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26 元王太子のスピーチ
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10日経っても、ルピノの行方はわからぬままだった。
国境付近でルピノらしき人間が現れたら、検問所で止めるという話にはなっているらしいけれど、きっと完璧ではない。
お金に惑わされる人間がいてもおかしくはないし、ルピノが自分の代わりに犠牲にした女性の通行証を持っていれば、彼女だとわかる事もない。
今のところ、ヤイネバ侯爵達には動きはないようだった。
だからこそ、ルピノの行方が余計につかめなかった。
ヤキモキしているうちに、私の王太子妃教育が本格化した。
そして、私をお披露目する日も決まった。
お披露目するといっても、パレードみたいな事をするわけではなく、城の敷地内でアズと写真を撮り、その写真を新聞に掲載してもらう。
これで平民の多くに周知してもらうのだ。
私は多くの人に顔を知られる事になり、命の危険も増える事になるけれど、写真を見てルピノが動く可能性もある。
ルピノは死んだ事になっているから、私の目の前に現れて、何か犯罪を犯したとしても、私にとっては無関係の人間ではあるので、このまま放置しても、良いことなのかもしれない。
そう思ってしまうくらいに忙しかった。
平民に知らせる前に、貴族達に対しても正式なお披露目をする事になり、そちらの方を先にやらないといけなかった。
だから、ルピノの事は気になりながらも、そちらに集中していたら、あっという間に日は過ぎた。
その頃には、お父様とノーラル様の離婚が正式に成立し、ノーラル様はお兄様を捨てて家を出た。
お兄様が泣いてすがっていたとノーラル様は社交場で言いふらしていたみたいだけれど、それを聞いた淑女は苦笑するだけで言葉を返さなかったという。
お披露目パーティーには他国からのゲストとして、お父様、お兄様、そして、レブルン国の王太子殿下と、元王太子だったセイン様がやって来る。
セイン様はこの頃には廃嫡が確定し、新しい王太子殿下の兄兼付き人として、城内で暮らしていた。
セイン様のことを上辺しか知らない女性達から、お見合いの希望はあるらしいのだけれど、全て断っているという事も噂で聞いて、何だか嫌な予感がした。
元々は私もアズもセイン様を呼ぶつもりはなかったけれど、私を王太子妃から引きずりおろしたい貴族はたくさんいて、招待客を決める会議の際に、アズや国王陛下は反対したのだけれど「やましい事がないのならお呼びすべき」だという意見が多く出た。
ソラウは独裁主義ではないため、その貴族達の意見を尊重することになった。
セイン様が招待を断ってくれれば良かったのだけれど、彼はそれをしてくれなかった。
セイン様達が城下に入ったという知らせを受けた日の夜、アズが心配して私の部屋に来てくれた。
「セイン殿下は賢くなさそうだから、君に何か言ってくるかもしれないな」
「そうですわね。でも、まさか、アズとの婚約披露パーティーでよりを戻したいだなんて、そんな馬鹿なことは言わないと思いますわ」
「あるとしたら、パーティーが終わってから、なんとか君に接触しようとしてくるといったところか?」
「そうかと思われます」
この時の私もアズもセイン様が多少の常識はわきまえていると思っていた。
だからこそ、警戒しなければいけなかったことを忘れていた。
パーティー以外の場所で、セイン様が私に近付ける場所なんてなかった。
彼はそれに気付いて、賭けに出た。
彼を呼ぼうと言った貴族達もセイン様がこんなことをするとは思っていなかったと思う。
パーティー当日、多くの貴族達の前に現れた私達を見たセイン様は、会場内に響き渡るほどの大きな声で叫んだ。
「俺が悪いことをしたという事はわかっている! ルリ! 君は寛大な女性だ! 俺はとてもとても後悔している! だから、俺のところに帰ってきてほしい! 君がとても素敵で優秀な女性だということが離れてみて痛いほどわかったんだ!」
私に向かって訴える彼のスピーチは続く。
「3人でやらなければいけない仕事を、ルリは1人でやっていた。仕事の処理スピードが早いんだ! 嫁入り前の修行として政務官見習いの仕事をしていたけれど、同僚や上司もみんな、ルリの人柄を褒めていた! 君はとても素晴らしい女性なんだよ! それに気が付かなかった俺が馬鹿だった!」
彼は私を貶すのではなく褒め称えた。
呆気にとられている私の横で、アズが大きくため息を吐いてから笑顔を作る。
「教えていただかなくとも、僕は前々から知っていましたよ? セイン殿下、本来ならば、今すぐにお帰り願いたいところですが、ルリを褒めていただき、僕との結婚を後押ししてくれているようですので、大声で叫んだり、他の招待客に迷惑をかけたりしない限りは、会場にいてもらって結構です。ぜひ、ルリの素晴らしい所を皆さんにお伝えしてください」
