上 下
37 / 53

37 またもや招待されました

しおりを挟む
 結局、アレンくんの意見が通ったことは、陛下から五大貴族へ通達がいき、すぐに貴族の間で話題になったらしい。
 リアに関しては相手は検討中、私に関してはラス様を陛下が指定した、ということで、もし、ラス様に何かあったとしても代わりはいないという事にしてくれたしい。
 それを聞いたラス様が「私が死んだほうが二人は幸せになるんですね」なんて冗談でも笑えない事を言ったので、ユウヤくんと二人で真剣に怒った。
 今となっては巻き込んでしまった、というより一緒に巻き込まれることになったラス様に対して、申し訳ない気持ちもあるけれど、開き直ろうと決めた。
 これで一応、婚約お披露目パーティーもしなくて良くなったんだけど、それよりも気になるのが。

「二股かあ」
「やめて、リア。言わないで」
「二股かけてる気はないんでしょ。というか、選ぶの難しいし、あんたの立場だったら迷う人多いと思うわよ」
「いや、答えは出てるじゃない。ユウヤくんだよ。ただ、ラス様への態度ってどうしたらいいの」

 やはり、この話題だけは気になる。
 数日後の夜、リアと一緒にを夕食を食べながら、私の優柔不断な気持ちについて彼女に相談していた。

「でもさ、今の状態だと婚約者なんだし、好きでもいいんじゃない?」
「いや、それって二股でしょ?! そういうのはちゃんと人として」
「だから、あんたの場合、二股だったとして何が駄目なの」
「え?」
「気持ちはわかるけどさ、そのうち、私もユーニみたいになるわけでしょ。なら、そういう言い方されると、私も二股にならない?」

 リアがデザートのりんごを口に入れて、咀嚼して飲み込んだあと続ける。

「それにさ、結婚してても違う人を好きになる人だっているじゃない? その人みんなが悪いわけ?」
「でも、隠れて付き合ったりとかしなけりゃいいんじゃない?」
「なんなの、あんた、ラス様と隠れて何か・・・・・」
「違うよ!」

 疑わしい目で見てくるリアに、素早く否定の言葉を入れた。
 今いる部屋の中には私達しかいないから、リアは好き勝手言ってくる。

「浮気じゃないか、って気にしてるの?」
「そうならないかなあ?」
「ユウヤくんが決める事なんだからいいんじゃない、って何回言ったらいいの?」

 隣りに座るリアは、一口大に切られたりんごをフォークで刺して、私の口に押し付けてくる。

「食べたらいいの?」
「うん」

 言われた通り食べると、私が咀嚼している間にリアが言う。

「私もさ、アレンくんが年上で、私よりも背が高かったらヤバかったかも」
「ふぇ? ふぁうなふぉ?」
「なんて?」

 口にリンゴが残ってたから、通じる言葉が話せない私を見て、リアは笑うから、ちゃんと飲み込んでから口を開く。

「アレンくんって、リアのタイプじゃないと思ってた」
「まあ、そうね。私は口の悪い男が好きなのは確か」
「ユウマくん悪いよね」
「アイツに関してはそれだけじゃないけど」

 照れているのか、顔を背けながら言うリアが可愛くて、ついつい頭を撫でてしまう。

「可愛いねぇ」
「ありがと。だからさ、なんていうか、やっぱり自分を好きって思ってくれてる人に対しての見る目って違ってくると思うの。自分に好意を寄せてくれてるってわかった時、今までその人の事を意識してなくても、元々嫌いだったりしなければ、気になりはじめてもおかしくないと思うのよね」
「そうかな」
「ユーニはラス様に好きって言われて、その後、何も考えなかった? え? 嘘? ラス様が?! 私を?! ってならなかった?」
「なった!」

 リアの言葉に大きく頷くと、

「その時点から意識しちゃってもおかしくないと思うの。たぶん、ユーニの相手がユウヤくんじゃなかったら、あんたはのりかえてるね」

 そう言って、にんまりと笑う。

「そ、そうかもしれない・・・・・」
「それに、婚約者騒動がなければ、ラス様との仲だって今みたいに近づいてないでしょ」
「だろうね」
「ユーニ、もう覚悟を決めたら? どのみち、今の状態だと二人を選ばないといけないのは確かなんだから、割り切って本命はユウヤくん、二番手はラス様、アレンくんが諦めたときは、その時に考えたらいいの! どうなっても、私はユーニの味方だから」
「リア・・・・・ありがと!」

