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15 元婚約者の来訪
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違うお店に入って落ち着いてから、レイ様がわたしの婚約者になったこと、まだ人には口外しないでほしいと約束してもらってから伯父様の遺言のことなどを話した。
伯父様のことはお悔やみの言葉を述べてくれて、婚約者がレイ様に代わったことには、二人共、とても喜んでくれた。
二人はフサス様に会ったことはなく、わたしから彼の話を聞いていただけだった。
でも、二人の中での彼の印象は最悪なものだったらしい。
「こんなことを言うのもなんだけど、あなたのお姉さんが思い込みの激しい人で良かったわね」
「鬱陶しいと思うことが多かったけれど、この時、初めて感謝したわ」
ピノが周りを気にしながら小声で言った言葉に大きく頷いた。
*****
次の日は朝から忙しかった。
伯父様が亡くなっているため、爵位の継承はルモ公爵とローイ公爵が伯父様の代理をしてくださり、両陛下が立会人になってくれることになった。
関係者だけ集められた簡易式なものではあるが、継承式は王城で行われた。
公爵たちや両陛下は何か困ったことがあれば、遠慮なく相談しなさいと優しい言葉をかけてくれた。
そして、多くの貴族の女性蔑視のことを気にしていて、わたしへの風当たりが強くなることを心配してくださった。
「優秀な女性は多くいる。古くからの風習ということもあり、そう簡単にはいかないだろうが、性別など関係なく、実績が評価される世界に変えていければ良いと思っている」
国王陛下はそうも言ってくださり、希望すれば女性が爵位を継げるようにしたいという話にも賛同してくれた。
継承式後、馬車に乗り込むと、レイ様が大きく息を吐いてから言う。
「両陛下が味方してくださるのなら、女性の地位を上げようとしても反対派も強くは出れないだろうし、これからは色々と変えていくことができそうだな」
「はい。でも、最初はレイ様や他の公爵閣下のお力を借りないといけないと思います」
現在、国に関わることを議論する会議に、女性が参加することは認められていない。
だから、わたし自身の口から提案するためには、会議に参加できる権利を勝ち取らなければならない。
道のりはまだまだ長いし、今のわたしは公爵の婚約者という立場でしかない。
スタートラインに立てるのは結婚してからになるかもしれない。
それでも、何もしないよりかはマシだ。
ミンラッド伯爵令息のような人たちが、相手が女性だからといって大きな顔ができないようにさせてみせましょう。
******
ファーシバル公爵邸に戻ると、出迎えてくれた執事からフサス様が来ていると告げられた。
「フサス様が一人で来ているの?」
「はい。応接室にお通ししております。リウ様にお会いしたいとのことでした」
「わたしはフサス様に用事はないから、すぐに帰ってもらうわ。お茶はお出ししてるの?」
「かなり前にいらっしゃいましたので、何度かお出ししています」
「ありがとう。中には入るけど、わたしの分のお茶はいらないわ」
「承知いたしました」
レイ様は自分も行くと言ってくださったけど、他にもやらなければたくさんある。
フサス様の相手をするのは時間の無駄になる可能性が高いから、わたし一人で大丈夫だと告げて、レイ様とはその場で別れた。
念の為に騎士と一緒に中に入ると、フサス様はソファから立ち上がって話しかけてくる。
「次期ファーシバル公爵の発表はいつなんだよ!? 義父が何も言わないから我慢しきれなくて、俺が確認しに来たんだ」
「もう、発表はされていると思いますわ」
わたしは扉の前に立ったまま冷たく答えた。
わたしたちが王城にいる間に、コーミナ先生が新聞社にファーシバル公爵家の新たな当主の名前を発表している。
