酷いことをしたのはあなたの方です

風見ゆうみ

文字の大きさ
上 下
4 / 25

1−3

しおりを挟む
 ビアラと一緒にドレスを試着した日から5日後の事、夕方にビアラがカイジス邸にやって来たけれど、私に用事ではなく、エドに用事があるようだった。

「どうかしたの、ビアラ?」
「話をしたいけど、エドワード様に許可をとってからじゃないと駄目なの。ごめんね」

 エドが応接間にやって来るまで、私が相手をする事にしたんだけど、ビアラがいつになく焦っているので不安になる。

「エドがいいって言ったら、私も話を聞いてもいいの?」
「うん…」

 ちょっと困った様な顔でビアラが頷くから、余計にどんな話なのか気になった。

 少ししてからエドがやって来て、ビアラと一緒に私がいるのを見て、少しだけ驚いた表情になった。

 どうやら、私に聞かせたくない話みたい。
 けれど、エドは何も言わずに、ビアラと並んで座る、私の向かい側に座った。

「簡単な事情は側近から聞いたが、一体、どういう事なんだ?」
「警察内部に協力者がいるとしか考えられません」
「あの、私も聞いてもいいの?」

 2人が話し始めたので、エドに聞いてみると、小さく息を吐いてから頷く。

「どうせ、いつか話さないといけなくなるからな」
「ありがとう」

 お礼を言ってから、続きを促すためにビアラを見る。
 ビアラはまだ言いにくそうな感じだったけれど、口を開いてくれた。

「トゥッチとオラエルが引っ越す日だったんだけど…」
「え…、どうかしたの?」

 2人の名前を聞いた瞬間、嫌な予感が胸に広がる。

「逃げたの」
「え?」

 もう一度、私が聞き返すと、ビアラは今度はエドの方を見て続ける。

「馬車に3人をのせて移動してたみたいです。警察側からも人を派遣していたんですが、彼らが逃がしたようです。言い訳はちゃんとあるようですけど」
「逃がしたとはどういう事だ?」
「御者が言うには、男性、オラエルですね。オラエルの体調が突然、悪くなったらしいです。で、馬車を止めてくれと言われたようです」
「…魔法を使ったか」
「魔力切れを起こしかけたんでしょうね」

 エドの言葉に頷いてから、ビアラは冷静な口調で続ける。

「オラエルは同時に3人ほどに魅了魔法を使ったみたいです。元々、魔力がそんなにない人間だったから、苦しかったでしょうね。オラエル達は近くの診療所に運ばれましたが、その数時間後、姿を消しました」
「逃走する理由はなんだと思う?」
「警察署内での見解は、新しい新居に行くのが嫌で逃げた、になっていますが、私はそう考えてはいません」
「僕もそう思う」

 はあ、とため息を吐いてから、エドが私を見る。

「大体、わかっただろう? トゥッチ嬢が逃げた理由は」
「…私に会うためね?」
「そうだ」
「実は、魅了魔法にかけられていた同僚の1人から、手紙を受け取ったんです。その時は魅了魔法がかかったままだったので、素直に答えてくれましたが、トゥッチから私に渡すように頼まれたと」

 ビアラは上着のポケットの中から死角に折りたたまれた紙を取り出して続ける。

「手紙の内容は読みましたが、上司にはまだ伝えていません。伝えてしまうと、この紙自体を没収される恐れがあったので、先に持ってきました」

 ビアラはエドに紙を渡し、受け取ったエドは静かに紙を開いて読み始めたけれど、読みすすめていけばいくほど、彼の眉間のシワが深くなっていく。

「エアリス…」

 エドは読み終えたのか、私に向かって紙を渡してきた。
 紙を受け取って、内容を読み、大きくため息を吐く。

「どういう事なの…。この書き方だと、オルザベートは自分の子供を置き去りにしたの?」

 ビアラに尋ねると、彼女は難しい顔をして頷いた。

「手紙に書いてある通りなんでしょうね…」
「信じられない。何を考えているの…」

 私は手紙を握りしめて呟いた。


 オルザベートがビアラに宛てた手紙は、こんなものだった。





『ミゼライトさんへ。

 今頃は私のエアリスを独り占めできて喜んでいるのかもしれないけれど、それは今のうちだけよ?

 私はエアリスと生きるの。

 だけど、すぐにはエアリスには会いにいけない。

 ああ、そういえば、忘却魔法をかけたって、エアリスは私を忘れられやしなかったでしょう?
 
