19 / 26
17 家族の愚行
しおりを挟む
次の日に両陛下とルモ公爵家とローイ公爵家に手紙を送って、相談にのってもらう約束を取り付けようとしたところ、3日後に王城で会うことに決まった。
当日、レイ様と一緒に王城へ向かうと、謁見の間に案内された。
「そのことについて、お前たちが何か言ってくるまで待とうかという話になっていたんだ」
「あなたたちが自分自身の置かれている立場を理解できているか知りたかったのよ。ごめんなさいね」
わたしの相談内容は簡単に手紙で知らせていたからか、 両陛下は苦笑して言った。
一体、何を言ってらっしゃるのかわからないわ。
言葉の意味が理解できないことに焦っていると、外見だけでなく中身も紳士だということで有名なルモ公爵が説明してくれる。
「遺言書の証人になった時に、先代のファーシバル公爵に遺言書の一部だけ伝える時期をずらすように頼んでいた。だから、まだ発表されていない内容がある」
伯父様はレイ様が考えたような最悪の事態を想定していたらしく、そうならないように遺言書には実は続きがあったのだ。
内容はレイ様が何らかの形で亡くなった場合は、公爵の爵位を王家に返上すること。
その時、レイ様に男の子供がいる場合は返上はせずに跡を継がせるようにすることが書かれていた。
この内容だと、公爵の座を奪うためにレイ様を暗殺する必要性はない。
レイ様と一緒に遺言書を読んでいると、笑顔でローイ公爵が話しかけてきた。
「リウ嬢の財産についてだが、君が親や兄姉に財産を残したいのであれば良いが、そうじゃない場合は手を打ったほうが良い」
「わたし名義の財産はレイ様に名義を移していこうと思っています」
答えると、ローイ公爵はわたしとレイ様を見る。
「公爵の座を狙う人間はいなくなるとしても、君たちは反対勢力には命を狙われる立場であることは自覚しておくように」
わたしが知らなかっただけで、遺言書が開示された日からルモ公爵とローイ公爵は、不審な動きをする人物がいないかなど気にかけてくれていたそうだ。
でも、これからはわたしたちでわたしたちの身を守らなければならない。
「どうしてこのような形を取られたのですか」
レイ様が誰に問いかけるでもなく呟いた。
すると、ルモ公爵が反応する。
「両陛下も言っておられたが、君たちに自覚があるのか確かめたかった。公爵や公爵夫人なんてものは簡単に務まるものじゃない。意地の悪いことをして済まなかった」
「今はまだロイド様の足下にも及びません。ですが、必ず領民の期待を裏切らない公爵になります」
宣言したレイ様を見て、ルモ公爵とローイ公爵は満足そうに頷いた。
******
次の日には遺言書の続きが社交界の間で瞬く間に広がった。
これで自分が公爵にだなんて馬鹿なことを思う人間はいなくなったと思われるので、問題の一つは解決した。
ファーシバル公爵邸での生活に慣れてきたある日のこと、テングット子爵家から連絡が来た。
フサス様からなら無視しようと思ったけれど、子爵からだったので無視もできなかったので、レイ様と一緒に会うことに決めた。
というのも、テングット子爵は伯父様の旧友で、わたしも何度も話をしたことがあるけれど、とても良い人だからだ。
子爵のことを知っていたから、フサス様との婚約が決まった時も子爵のような優しい人が来るのだと思い込んでいた。
実際、現れたのはあんな人だったわけで、かなりショックだったのを覚えている。
優しいからこそ、子供には甘くなってしまったのかもしれない。
昼下がりの応接室で、挨拶もそこそこに小柄で細い体をぶるぶると震わせて、テングット子爵は懇願してきた。
「リウ様に縁を切られたという話は聞いております。ですが、ですが、ネウロス家の人たちをどうにかしてもらえないでしょうか!」
