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23 伯爵令息の思い込み
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パーティーの開始前だったということもあり、フサス様はファーシバル公爵邸から追い出されるだけで済んだ。
でも、多くの貴族の前であんな発言をしたのだから、テングット子爵家の行く末は明るいものではないと思われる。
あんな発言をする人の嫁になる人はそういないだろうから、婚約者が見つかることは難しいでしょうし、彼と商売面で付き合いたいと思う人もいないでしょう。
テングット子爵夫妻が悪い人じゃないだけに、これからのことを思うと胸が痛むわ。
「大丈夫か?」
ため息を吐いたからか、レイ様が心配そうに顔を覗き込んできた。
パーティーが始まってからは、さすがにルモ公爵の元へ行く人が増えたことと、レイ様がわたしを休憩させたいと言ってくれたので、今は話しかけてくる人はいない。
「大丈夫です」
と答えたあと、大勢の人の前でフサス様を殴ってしまったことを思い出す。
「レイ様、あの、申し訳ございませんでした!」
「いきなりどうした」
「……やってしまいました」
「ああ、シルバートレイの話か」
レイ様は微笑んで首を横に振る。
「相手が相手だから気にしていない。周りも驚いてはいたようだが、概ね好意的に見えたけどな」
ティアトレイは侍女と彼女のパートナーが交代で持ってくれると言ってくれた。
でも、パーティー中は邪魔だろうから馬車においておくようにお願いした。
「公爵夫人が人を殴るだなんてやってはいけないことでしょう」
「でも、ティアトレイは貴族が生み出したものだし、文句を言う人間は少ないだろう。他国では高位貴族も使っていると聞いた」
「普通の貴族は自分で殴ったりしませんよ」
両手で顔を覆って嘆いていると、ミンステッド卿の声が聞こえてきた。
「父上、母上! あちらにファーシバル公爵夫妻がいらっしゃいます!」
ミンステッド伯爵家も出席していたようだ。
両手を顔から離し、声が聞こえた方向に目を向けた。
すると、ミンステッド伯爵夫妻とミンステッド卿、彼のパートナーらしき女性がこちらに近づいて来るのが見えた。
「どうする? 迷惑だと言おうか」
「……騒ぎにならないようでしたら、話すことくらいは構いません」
ルモ公爵に迷惑をかけるようなことだけはしたくない。
話すだけなら大丈夫だろうと思ったわたしが馬鹿だったと、すぐに後悔することになる。
ミンステッド伯爵が笑顔で話しかけてきた。
「先日は愚息が大変失礼いたしました」
「そう思うのでしたら、しっかり指導してください」
話を打ち切ろうとすると、伯爵夫人が笑顔で話しかけてくる。
「どうしてもお詫びがしたいんです。我が家にお招きしたいのですが、公爵閣下はお忙しいでしょうし、奥様だけでもいかがでしょうか」
「申し訳ないですが、わたしは仕事で忙しいんです」
「……仕事?」
聞き返してきたのはミンステッド卿だった。
「そうですが何か?」
「いえ。公爵家なのに夫人が仕事をするんですね。妻はは仕事なんてせずにゆっくりしているのが普通なのに」
「普通ではないことで、あなたに迷惑をかけるとは思いませんけど」
カチンと来たので言い返すと、ミンステッド卿は慌てた顔をする。
「いや、そういう意味ではなくてですね。その、私なら妻を働かせたりしないなあと」
「それは僕に問題があると言いたいのか」
レイ様に睨まれたミンステッド卿は飛び上がって否定する。
「とんでもない! いえ、その、いや、やはり、なんといいますか、貴族らしくないなと」
「ヘンゼデッド! 馬鹿なことを言うのはやめろ!」
話せば話すほど、墓穴を掘ることに気が付いたのか、ミンステッド伯爵は息子を止めにかかった。
でも、時すでに遅しだった。
婚約者の女性は雲行きが怪しいことを察して逃げ出している。
婚約者のようにもう少し早くに行動すべきだった。
「僕は女性が望むなら、働くことは良いことだと思っている。でも、君が言うように今の社会では貴族らしくないと言われてしまうのは確かだよ。だけど、礼儀がなっていないことのほうが僕は問題だと思うけどね」
レイ様はミンステッド卿に冷たい視線を向けると、冷や汗をかいている伯爵夫妻に続ける。
「働きたいという妻の意思を尊重する人物と自分の身分も忘れて、公爵に喧嘩を売ってくる人物、貴族らしくないのはどっちだろうか」
「「愚息が申し訳ございません!」」
ミンステッド伯爵夫妻はその場にひれ伏した。
息子は救いようのない馬鹿だけれど、両親はそこまでではないらしい。
ミンステッド卿は困惑の表情を浮かべたあと、慌てて両親の行動に倣った。
「も、申し訳ございません」
「ミンステッド卿」
「……何でしょうか」
わたしが話しかけると、ミンステッド卿はゆっくりと顔を上げる。
「あなたはどうして平民のことを嫌い、女性が働くことを嫌がるのですか」
「そ、それは、皆が言っていますので」
「……皆がですか? おかしいですわね。今日、わたしたちに話しかけてきた大勢の人たちは、あなたと真逆のことを言っていましたよ」
