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17 家族の愚行
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次の日に両陛下とルモ公爵家とローイ公爵家に手紙を送って、相談にのってもらう約束を取り付けようとしたところ、3日後に王城で会うことに決まった。
当日、レイ様と一緒に王城へ向かうと、謁見の間に案内された。
「そのことについて、お前たちが何か言ってくるまで待とうかという話になっていたんだ」
「あなたたちが自分自身の置かれている立場を理解できているか知りたかったのよ。ごめんなさいね」
わたしの相談内容は簡単に手紙で知らせていたからか、 両陛下は苦笑して言った。
一体、何を言ってらっしゃるのかわからないわ。
言葉の意味が理解できないことに焦っていると、外見だけでなく中身も紳士だということで有名なルモ公爵が説明してくれる。
「遺言書の証人になった時に、先代のファーシバル公爵に遺言書の一部だけ伝える時期をずらすように頼んでいた。だから、まだ発表されていない内容がある」
伯父様はレイ様が考えたような最悪の事態を想定していたらしく、そうならないように遺言書には実は続きがあったのだ。
内容はレイ様が何らかの形で亡くなった場合は、公爵の爵位を王家に返上すること。
その時、レイ様に男の子供がいる場合は返上はせずに跡を継がせるようにすることが書かれていた。
この内容だと、公爵の座を奪うためにレイ様を暗殺する必要性はない。
レイ様と一緒に遺言書を読んでいると、笑顔でローイ公爵が話しかけてきた。
「リウ嬢の財産についてだが、君が親や兄姉に財産を残したいのであれば良いが、そうじゃない場合は手を打ったほうが良い」
「わたし名義の財産はレイ様に名義を移していこうと思っています」
答えると、ローイ公爵はわたしとレイ様を見る。
「公爵の座を狙う人間はいなくなるとしても、君たちは反対勢力には命を狙われる立場であることは自覚しておくように」
わたしが知らなかっただけで、遺言書が開示された日からルモ公爵とローイ公爵は、不審な動きをする人物がいないかなど気にかけてくれていたそうだ。
でも、これからはわたしたちでわたしたちの身を守らなければならない。
「どうしてこのような形を取られたのですか」
レイ様が誰に問いかけるでもなく呟いた。
すると、ルモ公爵が反応する。
「両陛下も言っておられたが、君たちに自覚があるのか確かめたかった。公爵や公爵夫人なんてものは簡単に務まるものじゃない。意地の悪いことをして済まなかった」
「今はまだロイド様の足下にも及びません。ですが、必ず領民の期待を裏切らない公爵になります」
宣言したレイ様を見て、ルモ公爵とローイ公爵は満足そうに頷いた。
******
次の日には遺言書の続きが社交界の間で瞬く間に広がった。
これで自分が公爵にだなんて馬鹿なことを思う人間はいなくなったと思われるので、問題の一つは解決した。
ファーシバル公爵邸での生活に慣れてきたある日のこと、テングット子爵家から連絡が来た。
フサス様からなら無視しようと思ったけれど、子爵からだったので無視もできなかったので、レイ様と一緒に会うことに決めた。
というのも、テングット子爵は伯父様の旧友で、わたしも何度も話をしたことがあるけれど、とても良い人だからだ。
子爵のことを知っていたから、フサス様との婚約が決まった時も子爵のような優しい人が来るのだと思い込んでいた。
実際、現れたのはあんな人だったわけで、かなりショックだったのを覚えている。
優しいからこそ、子供には甘くなってしまったのかもしれない。
昼下がりの応接室で、挨拶もそこそこに小柄で細い体をぶるぶると震わせて、テングット子爵は懇願してきた。
「リウ様に縁を切られたという話は聞いております。ですが、ですが、ネウロス家の人たちをどうにかしてもらえないでしょうか!」
「……そうですわよね。長い間、子爵家にお世話になっているようですし、ご迷惑ですよね」
「家に住まわせるくらいなら良いのです。問題なのは、我が家のお金を勝手に使ってしまうことなのです!」
向こうから家族の縁を切られたとはいえ、テングット子爵にはそんなことは関係ない。
だから、わたしに何とかしてもらうために、今日、ここにやって来たようだった。
「ネイロス家が使ってしまったお金はファーシバル公爵家に請求してください。そのかわり、彼らを家から追い出してもらえますか」
「ううっ。申し訳ございません! 他に頼るところがなくて。必ず、追い出すようにいたします!」
子爵は涙を必死にこらえて、レイ様に何度も頭を下げた。
どうしてそこまで放っておいたのかわからなくて、純粋な気持ちで尋ねる。
「家族が迷惑をかけておいて言うのもなんなのですが、どうしてそうなる前にも追い出さなかったのでしょうか」
「ファーラ様はフサスの婚約者ですから見捨てるわけにはいかないと思いました」
「では、お姉様以外を放り出せば良かったのではないのでしょうか」
「そうなんです。でも、寝食の面倒を見るくらいなら良いと思っていたんです」
家がない人たちを放り出すのは可哀想だと思ったのでしょうね。
でも、その優しさが仇になり、子爵家のお金に手を付けるようになったから我慢できなくなったということね。
納得できるようで納得できないけれど、家族が悪いことをしているのだから、わたしがどうこう言える立場でもない。
「……ネイロス家は何にお金を使っているんですか」
頭を抱えていたわたしに代わって、レイ様が尋ねるとテングット子爵は答える。
「実は連絡が遅くなったのもそれが理由なんです」
「……どういうことです?」
「リウ様と仲直りをしたいけれど、貢物を持ってこないと許さないと言われたと言っていまして、貢物を買うためにお金を持ち出しているんです」
