上 下
51 / 53

51 やってしまいました!

しおりを挟む
 あ、やばい。
 なんか、いきなり高熱が出たみたいに身体が熱いし、息が上がる。
 座っているのも辛くなって、ズルズルとソファの背もたれに倒れ込んだ。

「ユーニさん?」

 私の様子に気が付いたのか、ラス様が立ち上がって私のところまで来てくれた。

「しっかりして下さい!」

 ラス様がぐったりしている私の身体を支えて、緊迫した表情で叫ぶ。
 身体が熱い。
 熱いだけで、苦しいとかはない。
 伝えたいけど、うまく口が動かなくて、テーブルの上を指差す。

「リアさんがアレンからもらったお菓子・・・?」

 食べかけのスコーンを手にとって、ラス様はお菓子の匂いをかいで、ハッとした顔をする。
 なにか、わかったのかな。
 というか、なんでだろう。
 なんか、ラス様に触れたくなってきた。
 駄目。
 駄目ってわかってるのに。
 身体がいう事をきかない。

「ラスさま・・・」
「ユっ」

 たぶん、私の名前を呼んでくれようとしたんだと思う。
 でも、それは無理だった。
 私がラス様の口を自分の口でふさいだから。

「ユーニさん!」
「ラスさ、まっ」

 ひきはなされたけれど、私の手は自然とラス様の頬にのびる。
 なんで、こんなに身体が熱いの。
 わからない。
 どうしてかわからないけど、今はラス様に触れたい。
 その衝動にかられて、ラス様にまたキスしてしまう。

「っ!」
「んっ・・・・ん」

 身体が引き寄せられて、ぼんやりした頭なのに、口の中に入ってきたラス様の舌の感触を心地よく感じて目を閉じる。
 気持ち良い。

「ふ・・・・ぁん・・・んっ」

 角度を変えられて、また入ってきたそれに、自分のものをからめてみる。
 本当に気持ち良くて、私から求めてしまう。
 ラス様の舌も熱くてクラクラしてくる・・・。

「やっちまった・・・・・」

 唇がはなれると、ラス様はコツンと私に額を合わせて呟いた。

「ラス・・・さま?」

 ・・・・・やっちまった?
 え? 
 !?
 一瞬にして、身体の熱が引いて、理性が蘇った。
 あ、ラス様とキスした?!
 わ、私、な、なんて事を?!

「わっ、わっ、私っ」
「・・・・・わかってます。あなたはどうやら媚薬が入った食べ物を食べたようですね」

 ラス様は少し息が荒いまま答えてくれた。

 うわ、男の人なのに、すごく色っぽい。
 って、そんな事を考えてる場合じゃない!

「ほんとーにごめんなさ・・・」

 謝ろうと勢いよく、頭を上げたところで、私の意識はぷつりと途切れた。


 

「目ぇ覚めたか」

 目を開けると、見慣れた天井と一緒に、ユウヤくんの顔が見えた。
 どうやら私は、自分の部屋のベッドで寝ているようだった。
 服も寝間着になっているから、着替えさせてくれたみたい。
 
「・・・・・私・・、あれから・・・」
「ラスの執務室で気を失ったんだよ。ラスからは、その、色々と事情は聞いてる」
「ごっ、ごめんなさい!!」
「いいから」

 起き上がろうとすると、肩を掴まれて、ベッドに押し戻された。
 
 なんで、あんな事しちゃったんだろう。
 ラス様にも申し訳ないし、話を聞いたんなら、ユウヤくんにも嫌われちゃったよね。
 そう思うと、涙が一瞬にして目尻にたまる。

「なんで泣くんだよ」
「だって、ユウヤくん・・・・・、私のこと・・・・嫌いになったよね」
「は? 何で?」
「だってラス様にあんな事」
「あれは薬のせいなんだよ」

 ユウヤくんは目尻からこぼれた私の涙を手でぬぐってくれながら、優しい口調で続ける。

「だからユーニのせいじゃない。それに、ラスが言ってたけど、引き剥がそうと思えば引き剥がせたのに、それをしなかったのはラスだって。つーか、何があったかは詳しく聞いてねぇんだけど、その、最後までシたっていうわけじゃなかったら、いいから」
「してないよ! というか、ラス様はそんな人じゃない」

