酷いことをしたのはあなたの方です

風見ゆうみ

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 ビアラと一緒にドレスを試着した日から5日後の事、夕方にビアラがカイジス邸にやって来たけれど、私に用事ではなく、エドに用事があるようだった。

「どうかしたの、ビアラ?」
「話をしたいけど、エドワード様に許可をとってからじゃないと駄目なの。ごめんね」

 エドが応接間にやって来るまで、私が相手をする事にしたんだけど、ビアラがいつになく焦っているので不安になる。

「エドがいいって言ったら、私も話を聞いてもいいの?」
「うん…」

 ちょっと困った様な顔でビアラが頷くから、余計にどんな話なのか気になった。

 少ししてからエドがやって来て、ビアラと一緒に私がいるのを見て、少しだけ驚いた表情になった。

 どうやら、私に聞かせたくない話みたい。
 けれど、エドは何も言わずに、ビアラと並んで座る、私の向かい側に座った。

「簡単な事情は側近から聞いたが、一体、どういう事なんだ?」
「警察内部に協力者がいるとしか考えられません」
「あの、私も聞いてもいいの?」

 2人が話し始めたので、エドに聞いてみると、小さく息を吐いてから頷く。

「どうせ、いつか話さないといけなくなるからな」
「ありがとう」

 お礼を言ってから、続きを促すためにビアラを見る。
 ビアラはまだ言いにくそうな感じだったけれど、口を開いてくれた。

「トゥッチとオラエルが引っ越す日だったんだけど…」
「え…、どうかしたの?」

 2人の名前を聞いた瞬間、嫌な予感が胸に広がる。

「逃げたの」
「え?」

 もう一度、私が聞き返すと、ビアラは今度はエドの方を見て続ける。

「馬車に3人をのせて移動してたみたいです。警察側からも人を派遣していたんですが、彼らが逃がしたようです。言い訳はちゃんとあるようですけど」
「逃がしたとはどういう事だ?」
「御者が言うには、男性、オラエルですね。オラエルの体調が突然、悪くなったらしいです。で、馬車を止めてくれと言われたようです」
「…魔法を使ったか」
「魔力切れを起こしかけたんでしょうね」

 エドの言葉に頷いてから、ビアラは冷静な口調で続ける。

「オラエルは同時に3人ほどに魅了魔法を使ったみたいです。元々、魔力がそんなにない人間だったから、苦しかったでしょうね。オラエル達は近くの診療所に運ばれましたが、その数時間後、姿を消しました」
「逃走する理由はなんだと思う?」
「警察署内での見解は、新しい新居に行くのが嫌で逃げた、になっていますが、私はそう考えてはいません」
「僕もそう思う」

 はあ、とため息を吐いてから、エドが私を見る。

「大体、わかっただろう? トゥッチ嬢が逃げた理由は」
「…私に会うためね?」
「そうだ」
「実は、魅了魔法にかけられていた同僚の1人から、手紙を受け取ったんです。その時は魅了魔法がかかったままだったので、素直に答えてくれましたが、トゥッチから私に渡すように頼まれたと」

 ビアラは上着のポケットの中から死角に折りたたまれた紙を取り出して続ける。

「手紙の内容は読みましたが、上司にはまだ伝えていません。伝えてしまうと、この紙自体を没収される恐れがあったので、先に持ってきました」

 ビアラはエドに紙を渡し、受け取ったエドは静かに紙を開いて読み始めたけれど、読みすすめていけばいくほど、彼の眉間のシワが深くなっていく。

「エアリス…」

 エドは読み終えたのか、私に向かって紙を渡してきた。
 紙を受け取って、内容を読み、大きくため息を吐く。

「どういう事なの…。この書き方だと、オルザベートは自分の子供を置き去りにしたの?」

 ビアラに尋ねると、彼女は難しい顔をして頷いた。

「手紙に書いてある通りなんでしょうね…」
「信じられない。何を考えているの…」

 私は手紙を握りしめて呟いた。


 オルザベートがビアラに宛てた手紙は、こんなものだった。





『ミゼライトさんへ。

 今頃は私のエアリスを独り占めできて喜んでいるのかもしれないけれど、それは今のうちだけよ?

 私はエアリスと生きるの。

 だけど、すぐにはエアリスには会いにいけない。

 ああ、そういえば、忘却魔法をかけたって、エアリスは私を忘れられやしなかったでしょう?
 
 だって、あなたと違って、私とエアリスは親友だから。

 私がいなくなったと聞いたエアリスが寂しくないように、私の子供を置いていくわ。

 必ず、会いに行くから心配しないで、とエアリスに伝えてちょうだい。
 
 ミゼライトさん。

 あなたにはいつか後悔してもらう事になるからね。

 エアリスの1番の親友というポジションを私から奪おうとするという、酷いことをしたんだから…。

 ロンバートはいないから、エアリスと私、ティンカー、それから息子のエアルの4人で幸せに暮らす私達を見て悔しがればいいわ。

 では、それまでお元気で 』





 彼女が私に近付いてくる足音が聞こえたような気がした。

 どうして、私がオルザベートの子供を一緒に育てるだなんて未だに思えるのよ。
 
 私は絶対にオルザベートに会ったりしない。
 会ってしまえば彼女を喜ばせてしまう。
 そして、オルザベートには会わないようにしながらも、本当の友達を守らないと。
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