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29 嫌われてなくて良かった

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 リアの提案は彼女によってさくさくとすすめられ、ジンさんの非番の日である今日、とうとうダブルデートの日がやって来た。
 とてもいい天気で、気温も心地よく感じるあたたかさで、外でのデートには良い日だ。
 
「ユウヤくんは今日はお仕事大丈夫だったの?」
「大丈夫じゃねぇけど、行く」
「意味わかんないんだけど」

 ユウヤくんは屋敷まで迎えに来てくれていて、一緒に待ち合わせ場所の城門まで歩きながら話を続ける。
 今日は一応デートという事もあり、いつものシュミーズドレスではあるけれど、腰に巻くリボンは赤と紺の2色展開にしてみた。
 ユウヤくんとラス様の瞳の色にしてみたんだけど。
 ユウヤくんもやはり服装は落ち着いていて、変装のためなのか、いつもなら一部上げている前髪を全部おろしている。

「だって、オレが行かなかったらオマエとラスが二人で行くんだろ」
「いや、そうなっても四人だよ」

 なんのために私達が行くことになっているのか、もう忘れてしまったんだろうか。

「まあ、それはそうなんだけど、ずっと四人でいるわけでもねぇだろ」
「それはそう言われたらそうかもだけど」

 いくらダブルデートといっても、最初から最後まで一緒にいるわけじゃないだろうしね。

「そういえば、今日はどこに行くの」
「ミランダ嬢が花が好きらしいから貴族が開放してる有名な庭園に行くらしい」
「え、っていう事は貴族の人ばかりなの?」
「いや、平民にも開放してるから、逆に貴族が少ないらしいぞ」
「ならいいけど」

 前にお茶会にいた人達に出会ったりしたら嫌だし、それはそれで良かった。

「浮かない顔してんな」
「まあ、なんというか、ユウヤくん達とお出かけできるのは嬉しいんだけど」

 私はそこで言葉を止めた。

 前のお茶会のときに、あんな発言をしてしまったからか、ラス様に避けられている気がしていた。
 もともと、一週間は仕事をせずに休め、と言われていたのもあるかもしれないけど、どうやら夜に城にやって来ては、次の日の仕事を持ち帰っていたらしい。
 だから、執務室に行っても会えるわけもなく。
 
 迷惑だったんだろうな。
 そりゃ、そうだよね。
 一番じゃないって言ってるのに、あんな都合の良いことを言うような奴だもん。

「ユーニ」
「ん?」
 
 気が付くと、ユウヤくんの顔が目の前にあり、慌てて後ろに飛び退る。

「何が気になるんだよ」
「気になるっていうか」
「ラスの事か?」
「ち、違うよ」

 ユウヤくんにラス様のことで相談するのは違うと思ったから首を横に振るけれど、どうやらお見通しのようで苦笑して言われた。

「妬いたりしねぇから言ってみな」
「うう。なんか、ラス様に避けられてるみたいだから、私が行ってもいいのかなって」

 ユウヤくんは少し考えるようにしたあと、笑って私の頭を撫でる。

「たぶん、ラスは避けてるんじゃねぇと思うぞ」
「え?」
「まあ、今日にははっきりするって」

 ユウヤくんは優しく笑うと、私の手を取って少しだけ歩を速める。
 城門前には兄弟でそろえたのか、労働者風の格好をしたイッシュバルド家の兄弟と、ピンク色のシュミーズドレスを着たミランダ様がすでに待ってくれていた。

「ミランダ様、ドレス、可愛いですね」
「ユーニ様もとっても可愛いです! シュミーズドレス、本当に楽ですね。もっと早く知っておきたかったです」
「こういうちょっとしたお出かけには特に良いですよね」

 きゃっきゃと話をしている私達の横で、ユウヤくんがラス様達に話しかける。

「服装、合わせたんか」
「たまたまですよ。目立たないような格好をしようと思ったらこうなっただけです」
「僕は何を着たらいいのかわからなくて、兄の真似をしてます」
「おい、オマエが主役だろうが」
「自分でどうこうできるようなもんなら、今日、殿下達にお願いしてません」

 すでにジンさんは泣き言を言ってるけど、大丈夫だろうか。
 ラス様はかぶっていたキャスケットを目深にかぶると、ジンさんに言った。

「ある程度付き合いはするから、まずは会話からはじめろ。お前達はまともに会話もしてないだろ」

 ラス様の声が聞こえたのか、ミランダ様が固まってしまった。

「あ、あのミランダ様」
「ち、違うんです、ミランダ嬢。あなたに言ったわけではなく」
「い、いえ、間違っておりません。今日こそは私、頑張りますので、よろしくお願いいたします!!」