 だって、あなたと違って、私とエアリスは親友だから。

 私がいなくなったと聞いたエアリスが寂しくないように、私の子供を置いていくわ。

 必ず、会いに行くから心配しないで、とエアリスに伝えてちょうだい。
 
 ミゼライトさん。

 あなたにはいつか後悔してもらう事になるからね。

 エアリスの1番の親友というポジションを私から奪おうとするという、酷いことをしたんだから…。

 ロンバートはいないから、エアリスと私、ティンカー、それから息子のエアルの4人で幸せに暮らす私達を見て悔しがればいいわ。

 では、それまでお元気で 』





 彼女が私に近付いてくる足音が聞こえたような気がした。

 どうして、私がオルザベートの子供を一緒に育てるだなんて未だに思えるのよ。
 
 私は絶対にオルザベートに会ったりしない。
 会ってしまえば彼女を喜ばせてしまう。
 そして、オルザベートには会わないようにしながらも、本当の友達を守らないと。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

【完結】私の婚約者は妹のおさがりです

葉桜鹿乃
恋愛
「もう要らないわ、お姉様にあげる」 サリバン辺境伯領の領主代行として領地に籠もりがちな私リリーに対し、王都の社交界で華々しく活動……悪く言えば男をとっかえひっかえ……していた妹ローズが、そう言って寄越したのは、それまで送ってきていたドレスでも宝飾品でもなく、私の初恋の方でした。 ローズのせいで広まっていたサリバン辺境伯家の悪評を止めるために、彼は敢えてローズに近付き一切身体を許さず私を待っていてくれていた。 そして彼の初恋も私で、私はクールな彼にいつのまにか溺愛されて……? 妹のおさがりばかりを貰っていた私は、初めて本でも家庭教師でも実権でもないものを、両親にねだる。 「お父様、お母様、私この方と婚約したいです」 リリーの大事なものを守る為に奮闘する侯爵家次男レイノルズと、領地を大事に思うリリー。そしてリリーと自分を比べ、態と奔放に振る舞い続けた妹ローズがハッピーエンドを目指す物語。 小説家になろう様でも別名義にて連載しています。 ※感想の取り扱いについては近況ボードを参照ください。(10/27追記)

公爵令息は妹を選ぶらしいので私は旅に出ます

ネコ
恋愛
公爵令息ラウルの婚約者だったエリンは、なぜかいつも“愛らしい妹”に優先順位を奪われていた。正当な抗議も「ただの嫉妬だろう」と取り合われず、遂に婚約破棄へ。放り出されても涙は出ない。ならば持ち前の治癒魔法を活かして自由に生きよう――そう決めたエリンの旅立ち先で、運命は大きく動き出す。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

婚約者が病弱な妹に恋をしたので、私は家を出ます。どうか、探さないでください。

待鳥園子
恋愛
婚約者が病弱な妹を見掛けて一目惚れし、私と婚約者を交換できないかと両親に聞いたらしい。 妹は清楚で可愛くて、しかも性格も良くて素直で可愛い。私が男でも、私よりもあの子が良いと、きっと思ってしまうはず。 ……これは、二人は悪くない。仕方ないこと。 けど、二人の邪魔者になるくらいなら、私が家出します! 自覚のない純粋培養貴族令嬢が腹黒策士な護衛騎士に囚われて何があっても抜け出せないほどに溺愛される話。

【完結】旦那様、その真実の愛とお幸せに

おのまとぺ
恋愛
「真実の愛を見つけてしまった。申し訳ないが、君とは離縁したい」 結婚三年目の祝いの席で、遅れて現れた夫アントンが放った第一声。レミリアは驚きつつも笑顔を作って夫を見上げる。 「承知いたしました、旦那様。その恋全力で応援します」 「え?」 驚愕するアントンをそのままに、レミリアは宣言通りに片想いのサポートのような真似を始める。呆然とする者、訝しむ者に見守られ、迫りつつある別れの日を二人はどういった形で迎えるのか。 ◇真実の愛に目覚めた夫を支える妻の話 ◇元サヤではありません ◇全56話完結予定

愛のない貴方からの婚約破棄は受け入れますが、その不貞の代償は大きいですよ?

日々埋没。
恋愛
 公爵令嬢アズールサは隣国の男爵令嬢による嘘のイジメ被害告発のせいで、婚約者の王太子から婚約破棄を告げられる。 「どうぞご自由に。私なら傲慢な殿下にも王太子妃の地位にも未練はございませんので」  しかし愛のない政略結婚でこれまで冷遇されてきたアズールサは二つ返事で了承し、晴れて邪魔な婚約者を男爵令嬢に押し付けることに成功する。 「――ああそうそう、殿下が入れ込んでいるそちらの彼女って実は〇〇ですよ? まあ独り言ですが」  嘘つき男爵令嬢に騙された王太子は取り返しのつかない最期を迎えることになり……。    ※この作品は過去に公開したことのある作品に修正を加えたものです。  またこの作品とは別に、他サイトでも本作を元にしたリメイク作を別のペンネー厶で公開していますがそのことをあらかじめご了承ください。

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

処理中です...