ミンステッド卿は、他の貴族が手のひらを返したことを知らなかったのか、焦った顔で周りを見回した。
でも、多くの貴族の前であんな発言をしたのだから、テングット子爵家の行く末は明るいものではないと思われる。
あんな発言をする人の嫁になる人はそういないだろうから、婚約者が見つかることは難しいでしょうし、彼と商売面で付き合いたいと思う人もいないでしょう。
テングット子爵夫妻が悪い人じゃないだけに、これからのことを思うと胸が痛むわ。
「大丈夫か?」
ため息を吐いたからか、レイ様が心配そうに顔を覗き込んできた。
パーティーが始まってからは、さすがにルモ公爵の元へ行く人が増えたことと、レイ様がわたしを休憩させたいと言ってくれたので、今は話しかけてくる人はいない。
「大丈夫です」
と答えたあと、大勢の人の前でフサス様を殴ってしまったことを思い出す。
「レイ様、あの、申し訳ございませんでした!」
「いきなりどうした」
「……やってしまいました」
「ああ、シルバートレイの話か」
レイ様は微笑んで首を横に振る。
「相手が相手だから気にしていない。周りも驚いてはいたようだが、概ね好意的に見えたけどな」
ティアトレイは侍女と彼女のパートナーが交代で持ってくれると言ってくれた。
でも、パーティー中は邪魔だろうから馬車においておくようにお願いした。
「公爵夫人が人を殴るだなんてやってはいけないことでしょう」
「でも、ティアトレイは貴族が生み出したものだし、文句を言う人間は少ないだろう。他国では高位貴族も使っていると聞いた」
「普通の貴族は自分で殴ったりしませんよ」
両手で顔を覆って嘆いていると、ミンステッド卿の声が聞こえてきた。
「父上、母上! あちらにファーシバル公爵夫妻がいらっしゃいます!」
ミンステッド伯爵家も出席していたようだ。
両手を顔から離し、声が聞こえた方向に目を向けた。
すると、ミンステッド伯爵夫妻とミンステッド卿、彼のパートナーらしき女性がこちらに近づいて来るのが見えた。
「どうする? 迷惑だと言おうか」
「……騒ぎにならないようでしたら、話すことくらいは構いません」
ルモ公爵に迷惑をかけるようなことだけはしたくない。
話すだけなら大丈夫だろうと思ったわたしが馬鹿だったと、すぐに後悔することになる。
ミンステッド伯爵が笑顔で話しかけてきた。
「先日は愚息が大変失礼いたしました」
「そう思うのでしたら、しっかり指導してください」
話を打ち切ろうとすると、伯爵夫人が笑顔で話しかけてくる。
「どうしてもお詫びがしたいんです。我が家にお招きしたいのですが、公爵閣下はお忙しいでしょうし、奥様だけでもいかがでしょうか」
「申し訳ないですが、わたしは仕事で忙しいんです」
「……仕事?」
聞き返してきたのはミンステッド卿だった。
「そうですが何か?」
「いえ。公爵家なのに夫人が仕事をするんですね。妻はは仕事なんてせずにゆっくりしているのが普通なのに」
「普通ではないことで、あなたに迷惑をかけるとは思いませんけど」
カチンと来たので言い返すと、ミンステッド卿は慌てた顔をする。
「いや、そういう意味ではなくてですね。その、私なら妻を働かせたりしないなあと」
「それは僕に問題があると言いたいのか」
レイ様に睨まれたミンステッド卿は飛び上がって否定する。
「とんでもない! いえ、その、いや、やはり、なんといいますか、貴族らしくないなと」
「ヘンゼデッド! 馬鹿なことを言うのはやめろ!」
話せば話すほど、墓穴を掘ることに気が付いたのか、ミンステッド伯爵は息子を止めにかかった。
でも、時すでに遅しだった。
婚約者の女性は雲行きが怪しいことを察して逃げ出している。
婚約者のようにもう少し早くに行動すべきだった。
「僕は女性が望むなら、働くことは良いことだと思っている。でも、君が言うように今の社会では貴族らしくないと言われてしまうのは確かだよ。だけど、礼儀がなっていないことのほうが僕は問題だと思うけどね」
レイ様はミンステッド卿に冷たい視線を向けると、冷や汗をかいている伯爵夫妻に続ける。
「働きたいという妻の意思を尊重する人物と自分の身分も忘れて、公爵に喧嘩を売ってくる人物、貴族らしくないのはどっちだろうか」
「「愚息が申し訳ございません!」」
ミンステッド伯爵夫妻はその場にひれ伏した。
息子は救いようのない馬鹿だけれど、両親はそこまでではないらしい。
ミンステッド卿は困惑の表情を浮かべたあと、慌てて両親の行動に倣った。
「も、申し訳ございません」
「ミンステッド卿」
「……何でしょうか」
わたしが話しかけると、ミンステッド卿はゆっくりと顔を上げる。
「あなたはどうして平民のことを嫌い、女性が働くことを嫌がるのですか」
「そ、それは、皆が言っていますので」
「……皆がですか? おかしいですわね。今日、わたしたちに話しかけてきた大勢の人たちは、あなたと真逆のことを言っていましたよ」
ミンステッド卿は、他の貴族が手のひらを返したことを知らなかったのか、焦った顔で周りを見回した。
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