上 下
8 / 12

8  追い出された?

しおりを挟む
「あ、あれ…って、ハック様よね? どうして…? やっぱり、リリンラ様の言う通り浮気してたの…?」

 別に動揺することでもないのだけれど、平民らしき服装の女性と歩いているハック様を見て、ちょっとした恐怖を覚えてしまった。

 何なのあれ?
 
 これから、あなたの子供が生まれてくるのよね?
 それなのに、結婚どころか婚約さえも認めてもらえていないのに、他の女性と歩いているなんて信じられない…!

「ねえ、ラル…」
「ん?」
「もし、ハック様と私が結婚していたら、私が妊娠中、ハック様は陰でああやって他の女性と遊んでいたのかしら…?」
「……まあ、毎日じゃねぇかもしれないけど、絶対にそうだろうな」
「信じられない…」

 今回の件があって、お母様にも話を聞いてみたけれど、奥さんが妊娠している時に浮気するという男性もいると聞いた。
 
 ハック様は、先日のパーティーの時に醜態をさらしたせいで、貴族の女性には相手にされなくなっているだろうから、平民の女性を狙ったの?

 そこまでして、女性と一緒にいないといけない理由って何なの!?

「おい、今日は友達の誕生日プレゼントを選びに来たんだろ? あいつの事は気にすんな」
「そ、そうね…」

 外を見ると、ハック様達の姿は見えなくなっていたので、余計な事は考えずに、ミーファへの誕生日プレゼントを選ぼうと考えた時だった。
 
「アンジェ!!」

 聞き覚えのある声が聞こえて、びくりと体を震わせると、ラルが私の目の前に立って、私の名を呼んだ声の主から見えない様に隠してくれた。

「おい、邪魔だぞ! 僕はアンジェに話があるんだ!」
「もうあんたは婚約者じゃないだろ。アンジェに近付くな」

 静かだった店内にハック様とラルの声が響く。

 後ろを振り返ると、お店の人が驚いた表情で私達を見ているのがわかった。

「ラル、店の人や他のお客様に迷惑だわ。外に出ましょう」
「……」

 ラルは私の手を取ると、ハック様に言う。

「扉の前に立ってられても、他の人に迷惑だから退け」
「うるさいな、どうして君に指示されないといけないんだ!」
「他の人にも迷惑だって言ってるだろ」

 ラルが今までに聞いた事のないくらい低く冷たい声で言うと、ハック様は気圧されたのか後ろにさがり、道をあけてくれた。

「この事は報告させてもらうからな」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

 ラルの後に付いて外に出ようとした私の手をハック様がつかもうとしたけれど、ラルがあいている方の手でハック様の手をつかんでひねり上げた。

「アンジェに触れようとするな」
「いででで!!!」
「うるせぇな、静かにしろ」

 ラルは私の手をはなし、ハック様の腕をつかんだまま、彼を店の外に引きずり出した。
 すると、ハック様と、腕を組んで歩いていた女性が店の前で立っている事に気付き、ラルは彼女に向かって言う。

「こいつ、他にも女がいるぞ」
「ちょっ! あっ!」 

 ハック様は慌てた顔をして、ラルと女性の顔を見た。

「他にも女…? どういう事ですか?」

 女性が聞き返すと、ラルは私とハック様の方を見てから口を開く。

「彼女はこの男の元婚約者だったんだが、この男が彼女のクラスメイトと関係を持って、その女性に子供が出来たから婚約破棄になった。で、相手の親に、そんなふしだらな奴に娘を任せられんって言われて、今は子供が出来た相手とも会えない状況。…というか、お前、家から見捨てられたのか?」

 ラルに尋ねられたハック様の顔色が一気に悪くなった。

「まさか、ハック様。お家から縁を切られたんですか…?」
「う、うるさい! そんな事はどうだっていいだろう!」
「どうでも良くないです! あなたがそうやって浮気ばかりしているから、リリンラ様は私とあなたが浮気してると思い込んでるんですよ!?」
「ちょっと、ハック! どういう事なの!?」

 私の言葉を聞いた女性が、ハック様に詰めより、彼のシャツの襟首をつかんで言う。

「私を騙してたの!?」
「い、いや、その、騙してなんか…」
「自分は今、親と喧嘩していて帰りづらい。時が経てば親の怒りもおさまるだろうから、すぐにお金を返せるからって言って、散々、私の家に寄生していたわよね!?」
「え? あ、…そんな話だったかな?」
「そんな話だったかなじゃないわよ!」

 女性は叫ぶと、持っていたハンドバッグでハック様の顔と頭を殴った後、「この最低男!」と叫ぶと、人混みの中に紛れていく。

「ちょっと待ってくれ! 今、お前に捨てられたら、僕はどこに行ったらいいんだよ!」
「どこかで野宿でもしろ!」

 女性から反応は返ってきたけれど、それはもう冷たいものだった。

 自業自得だし、そう言われても仕方がないと思うけれど。

「行くぞ」
「あ、うん」

 ラルに促されたので首を縦に振ると、ハック様が叫ぶ。

「アンジェ、待ってくれ! 表沙汰にはされてないが、僕は伯爵家から追い出されたんだよ!」
「それがどうした。野宿頑張れ」

 ラルは私の代わりにそう答えると、無意識なのか、それともハック様への当てつけなのか、私の手を握って歩き出した。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

まさか、今更婚約破棄……ですか?