 記憶が途切れる前に覚えてるのは、後悔しているみたいな悲しそうなラス様の顔だ。

「だよな。ラスは気を失ってる人間にそんな事するような奴じゃねぇもんな。まあ、最後までシたとしてても、オマエを手放す気はないから」

 ユウヤくんはそっと片目ずつに優しくキスをして、涙を拭ってくれた。

「ありがとう。あと、あの、薬って、どういう事?」
「いや、それがアレンがリアちゃんに渡したお菓子の中に、媚薬を入れてたみたいでよ」
「は?」

 という事は。

「リアは?! リアは大丈夫だったの?!」
「大丈夫っつーか、なんというか。リアちゃんもお前と同じでぶっ倒れちまったんだけどな」
「その、私みたいに、なっちゃったの?」
「それがな」

 ユウヤくんはだいぶ言いにくそうにしていたけれど、いつかわかる事だし、と教えてくれた。
 まず、リアがお菓子を食べたのはユウマくんが人に呼ばれて、席を外した、何分かの間の出来事だったらしい。
 アレンくんは媚薬は無理だと判断して、他に用意していた意識を朦朧とさせる薬の入ったお菓子をリアに食べさせて、ちゃんとした判断が出来なくなっているリアに、ある書類にサインをさせた。
 それは婚姻届だった。
 しかもそれには魔法がかかっていて、燃やす事も破る事もできないらしい。

「信じられない」
「無効にできないか、と話をしてるんだが、強力な魔法らしくて無効化が難しいらしい」
「アレンくん、なんでそんな事」

 自分自身が巻き込まれた事にもムカつくけど、やっぱりリアにした事が一番許せない。
 ユウマくんがいたから媚薬入りを食べさせなかっただけで、いなかったら食べさせてたって事。
 そんなのひどい。
 リアの気持ちはどうなるの。

 こんな事を思ってはいけないのかもしれないけど、アレンくんの事が本当に今回だけは許せない。

 ぎゅう、とシーツをにぎりしめて歯を食いしばる。

「好きな気持ちが暴走したんだろうな。もちろん、やっちゃいけねぇ事だけど」
「自分勝手すぎる!」
「リアちゃんはまだ意識が戻ってない。アレンに関してはさすがの父上もカンカンだよ。父上自ら、破棄できるように動いてくれてる」
「婚姻届にサインしたら、絶対に結婚しなくちゃいけないの?」
「そういう訳じゃねぇけど、ユウマとリアちゃんが結婚したら、自動的にアレンとも結婚しないといけなくなるだろうな」
「そんなの、そんな事するような人と結婚だなんて」

 そこまで言って言葉を止めた。
 
 アレンくんはユウヤくんの実の弟だった。

「ごめん」
「なんでオマエが謝るんだよ」

 ベッドの横に座ってくれていたユウヤくんが立ち上がると、身を屈めて、私に優しくキスしてから言う。

「オマエが起きたの医者に知らせてくるわ。あと、ラスは今、リアちゃんのとこにいるから」
「ユウマくんが付いてるんじゃなくて?」
「ユウマもいるけど、そのユウマがだいぶ憔悴しきってるから、ラスがユウマとリアちゃんの二人を見てんだよ。ユウマが今は信じられんのはオレ達とラスしかいないからって。あ、なんか食いたいもんとかあるか?」
「あったかいスープとかあったら飲みたい。で、落ち着いたらリアの所に行きたい」
「わかった」

 ユウヤくんが出ていき、一人になるとベッドに倒れ込んだ。
 
 ここ最近、落ち着いてきたな、と思ったら結局はこれだ。
 もちろん、私ではふせげなかったことかもしれないけど、こんなひどい事ってあるんだろうか。
 ユウマくんも大丈夫かな。