「……そうですわよね。長い間、子爵家にお世話になっているようですし、ご迷惑ですよね」
「家に住まわせるくらいなら良いのです。問題なのは、我が家のお金を勝手に使ってしまうことなのです!」
向こうから家族の縁を切られたとはいえ、テングット子爵にはそんなことは関係ない。
だから、わたしに何とかしてもらうために、今日、ここにやって来たようだった。
「ネイロス家が使ってしまったお金はファーシバル公爵家に請求してください。そのかわり、彼らを家から追い出してもらえますか」
「ううっ。申し訳ございません! 他に頼るところがなくて。必ず、追い出すようにいたします!」
子爵は涙を必死にこらえて、レイ様に何度も頭を下げた。
どうしてそこまで放っておいたのかわからなくて、純粋な気持ちで尋ねる。
「家族が迷惑をかけておいて言うのもなんなのですが、どうしてそうなる前にも追い出さなかったのでしょうか」
「ファーラ様はフサスの婚約者ですから見捨てるわけにはいかないと思いました」
「では、お姉様以外を放り出せば良かったのではないのでしょうか」
「そうなんです。でも、寝食の面倒を見るくらいなら良いと思っていたんです」
家がない人たちを放り出すのは可哀想だと思ったのでしょうね。
でも、その優しさが仇になり、子爵家のお金に手を付けるようになったから我慢できなくなったということね。
納得できるようで納得できないけれど、家族が悪いことをしているのだから、わたしがどうこう言える立場でもない。
「……ネイロス家は何にお金を使っているんですか」
頭を抱えていたわたしに代わって、レイ様が尋ねるとテングット子爵は答える。
「実は連絡が遅くなったのもそれが理由なんです」
「……どういうことです?」
「リウ様と仲直りをしたいけれど、貢物を持ってこないと許さないと言われたと言っていまして、貢物を買うためにお金を持ち出しているんです」
「なんですって!?」
あまりにも馬鹿げた話だったので、声を荒らげて聞き返してしまった。
当日、レイ様と一緒に王城へ向かうと、謁見の間に案内された。
「そのことについて、お前たちが何か言ってくるまで待とうかという話になっていたんだ」
「あなたたちが自分自身の置かれている立場を理解できているか知りたかったのよ。ごめんなさいね」
わたしの相談内容は簡単に手紙で知らせていたからか、 両陛下は苦笑して言った。
一体、何を言ってらっしゃるのかわからないわ。
言葉の意味が理解できないことに焦っていると、外見だけでなく中身も紳士だということで有名なルモ公爵が説明してくれる。
「遺言書の証人になった時に、先代のファーシバル公爵に遺言書の一部だけ伝える時期をずらすように頼んでいた。だから、まだ発表されていない内容がある」
伯父様はレイ様が考えたような最悪の事態を想定していたらしく、そうならないように遺言書には実は続きがあったのだ。
内容はレイ様が何らかの形で亡くなった場合は、公爵の爵位を王家に返上すること。
その時、レイ様に男の子供がいる場合は返上はせずに跡を継がせるようにすることが書かれていた。
この内容だと、公爵の座を奪うためにレイ様を暗殺する必要性はない。
レイ様と一緒に遺言書を読んでいると、笑顔でローイ公爵が話しかけてきた。
「リウ嬢の財産についてだが、君が親や兄姉に財産を残したいのであれば良いが、そうじゃない場合は手を打ったほうが良い」
「わたし名義の財産はレイ様に名義を移していこうと思っています」
答えると、ローイ公爵はわたしとレイ様を見る。
「公爵の座を狙う人間はいなくなるとしても、君たちは反対勢力には命を狙われる立場であることは自覚しておくように」
わたしが知らなかっただけで、遺言書が開示された日からルモ公爵とローイ公爵は、不審な動きをする人物がいないかなど気にかけてくれていたそうだ。