灯倉日鈴(合歓鈴)
恋愛
チャールストン伯爵家はエンバー伯爵家との家業の繋がりから、お互いの子供を結婚させる約束をしていた。 エンバー家の長男ロバートは、許嫁であるチャールストン家の長女オリビアのことがとにかく気に入らなかった。 なので、卒業パーティーの夜、他の女性と一緒にいるところを見せつけ、派手に恥を掻かせて婚約破棄しようと画策したが……!? 色々こじらせた男の結末。 数話で終わる予定です。 ※タイトル変更しました。

婚約者に好きな人がいると言われました

みみぢあん
恋愛
子爵家令嬢のアンリエッタは、婚約者のエミールに『好きな人がいる』と告白された。 アンリエッタが婚約者エミールに抗議すると… アンリエッタの幼馴染みバラスター公爵家のイザークとの関係を疑われ、逆に責められる。 疑いをはらそうと説明しても、信じようとしない婚約者に怒りを感じ、『幼馴染みのイザークが婚約者なら良かったのに』と、口をすべらせてしまう。 そこからさらにこじれ… アンリエッタと婚約者の問題は、幼馴染みのイザークまで巻き込むさわぎとなり―――――― 🌸お話につごうの良い、ゆるゆる設定です。どうかご容赦を(・´з`・)

今まで尽してきた私に、妾になれと言うんですか…?

水垣するめ
恋愛
主人公伯爵家のメアリー・キングスレーは公爵家長男のロビン・ウィンターと婚約していた。 メアリーは幼い頃から公爵のロビンと釣り合うように厳しい教育を受けていた。 そして学園に通い始めてからもロビンのために、生徒会の仕事を請け負い、尽していた。 しかしある日突然、ロビンは平民の女性を連れてきて「彼女を正妻にする!」と宣言した。 そしえメアリーには「お前は妾にする」と言ってきて…。 メアリーはロビンに失望し、婚約破棄をする。 婚約破棄は面子に関わるとロビンは引き留めようとしたが、メアリーは婚約破棄を押し通す。 そしてその後、ロビンのメアリーに対する仕打ちを知った王子や、周囲の貴族はロビンを責め始める…。 ※小説家になろうでも掲載しています。

巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~

アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。

始まりはよくある婚約破棄のように

メカ喜楽直人
恋愛
「ミリア・ファネス公爵令嬢! 婚約者として10年も長きに渡り傍にいたが、もう我慢ならない! 父上に何度も相談した。母上からも考え直せと言われた。しかし、僕はもう決めたんだ。ミリア、キミとの婚約は今日で終わりだ!」 学園の卒業パーティで、第二王子がその婚約者の名前を呼んで叫び、周囲は固唾を呑んでその成り行きを見守った。 ポンコツ王子から一方的な溺愛を受ける真面目令嬢が涙目になりながらも立ち向い、けれども少しずつ絆されていくお話。 第一章「婚約者編」 第二章「お見合い編(過去)」 第三章「結婚編」 第四章「出産・育児編」 第五章「ミリアの知らないオレファンの過去編」連載開始

ダンスパーティーで婚約者から断罪された挙句に婚約破棄された私に、奇跡が起きた。

ねお
恋愛
 ブランス侯爵家で開催されたダンスパーティー。  そこで、クリスティーナ・ヤーロイ伯爵令嬢は、婚約者であるグスタフ・ブランス侯爵令息によって、貴族子女の出揃っている前で、身に覚えのない罪を、公開で断罪されてしまう。  「そんなこと、私はしておりません!」  そう口にしようとするも、まったく相手にされないどころか、悪の化身のごとく非難を浴びて、婚約破棄まで言い渡されてしまう。  そして、グスタフの横には小さく可憐な令嬢が歩いてきて・・・。グスタフは、その令嬢との結婚を高らかに宣言する。  そんな、クリスティーナにとって絶望しかない状況の中、一人の貴公子が、その舞台に歩み出てくるのであった。

婚約者は迷いの森に私を捨てました

天宮有
恋愛
侯爵令息のダウロスは、婚約者の私ルカを迷いの森に同行させる。 ダウロスは「ミテラを好きになったから、お前が邪魔だ」と言い森から去っていた。 迷いの森から出られない私の元に、公爵令息のリオンが現れ助けてくれる。 力になると言ってくれたから――ダウロスを、必ず後悔させてみせます。

わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑

岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。 もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。 本編終了しました。

処理中です...