「なんですって!?」
あまりにも馬鹿げた話だったので、声を荒らげて聞き返してしまった。
当日、レイ様と一緒に王城へ向かうと、謁見の間に案内された。
「そのことについて、お前たちが何か言ってくるまで待とうかという話になっていたんだ」
「あなたたちが自分自身の置かれている立場を理解できているか知りたかったのよ。ごめんなさいね」
わたしの相談内容は簡単に手紙で知らせていたからか、 両陛下は苦笑して言った。
一体、何を言ってらっしゃるのかわからないわ。
言葉の意味が理解できないことに焦っていると、外見だけでなく中身も紳士だということで有名なルモ公爵が説明してくれる。
「遺言書の証人になった時に、先代のファーシバル公爵に遺言書の一部だけ伝える時期をずらすように頼んでいた。だから、まだ発表されていない内容がある」
伯父様はレイ様が考えたような最悪の事態を想定していたらしく、そうならないように遺言書には実は続きがあったのだ。
内容はレイ様が何らかの形で亡くなった場合は、公爵の爵位を王家に返上すること。
その時、レイ様に男の子供がいる場合は返上はせずに跡を継がせるようにすることが書かれていた。
この内容だと、公爵の座を奪うためにレイ様を暗殺する必要性はない。
レイ様と一緒に遺言書を読んでいると、笑顔でローイ公爵が話しかけてきた。
「リウ嬢の財産についてだが、君が親や兄姉に財産を残したいのであれば良いが、そうじゃない場合は手を打ったほうが良い」
「わたし名義の財産はレイ様に名義を移していこうと思っています」
答えると、ローイ公爵はわたしとレイ様を見る。
「公爵の座を狙う人間はいなくなるとしても、君たちは反対勢力には命を狙われる立場であることは自覚しておくように」
わたしが知らなかっただけで、遺言書が開示された日からルモ公爵とローイ公爵は、不審な動きをする人物がいないかなど気にかけてくれていたそうだ。
でも、これからはわたしたちでわたしたちの身を守らなければならない。
「どうしてこのような形を取られたのですか」
レイ様が誰に問いかけるでもなく呟いた。
すると、ルモ公爵が反応する。
「両陛下も言っておられたが、君たちに自覚があるのか確かめたかった。公爵や公爵夫人なんてものは簡単に務まるものじゃない。意地の悪いことをして済まなかった」
「今はまだロイド様の足下にも及びません。ですが、必ず領民の期待を裏切らない公爵になります」
宣言したレイ様を見て、ルモ公爵とローイ公爵は満足そうに頷いた。
******
次の日には遺言書の続きが社交界の間で瞬く間に広がった。
これで自分が公爵にだなんて馬鹿なことを思う人間はいなくなったと思われるので、問題の一つは解決した。
ファーシバル公爵邸での生活に慣れてきたある日のこと、テングット子爵家から連絡が来た。
フサス様からなら無視しようと思ったけれど、子爵からだったので無視もできなかったので、レイ様と一緒に会うことに決めた。
というのも、テングット子爵は伯父様の旧友で、わたしも何度も話をしたことがあるけれど、とても良い人だからだ。
子爵のことを知っていたから、フサス様との婚約が決まった時も子爵のような優しい人が来るのだと思い込んでいた。
実際、現れたのはあんな人だったわけで、かなりショックだったのを覚えている。
優しいからこそ、子供には甘くなってしまったのかもしれない。
昼下がりの応接室で、挨拶もそこそこに小柄で細い体をぶるぶると震わせて、テングット子爵は懇願してきた。
「リウ様に縁を切られたという話は聞いております。ですが、ですが、ネウロス家の人たちをどうにかしてもらえないでしょうか!」
「……そうですわよね。長い間、子爵家にお世話になっているようですし、ご迷惑ですよね」
「家に住まわせるくらいなら良いのです。問題なのは、我が家のお金を勝手に使ってしまうことなのです!」
向こうから家族の縁を切られたとはいえ、テングット子爵にはそんなことは関係ない。
だから、わたしに何とかしてもらうために、今日、ここにやって来たようだった。
「ネイロス家が使ってしまったお金はファーシバル公爵家に請求してください。そのかわり、彼らを家から追い出してもらえますか」
「ううっ。申し訳ございません! 他に頼るところがなくて。必ず、追い出すようにいたします!」
子爵は涙を必死にこらえて、レイ様に何度も頭を下げた。
どうしてそこまで放っておいたのかわからなくて、純粋な気持ちで尋ねる。
「家族が迷惑をかけておいて言うのもなんなのですが、どうしてそうなる前にも追い出さなかったのでしょうか」
「ファーラ様はフサスの婚約者ですから見捨てるわけにはいかないと思いました」
「では、お姉様以外を放り出せば良かったのではないのでしょうか」
「そうなんです。でも、寝食の面倒を見るくらいなら良いと思っていたんです」
家がない人たちを放り出すのは可哀想だと思ったのでしょうね。
でも、その優しさが仇になり、子爵家のお金に手を付けるようになったから我慢できなくなったということね。
納得できるようで納得できないけれど、家族が悪いことをしているのだから、わたしがどうこう言える立場でもない。
「……ネイロス家は何にお金を使っているんですか」
頭を抱えていたわたしに代わって、レイ様が尋ねるとテングット子爵は答える。
「実は連絡が遅くなったのもそれが理由なんです」
「……どういうことです?」
「リウ様と仲直りをしたいけれど、貢物を持ってこないと許さないと言われたと言っていまして、貢物を買うためにお金を持ち出しているんです」
「なんですって!?」
あまりにも馬鹿げた話だったので、声を荒らげて聞き返してしまった。
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