でも、これからはわたしたちでわたしたちの身を守らなければならない。
「どうしてこのような形を取られたのですか」
レイ様が誰に問いかけるでもなく呟いた。
すると、ルモ公爵が反応する。
「両陛下も言っておられたが、君たちに自覚があるのか確かめたかった。公爵や公爵夫人なんてものは簡単に務まるものじゃない。意地の悪いことをして済まなかった」
「今はまだロイド様の足下にも及びません。ですが、必ず領民の期待を裏切らない公爵になります」
宣言したレイ様を見て、ルモ公爵とローイ公爵は満足そうに頷いた。
******
次の日には遺言書の続きが社交界の間で瞬く間に広がった。
これで自分が公爵にだなんて馬鹿なことを思う人間はいなくなったと思われるので、問題の一つは解決した。
ファーシバル公爵邸での生活に慣れてきたある日のこと、テングット子爵家から連絡が来た。
フサス様からなら無視しようと思ったけれど、子爵からだったので無視もできなかったので、レイ様と一緒に会うことに決めた。
というのも、テングット子爵は伯父様の旧友で、わたしも何度も話をしたことがあるけれど、とても良い人だからだ。
子爵のことを知っていたから、フサス様との婚約が決まった時も子爵のような優しい人が来るのだと思い込んでいた。
実際、現れたのはあんな人だったわけで、かなりショックだったのを覚えている。
優しいからこそ、子供には甘くなってしまったのかもしれない。
昼下がりの応接室で、挨拶もそこそこに小柄で細い体をぶるぶると震わせて、テングット子爵は懇願してきた。
「リウ様に縁を切られたという話は聞いております。ですが、ですが、ネウロス家の人たちをどうにかしてもらえないでしょうか!」
「……そうですわよね。長い間、子爵家にお世話になっているようですし、ご迷惑ですよね」
「家に住まわせるくらいなら良いのです。問題なのは、我が家のお金を勝手に使ってしまうことなのです!」
向こうから家族の縁を切られたとはいえ、テングット子爵にはそんなことは関係ない。
だから、わたしに何とかしてもらうために、今日、ここにやって来たようだった。
「ネイロス家が使ってしまったお金はファーシバル公爵家に請求してください。そのかわり、彼らを家から追い出してもらえますか」
「ううっ。申し訳ございません! 他に頼るところがなくて。必ず、追い出すようにいたします!」
子爵は涙を必死にこらえて、レイ様に何度も頭を下げた。
どうしてそこまで放っておいたのかわからなくて、純粋な気持ちで尋ねる。
「家族が迷惑をかけておいて言うのもなんなのですが、どうしてそうなる前にも追い出さなかったのでしょうか」
「ファーラ様はフサスの婚約者ですから見捨てるわけにはいかないと思いました」
「では、お姉様以外を放り出せば良かったのではないのでしょうか」
「そうなんです。でも、寝食の面倒を見るくらいなら良いと思っていたんです」
家がない人たちを放り出すのは可哀想だと思ったのでしょうね。
でも、その優しさが仇になり、子爵家のお金に手を付けるようになったから我慢できなくなったということね。
納得できるようで納得できないけれど、家族が悪いことをしているのだから、わたしがどうこう言える立場でもない。
「……ネイロス家は何にお金を使っているんですか」
頭を抱えていたわたしに代わって、レイ様が尋ねるとテングット子爵は答える。
「実は連絡が遅くなったのもそれが理由なんです」
「……どういうことです?」
「リウ様と仲直りをしたいけれど、貢物を持ってこないと許さないと言われたと言っていまして、貢物を買うためにお金を持ち出しているんです」
「なんですって!?」
あまりにも馬鹿げた話だったので、声を荒らげて聞き返してしまった。
2,528
お気に入りに追加
3,458
あなたにおすすめの小説