フサス様はここでずっと待っていたから、発表されていることを知らないみたいだ。
フサス様は不思議そうな顔をして問いかけてくる。
「じゃあ、どうして義父はここに来ないんだ?」
「来る必要がないからではないでしょうか」
「どうしてだよ。義父がファーシバル公爵になるんだろ?」
「いいえ。伯父様の遺言はお父様ではなく、他の方に継がせるとのことでしたので、その方になりました」
「……は?」
フサス様はよほど驚いたのか、口と目を大きく開けて間抜けな声を出した。
「ですから、次の公爵は父ではありません」
「ちょ、ちょっ、ちょっと待ってくれ。義父が継がないと言うのなら、誰が次の公爵になるんだよ!? もしかして義兄か?」
「いいえ」
「じゃあ、誰なんだよ!? まさか、遠い親戚とかじゃないだろうな!?」
「伯父様と血の繋がりはありませんわね」
答えると、フサス様は引きつり笑いを浮かべながら声を荒らげる。
「じゃあ、誰が跡を継ぐんだよ!? もしかして、あれか? 俺に意地悪されていたと思って、仕返しのつもりで嘘でもついてるのか!? 体型だけじゃなくて中身も本当に子供だな!」
「信じる、信じないかは勝手ですが、誰が次の公爵になったかお知らせしますわね」
わたしが強い口調で言うと、フサス様はびくりと体を震わせた。
返事はないけれど、待つ必要もないのでフサス様に伝える。
「公爵になったのはレイ様です」
「レイ様? まさか、レイ・シュード伯爵令息のことか!? 側近だったからという理由で公爵になれたのかよ!?」
「違います。わたしの婚約者だからです」
「……は?」
フサス様はまた間抜けな声を出して動きを止めた。
「伯父様は遺言書に家督はわたしの婚約者に譲ると書いていたんです」
「……は? え? じゃ、じゃあ、もし、お前との婚約を破棄してなければ」
「そうです。あなたが公爵になっていたのです」
頷いてから、満面の笑みを浮かべてお礼を言う。
「破棄していただいて本当に感謝しています。フサス様のような方が公爵になったりしたら領民が可哀想ですもの」
「そ、そんなっ!」
フサス様は情けない声を上げて、その場に座り込んだ。
伯父様のことはお悔やみの言葉を述べてくれて、婚約者がレイ様に代わったことには、二人共、とても喜んでくれた。
二人はフサス様に会ったことはなく、わたしから彼の話を聞いていただけだった。
でも、二人の中での彼の印象は最悪なものだったらしい。
「こんなことを言うのもなんだけど、あなたのお姉さんが思い込みの激しい人で良かったわね」
「鬱陶しいと思うことが多かったけれど、この時、初めて感謝したわ」
ピノが周りを気にしながら小声で言った言葉に大きく頷いた。
*****
次の日は朝から忙しかった。
伯父様が亡くなっているため、爵位の継承はルモ公爵とローイ公爵が伯父様の代理をしてくださり、両陛下が立会人になってくれることになった。
関係者だけ集められた簡易式なものではあるが、継承式は王城で行われた。
公爵たちや両陛下は何か困ったことがあれば、遠慮なく相談しなさいと優しい言葉をかけてくれた。
そして、多くの貴族の女性蔑視のことを気にしていて、わたしへの風当たりが強くなることを心配してくださった。
「優秀な女性は多くいる。古くからの風習ということもあり、そう簡単にはいかないだろうが、性別など関係なく、実績が評価される世界に変えていければ良いと思っている」
国王陛下はそうも言ってくださり、希望すれば女性が爵位を継げるようにしたいという話にも賛同してくれた。
継承式後、馬車に乗り込むと、レイ様が大きく息を吐いてから言う。
「両陛下が味方してくださるのなら、女性の地位を上げようとしても反対派も強くは出れないだろうし、これからは色々と変えていくことができそうだな」
「はい。でも、最初はレイ様や他の公爵閣下のお力を借りないといけないと思います」
現在、国に関わることを議論する会議に、女性が参加することは認められていない。
