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16 父の決断
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本邸の前に馬車が停まり、一度、部屋に戻るというお父様を馬車の中から見送ろうとした時だった。
邸の扉が開き、目にくまが出来たお兄様が現れた。
「父上! もういいでしょう!? あんなノーラルを見ていられません! そんなにノーラルがお嫌いなら別れるべきです!」
「……そうだな。私もそう思う」
お父様が首を縦に振ると、お兄様の険しい表情が一瞬にしてほころんだ。
「本当ですか?」
「ああ。今、彼女を閉じ込めている事だって好きでやっているわけじゃないからな。元々はお前への罰だ。お前が責任を取って守ってやれ」
「本当に…、本当にいいんですか!?」
「かまわない。ただ、お前にトニア家は継がせない」
「えっ!?」
お兄様にしてみれば、寝耳に水といったところみたいだった。
それはそうよね。
そんな話を今までしてこなかったのだから。
「心配するな。この家や敷地に関しては、お前に授けるし、伯爵の爵位も授けよう。贈与税の件も気にしなくていい。必要な資金などは私も持っていくつもりだが、財産もお前には分けよう。だから、お前が考えないといけないのは、これからの生活や、それに伴う生活費、そして、使用人のこれからの給料などの経費だ」
お父様は少し、悲しそうな顔でそこまで言った後、呆然としている、お兄様に向かって続ける。
「ルリがここを発ったら、私はこの邸を出るつもりだ」
「どういう事ですか!? 爵位を僕に継がせないんでしょう!? トニア公爵家や領民はどうなるんです!?」
お兄様が叫んだけれど、お父様は寂しげな表情で答える。
「それはもう、お前には関係のない事だ。普通ならば、ルリとノーラル、どちらが大事だなんて判断がつかないものだ。それなのに、お前は迷わず、ノーラルを選んだ。その時点で、トニア家の当主になる資格はない。私は違う場所に移動して、公爵としての仕事を続ける。この家に住んでいなくても、領民は守れる」
「父上…」
お兄様を見た後、お父様は大きく息を吐いてから、馬車の中に戻ってくる。
「部屋に帰りたくなくなった。ルリともう少し話をしても良いかな」
「もちろんです。別邸でお茶を用意してもらいましょう」
お兄様は私達の会話が聞こえていたのか、それ以上、何も言ってくる事はなかった。
別邸に向かう馬車の中で、お父様に気になった事を尋ねる。
「お父様は…、良いのですか?」
「…何がだ?」
「この邸はお父様にとって、生家でもありますし、お母様との思い出だって…」
「その事なんだが…、お前は覚えていないかもしれないけれど、ノーラルが来てから、彼女の好きな様に家を改築したりして、お前の母の影をなくしていってるんだよ」
「……それは…、お父様が…許可を? それとも…」
お父様は悲しそうに微笑んだ後、首を横に振る。
「私が悪いんだ。家を空けている間に勝手に動いていて、気が付いたらそうなっていた。ちゃんと、指示をしておくべきだった」
「……そうだったんですね…」
そう言われてみれば、庭にあったブランコも気が付いたらなくなってしまっていた。
家族四人で過ごした思い出の場所だったのに…。
お兄様や私が小さい頃に、背丈比べをして、柱に悪戯で傷を付けたところも、いつの間にか綺麗にされていた気がする。
それは、お母様との思い出を嫌った、ノーラル様が変えたものだったのね…。
それが、一概に悪いとは言えない。
でも、何か一言あっても良かったんじゃないかと思う。
お父様は人の心を汲み取れる人でもあるから、ノーラル様の気持ちも理解されたはずだわ。
「お父様はこれから、どうされるおつもりなのですか? 私は隣国に行く予定の様ですが…」
「さっきも言ったが、ルリが出て行って少ししたら、私も家を出る。お前のいとこに良さそうな人物がいて、彼にトニア領を託すために、後継者として色々と教えるつもりだよ。ルリにとっては新しい兄といったところか」
「そうなんですね…」
お兄様とは縁を切るおつもりなのね…。
でも、そうさせたのはお兄様だわ。
「どこに住まわれるかは教えていただけるんですよね?」
「もちろん。娘の結婚式には参列したいし、公爵が失踪したら領民が困るだろう?」
「そう言われてみれば、そうですね」
お父様は、お兄様があんな事になってしまった事について責任を感じておられるけれど、トニア家は守らないといけない。
お父様の選択を責める人がいるかもしれない。