【完結】あなたに従う必要がないのに、命令なんて聞くわけないでしょう。当然でしょう?
チカフジ ユキ
恋愛
伯爵令嬢のアメルは、公爵令嬢である従姉のリディアに使用人のように扱われていた。
そんなアメルは、様々な理由から十五の頃に海を挟んだ大国アーバント帝国へ留学する。
約一年後、リディアから離れ友人にも恵まれ日々を暮らしていたそこに、従姉が留学してくると知る。
しかし、アメルは以前とは違いリディアに対して毅然と立ち向かう。
もう、リディアに従う必要がどこにもなかったから。
リディアは知らなかった。
自分の立場が自国でどうなっているのかを。

婚約破棄ですか? では、この家から出て行ってください
八代奏多
恋愛
伯爵令嬢で次期伯爵になることが決まっているイルシア・グレイヴは、自らが主催したパーティーで婚約破棄を告げられてしまった。
元、婚約者の子爵令息アドルフハークスはイルシアの行動を責め、しまいには家から出て行けと言うが……。
出ていくのは、貴方の方ですわよ?
※カクヨム様でも公開しております。

私を家から追い出した妹達は、これから後悔するようです
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私サフィラよりも、妹エイダの方が優秀だった。
それは全て私の力によるものだけど、そのことを知っているのにエイダは姉に迷惑していると言い広めていく。
婚約者のヴァン王子はエイダの発言を信じて、私は婚約破棄を言い渡されてしまう。
その後、エイダは私の力が必要ないと思い込んでいるようで、私を家から追い出す。
これから元家族やヴァンは後悔するけど、私には関係ありません。

真実の愛がどうなろうと関係ありません。
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令息サディアスはメイドのリディと恋に落ちた。
婚約者であった伯爵令嬢フェルネは無残にも婚約を解消されてしまう。
「僕はリディと真実の愛を貫く。誰にも邪魔はさせない!」
サディアスの両親エヴァンズ伯爵夫妻は激怒し、息子を勘当、追放する。
それもそのはずで、フェルネは王家の血を引く名門貴族パートランド伯爵家の一人娘だった。
サディアスからの一方的な婚約解消は決して許されない裏切りだったのだ。
一ヶ月後、愛を信じないフェルネに新たな求婚者が現れる。
若きバラクロフ侯爵レジナルド。
「あら、あなたも真実の愛を実らせようって仰いますの?」
フェルネの曾祖母シャーリンとレジナルドの祖父アルフォンス卿には悲恋の歴史がある。
「子孫の我々が結婚しようと関係ない。聡明な妻が欲しいだけだ」
互いに塩対応だったはずが、気づくとクーデレ夫婦になっていたフェルネとレジナルド。
その頃、真実の愛を貫いたはずのサディアスは……
(予定より長くなってしまった為、完結に伴い短編→長編に変更しました)

熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください。私は、堅実に生きさせてもらいますので。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアルネアには、婚約者がいた。
しかし、ある日その彼から婚約破棄を告げられてしまう。なんでも、アルネアの妹と婚約したいらしいのだ。
「熱烈な恋がしたいなら、勝手にしてください」
身勝手な恋愛をする二人に対して、アルネアは呆れていた。
堅実に生きたい彼女にとって、二人の行いは信じられないものだったのである。
数日後、アルネアの元にある知らせが届いた。
妹と元婚約者の間で、何か事件が起こったらしいのだ。

侯爵令嬢は限界です
まる
恋愛
「グラツィア・レピエトラ侯爵令嬢この場をもって婚約を破棄する!!」
何言ってんだこの馬鹿。
いけない。心の中とはいえ、常に淑女たるに相応しく物事を考え…
「貴女の様な傲慢な女は私に相応しくない!」
はい無理でーす!
〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
サラッと読み流して楽しんで頂けたなら幸いです。
※物語の背景はふんわりです。
読んで下さった方、しおり、お気に入り登録本当にありがとうございました!

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます
21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。
エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。
悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

妹と婚約者は私が邪魔なようなので、家から出て行きます
天宮有
恋愛
伯爵令嬢の私アリカが作った魔法道具の評判はよかったけど、妹メディナが作ったことにされてしまう。
婚約者ダゴンはメディナの方が好きと言い、私を酷使しようと目論んでいた。
伯爵令嬢でいたければ従えと命令されて、私は全てがどうでもよくなってしまう。
家から出て行くことにして――魔法道具は私がいなければ直せないことを、ダゴン達は知ることとなる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる