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47 本当に心配しました!

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 その日の晩。
 部屋の外の廊下が何か騒がしく感じて目が覚めた。
 もちろん、騒がしいといっても、ガヤガヤとうるさいわけじゃなくて、静かだからこそ響く騒がしさで、何やら小声で誰かが話をしている。
 今日、いや時間を確認すると日付が変わっていたから、昨日か。
 昨日の私達は城や元々泊まっていた宿には帰らず、闘技場近くの宿に泊まった。
 冒険者も受け入れている宿だから、夜中に帰ってきた人でもいるのかな、と思ったんだけど、耳を澄まして聞いてみると、どうやらユウヤくんとユウマくんの声だった。

「どうする、ユーニちゃん起こすか?」
「起こしても一緒だろ」

 ん?
 ちょっと待って、どういう事?

「そうだな。朝にはわかってるだろうから、そこで教えればいいか」

 ユウマくんがユウヤくんにそう答えると、二人の足音が部屋の前から遠ざかる。

 ちょっと待って!!
 
 がばりと起き上がると、立ち上がって窓に近づき、外灯に照らされた宿の前の道を見ていると、しばらくしてユウヤくん達が出てきたかと思うと、闘技場のほうに向かって走っていく。

「なんなの、一体何があったの」

 話す人もいないのに、声を出して言ってしまう。
 不安でしょうがない。
 闘技場に向かったという事は、リア達に何かあったんだろうか。

 ベッド横のサイドテーブルに置いていたイヤーカフを思わず手に取る。
 
 連絡してもいいかな。
 でも、危ない場面だったら邪魔になるかも。

 ぎゅうっと握りしめて考える。
 話しかけて、もし、返事が返ってこなかったら・・・。

 ボソボソと静かな部屋に、何か音が聞こえた気がした。
 息をひそめて辺りを見回す。
 また、ボソボソと音が聞こえ、ゆっくりと手のひらを開いた。
 イヤーカフの十字架が何もしていないのに揺れている。
 もしかして?

「ララっ、ラス様?!」
「どうしたんですか?! 無事ですか?!」
「ラス様っ」
「返事がないから何かあったかと」

 慌ててイヤーカフを耳につけると、ラス様の声が聞こえてきて、体の力が抜けた。

「良かったぁ」

 いつの間にか、握りしめているだけのつもりが魔力を流してしまっていたらしい。

 思わずベッドに倒れ込んで言うと、

「どうかしたの?」

 リアの声も耳に飛び込んできた。

「なんか、ユウヤくん達が夜中なのに宿から出て行ったから心配になって」
「宿から? どうしたんだろ」
「リア達は今、どうしてるの?」

 リアの息が荒い気がするのが気になった。
 寝てたんじゃないのかな?

「私達は今、外にいるんだけど、って、あ!」

 リアが声を上げるから、驚いて寝転んでいた身体を起き上がらせる。

「どうしたの?!」
「ユウヤくん達が焦って出て行った意味がわかった気がする」
「そうですね。さて、ここはどうするべきか」
「え、なに、どうしたの?」

 本人達が無事なのを確認できたから、安心したのは確かだけど、話を聞いているだけでは、今の状況が全くわからない。

「私も今から闘技場行ってみる! 映像はそのまま流されてるかもだし!」
「こんな時間に一人で出歩くなんて、危ないから駄目よ!」
「ユーニさんは宿で大人しく待っていてください。ユウヤに連絡をとって迎えに行かせますから」
「行っていいんですか?」
「駄目といっても来るでしょう」

 ラス様の諦めの声が返ってきた。
 
 私のやることなんてお見通しと言わんばかりの回答。
 さすがだなぁ。
 なんて、笑いそうになってしまう。

「待ってますから早めにお迎えをお願いすると伝えてください」

 そう答えて、魔力を流すのを止めた。
 すぐに寝間着から着替え、出かける用意をしていると、トントンと扉の叩く音がしたので、一応警戒して扉は開けずに返事を返す。

「誰ですか」
「オレだよ。開けるぞ」

 私が返事を返す前にユウヤくんが扉を開けた。
 入ってきた彼の顔はそれはそれは不機嫌そうな顔。

 なんでだろう。
 悲壮な顔をしているわけじゃないから、リア達に何かあったわけではなさそうだけど。

「どうしたの?」
「わざと起こさなかったのに起きてたんなら、言ってくれりゃいいのに」
「もしかして、ラス様に先に連絡したから拗ねてるの?」
「そ、そういう訳じゃ」 

 そういう訳なのね?