アズは、セイン様を使って、私を王太子妃にしたがっていない勢力を黙らせることに決めたみたいだった。
国境付近でルピノらしき人間が現れたら、検問所で止めるという話にはなっているらしいけれど、きっと完璧ではない。
お金に惑わされる人間がいてもおかしくはないし、ルピノが自分の代わりに犠牲にした女性の通行証を持っていれば、彼女だとわかる事もない。
今のところ、ヤイネバ侯爵達には動きはないようだった。
だからこそ、ルピノの行方が余計につかめなかった。
ヤキモキしているうちに、私の王太子妃教育が本格化した。
そして、私をお披露目する日も決まった。
お披露目するといっても、パレードみたいな事をするわけではなく、城の敷地内でアズと写真を撮り、その写真を新聞に掲載してもらう。
これで平民の多くに周知してもらうのだ。
私は多くの人に顔を知られる事になり、命の危険も増える事になるけれど、写真を見てルピノが動く可能性もある。
ルピノは死んだ事になっているから、私の目の前に現れて、何か犯罪を犯したとしても、私にとっては無関係の人間ではあるので、このまま放置しても、良いことなのかもしれない。
そう思ってしまうくらいに忙しかった。
平民に知らせる前に、貴族達に対しても正式なお披露目をする事になり、そちらの方を先にやらないといけなかった。
だから、ルピノの事は気になりながらも、そちらに集中していたら、あっという間に日は過ぎた。
その頃には、お父様とノーラル様の離婚が正式に成立し、ノーラル様はお兄様を捨てて家を出た。
お兄様が泣いてすがっていたとノーラル様は社交場で言いふらしていたみたいだけれど、それを聞いた淑女は苦笑するだけで言葉を返さなかったという。
お披露目パーティーには他国からのゲストとして、お父様、お兄様、そして、レブルン国の王太子殿下と、元王太子だったセイン様がやって来る。
セイン様はこの頃には廃嫡が確定し、新しい王太子殿下の兄兼付き人として、城内で暮らしていた。
セイン様のことを上辺しか知らない女性達から、お見合いの希望はあるらしいのだけれど、全て断っているという事も噂で聞いて、何だか嫌な予感がした。
元々は私もアズもセイン様を呼ぶつもりはなかったけれど、私を王太子妃から引きずりおろしたい貴族はたくさんいて、招待客を決める会議の際に、アズや国王陛下は反対したのだけれど「やましい事がないのならお呼びすべき」だという意見が多く出た。
ソラウは独裁主義ではないため、その貴族達の意見を尊重することになった。
セイン様が招待を断ってくれれば良かったのだけれど、彼はそれをしてくれなかった。
セイン様達が城下に入ったという知らせを受けた日の夜、アズが心配して私の部屋に来てくれた。
「セイン殿下は賢くなさそうだから、君に何か言ってくるかもしれないな」
「そうですわね。でも、まさか、アズとの婚約披露パーティーでよりを戻したいだなんて、そんな馬鹿なことは言わないと思いますわ」
「あるとしたら、パーティーが終わってから、なんとか君に接触しようとしてくるといったところか?」
「そうかと思われます」
この時の私もアズもセイン様が多少の常識はわきまえていると思っていた。
だからこそ、警戒しなければいけなかったことを忘れていた。
パーティー以外の場所で、セイン様が私に近付ける場所なんてなかった。
彼はそれに気付いて、賭けに出た。
彼を呼ぼうと言った貴族達もセイン様がこんなことをするとは思っていなかったと思う。
パーティー当日、多くの貴族達の前に現れた私達を見たセイン様は、会場内に響き渡るほどの大きな声で叫んだ。
「俺が悪いことをしたという事はわかっている! ルリ! 君は寛大な女性だ! 俺はとてもとても後悔している! だから、俺のところに帰ってきてほしい! 君がとても素敵で優秀な女性だということが離れてみて痛いほどわかったんだ!」
私に向かって訴える彼のスピーチは続く。
「3人でやらなければいけない仕事を、ルリは1人でやっていた。仕事の処理スピードが早いんだ! 嫁入り前の修行として政務官見習いの仕事をしていたけれど、同僚や上司もみんな、ルリの人柄を褒めていた! 君はとても素晴らしい女性なんだよ! それに気が付かなかった俺が馬鹿だった!」
彼は私を貶すのではなく褒め称えた。
呆気にとられている私の横で、アズが大きくため息を吐いてから笑顔を作る。
「教えていただかなくとも、僕は前々から知っていましたよ? セイン殿下、本来ならば、今すぐにお帰り願いたいところですが、ルリを褒めていただき、僕との結婚を後押ししてくれているようですので、大声で叫んだり、他の招待客に迷惑をかけたりしない限りは、会場にいてもらって結構です。ぜひ、ルリの素晴らしい所を皆さんにお伝えしてください」
アズは、セイン様を使って、私を王太子妃にしたがっていない勢力を黙らせることに決めたみたいだった。
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