 何か飲みたくなって、また起き上がり、サイドテーブルに置かれていた水差しから中身をコップにうつす。
 一口飲んだ所で、トントン、と扉をノックする音が聞こえた。

 ユウヤくんかな?
 そう思って、

「はい?」

 返事を返すと、小さく扉を開けて、顔を見せたのはラス様だった。

「ラ、ラスさまっ!!」

 どれくらいの時間がたったのかわからないけど、寝ていたせいか、ラス様の顔を見ると、あの時の感触を思い出されて声が上ずってしまった。

「ユウヤが帰ってきたら、正式に謝罪をしたいので声をかけていただいてもよろしいでしょうか」
「え? 謝罪?」

 ラス様が謝る事って何?
 どちらかというと、私が土下座しなくちゃいけないのでは?
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

果たされなかった約束

家紋武範
恋愛
 子爵家の次男と伯爵の妾の娘の恋。貴族の血筋と言えども不遇な二人は将来を誓い合う。  しかし、ヒロインの妹は伯爵の正妻の子であり、伯爵のご令嗣さま。その妹は優しき主人公に密かに心奪われており、結婚したいと思っていた。  このままでは結婚させられてしまうと主人公はヒロインに他領に逃げようと言うのだが、ヒロインは妹を裏切れないから妹と結婚して欲しいと身を引く。  怒った主人公は、この姉妹に復讐を誓うのであった。 ※サディスティックな内容が含まれます。苦手なかたはご注意ください。

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

求職令嬢は恋愛禁止な竜騎士団に、子竜守メイドとして採用されました。

待鳥園子
恋愛
グレンジャー伯爵令嬢ウェンディは父が友人に裏切られ、社交界デビューを目前にして無一文になってしまった。 父は異国へと一人出稼ぎに行ってしまい、行く宛てのない姉を心配する弟を安心させるために、以前邸で働いていた竜騎士を頼ることに。 彼が働くアレイスター竜騎士団は『恋愛禁止』という厳格な規則があり、そのため若い女性は働いていない。しかし、ウェンディは竜力を持つ貴族の血を引く女性にしかなれないという『子竜守』として特別に採用されることになり……。 子竜守として働くことになった没落貴族令嬢が、不器用だけどとても優しい団長と恋愛禁止な竜騎士団で働くために秘密の契約結婚をすることなってしまう、ほのぼの子竜育てありな可愛い恋物語。 ※完結まで毎日更新です。

貴妃エレーナ

無味無臭(不定期更新)
恋愛
「君は、私のことを恨んでいるか?」 後宮で暮らして数十年の月日が流れたある日のこと。国王ローレンスから突然そう聞かれた貴妃エレーナは戸惑ったように答えた。 「急に、どうされたのですか?」 「…分かるだろう、はぐらかさないでくれ。」 「恨んでなどいませんよ。あれは遠い昔のことですから。」 そう言われて、私は今まで蓋をしていた記憶を辿った。 どうやら彼は、若かりし頃に私とあの人の仲を引き裂いてしまったことを今も悔やんでいるらしい。 けれど、もう安心してほしい。 私は既に、今世ではあの人と縁がなかったんだと諦めている。 だから… 「陛下…!大変です、内乱が…」 え…? ーーーーーーーーーーーーー ここは、どこ? さっきまで内乱が… 「エレーナ?」 陛下…? でも若いわ。 バッと自分の顔を触る。 するとそこにはハリもあってモチモチとした、まるで若い頃の私の肌があった。 懐かしい空間と若い肌…まさか私、昔の時代に戻ったの?!

貴方だけが私に優しくしてくれた

バンブー竹田
恋愛
人質として隣国の皇帝に嫁がされた王女フィリアは宮殿の端っこの部屋をあてがわれ、お飾りの側妃として空虚な日々をやり過ごすことになった。 そんなフィリアを気遣い、優しくしてくれたのは年下の少年騎士アベルだけだった。 いつの間にかアベルに想いを寄せるようになっていくフィリア。 しかし、ある時、皇帝とアベルの会話を漏れ聞いたフィリアはアベルの優しさの裏の真実を知ってしまってーーー

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

処理中です...