 座ったままでリアに抱きつく。

「私も何があってもリアの味方だからね!」
「え? 浮気しても?」
「状況によってはユウマくんの味方するかもしれない」
「何それ!」

 私を抱きしめ返してくれながら、あはは、とリアが笑う。
 なんだろう。
 たくさんの人に悪口を言われたとしても、私をこうやって応援してくれる人がいるって思うと楽な気持ちになれる。
 毎回ウジウジ悩むくせに、リアが味方だって言ってくれるだけで頑張ろうと思えてしまう、私は本当に単純だ。
 
「ほんと、頑張る!」
「その意気よ!」

 私とリアは身をはなして顔を見合わせると、また笑う。
 
 リアはどんどん色んな意味で強くなっていってる。
 心も身体も。
 私もそんなリアの友達として恥じないように、すぐに強くはなれなくても、まっすぐに生きていきたい。
 そう思った、そんな時だった。
 扉がノックされて、部屋の外からエミリーさんの声が聞こえた。

「ユウヤ殿下がいらっしゃっているのですが」
「ユウヤくん一人ですか?」

 リアが聞き返すと、扉の向こうから声がする。

「オレもいるぞ」
「それだけじゃ誰かわからないでしょう」
「あ、ユウマくんとラス様ですね、わかります」

 リアが答えると私の方を見て聞いてきた。

「どうする、このまま入ってもらう?」
「そうだね。食べてる途中だけど、いいんじゃないかな」

 テーブルの上にはまだたくさんのカットされた色々なフルーツが残っている。
 男性陣はご飯がまだかもしれないから、ちょうどつまめるしいいかな?
 服もまだ寝間着に着替えてるわけでもないし。
 そう思ってから、リアに頷いた。

「じゃ、入ってもらって大丈夫です」

 リアの返事を聞いて、エミリーさんが身体をよけると、ユウマくんがなぜかイライラした表情で、真っ先に部屋に入ってきた。

「どうかしたの?」
「どうもこうもねぇよ。思ってたよりもマヌグリラの連中がめんどくせぇ」

 リアの向かいに座るなり、ユウマくんは彼女の質問に答えた。

「どういう事?」
「奴らの事をちゃんと知らねぇのに、最初から断るなんておかしいんだってよ」
「え、そんなこと言ったら向こうもそうだよね」

 ユウマくんがリアに答えた言葉に反応して、私が言うと、

「ワガママなだけです」

 ラス様がユウマくんの後ろの壁にもたれかかりながら答えてくれた。

「あそこは兄妹そろっておかしいからな」

 十人が食事できるような大きな食卓なので、椅子も十分にあるから座れるはずなのに、なぜかユウヤくんもラス様の隣に立って壁にもたれかかって頷く。

 二人共、長居をする気はないのかな。

「で、三人揃ってどうしたの」

 取皿にカットフルーツを取り分けたあと、フォークと一緒に身を乗り出してユウマくんに渡しながらリアが聞くと、ユウマくんが皿を受け取るのと交換に、リアに手紙を手渡した。

「手紙って、嫌な予感しかないんだけど」

 私の言葉にリアも嫌そうな顔をして頷いたあと、四つ折りにされた紙を一緒に見ようとしてくれたのか、私の方に身体を寄せながら開く。
 身を寄せ合って、手紙の内容を確認して、二人で顔を見合わせる。

「また遠出しないといけないの?!」
「マヌグリラってどこにあるの」
「「「そこからか」」」

 文句を言うリアと、世界地理が苦手な私が同時に言葉を放つと、男性陣三人は私の言葉に同時に突っ込んだ。

「だ、だって、サナトラと違って隣国じゃないじゃない!」
「隣国以外覚えてないんですか・・・」

 ラス様が呆れた目で私を見る。
 手紙にはマヌグリラの王家から、とりあえず顔合わせだけしてみたい、というお願いが書かれていた。
 だから、マヌグリラってどこだっけ、って思ったんだけど。

 バカな頭ですみません!
 だから第一王子の婚約者になることを渋ってたんですよ!!