だから、わたし自身の口から提案するためには、会議に参加できる権利を勝ち取らなければならない。
道のりはまだまだ長いし、今のわたしは公爵の婚約者という立場でしかない。
スタートラインに立てるのは結婚してからになるかもしれない。
それでも、何もしないよりかはマシだ。
ミンラッド伯爵令息のような人たちが、相手が女性だからといって大きな顔ができないようにさせてみせましょう。
******
ファーシバル公爵邸に戻ると、出迎えてくれた執事からフサス様が来ていると告げられた。
「フサス様が一人で来ているの?」
「はい。応接室にお通ししております。リウ様にお会いしたいとのことでした」
「わたしはフサス様に用事はないから、すぐに帰ってもらうわ。お茶はお出ししてるの?」
「かなり前にいらっしゃいましたので、何度かお出ししています」
「ありがとう。中には入るけど、わたしの分のお茶はいらないわ」
「承知いたしました」
レイ様は自分も行くと言ってくださったけど、他にもやらなければたくさんある。
フサス様の相手をするのは時間の無駄になる可能性が高いから、わたし一人で大丈夫だと告げて、レイ様とはその場で別れた。
念の為に騎士と一緒に中に入ると、フサス様はソファから立ち上がって話しかけてくる。
「次期ファーシバル公爵の発表はいつなんだよ!? 義父が何も言わないから我慢しきれなくて、俺が確認しに来たんだ」
「もう、発表はされていると思いますわ」
わたしは扉の前に立ったまま冷たく答えた。
わたしたちが王城にいる間に、コーミナ先生が新聞社にファーシバル公爵家の新たな当主の名前を発表している。
フサス様はここでずっと待っていたから、発表されていることを知らないみたいだ。
フサス様は不思議そうな顔をして問いかけてくる。
「じゃあ、どうして義父はここに来ないんだ?」
「来る必要がないからではないでしょうか」
「どうしてだよ。義父がファーシバル公爵になるんだろ?」
「いいえ。伯父様の遺言はお父様ではなく、他の方に継がせるとのことでしたので、その方になりました」
「……は?」
フサス様はよほど驚いたのか、口と目を大きく開けて間抜けな声を出した。
「ですから、次の公爵は父ではありません」
「ちょ、ちょっ、ちょっと待ってくれ。義父が継がないと言うのなら、誰が次の公爵になるんだよ!? もしかして義兄か?」
「いいえ」
「じゃあ、誰なんだよ!? まさか、遠い親戚とかじゃないだろうな!?」
「伯父様と血の繋がりはありませんわね」
答えると、フサス様は引きつり笑いを浮かべながら声を荒らげる。
「じゃあ、誰が跡を継ぐんだよ!? もしかして、あれか? 俺に意地悪されていたと思って、仕返しのつもりで嘘でもついてるのか!? 体型だけじゃなくて中身も本当に子供だな!」
「信じる、信じないかは勝手ですが、誰が次の公爵になったかお知らせしますわね」
わたしが強い口調で言うと、フサス様はびくりと体を震わせた。
返事はないけれど、待つ必要もないのでフサス様に伝える。
「公爵になったのはレイ様です」
「レイ様? まさか、レイ・シュード伯爵令息のことか!? 側近だったからという理由で公爵になれたのかよ!?」
「違います。わたしの婚約者だからです」
「……は?」
フサス様はまた間抜けな声を出して動きを止めた。
「伯父様は遺言書に家督はわたしの婚約者に譲ると書いていたんです」
「……は? え? じゃ、じゃあ、もし、お前との婚約を破棄してなければ」
「そうです。あなたが公爵になっていたのです」
頷いてから、満面の笑みを浮かべてお礼を言う。
「破棄していただいて本当に感謝しています。フサス様のような方が公爵になったりしたら領民が可哀想ですもの」
「そ、そんなっ!」
フサス様は情けない声を上げて、その場に座り込んだ。
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