だけど、私だけは絶対に、お父様の味方でいようと思った。
そして、数時間後、私の元に、婚約破棄についての書類が送られてきたのだった。
邸の扉が開き、目にくまが出来たお兄様が現れた。
「父上! もういいでしょう!? あんなノーラルを見ていられません! そんなにノーラルがお嫌いなら別れるべきです!」
「……そうだな。私もそう思う」
お父様が首を縦に振ると、お兄様の険しい表情が一瞬にしてほころんだ。
「本当ですか?」
「ああ。今、彼女を閉じ込めている事だって好きでやっているわけじゃないからな。元々はお前への罰だ。お前が責任を取って守ってやれ」
「本当に…、本当にいいんですか!?」
「かまわない。ただ、お前にトニア家は継がせない」
「えっ!?」
お兄様にしてみれば、寝耳に水といったところみたいだった。
それはそうよね。
そんな話を今までしてこなかったのだから。
「心配するな。この家や敷地に関しては、お前に授けるし、伯爵の爵位も授けよう。贈与税の件も気にしなくていい。必要な資金などは私も持っていくつもりだが、財産もお前には分けよう。だから、お前が考えないといけないのは、これからの生活や、それに伴う生活費、そして、使用人のこれからの給料などの経費だ」
お父様は少し、悲しそうな顔でそこまで言った後、呆然としている、お兄様に向かって続ける。
「ルリがここを発ったら、私はこの邸を出るつもりだ」
「どういう事ですか!? 爵位を僕に継がせないんでしょう!? トニア公爵家や領民はどうなるんです!?」
お兄様が叫んだけれど、お父様は寂しげな表情で答える。
「それはもう、お前には関係のない事だ。普通ならば、ルリとノーラル、どちらが大事だなんて判断がつかないものだ。それなのに、お前は迷わず、ノーラルを選んだ。その時点で、トニア家の当主になる資格はない。私は違う場所に移動して、公爵としての仕事を続ける。この家に住んでいなくても、領民は守れる」
「父上…」
お兄様を見た後、お父様は大きく息を吐いてから、馬車の中に戻ってくる。
「部屋に帰りたくなくなった。ルリともう少し話をしても良いかな」
「もちろんです。別邸でお茶を用意してもらいましょう」
お兄様は私達の会話が聞こえていたのか、それ以上、何も言ってくる事はなかった。
別邸に向かう馬車の中で、お父様に気になった事を尋ねる。
「お父様は…、良いのですか?」
「…何がだ?」
「この邸はお父様にとって、生家でもありますし、お母様との思い出だって…」
「その事なんだが…、お前は覚えていないかもしれないけれど、ノーラルが来てから、彼女の好きな様に家を改築したりして、お前の母の影をなくしていってるんだよ」
「……それは…、お父様が…許可を? それとも…」
お父様は悲しそうに微笑んだ後、首を横に振る。
「私が悪いんだ。家を空けている間に勝手に動いていて、気が付いたらそうなっていた。ちゃんと、指示をしておくべきだった」
「……そうだったんですね…」
そう言われてみれば、庭にあったブランコも気が付いたらなくなってしまっていた。
家族四人で過ごした思い出の場所だったのに…。
お兄様や私が小さい頃に、背丈比べをして、柱に悪戯で傷を付けたところも、いつの間にか綺麗にされていた気がする。
それは、お母様との思い出を嫌った、ノーラル様が変えたものだったのね…。
それが、一概に悪いとは言えない。
でも、何か一言あっても良かったんじゃないかと思う。
お父様は人の心を汲み取れる人でもあるから、ノーラル様の気持ちも理解されたはずだわ。
「お父様はこれから、どうされるおつもりなのですか? 私は隣国に行く予定の様ですが…」
「さっきも言ったが、ルリが出て行って少ししたら、私も家を出る。お前のいとこに良さそうな人物がいて、彼にトニア領を託すために、後継者として色々と教えるつもりだよ。ルリにとっては新しい兄といったところか」
「そうなんですね…」
お兄様とは縁を切るおつもりなのね…。
でも、そうさせたのはお兄様だわ。
「どこに住まわれるかは教えていただけるんですよね?」
「もちろん。娘の結婚式には参列したいし、公爵が失踪したら領民が困るだろう?」
「そう言われてみれば、そうですね」
お父様は、お兄様があんな事になってしまった事について責任を感じておられるけれど、トニア家は守らないといけない。
お父様の選択を責める人がいるかもしれない。
だけど、私だけは絶対に、お父様の味方でいようと思った。
そして、数時間後、私の元に、婚約破棄についての書類が送られてきたのだった。
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