「ユーニちゃん、オレよりもやばいな」
「勉強しなおさないといけませんね」
「ユーニ、今度、ちゃんと教えてやるからな」

 うう。
 憐れまれている・・・。

「ちょっとやめてよ! ユウヤくんもラス様もユーニにひどい事言うなら、私がもらうからね!」
「リアのもんになるなら、最終的にオレのもんにもなるな。よろしくユーニちゃん」

 ユウマくんが笑いながら、ひらひらと片手を振ると、後ろからユウヤくんとラス様に頭を叩かれた。

「いってぇな。なんにしても、オレとユウヤは正式に招待されてるから、一緒に行くから」
「そりゃそうでしょ。ラス様は?」

 リアがラス様に聞くと、彼は首を横に振った。

「私は行きませんよ」
「なんで?」
「なんでだよ?」
「逆にどうして私が行かなくちゃいけないんです」

 同時に聞き返す私達にラス様が眉間にシワを寄せて聞き返してくる。

「お飾りの夫って、本当に飾るだけの夫なんですね!」
「ユウヤとユーニちゃんの後ろにでも飾るか」
「この似た者夫婦が」

 リアとユウマくんがそろって嫌味を言うから、ラス様は絞り出すような声を出して言ったあと、いつもの冷静さを取り戻して言った。

「行けばいいんでしょう、行けば」
「よっ、次期公爵」

 茶化すユウマくんの頭をラス様が思い切り殴った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷酷王子が記憶喪失になったら溺愛してきたので記憶を戻すことにしました。

八坂
恋愛
ある国の王子であり、王国騎士団長であり、婚約者でもあるガロン・モンタギューといつものように業務的な会食をしていた。 普段は絶対口を開かないがある日意を決して話してみると 「話しかけてくるな、お前がどこで何をしてようが俺には関係無いし興味も湧かない。」 と告げられた。 もういい!婚約破棄でも何でも好きにして!と思っていると急に記憶喪失した婚約者が溺愛してきて…? 「俺が君を一生をかけて愛し、守り抜く。」 「いやいや、大丈夫ですので。」 「エリーゼの話はとても面白いな。」 「興味無いって仰ってたじゃないですか。もう私話したくないですよ。」 「エリーゼ、どうして君はそんなに美しいんだ?」 「多分ガロン様の目が悪くなったのではないですか?あそこにいるメイドの方が美しいと思いますよ?」 この物語は記憶喪失になり公爵令嬢を溺愛し始めた冷酷王子と齢18にして異世界転生した女の子のドタバタラブコメディである。 ※直接的な性描写はありませんが、匂わす描写が出てくる可能性があります。 ※誤字脱字等あります。 ※虐めや流血描写があります。 ※ご都合主義です。 ハッピーエンド予定。

旦那様は大変忙しいお方なのです

あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。 しかし、その当人が結婚式に現れません。 侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」 呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。 相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。 我慢の限界が――来ました。 そちらがその気ならこちらにも考えがあります。 さあ。腕が鳴りますよ! ※視点がころころ変わります。 ※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

大嫌いな令嬢

緑谷めい
恋愛
 ボージェ侯爵家令嬢アンヌはアシャール侯爵家令嬢オレリアが大嫌いである。ほとんど「憎んでいる」と言っていい程に。  同家格の侯爵家に、たまたま同じ年、同じ性別で産まれたアンヌとオレリア。アンヌには5歳年上の兄がいてオレリアには1つ下の弟がいる、という点は少し違うが、ともに実家を継ぐ男兄弟がいて、自らは将来他家に嫁ぐ立場である、という事は同じだ。その為、幼い頃から何かにつけて、二人の令嬢は周囲から比較をされ続けて来た。  アンヌはうんざりしていた。  アンヌは可愛らしい容姿している。だが、オレリアは幼い頃から「可愛い」では表現しきれぬ、特別な美しさに恵まれた令嬢だった。そして、成長するにつれ、ますますその美貌に磨きがかかっている。  そんな二人は今年13歳になり、ともに王立貴族学園に入学した。

【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。 ※アルファポリスのみの公開です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!

りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。 食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。 だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。 食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。 パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。 そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。 王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。 そんなの自分でしろ!!!!!

男装の公爵令嬢ドレスを着る

おみなしづき
恋愛
父親は、公爵で騎士団長。 双子の兄も父親の騎士団に所属した。 そんな家族の末っ子として産まれたアデルが、幼い頃から騎士を目指すのは自然な事だった。 男装をして、口調も父や兄達と同じく男勝り。 けれど、そんな彼女でも婚約者がいた。 「アデル……ローマン殿下に婚約を破棄された。どうしてだ?」 「ローマン殿下には心に決めた方がいるからです」 父も兄達も殺気立ったけれど、アデルはローマンに全く未練はなかった。 すると、婚約破棄を待っていたかのようにアデルに婚約を申し込む手紙が届いて……。 ※暴力的描写もたまに出ます。

処理中です...