 顔を背けただけで否定はしないから、肯定と受け止める。
 本当は私だって連絡するのを躊躇してたけど、握りしめた時に魔力が流れちゃったんだからしょうがない。

「ごめんね。気を付けるよ」
「ん」

 素直に謝ったら、苦笑しつつも頷いてくれた。
 気を取り直して、二人で部屋を出る。

「で、何があったの?」

 闘技場に向かいながら聞くと、

「ちょっと前にラス達がいる小屋か燃えてるって連絡がきてよ」

 ユウヤくんから返ってきた言葉に驚く。

「えっ?! でも、二人共、そんな感じじゃなかったけど?!」
「そりゃそうだろ。二人共、小屋の中にいなかったからな」
「え? どういう事?」
「まあ、意味は後でわかるとして、ちゃんと演技できそうか?」

 ユウヤくんに聞かれ、意味がわからずに彼を見上げると、そっと、目薬が差し出されたのだった。




「そ、そんな!」

 闘技場のスクリーンは夜中なのに、映像は映されたままだった。
 ミズリー様がいないからか、もしくは近所迷惑になるからか、音は出ていないけど、映し出された映像を観て、私はわざとらしいとは思われない程度に、大きな声を上げた。

 観客席には人はいないけれど、私達のすぐ近くに、今回のイベント?を管理する側の人がいるから、その人に私がリア達の無事を知っている事を悟られないようにしないといけないので、演技をしないといけない。

 映し出されているのは、なんとか原型をとどめてはいるけれど、黒焦げになってしまった小屋の残骸と、その周りを取り囲む人達。
 その中にはラナンさん達もいて、彼女は笑いをこらえるのに必死な表情をしていた。

 なんか、性格悪そうだな。
 そうだ、忘れてた。
 演技をしないといけない。

「どうして火事なんかになるんですか! 運営の人はちゃんと管理できてないんですか!」

 中に入る前に目薬をさしていたので、目がぬれた状態で、近くにいた人に言葉でかみつく。

 この人は悪くないのかもしれないけど、一応、責めておかないとね。

「こんな事は今まではなかったんです! ですから、私達も驚いていまして」
「火が出た原因は?」
「燃えているのを確認した人間が言うには、扉付近から燃え始めていたようで、放火ではないか、と疑う声も」

 ユウヤくんの問いに答えたあと、運営の人はバツが悪そうに下を向いた。

 そりゃそうだよね。
 せめて、そんな事が起こらないように見張るべきでしょ。
 それにしても放火とは……。
 やっぱり犯人はラナンさん達?

「リアとラス様は無事なんですか?!」

 二人が無事かどうか知っているけど、ここは知らないフリをしておく。
 すると、ちょうどいいタイミングでリア達が、茂みの中から現れた。
 二人が何を話しているのか気になったところで、ラス様が聞こえるようにしてくれたみたいで、イヤーカフから音声が耳に届く。
 運営の人に聞かれたら困るから、二人の無事を喜んで興奮した様子で大きな声を上げる。

「良かった!」

 運営の人も無事を確認できたからか、それとも上司にでも報告に行ったのか、この場からいなくなってくれたので、遠慮なく、イヤーカフから聞こえる会話を聞けるようになった。

「どうして生きてるの」

 女性の声だけど、リアの声ではないので、たぶん、ラナンさんだろう。
 映像を観ながら確認すると、なんとなくだけど彼女が言っている気がする。
 他の人達はリア達が生きていた事を喜んでくれているけど、明らかにラナンさんとゴーガン卿はあまり良い顔をしていない。

「というか、何で小屋が燃えているんです?」

 ラス様が聞き返すと、ゴーガン卿が答える。

「あなた達の火の不始末では?」
「何から何に燃え移ったと?」
「それはあなた達が一番わかっていることでしょう」
「全くわかりませんね。まあ、いいです。寝るところがなくなりましたし、リアさん、あなたには申し訳ないですが」

 ラス様がリアの方に向かって言うと、リアが満面の笑みで頷いた。

「はい! じゃあ帰りましょうか」

 え?
 帰る?
 どういう事?
 負けを認めちゃうって事なの?
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