 ミランダ様がジンさんに向かって腰を折り曲げてお願いする。

「こちらこそ、よろしくお願いいたします」

 お願いされたジンさんも、なぜかミランダ様に敬礼した。

「大丈夫かな」
「さあな」
「では、そろった事ですし、行きますか」

 ラス様は一人、先に歩き始める。
 ジンさんがミランダ様に視線を送ると、二人並んで歩き始めた。
 なんだかギクシャクはしてるけど可愛らしい。

「オレらも行くか」

 ユウヤくんが手を繋ごうとするから、首を横に振る。

「駄目だよ。私がラス様の立場だったら、今すぐ帰りたくなる」

 誰がカップルしかいない所に、一人だけで行きたがるの。
 そんなの、よっぽど気にしない人じゃない限り、悲しくなっちゃうよ。

「しゃあねぇな」

 ユウヤくんは前髪を触ったあと、私の腕を取って走り出す。

「なに?!」
「ラス!」

 私の声は無視して、ユウヤくんはラス様を呼び止める。

「なんですか」
「右手出せ」
「は?」

 振り返って足を止めたラス様は訝しげな表情をしつつも、右手を差し出した。
 すると、ユウヤくんはつかんでいた私の左腕を持ち上げると、手をラス様の右手の上に置いた。

「「?!」」

 私とラス様が一斉にユウヤくんを見ると、すごく嫌そうな顔をして言った。

「今日だけ貸してやる。でも、右手はオレな」
「「はあ?!」」

 私とラス様の聞き返す声がそろった。

「ユーニがそうじゃないと手をつないでくれねぇって」
「なんで私まで手を繋ぐ必要が?」
「ラスを一人にさせなかったら、ユーニも手を繋いでくれんのかなって」
「………どういう事ですか?」

 説明を求めるようにラス様は私を見たけれど、目が合うと視線をそらされてしまった。

「あの、ラス様だけ一人で行こうとしていたから、私だったら辛くて嫌な気持ちになるから、ラス様とも一緒に行きたいだけです」

 視線をそらされたショックで言葉がしどろもどろになってしまう。
 ラス様は軽くため息を吐いたあと、私の手を握り、ジンさんに向かって言った。

「ちゃんとエスコートしろよ」
「は、はい!」

 ジンさん達の方を見ると、彼が左手を腰に当て、ミランダ様が腕を預けられるように、隙間をあけた。

「あ、えと、失礼します」

 顔を真っ赤にしながら、ミランダ様はジンさんの腕に自分の手を置いた。

 うわー、可愛い!
 初々しい感じで本当に可愛い!

 二人の様子を確認したラス様は、止めていた歩みを進め始めたので、私もユウヤくんもそれに倣う。
 
「おかしくないですか」
「何がだよ」
「三人で手を繋いだら、他の人の通行の邪魔でしょう」
「嫌なのか?」

 ユウヤくんがはっきりとラス様に尋ねたので、思わずユウヤくんに視線を向ける。

「嫌とは?」
「ユーニと手を繋ぐ事だよ」
「嫌ではないですよ」
「ユーニがオマエのせいで、全然楽しめる感じじゃないんだが」

 その言葉を聞いて、私はぎゅうっと、ユウヤくんの手を強く握る。
 なんだか、ラス様の答えを聞くのが怖かったから。

「ユーニさん」
「はい!」
「嫌なんかじゃありません。ただ、その、こちらの都合で」

 ラス様はあいている手で口元を押さえ、私からまた視線をそらす。

 これって、もしかして?

「ラス様、照れてます?」
「いや、その」
「前の茶会でユーニが言った事に照れてるだけだろ」
「うるさい」

 ユウヤくんを睨みつけたあと、ラス様は今度は私に言った。

「それで間違ってません」
 
 相変わらず、ラス様は視線を合わせてくれないけど、耳が赤くなった。
 良かった。
 嫌われたんじゃなかった。

「良かった!」

 ラス様の手も強く握り直すと、微笑して一瞬だけ手の力を強めてくれた。
 
 まあ、今日の主役はミランダ様とジンさんなんだけど。

 後ろを振り返ると、ミランダ様達も和やかに談笑していて、あんなに恥ずかしがっていたミランダ様が嘘のようだった。

 それだけ、覚悟を決めたって事なのかな?
 それなら私も、今日のデートはユウヤくんとラス様に楽しんでもらえるよう頑張らないとね!
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