは二度としたくない。特に、君とこうやっていられる幸せを覚えた今は、余計に辛くなりそうだから」
「ディラン様に忘却魔法でもかけてもらう?」
「楽にはなりそうだけどやめておく」

 刺繍をやめて、エドとの会話に専念する。

「そう思うと、私は楽な方に逃げようとしていたのよね」
「あの時の君は若かったんだからしょうがない」
「ありがとう。でも、もう次は逃げたりしない。私だって大人になったからね」
「…そうだな。そういえば、最近、近くの繁華街に新しいカフェがオープンしたみたいだから行ってみるか?」
「いいの!?」
「ああ。トゥッチが近付いてきているにしても、街中には目立つから出てこれないだろう」

 1日くらいは良いかな、という話になり、明日、私はエドと一緒にカフェに行く事に決まった。
 そして、次の日の昼前、ランチを兼ねてカフェに向かった。
 繁華街から歩いていける距離の場所に、オルザベートの実家があるから、ご両親がどうされているのか様子を見に行こうかとも思ったけど、私はオルザベートを忘れているという設定だから行かない事にする。
 ビアラを傷付けようとしてるとわかった以上、オルザベートへの情けなんていらないんだから。

「賑わっているけど、味は普通だな」
「エドが美味しいものを食べ慣れすぎてるのよ」
「そうか?」
「あなたは公爵なんだから、出される料理もお菓子も飲み物も一流のものでしょうから」
「幸せな話だな」
「あなたの事を言ってるんだけど」

 公爵家の力で当日の連絡にも関わらず、一席空けてくれていたので、並ばずに済み、この店のイチオシメニューであるレモンティーを飲みながら話をしていると、店の出入り口が騒がしくなった。
 見てみると、店の前で待たせていた護衛と誰かが言い合っているのが見えた。

「エド…」
「ああ。そういえば、彼はトゥッチ孃を探してたんだったな。ここに来ていてもおかしくはない」

 エドは小さく息を吐いてから立ち上がる。

「君はゆっくりしておいてくれ。僕が相手をしてくる」
「でも…!」
「いいから」

 エドは微笑んでから、店の出入り口に向かって歩いていく。

 護衛ともめていた人物。
 茶色の髪は全く手入れされていないのか、背中まで伸びており、来ている服も肌も薄汚れていて、一見すると浮浪者だった。
 けれど、髪の隙間から見えた顔を見て、すぐにわかった。

 私にとって会いたくなかった人物の1人。
 ロンバートだった。

 
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